物やサービスを販売、提供する際に消費者に課せられる消費税は、事業者が消費者に代わって国に納めなければなりません。この消費税額をなるべく抑えるためにはどのような対策を行えばよいのでしょうか。本記事では、消費税の対策について具体的な節税方法を紹介しています。
目次
事業者が納める消費税とは
物やサービスを販売したり提供したりする際には、消費者に対して消費税が課せられます。事業者は消費者から受け取った消費税を消費者の代わりに国に納めなければなりません。このように税を支払う人と国に納める人が異なる税金を間接税と呼びます。
消費者は消費税を支払うだけですが、事業者は仕入れなどに際して消費税を支払うこともあれば消費者から消費税を受け取ることもあります。そのため一般的に事業者は納税すべき消費税額を計算して納めなければなりません。
納めるべき消費税額は、受け取った消費税額-支払った消費税額で計算します。たとえば消費者から250万円の消費税を受け取り、仕入先などに100万円の消費税を支払った場合は以下のように計算します。
250万円-100万円=150万円 |
つまり、上記の例では国に150万円の消費税を納めることになるのです。この仕組みを仕入税額控除と呼びます。
参考:消費税のしくみ|国税庁
課税事業者と免税事業者の違いとは
事業者は消費者から受け取った消費税を代わりに納めなければなりませんが、これはすべての事業者に当てはまる訳ではありません。消費税の納税義務がある課税事業者と納税義務がない免税事業者に分かれます。課税事業者となるのは以下のいずれかのケースに当てはまる場合などです。
- 基準期間の課税売上高が1,000万円超である
- 特定期間の課税売上高と支払った給与等が1,000万円超である
- 適格請求書発行事業者に登録している
上記のいずれかに当てはまる事業者は消費税を納めなければなりません。当てはまらない場合、一般期には免税事業者となりますが課税事業者となるケースもあるため注意しましょう。
上記の条件に記されている基準期間や特定期間は法人と個人事業主で異なります。それぞれの基準期間と特定期間は以下の通りです。
法人 | 個人事業主 | |
基準期間 | 前々年期の事業年度 | 前々年の1月1日~12月31日 |
特定期間 | 前年の事業年度開始の日から6ヵ月間 | 前年の1月1日~6月30日 |
上記から分かるように、法人の基準期間は前々年期の事業年度、特定期間は前年の事業年度開始日から6ヵ月間となっています。個人事業主の場合の基準期間は前々年の1月1日から12月31日の1年間、特定期間は前年の1月1日から6月30日までです。
法人は事業年度を法人ごとに決められるのに対し、個人事業主の事業年度は1月1日から12月31日までの1年間と決められており、法人と個人事業主では基準期間が異なっています。
参考:消費税のしくみ|国税庁
参考:① 消費税課税事業者届出書|国税庁
消費税の算出方法は2種類ある
原則として、納めるべき消費税額は受け取った消費税額-支払った消費税額で算出します。この方法を原則課税方式(一般課税方式)と呼びます。現在の消費税率は10%と軽減税率の8%が用いられているため、計算する際には10%の取引と8%の取引を分けて計算しましょう。
この原則課税方式のほかにも、受け取った消費税額-(受け取った消費税額×業種ごとのみなし仕入率)で納付すべき消費税額を算出する簡易課税方式という方法もあります。この簡易課税方式は、一般課税方式よりも簡易的な計算によって納付額を算出する方式で、簡易課税制度選択届出書を提出し、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者のみが利用可能です。
簡易課税方式における事業区分ごとのみなし仕入れ率は以下の通りです。
事業区分 | みなし仕入率 |
第1種事業(卸売業) | 90% |
第2種事業(小売業等)小売業、農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業) | 80% |
第3種事業(製造業等)農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、建設業、製造業など | 70% |
第4種事業(その他)飲食店業など | 60% |
第5種事業(サービス業等)運輸・通信業、金融・保険業、サービス業 | 50% |
第6種事業(不動産業) | 40% |
出典:消費税のしくみ|国税庁
例えば、卸売業を営んでおり、受け取った消費税額が1,100万円の場合の納税額は以下のように計算します。
1,100万円-(1,100万円×90%)=110万円 |
つまり、上記の例の場合に納めるべき消費税額は110万円ということになるのです。
参考:消費税のしくみ|国税庁
インボイス制度と消費税の関係
原則的には納めるべき消費税額は原則課税方式を用いて算出します。すでに解説したとおり、原則課税方式では仕入税額控除を用いて納めるべき消費税額を算出します。しかし、2023年10月より導入されたインボイス制度によって、消費税の仕入税額控除が適用されるのは適格請求書を保存している場合のみに変更されました。
そのため、適格請求書発行事業者以外の免税事業者との取引については、仕入税額控除の対象外となってしまいます。しかし、事業者が負担しなければならない税額が急に跳ね上がることを防止するために経過措置が設けられています。この経過措置では、2026年9月30日までは仕入税額相当額の80%、2029年9月30日までは仕入税額相当額の50%が控除可能になっています。
しかし、上記の期間以降は免税事業者より仕入れを行った場合、支払った消費税額は差し引くことができなくなる予定です
参考:インボイス制度について|国税庁
参考:インボイス制度実施に当たっての経過措置について|日本税理士会連合会
関連記事:【税理士監修】インボイス制度と消費税の基礎知識!計算方法や納付の仕組みについても解説!
