年末調整と確定申告は、どちらも所得税の額を決めるための手続きですが、その内容や方法には大きな違いがあります。年末調整は、給与所得者が勤め先で行うもので、確定申告は、個人事業主や給与以外の所得がある人が自分で行うものです。本記事では、年末調整と確定申告の違いについて、手続きの時期や対象者、所得控除の種類などを詳しく説明します。
目次
年末調整と確定申告ってどう違う?
年末調整と確定申告は、所得税の額を決めるために必要な手続きですが、その対象や方法には大きな違いがあります。年末調整は、給与所得者が勤め先で行うもので、確定申告は、個人事業主や給与以外の所得がある人が自分で行うものです。
年末調整と確定申告には、所得から差し引ける所得控除や税額控除があります。しかし、これらの控除の中には、年末調整では適用できないものがあります。たとえば、医療費控除や寄附金控除などは、確定申告でしか受けられません。そのような控除を受けたい場合は、年末調整を行っていても、確定申告を行う必要があります。
年末調整と確定申告の違いを理解することで、自分に必要な手続きを正しく行えます。次章以降では、年末調整と確定申告のそれぞれの対象者や時期について詳しく説明します。
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年末調整とは?
年末調整は、毎月の給与から天引きされた所得税の過不足を精算するために、会社が行う手続きです。給与所得者は、毎月の給与や賞与から所得税が天引きされますが、これは概算であり、正しい税額ではありません。
1年間の給与が確定した年末に、所得税の正しい額を計算し、納め過ぎていたら返してもらい、不足していたら追加で納税します。年末調整を受けた人は、その年の所得税の納税が終わります。
年末調整の時期
年末調整は、その年の1月1日から12月31日までの給与に対して行います。一般的には、12月に支払われる最後の給与と同時に年末調整を行います。しかし、年の途中で退職した人や非居住者となった人などは、退職時や非居住者となった時に年末調整を行う場合があります。年の途中で年末調整を行う対象となる人は、以下のような人です。
- 海外支店などに転勤したことなどの理由により非居住者となった人
- 死亡によって退職した人
- 著しい心身の障害のために退職した人(退職後に再就職する見込みのある人は除く)
- 12月の給与を受け取った後に退職した人
- パート社員などが退職した場合で、その人の年間の給与総額が103万円以下である人(退職後、その年に他の勤務先から給与の支払を受ける見込みのある人は除く)
これらの人は、年末調整の対象となる給与が、年末までに支払われるとは限らないため、年末調整の時期が異なります。具体的には、以下のようになります。
- 非居住者となった人は、非居住者となる日の前日までの給与に対して、非居住者となる日。
- 死亡によって退職した人は、死亡した日までの給与に対して、死亡した日。
- 著しい心身の障害のために退職した人は、退職した日までの給与に対して、退職した日。
- 12月の給与を受け取った後に退職した人は、退職した日までの給与に対して、退職した日。
- パート社員などが退職した場合で、その人の年間の給与総額が103万円以下である人は、退職した日までの給与に対して、退職した日。
年の途中で年末調整を行う場合は、年末調整の日までに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出する必要があります。また、年末調整を行った後に、その年に他の勤務先から給与を受け取る場合は、確定申告を行う必要があります。
年末調整の対象者
年末調整の対象者は、会社などに勤務して給与を受け取っている会社員やパート、アルバイト従業員などです。ただし、年末調整を受けるには、年末調整の日までに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を勤務先に提出している必要があります。この申告書には、自分や家族の扶養状況や社会保険料などの控除に関する情報を記入します。
年末調整の対象者には、以下のような人が含まれます。
- 1年間を通して勤務している人
- 年の途中で就職し、年末まで勤務している人
- 年の途中で死亡により退職した人
- 著しい心身の障害のため退職し、本年中に再就職が見込めない人
- 12月に給与の支払いを受けた後、退職した人
- パートタイマーとして働いている人が退職した場合で、本年中に支払いを受ける給与の総額が103万円以下の場合(退職後、年末までに他の勤務先から給与を受け取る見込みがある場合を除く)
- 年の途中で、海外勤務により非居住者となった人
一方、以下のような人は年末調整の対象者となりません。
- 給与所得が年間2,000万円を超える人
- 2ヶ所以上から給与の支払いを受けており、他の給与の支払者が年末調整を行う場合
- 年末調整までに「扶養控除等(異動)申告書」を提出していない場合
- 年の途中で退職した人のうち、退職時に年末調整を行わない人
- 非居住者
- 継続して同一の雇用主に雇用されない、いわゆる日雇い労働者
年末調整は、給与所得者の所得税の納税を完了させるために重要な手続きです。年末調整の対象者や時期について、自分の状況にあわせて確認しましょう。
確定申告とは?
