目次
そもそも節税とは?概要について
節税とは何か
節税とは、税制上の範囲内で合法的に税負担を軽減することを指します。具体的には、控除を用いたり、経費を適切に計上したりすることで納税額を抑えることが可能になるのです。一方、控除とは課税対象となる所得金額や、算出税額から一定の金額を指し引く制度です。所得税や住民税を計算する際に控除を利用することで税額を抑えることができます。
同じように所得を算出する際に差し引かれる経費は事業を行う際に発生する費用のことを指します。例えば「従業員への給与や賞与などの未払い費用」や「経営セーフティ共済の掛金」など経費計上することで課税所得の削減が可能です。
節税が個人や企業にもたらすメリットとは
個人の節税のメリット
会社員など企業に勤めている方の場合、基本的に経費が発生しないため税制優遇制度や控除を利用した節税方法がおすすめです。具体的には税額控除や所得控除を利用することで個人の所得税や住民税を減らすことができます。
企業の節税のメリット
法人などの企業に対して課せられる税金は法人税です。法人が企業活動で得た所得に対して一定の税率が課せられる仕組みになっています。企業として節税するメリットは法人税を事業活動に利用し更なる利益向上のための機械投資や、社員育成に投資しその費用の一部または全額を条件など満たすことで経費計上できるという点です。
節税と脱税の根本的な違いとは
節税とは前述したとおり税制上の範囲内で行う税金対策のことですが、脱税とは税制上の範囲外、つまり違法な方法で利益や税金を減らす行為のことを指します。主な脱税行為の例は以下のとおりです。
- 経費の水増し(領収書の偽造)
- 人件費の水増し
- 売上の過少申告
- 二重帳簿の作成
- 在庫の調整
脱税行為は政府から追加課税の納付や、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金などペナルティを科される場合があり、ペナルティが課されると同時に社会的信頼も失ってしまいます。そうならない為にも脱税行為ではなく、正しく節税できる方法を考えましょう。
所得税に関する節税方法
所得控除の活用
所得控除とは、所得税を計算する際に課税所得から一定額を差し引きできる制度です。納税者によって個人的な事情は異なり、個々の経済力を考慮するために設けられており、納税者の事情に合わせて「税額計算上の所得」を減らし所得税を少なくできる可能性があります。主な所得控除の例は以下のとおりです。
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
- 基礎控除
- 寄附金控除
- 医療費控除
- 社会保険料控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
それぞれの所得控除を受けるための要件を満たすと、収入金額から控除の合計額が差し引かれて、残りの金額に対して所得税が算出される仕組みになっています。
税制優遇制度の活用
税制優遇制度とは一定の条件により税金を減額するなどの優遇措置が取られる制度です。その代表的なものとして、厚生労働省が管轄している「個人型確定拠出年金」「企業方確定拠出年金」と、金融庁が管轄している「ジュニアNISA」「つみたてNISA」「一般NISA」などがあります。それぞれの内容を確認してみましょう。
- 確定拠出年金(DC)
確定拠出金年金(DC)とは加入者が掛金を拠出し加入者自らがその資産を運用することで、その運用の成果により将来の年金受取額が決まる制度です。個人型と企業方とあり別名「掛金建て年金」とも呼ばれています。NISA (一般NISA、つみたてNISAやジュニアNISA)との大きな違いは掛金が所得税、住民税の課税対象から外れるという点です。個人型と企業方の制度内容は以下のとおりです。
種別 | iDeco | 企業方DC |
加入目的 | 老後のための資産運用・資産形成 | |
加入条件 | 20歳から65歳未満の国民年金保険者 | 70歳未満の厚生年金被保険者※企業により異なる |
引出し制限 | 60歳まで引出し不可 | |
優遇措置内容 |
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- NISA(つみたてNISA、一般NISA)、ジュニアNISA
