個人事業開始申告書は、個人事業主として事業をスタートする際に、都道府県税事務所に提出する申告書です。地域によっては、都道府県税事務所だけでなく区市役所にも提出しなければならないところもあります。地方税(事業税、住民税)を納付するために必要なものですが、個人事業開始申告書を出さないとどんなデメリットがあるのか、ということも気になるところです。この記事では、個人事業開始申告書について、その内容や必要な書類や提出方法、出さないとどうなるか、などをわかりやすく解説します。
目次
個人事業開始申告書とは?
個人事業開始申告書とは、個人事業主として事業を始めたことを各都道府県税事務所に届け出るための書類です 。個人事業主とは、自分の名前で事業を行い、その収入を自分で管理する人のことで、フリーランスや個人で店舗を開く人、個人でネットショップを運営する人などが該当します。
個人事業主として事業を始めたのに個人事業開始申告書を提出しない場合でも、特に罰則はありませんが、出しておきましょう。「個人事業開始申告書を提出しなかった場合にどうなるのか」については、後述します。
個人事業開始申告書の提出先は各都道府県税事務所で、提出期限も都道府県によって異なります。たとえば、東京都では開業日から15日以内、大阪府では開業日から2カ月以内に提出する必要があります。
個人事業開始申告書と開業届の違い
個人事業開始申告書とよく混同されるのが、開業届です。個人事業主になるときには、税務署に対して事業の開始を届け出る必要があります。そのために使う書類が、開業届です。しかし、これらの書類は、似ているようで実は違うものです。
開業届は、国税である所得税に関する書類です。所得税は、個人が得た収入から必要経費を差し引いた所得にかかる税金です。開業届を提出することで、税務署は事業所得を把握し、所得税の計算や納税の手続きを行います。開業届は、所得税法第229条により、事業を開始した日から1ヶ月以内に提出しなければならないと定められています。
一方、個人事業開始申告書は、地方税である個人事業税に関する書類です。個人事業税は、所得税とは別に、都道府県から課税される税金で、事業所得に応じて課税されます。個人事業開始申告書を提出することで、都道府県は事業所得を把握し、個人事業税の計算や納税の手続きを行います。前述のとおり、提出期限は各都道府県によって異なるため、注意が必要です。
個人事業税は、事業所得や不動産所得から290万円の控除をした金額に税率をかけて計算します。税率は事業の種類によって異なりますが、ほとんどの業種では5%です。個人事業税について、詳しくは後述します。
開業届と個人事業開始申告書の違いをまとめると、以下のようになります。
書類の種類 | 税金の種類 | 税金 | 提出先 |
開業届 | 国税 | 所得税 | 税務署 |
個人事業開始申告書 | 地方税 | 個人事業税 | 都道府県税事務所 |
開業届と個人事業開始申告書は、両方とも、事業所得を申告する際に必要な書類ですが、所得税と個人事業税は別の税金です。個人事業主になるときには、両方の書類を正しく理解し、適切に提出することが重要です。
個人事業主の税務について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
個人事業主の税金はいくら?税理士はいらない?税金の種類やシミュレーションなども含めて解説!
個人事業主の青色申告とは?いくらから必要?メリット・デメリットや帳簿の書き方などについて解説!
個人事業主の入門編!青色申告とは?メリットと手続き方法をわかりやすく解説
参考:国税庁|No.2090 新たに事業を始めたときの届出など
個人事業開始申告書の提出方法は?