確定申告とは、1年間に得たすべての所得を税務署に申告し、所得税の額を確定させるための手続きです。確定申告の手続きは、所得税の額を確定させるために、納税者本人が行います。確定申告を行うことで、所得税の過不足を精算し、還付や納税を行います。
確定申告の時期
確定申告の対象となるのは、その年の1月1日から12月31日までの所得です。確定申告は、原則として翌年の2月16日から3月15日までの間に行わなければなりません。ただし、災害や事故などやむを得ない事情がある場合は、申告期限の延長を申請できます。
確定申告の対象者
確定申告の対象者は、主に個人事業主やフリーランス、自営業者などの事業所得がある人です。給与所得者のうち、年間の給与収入が2,000万円を超える人や、副業の所得が20万円を超える人も確定申告の対象となります。
また、年末調整では適用できない所得控除や税額控除を受けたい場合も、確定申告を行う必要があります。たとえば、医療費控除や寄附金控除、住宅ローン控除の初回などは、確定申告でしか受けられません。
確定申告の対象者には、以下のような人が含まれます。
- 事業所得や不動産所得、山林所得などの給与所得以外の所得がある人
- 給与所得が年間2,000万円を超える人
- 給与所得以外の所得が20万円を超える人
- 年末調整で適用できない所得控除や税額控除を受けたい人
- 災害減免法の規定により所得税の徴収猶予や還付を受けた人
確定申告は、所得税の額を正しく決めるために必要な手続きです。確定申告の対象者や時期について、自分の状況に合わせて確認しましょう。
年末調整・確定申告の両方が必要なケースとは?
一般的には、年末調整を受けた給与所得者は、確定申告をする必要はありません。しかし、以下のような場合は、年末調整とは別に確定申告をする必要があります。
- 給与以外に20万円以上の所得がある
- 複数の企業・組織から賃金を得ている
- 給与・賞与などで2000万円以上の所得がある
- 転職や退職で確定申告が必要になった
- 年末調整が間に合わなかった
- 災害減免法の対象者
- 確定申告でしか受けられない所得控除を希望
年末調整と確定申告の両方を行う場合は、注意点がいくつかあります。まず、確定申告は、年末調整の後に発行される源泉徴収票の内容を反映させた申告書を作成する必要があります。これは、すでに年末調整で精算されている所得税額も含めて、正しい納税額を求めるためです。
また、確定申告は、源泉徴収票の内容をもとに所得税の納税額が計算されるため、給与額や源泉徴収後の所得金額なども確定申告書に記載する必要があります。
年末調整と確定申告の両方を行う場合は、還付や納税の差額が生じる可能性があります。還付が生じる場合は、確定申告をすることで還付金を受け取れます。納税が生じる場合は、確定申告をすることで納税額を支払う必要があります。
給与以外に20万円以上の所得がある
給与所得者でも、給与以外に副業や投資などで所得がある場合は、その所得が20万円を超えると確定申告が必要になります。給与以外の所得には、以下のようなものがあります。
- 雑所得:クラウドソーシングや内職、講演料、執筆料、株式配当、利子など
- 事業所得:個人事業主やフリーランスなどの自営業者の所得
- 不動産所得:不動産の賃貸による所得
- 譲渡所得:不動産や株式や仮想通貨などの売却による所得
給与以外の所得が20万円以下であれば、確定申告は不要ですが、住民税の申告は必要になる場合があります。また、給与以外の所得がある場合は、必要経費を差し引いて申告しましょう。必要経費とは、所得を得るために支払った費用のことで、たとえば、交通費や消耗品、通信費、事務用品などが該当します。
複数の企業・組織から賃金を得ている
給与所得者が、本業以外にもアルバイトやパートなどで別の企業や組織から給与を受け取っている場合は、確定申告が必要になる場合があります。これは、年末調整は1人1企業でしか受けられないためです。
一般的には、収入の多い方の企業で年末調整を受けますが、その場合は、収入の少ない方の企業から受け取った給与に対しては、源泉徴収されたままになります。そのため、その給与が20万円を超える場合は、個人で確定申告をする必要があります。