NISAは「NISA口座(非課税口座)」内で、毎年一定金額の範囲内で購入した金融消費から得られる利益が非課税になる制度です。NISAにはジュニアNISA、つみたてNISA、一般NISAの3種類がありますが2024年以降はジュニアNISAが廃止され、つみたて投資枠と成長投資枠の2種類になります。それぞれの制度内容は以下のとおりです。
〈2023年までのNISA〉
種類 | つみたてNISA | 一般NISA | ジュニアNISA |
加入目的 | 長期での投資による資産形成・資産運用 | 投資による資産形成・資産運用 | 教育資金補填、生前贈与への活用 |
年間非課税枠 | 年間40万円 | 年間120万円 | 年間80万円 |
加入条件 | 18歳以上の国内居住者 | ||
引出し制限 | 制限なし | 18歳まで引出し不可※災害時などやむを得ない場合には非課税での払出し可能 | |
優遇措置内容 | 運用益が20年間(購入年から数えて)非課税 |
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※一般NISAとつみたてNISAの併用不可
〈2024年以降のNISA〉
種類 | つみたて投資枠 | 成長投資枠 |
年間投資枠(旧年間非課税枠) | 120万円 | 240万円 |
加入条件 | 18歳以上の国内居住者 | |
引出し制限 | 制限なし | |
優遇措置内容 | 運用益が非課税 | |
加入目的 | 長期の投資による資産形成・資産運用 | 投資による資産形成・資産運用 |
※つみたて投資枠と成長投資枠の併用可(併用の場合1,800万円、成長投資枠のみの場合は1,200万円が限度額となる。)
住宅ローンの税制優遇
住宅ローン控除
住宅ローン控除は毎年年末時点の住宅ローンの残債に対して所得税の控除が受けられる「住宅借入金等特別控除」という制度です。控除率は0.7%、控除期間は13年間(既存住宅及び増改築の場合は10年間)で住宅ローン総額により控除金額は変わり273万円〜455万円が控除される仕組みになっています。控除が受けられる金額よりも所得税が少ない場合には住民税からも差し引くことが可能です。条件などは新築、中古、リフォームなどで異なります。
住宅取得税の軽減措置
不動産取得税とは、土地や建物を購入したときに一度だけ課せられる税金のことを指します。税額は「取得した不動産の価格×税率」で計算され、税率は土地・住宅の場合には3%、住宅以外の家屋は4%です。不動産取得税の軽減措置で控除される金額は対象の家屋や土地によって違います。
住宅改修に関する税制優遇
住宅をリフォームする際に住宅ローンを利用した場合でも住宅ローン控除の対象となります。新築の場合と条件や最大控除額が異なり、控除率は0.7%、控除期間は10年間で最大140万円の控除が受けられる仕組みになっています。
相続税・贈与税の節税方法
生前贈与の活用
生前贈与とは、生きているうちに財産を見返りなく譲ることを指します。この生前贈与には「暦年贈与」と「相続財産の前渡し」の二種類があります。この2種類のうち節税対策として有効なのは暦年贈与で、毎年1月1日〜12月31日までの期間の贈与金額が110万円を超えない場合には贈与税が免除となります。
相続財産の前渡しの場合は相続時精算課税に該当するため、2500万円を超えなければ課税を受けることはありませんが、将来的に相続する際には非課税にした相続財産の前渡し分を精算して贈与税を納税する必要があります。2種類のうちどちらか一方しか選べず併用ができないため、よく検討したうえで期間に余裕がある場合には暦年贈与を選ぶと良いでしょう。
信託の活用
信託とは、一定の財産を信託銀行などの信託業者に管理・運用してもらい、その利益を受益者に渡す仕組みです。信託を使うことで、節税や資産管理がスムーズに行えます。
相続税対策としての信託活用は、一定額の財産を信託業者に託すことで、相続人が直接財産を受け継ぐのではなく、信託業者から受益者(相続人)に利益が分配される形を取ります。この方法により、相続税の税負担が軽減される可能性があります。