消費税対策として効果のある節税方法は?
これまで消費税の仕組みや課税方法について解説してきましたが、消費税対策としてどのような点を意識すれば節税できるのでしょうか。以下では、具体的な消費税対策を紹介していきます。
課税方式の見直しをする
消費税の課税方式には、原則課税方式と簡易課税方式の2種類がありますが、現在の課税方式からもう一方の課税方式に変更することで節税できるケースがあります。
原則課税方式では受け取った消費税額から支払った消費税額を控除できます。そのため、控除の対象となる課税仕入れ額が多い場合は簡易課税方式から原則課税方式に変更することで税額を抑えられるのです。たとえば、機械や建物などの購入も課税仕入れの対象となるため、新たな設備や建物の購入予定がある場合なども原則課税方式のほうが税額を抑えられるでしょう。
反対に、原則課税方式から簡易課税方式に変更することで税額を抑えられるケースもあります。特に飲食業やサービス業、小売業など従業員を雇っており、給与の支払いが多い業態では簡易課税方式に変更することで税額を抑えられる可能性があります。
なお、従業員に支払う給与や賞与は課税仕入れの対象外となっています。これらの支出が多い場合、簡易課税方式に変更した時にどの程度の納税額になるのかシミュレーションしてみると良いでしょう。
インボイス制度の2割特例の利用
インボイス制度の導入により、これまで仕入税額控除の対象であった免税事業者からの仕入れが仕入税額控除外となってしまいました。免税事業者との取引は結果として納税額が増えてしまうため、免税事業者は契約の継続を断られたり、課税事業者への変更の打診を受けたりするケースが多くなっています。
そこで、免税事業者から課税事業者への変更することへのハードルを下げ、免税事業者が課税事業者になることへの負担を減らすために2割特例という措置が設けられたのです。この2割特例は、インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者へ変更になった事業者が対象で、納付する消費税額を売上税額の2割相当まで減額できます。
2割特例を利用する場合、特に手続きは必要なく確定申告の際に2割特例を利用する旨を記載することで利用可能です。ただしこの経過措置は、2026年9月30日までとなっています。
参考:2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要|国税庁
関連記事:【税理士監修】インボイス制度の負担軽減措置「2割特例」とは?要件や計算方法、適用期間を解説!
適格請求書発行事業者から仕入れをする
仕入れを行う際は、仕入税額控除の対象となる適格請求書発行事業者から優先的に仕入れを行うことで節税に繋がります。仮に適格請求書発行事業者とそれ以外の事業者から同じ金額の仕入れを行った場合、納税額の違いは以下のようになります。
適格請求書発行事業者 | 格請求書発行事業者以外 | |
売上に係る消費税 | 450万円 | 450万円 |
仕入に係る消費税額 | 100万円 | 100万円(適用外) |
実際に納める消費税額 | 350万円 | 450万円 |
上記の表からも分かるように、適格請求書発行事業者から仕入れを行った方が実際に納める消費税額は低くなります。したがって、仕入れ先の優先順位を考えることは消費税対策として有効だと言えるでしょう。
法人成りをする
個人事業主が法人成りすると最大2年間、消費税が免税されます。そのため個人事業主が消費税の節税をしたい場合は法人成りを検討するのも1つの手段です。
課税事業者になるのは、基準期間または特定期間の課税売上高が1,000万円超である場合や、適格請求書発行事業者に登録している場合などです。法人を新設する場合、法人と個人事業主は切り離して考えることになっています。そのため、資本金が1,000万円未満であれば設立後は免税事業者となり、結果として消費税の節税に繋がるでしょう。
ただし、適格請求書発行事業者の登録をすると、課税事業者になるため注意しましょう。
関連記事:【税理士監修】会社設立する売上目安とは?個人事業主の所得・年商ならいくらから?法人成りのメリット・デメリットも紹介
人件費を外注費に置き換える
原則として、人件費は課税仕入れとして扱えないため、従業員へ支払った賃金を受け取った消費税額から控除することはできません。しかし、外注費であれば課税仕入れとして扱えるため、人件費よりも外注費のほうが結果として控除できる金額が増えるのです。