給与・賞与などで2000万円以上の所得がある
給与所得者が、1年間に受け取った給与や賞与などの収入が2000万円を超える場合は、年末調整の対象外となります。これは、2000万円を超える部分に対しては、所得税の税率が23%になるためです。
そのため、2000万円を超える部分に対しては、個人で確定申告をする必要があります。また、2000万円を超える部分に対しては、住民税の特別徴収もされないため、翌年の住民税の納付も必要になります。
転職や退職で確定申告が必要になった
給与所得者が、年の途中で転職や退職をした場合は、確定申告が必要になる場合があります。これは、転職や退職によって、年末調整ができなかったり、退職金が支払われたりするためです。
転職した場合は、新しい会社で前職分も含めて年末調整を受けられますが、そのためには、前職から源泉徴収票を受け取っておく必要があります。また、前職と新しい会社の給与の合計が2000万円を超える場合は、確定申告が必要になります。
退職した場合は、その年の12月31日時点で会社に勤めていない場合は、個人で確定申告をする必要があります。また、退職金を受け取った場合、以下のいずれかに該当する際は、確定申告が必要になります。
- 退職金の支払いに関する申告書を提出していない場合
- 退職金の支払いに関する控除額が退職金の支払いに関する所得金額を超える場合
年末調整が間に合わなかった
給与所得者が、年末調整のために必要な書類を提出する期限を過ぎてしまった場合は、年末調整を受けられません。そのため、個人で確定申告をする必要があります。
年末調整のために必要な書類は、以下のとおりです。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書:扶養家族や社会保険料などの申告をするための書類
- 基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
- 保険料控除申告書
- 住宅借入金等特別控除申告書:住宅ローン控除の2年目以降に申告をするための書類
災害減免法の対象者
災害減免法とは、地震や台風などの災害によって住宅や家財が被害を受けた場合に、所得税や住民税などの税金を減免する法律です。災害減免法の適用を受けるためには、確定申告をする必要があります。
災害減免法の適用条件は、以下のとおりです。
- 被害を受けた住宅や家財の損害金額がその時価の2分の1以上であること
- 災害にあった年の所得金額の合計額が1,000万円以下であること
- 雑損控除の適用を受けていないこと
災害減免法の適用を受けるためには、確定申告書に被害状況と損害金額を記載する必要があります。また、災害減免法の適用を受けると、所得税のほかに住民税や国民健康保険料などの地方税も減免されます。
確定申告でしか受けられない所得控除を希望
給与所得者でも、確定申告でしか受けられない所得控除や税額控除がある場合は、確定申告をする必要があります。たとえば、以下のような場合です。
- 医療費控除:自分や扶養家族の医療費が10万円以上か、所得の5%を超える場合に受けられる控除
- 雑損控除:自然災害や事故などで被った損害を控除できる制度
- 寄附金控除:公益法人や政党などに寄付した金額の一部を控除できる制度
- 住宅借入金等特別控除:住宅ローンを利用して住宅を購入した場合に受けられる控除(初回のみ確定申告が必要)
- ふるさと納税:地方自治体に寄付した金額の一部を控除できる制度(納税先が6ヶ所以上の場合は確定申告が必要)
これらの控除を受けるためには、確定申告書に必要な書類や領収書などを添付する必要があります。また、これらの控除は、所得税のほかに住民税にも適用されます。
年末調整をしていても確定申告が必要な所得控除とは?
一般的には、年末調整を受けた給与所得者は、確定申告は不要ですが、先述した通り確定申告でしか受けられない控除を希望している場合には、年末調整とは別に確定申告をする必要があります。それぞれの控除の内容を詳しく見ていきましょう。
関連記事:税金の控除とは?節税のために知っておきたい種類や目的を詳しく解説!