贈与税対策としての信託活用は、贈与者が信託業者に財産を託し、受益者に利益が分配される形を取ることで、贈与税の節税が可能になります。特に、贈与した財産が運用されることで得られる利益に対しては贈与税がかからないため、効果的な節税手段となります。
信託を利用することで、相続税・贈与税の節税を図ることができますが、信託業者に手数料がかかるため、費用対効果を検討して活用することが重要です。
遺言書を利用した遺産分割
遺言書がある場合被相続人には遺言によって財産手続きを進めるのが原則です。遺言書に誰がどの資産を相続するのか記載があれば、相続人の同意をもって相続することとなります。もし複数かつ分割できる遺産がある場合は、遺産分割をすることで節税が可能です。代表例は以下のとおりです。
配偶者控除
残された配偶者は相続財産の2/1まで相続するか、1億6,000万円までであれば相続税が非課税となります。
配偶者居住権
被相続人が所有していた建物に、残された配偶者が一定期間、無償で居住できる権利です。建物の価値を「所有権」と「居住権」の2つに分けそれぞれを異なる相続人が相続することで、配偶者の税負担を軽減することができます。
小規模宅地の特例
自宅を配偶者または同居している親族が相続することで居住用の土地や事業用の土地であれば80%減額、駐車場などの貸付事業用の場合50%が減額となります。他にも適用条件があるため事前に確認しておきましょう。
消費税に関する節税方法
税額控除制度の活用
課税事業者が納税すべき消費税を計算する際に売り上げにかかる消費税から仕入れにかかった消費税を差し引いて計算することにより、消費税の二重課税を解消できる「仕入税額控除」という制度です。
仕入税額控除適用は全ての課税仕入れが対象になりますが、課税取引として要件を満たす仕入れ取引のことを指し「外注費」「修繕費」「原材料等の購入」などの取引が該当します。仕入税額控除の適用要件や計算方法などには一定の条件があるため事前に確認しておくと良いでしょう。
小規模企業者等の減税制度
中小企業の減税制度には個人事業主より有利に減税を行える場合があります。個人事業主としての収入が増えた場合には会社を創業することで大きな節税につながるでしょう。主な税制制度は以下のとおりです。
- 法人税率の軽減
- 欠損金の繰戻還付
- 欠損金の繰越控除
- 交際費課税の特例
- 少額減価償却資産の特例
- 賃上げ促進税制
輸出免税制度
輸出免税制度とは販売などの取引が輸出取引に該当する場合、この消費税が免除される制度です。消費税はあくまでも国内の消費に課せられる税金という考えのため、国外で消費されるものについては課税しないということになります。
節税の注意点
無理な節税対策は避ける
節税対策は無駄な税金を納める必要がなくなり、会社経営や個人の資産増加に関わる非常に重要なことです。しかし、税金を減らすことだけを目的としてしまい資金繰りが合わなくなる、不必要な財産の増加といった問題が出てくる可能性もあります。また、過度な節税対策は脱税となりかねないため、適切な判断や税制上範囲内で現状の生活、会社経営に支障が出ない程度の節税対策を心がけましょう。
適切な税務申告と税務相談を行う
節税対策ばかりに気を取られすぎると経費計上申告ミスなどが出てしまう可能性があります。行き過ぎた節税を行なっていないか、税務手続きに不備はないかなど専門の方に一度相談してみましょう。個人で行うよりも専門家のアドバイスなど受けた上で適切な税務申告や節税を行うことができます。
節税だけでなく資産形成やライフプランニングも考慮
主に当期分の節税を目的とすることが多いですが、近い将来や遠い未来を見据えて、老後のためや会社のための資産形成、今後の人生で起こりうる結婚や出産など個人としての人生設計にも考慮しながら手元にある資金をどう活用していくのか慎重に考慮していくことが大切です。
節税について詳しい知識を得たい場合は専門家に相談も検討
今回は節税の基礎知識やメリット、方法や種類などを紹介してきました。節税とは事業内容によって経費計上できる内容が異なり個人や会社の判断では問題ないと思っていても、税務署の判断次第では脱税とみなされてしまう可能性もあります。「どの制度を使えばいいのかわからない」「適切な範囲内での節税を最大限に活かす方法が知りたい」という場合は節税について専門家へ相談することも検討してみてください。