具体的には、広告デザインなどをフリーランスのデザイナーに依頼したり、財務に関する仕事を税理士に依頼したりする方法などが挙げられます。社内に人員を雇っておく必要がない場合は、単発で依頼するもの良いでしょう。また、派遣会社から人員を派遣してもらう場合の費用も課税仕入れとして扱えます。このように人材を使い分けることで人件費を削減し節税に繋がります。
ただし、勤務状態や待遇が従業員と同程度だと判断された場合は、課税仕入れの対象外となるケースもあります。
設備投資を行う
課税事業者が納める消費税額は受け取った消費税額-支払った消費税額で計算します。この時、支払った消費税額が受け取った消費税額を上回った場合は、上回った金額分の還付が受けられる事になっているのです。
そのため、事業に必要な設備に資金を投入して受け取った消費税額よりも支払った消費税額が上回るようにすれば、その金額分だけお金が戻ってきます。ただし、この節税方法は原則課税方式を採用している場合にしか適用できない点に注意しましょう。
収入印紙は金券ショップを利用する
消費税対策として効果はそれほど大きくありませんが、収入印紙を購入する際に郵便局ではなく金券ショップを利用することも節税になります。郵便局で収入印紙を購入すると非課税取引となってしまいますが、金券ショップで購入すると課税仕入れとなり控除額を増やすことが可能だからです。
少しでも消費税額を抑えたい場合は金券ショップを利用しましょう。
寄付や贈与は現金ではなく商品で行う
業務上、現金にて行う寄付や贈与は基本的には課税仕入れにはなりませんが、商品を寄付したり贈与したりする場合は課税仕入れとして扱えます。そのため、寄付や贈与を行う際には現金の代わりに商品を送ることで節税になるのです。
ただし、受け取り側のニーズも考慮する必要があるため、相手側の迷惑にならないような配慮が必要です。
関連記事:寄付は節税になる?法人・個人の節税効果や仕組みについて詳しく解説!
協賛金や寄付金は広告宣伝費として扱う
原則として、協賛金や寄付金を支払った場合の消費税の控除はありません。しかし、協賛金を支払ったイベントなどに協賛企業として企業名を入れてもらったり、寄付金を出したイベントののれんに企業名を入れてもらったりすると、広告宣伝費として扱える可能性があるのです。
広告宣伝費は仕入税額控除が適用されるため、協賛金や寄付金として扱うよりも節税効果が得られます。消費税対策に力を入れたい場合は、協賛金や寄付金を支払う際にホームページやポスター、その他の掲示物などに企業名を入れてもらうようにしましょう。
出張手当を取り入れる
出張の際に従業員に支払う食費や交通費は旅費規定がない場合、給与として扱うことになっています。給与は仕入税額控除の対象外であるため、受け取った消費税額から差し引くことができません。しかし、旅費規程を策定している場合は出張手当扱いとなり、仕入税額控除の対象となります。
業務上出張が多い企業の場合は、全従業員を対象とした旅費規程を策定することで消費税対策になり得るのです。ただし、旅費規程は同業他社や同規模の企業と比較して同程度になるように設定しなければならないため、入念なリサーチを行うようにしましょう。
消費税対策は複数あるため状況に応じて活用しよう
課税事業者は消費者から受け取った消費税を国に納めなければなりません。納めるべき消費税額の計算方法には、原則課税方式と簡易課税方式の2種があります。原則課税方式では受け取った消費税額から支払った消費税額を差し引いて計算し、簡易課税方式では業種ごとに定められたみなし仕入れ率を用いて計算します。
消費税対策を行いたい場合は、まず課税方式ごとでどの程度の消費税を納めなければならないのかシミュレーションしましょう。企業の仕入れの状態や従業員への給与の支払い額によっては、現在採用している課税方式から変更した方が節税になる可能性があります。
また、上記のほかにも金券ショップで収入印紙を購入するといった簡易な消費税対策から、人件費を外注費に置き換える、設備投資を行うといった熟考が必要な対策もあるため、企業の状態に応じてどのような方法で消費税対策を行うか検討してみましょう。
どの方法で消費税対策を行えばよいのか分からない場合や、法人成りをする場合の手続きやメリット、課税事業者になるタイミングなど消費税対策について悩みがある場合は、専門家や税理士に相談すると安心です。