医療費控除
医療費控除とは、自分や扶養家族のために支払った医療費が一定額を超えた場合に、所得税の額を減らせる制度です。医療費控除の適用条件は、以下のとおりです。
- 支払った医療費の合計額が10万円以上か、所得の5%を超えること
- 保険金や助成金などで補てんされないこと
- 医療費の領収書や医療機関からの証明書などを保管すること
医療費控除は、年末調整では適用できないので、確定申告をしなければなりません。確定申告をすることで、支払った医療費の一部が還付される可能性があります。
寄附金控除(ふるさと納税含む)
寄附金控除とは、国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対して寄付をした場合に、所得税の額を減らせる制度です。寄附金控除の適用条件は、以下のとおりです。
- 寄付をした団体が「特定寄附金」と認められること
- 寄付をした金額が2,000円以上であること
- 寄付の領収書や証明書などを保管すること
寄附金控除は、年末調整では適用できないので、確定申告をしなければなりません。確定申告をすることで、寄付した金額の一部が還付される可能性があります。
なお、ふるさと納税とは、地方自治体に寄付をすることで、所得税と住民税の両方の寄附金控除を受けられる制度です。ふるさと納税の場合は、納税先の自治体が5ヶ所以内であれば、ワンストップ特例制度を利用することで確定申告は不要となります。
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ワンストップ納税適用外のふるさと納税
ワンストップ納税適用外のふるさと納税とは、納税先の自治体が6ヶ所以上である場合や、ワンストップ特例申請書を提出しなかった場合のふるさと納税です。この場合は、確定申告をしなければなりません。
確定申告をすることで、ふるさと納税の寄附金控除を受けられますが、注意点がいくつかあります。まず、ふるさと納税の寄附金控除は、所得税の寄附金控除の上限額(特定寄附金の合計額または合計所得金額などの40%相当額のどちらか低いほうから、2,000円を差し引いた額)の範囲内でしか受けられません。
また、ふるさと納税の寄附金控除は、住民税の税額控除としても受けられますが、その場合は、住民税の納付書を確定申告書に添付する必要があります。
住宅ローン控除の初回
住宅ローン控除とは、住宅ローンを利用して住宅を購入した場合に、所得税の額を減らせる制度です。住宅ローン控除の適用条件は、以下のとおりです。
- 住宅を購入した年の翌年から10年間であること
- 住宅を購入した年の1月1日から12月31日までに借入金の支払いをしたこと
- 住宅を購入した年の1月1日から12月31日までに住宅を新築または改築したこと
- 住宅を購入した年の1月1日から12月31日までに住宅に居住したこと
- 住宅を購入した年の1月1日から12月31日までに住宅の登記をしたこと
住宅ローン控除は、2年目以降は年末調整で受けられますが、初回は確定申告をしなければなりません。確定申告をすることで、住宅ローンの利子の一部が還付される可能性があります。
雑損控除
雑損控除とは、災害や盗難、横領などによって、自分や扶養家族が所有する資産が損害を受けた場合に、所得税の額を減らせる制度です。雑損控除の適用条件は、以下のとおりです。
- 損害を受けた資産が、自分や扶養家族の生活に必要なものであること
- 損害を受けた資産が、事業の資産でないこと
- 損害を受けた資産の損害金額が3万円以上であること
- 損害を受けた資産の損害金額が、その年の所得の10%を超えること
- 損害を受けた資産の損害状況や損害金額を証明できる書類を保管すること
雑損控除は、年末調整では適用できないので、確定申告をしなければなりません。確定申告をすることで、損害を受けた資産の一部が還付される可能性があります。
参考:国税庁|No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)
年末調整か確定申告のどちらかで適用される所得控除とは?
所得控除には、物的控除と人的控除の2種類があります。物的控除とは、生活に必要な支出や損失に対する控除で、医療費控除や寄附金控除などが該当します。人的控除とは、納税者やその家族の生活状況に応じた控除で、基礎控除や配偶者控除などが該当します。
所得控除は、年末調整と確定申告のどちらかで受けられます。年末調整と確定申告で受けられる所得控除は、以下のように分類されます。
所得控除の種類 | 年末調整 | 確定申告 |
基礎控除 | 〇 | 〇 |
社会保険料控除 | 〇 | 〇 |
小規模企業共済等掛金控除 | 〇 | 〇 |
生命保険料控除 | 〇 | 〇 |
地震保険料控除 | 〇 | 〇 |
ひとり親控除 | 〇 | 〇 |
寡婦控除 | 〇 | 〇 |
勤労学生控除 | 〇 | 〇 |
障害者控除 | 〇 | 〇 |
配偶者控除 | 〇 | 〇 |
配偶者特別控除 | 〇 | 〇 |
扶養控除 | 〇 | 〇 |
ワンストップ納税適用のふるさと納税 | 〇 | × |
2年目以降の住宅ローン控除 | 〇 | × |
医療費控除 | × | 〇 |
寄附金控除(ふるさと納税含む) | × | 〇 |
ワンストップ納税適用外のふるさと納税 | × | 〇 |
住宅ローン控除の初回 | × | 〇 |
雑損控除 | × | 〇 |
年末調整と確定申告で受けられる所得控除について、詳しく見ていきましょう。
基礎控除
基礎控除とは、納税者本人に対して一律に認められる控除です。所得が2,500万円以下の人なら誰でも受けられる控除ですが、控除額は納税者の合計所得金額に応じて変わります。
納税者本人の合計所得金額 | 控除額 |
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 |
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | 0円 |
社会保険料控除
社会保険料控除とは、その年に支払った(または給与から差し引かれた)健康保険料や介護保険料、国民年金保険料(税)、厚生年金保険料などの社会保険料の全額が控除されます。自分の社会保険料のほか、扶養している家族や親族の社会保険料を支払った場合は、その金額も控除されます。
健康保険料(税)や国民年金保険料などの公的な保険料を支払ったとき、または生計を同じくする配偶者や子供、親族の公的な保険料を支払ったときに、社会保険料控除が受けられます。
小規模企業共済等掛金控除
小規模企業共済等掛金控除とは、小規模企業共済法で規定された掛金を支払った場合に受けられる控除です。金額に上限はなく、その年に支払った掛金全額を控除できます。控除できる掛金は以下の3つです。
- 小規模企業共済法の規定により独立行政法人中小企業基盤整備機構と結んだ共済契約の掛金
- 確定拠出年金法で定められている企業型年金加入者掛金または個人型年金加入者掛金
- 地方公共団体が実施する、いわゆる心身障害者扶養共済制度の掛金
生命保険料控除
生命保険料控除とは、生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合に適用される控除です。民間の保険会社が提供する保険契約が該当します。
保険契約の区分ごとに控除限度額が設定されており、すべて合わせて最大12万円の控除を受けられます。なお、2012年1月1日以後に締結した保険契約(新契約)と2011年12月31日以前に締結した保険契約(旧契約)では、生命保険料控除の取扱いが異なります。
新生命保険料に係る控除額(2012年1月1日以後に締結した保険契約等)
年間の支払保険料等の合計額 | 控除額 |
20,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
20,001円から40,000円まで | 支払保険料等×1/2+10,000円 |
40,001円から80,000円まで | 支払保険料等×1/4+20,000円 |
80,001円以上 | 一律40,000円 |
旧生命保険料に係る控除額(2011年12月31日以前に締結した保険契約等)
年間の支払保険料等の合計額 | 控除額 |
25,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
25,001円から50,000円まで | 支払保険料等×1/2+12,500円 |
50,001円から100,000円まで | 支払保険料等×1/4+25,000円 |
100,001円以上 | 一律50,000円 |
引用:国税庁|旧生命保険料と新生命保険料の支払がある場合の生命保険料控除額
地震保険料控除
地震保険料控除とは、その年に支払った地震保険料に応じて、一定額の控除が受けられます。なお、2006年の税制改正により、それまであった損害保険料控除が廃止されました。ただし、次の3つの要件を満たす長期損害保険料については、経過措置として地震保険料控除の対象となります。
- 平成18年12月31日までに締結した契約(保険期間または共済期間の始期が平成19年1月1日以後のものは除く)
- 満期返戻金等のあるもので保険期間または共済期間が10年以上の契約
- 平成19年1月1日以後にその損害保険契約等の変更をしていないもの
地震保険料控除の金額は、その年に支払った保険料の金額に応じて、次により計算した金額となります。
区分 | 年間の支払保険料の合計 | 控除額 |
(1)地震保険料 | 50,000円以下 | 支払金額の全額 |
50,000円超 | 一律50,000円 | |
(2)旧長期損害保険料 | 10,000円以下 | 支払金額の全額 |
10,000円超20,000円以下 | 支払金額×1/2+5,000円 | |
20,000円超 | 15,000円 | |
(1)・(2)両方がある場合 | - | (1)、(2)それぞれの方法で計算した金額の合計額(最高50,000円) |
ひとり親控除
ひとり親控除とは、2020年分の所得税から適用される控除です。その年の12月31日時点で婚姻をしていない、または配偶者の生死が明らかでない人のうち、合計所得金額が500万円以下で、生計を一にする子供がいる単身者の場合に、35万円の控除が受けられます。
なお、事実婚状態の人や、子どもの年間所得が48万円を超える場合は対象外となります。また、ひとり親控除を受ける場合は、寡婦控除や扶養控除を受けられません。
寡婦控除
寡婦控除とは、配偶者と離婚または死別した女性が受けられる控除です。その年の12月31日時点でひとり親控除の対象にならない人で、次の条件のいずれかに当てはまる人は、寡婦控除の対象となります。
- 夫と離婚した後、再婚していない人で、扶養親族がいる人
- 夫と死別した後、再婚していない人、または夫の生死が明らかでない人
ただし、事実婚状態の人や、合計所得金額が500万円を超える人は対象外となります。寡婦控除の控除額は27万円です。
勤労学生控除
勤労学生控除とは、納税者本人が特定の学校に在籍しながら働いている場合に受けられる控除です。その年の12月31日時点で、次の条件を満たす人は、勤労学生控除の対象となります。
- 特定の学校の学生、生徒であること
- 給与所得などの勤労による所得があること
- 合計所得金額が75万円以下(2019年以前分は65万円以下)であること
- 給与所得など勤労に基づく所得以外の所得が10万円以下であること
勤労学生控除の控除額は、27万円です。
障害者控除
障害者控除とは、納税者本人や、生計を一にする配偶者や扶養親族に障害がある場合に受けられる控除です。障害者控除の対象になる人は、次のように区分されます。
- 障害者:身体障害者手帳や療育手帳などの所定の証明書を持つ人
- 特別障害者:障害者のうち、重度の障害があると認められる人
- 同居特別障害者:特別障害者のうち、納税者と同居している人
障害者控除の控除額は、次の表のとおりです。
区分 | 控除額 |
障害者 | 27万円 |
特別障害者 | 40万円 |
同居特別障害者 | 75万円 |
なお、障害者控除は、扶養親族の年齢に関係なく、障害がある人に適用されます。つまり、扶養控除の対象年齢を超えていない16歳未満の子どもでも、障害者控除の対象になります。
配偶者控除
配偶者控除とは、生計を一にする配偶者の合計所得金額が年間48万円以下(2019年分以前は38万円以下)である場合に受けられる控除です。
配偶者控除の控除額は、納税者の合計所得金額によって変わります。また、配偶者が70歳以上である場合は、老人控除対象配偶者として、控除額が高くなります。控除額は、次の表のとおりです。
納税者の合計所得金額 | 一般の控除対象配偶者 | 老人控除対象配偶者 |
900万円以下 | 38万円 | 48万円 |
900万円超950万円以下 | 26万円 | 32万円 |
950万円超1,000万円以下 | 13万円 | 16万円 |
1,000万円超 | 0円 | 0円 |
なお、納税者の合計所得金額が1,000万円を超えると配偶者控除は受けられません。
配偶者特別控除
配偶者特別控除とは、配偶者の所得が48万円を超えて配偶者控除の対象にならない場合でも、一定の範囲内で控除を受けられる制度です。その年の12月31日時点で、次の条件を満たす人は配偶者特別控除の対象となります。
- 配偶者がいること
- 配偶者の合計所得金額が48万円を超え133万円以下であること(2019年分は38万円を超え123万円以下、2018年分以前は38万円を超え76万円未満)
- 納税者の合計所得金額が1,000万円以下であること
配偶者特別控除の控除額は、納税者と配偶者の合計所得金額によって段階的に変わります。控除額(2020年分以降)は、次の表のとおりです。
| 控除を受ける納税者本人の合計所得金額 | |||
900万円以下 | 900万円超 950万円以下 | 950万円超 1,000万円以下 | ||
配 偶 者 の 合 計 所 得 金 額 | 48万円超 95万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
95万円超 100万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 | |
100万円超 105万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 | |
105万円超 110万円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 | |
110万円超 115万円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 | |
115万円超 120万円以下 | 16万円 | 11万円 | 6万円 | |
120万円超 125万円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 | |
125万円超 130万円以下 | 6万円 | 4万円 | 2万円 | |
130万円超 133万円以下 | 3万円 | 2万円 | 1万円 |
扶養控除
扶養控除とは、子どもや親など、年間の合計所得金額が48万円以下の扶養親族がいる場合に受けられる控除です。扶養親族とは、納税者の配偶者、直系尊属(父母、祖父母など)、直系卑属(子、孫など)、兄弟姉妹、配偶者の直系尊属、配偶者の兄弟姉妹などのことです。
区分 | 控除額 | |
一般の控除対象扶養親族 | 38万円 | |
特定扶養親族 | 63万円 | |
老人扶養親族 | 同居老親等以外の者 | 48万円 |
同居老親等 | 58万円 |
同居老親等の「同居」について、入院などにより納税者等と別居している場合は、その期間が1年以上の場合であっても、同居に該当するものとして取り扱ってよいとされています。ただし、老人ホーム等へ入所している場合には、その老人ホームが居所となり、同居しているとはいえません。
ワンストップ納税適用のふるさと納税
ふるさと納税とは、納税者が自分の住んでいない地方公共団体に寄付をすることで、所得税と住民税の一部が還付される制度です。ふるさと納税の寄付金控除は、確定申告で受けられますが、ワンストップ納税という手続きをすることで、年末調整で受けられる場合もあります。
ワンストップ納税とは、寄付をした地方公共団体から送られてくる「ワンストップ特例申請書」に必要事項を記入し、寄付をした年の翌年1月10日までに、勤務先の会社に提出することで、確定申告をしなくても寄付金控除を受けられる手続きです。
ワンストップ納税の適用要件は、次のとおりです。
- 寄付をした年の12月31日時点で、給与所得者であること
- 寄付をした年の1月1日から12月31日までに、寄付をした地方公共団体が5団体以下であること
- 寄付をした年の1月1日から12月31日までに、寄付をした地方公共団体から返礼品を受け取っていないこと
- 寄付をした年の1月1日から12月31日までに、寄付をした地方公共団体から受け取った寄付金受領証明書の合計額が20万円以下であること
2年目以降の住宅ローン控除
住宅ローン控除とは、住宅ローンなどを利用してマイホームを新築、取得または増改築をしたときに受けられる控除です。住宅ローン控除は、初年度は確定申告が必要ですが、2年目以降は年末調整で申請できるため確定申告は不要になります。
住宅ローン控除の適用要件は、次のとおりです。
- 住宅ローンなどの借入期間が10年以上であること
- 借入金額が4,000万円以下であること
- 借入日が2009年1月1日以降であること
- 新築、取得または増改築した住宅が、借入日から6か月以内に完成し、その年の12月31日までに居住を開始していること
- 新築、取得または増改築した住宅が、納税者本人や生計を一にする親族の主たる居住用であること
住宅ローン控除の控除額は、借入金利の合計額によって変わります。一般的には、借入金利の合計額の1%に相当する額が控除されますが、最高で40万円となります。
ただし、借入日が2014年1月1日以降の場合は、借入金利の合計額の2%に相当する額が控除され、最高で50万円となります。
また、借入日が2019年1月1日以降の場合は、借入金利の合計額の4%に相当する額が控除されますが、最高で100万円となります。
参考:国税庁|No.1213 認定住宅の新築等をした場合(住宅借入金等特別控除)
年末調整と確定申告の違いを知り必要があれば税理士に相談しよう
この記事では、年末調整と確定申告の違いや、それぞれで受けられる所得控除について紹介しました。年末調整や確定申告の仕組みを理解することで、自分の所得や支出に応じて、適切に税金を納められます。また、税金の節約や還付を目的として、様々な所得控除を活用することもできます。
しかし、年末調整や確定申告には、複雑な計算や書類作成が必要になる場合もあります。特に、医療費控除や寄附金控除など、確定申告でしか受けられない控除は、自分で申告する必要があります。そのため、手間やミスを避けるために、税理士に相談することをおすすめします。
関連記事:確定申告に税理士に頼む際の費用とは?相場と費用対効果を知ろう
税理士は、年末調整や確定申告の手続きを代行してくれるだけでなく、自分に最適な所得控除の選択や、税金の節約のためのアドバイスもしてくれます。税理士に相談することで、年末調整や確定申告をスムーズに行えます。
年末調整や確定申告は、自分の所得や税金に関する重要な手続きです。この記事を参考にして、自分の状況に合わせて、年末調整や確定申告を行いましょう。年末調整や確定申告のご相談なら、ぜひ、私たち「小谷野税理士法人」にお任せください。