個人事業開始申告書の提出方法はどのようになっているのでしょうか?ここでは、個人事業開始申告書の必要書類や入手方法、提出期限について、以下に詳しく説明します。
個人事業開始申告書の必要書類
個人事業開始申告書の提出に必要な書類は、個人事業開始申告書の用紙だけです。この用紙には、個人事業主の氏名や住所、事業の内容や開始日、事業所の所在地などを記入します。
また、事業の種類によっては、別途添付書類が必要になる場合があります。たとえば、建設業や運送業などの許認可が必要な事業の場合は、許認可の証明書や届出書の写しを添付する必要があります。
個人事業開始申告書の提出には、開業届の控えやマイナンバーがあるとより良いです。開業届の控えは、開業届を提出した際に受け取れます。開業届の控えには、開業日や事業の内容などが記載されており、税務署に提出することで、個人事業開始申告書の記入を簡略化できます。マイナンバーは、個人事業主としての納税番号として使用されるため、マイナンバーを税務署に提出することで、納税管理がスムーズになります。
個人事業開始申告書の入手方法
個人事業開始申告書の用紙は、各都道府県の主税局や県税事務所で入手できます。
また、インターネットからもダウンロードでき、各都道府県のホームページにも、個人事業開始申告書の用紙や記入例、添付書類の一覧などが掲載されています。
たとえば、東京都の場合、こちらからダウンロードできます。
個人事業開始申告書の提出期限
個人事業開始申告書の提出期限は、都道府県によって異なります。各都道府県ごとの提出期限は、自治体に問い合わせるか、インターネットで「事業開始等申告書 都道府県名」と検索すると調べられます。
たとえば、以下の自治体では、提出期限にそれぞれ違いがあります。各都道府県の主税局や県税事務所のホームページを参考にしましょう。
自治体 | 提出期限 |
東京都 | 事業の開始の日から15日以内 |
大阪府 | 事業の開始の日から2か月以内 |
静岡県 | 事業の開始の日から1か月以内 |
福岡県 | 事業の開始の翌月10日まで |
参考:福岡県庁|個人の事業税
個人事業開始申告書の書き方
前述のように、個人事業開始申告書の書式は、都道府県によって異なりますが、基本的には事業所の情報、事業主の情報、開始年月日などを記入します。ここでは、東京都の事業開始等申告書を例に、申告書の書き方をご紹介していきます。
事業所の住所・電話番号
まず、申告書の上部にある「事業所」の欄に、事業を行う場所の住所と電話番号を記入します。事業所の住所は、市区町村・町名・番地・建物名などを正確に書きましょう。
名称・屋号
次に、「名称・屋号」の欄に、事業を行う際に使用する名称や屋号を記入します。名称や屋号は、事業の内容や特徴を表すものが望ましいですが、ない場合は空欄でもOKです。事業のブランドやイメージとして重要ですので、変更があった場合は速やかに届け出る必要があります。
事業の種類
続いて、「事業の種類」の欄に、事業の内容や業種を記入します。事業の種類は、事業の実態に応じて適切に選択しましょう。たとえば、飲食店を開業する場合は、「飲食店業」、美容院を開業する場合は、「美容業」、ウェブサイト制作を開業する場合は、「情報サービス業」などと記入します。事業の種類に変更があった場合は、届け出る必要があります。
事業主の住所・氏名
次に、「事業主」の欄に、事業を行う本人の住所と氏名を記入します。事業所の住所と同じ場合は「同上」と書きます。
事由等
次に、「事由等」の欄に、申告書を提出する理由を記入します。事業を開始する場合は、「開始」を〇で囲みます。他にも、「変更」や「廃止」などの事由がある場合は、それぞれを〇で囲みます。
開業日
次に、「開業日」の欄に、事業を開始した日を記入します。開業日とは、事業を始めた日のことで、事業の準備や設備の整備などは含みません。開業日は、個人事業税の課税期間や納税期限に影響しますので、正確に記入しましょう。
提出日
次に、「提出日」の欄に、申告書を提出する日を記入します。提出日とは、申告書を郵送した日や持参した日のことです。提出日は、申告書の提出期限に関係しますので、正確に記入しましょう。
事業主名
最後に、「事業主名」の欄に、事業を行う本人の氏名を記入します。事業主名は、申告書の内容に責任を持つことを示すものですので、必ず記入する必要があります。
個人事業開始申告書を出していないとどうなる?
個人事業開始申告書には提出期限がありますが、期限が設けられていると「出さないと罰則や不利益があるのではないか」と不安になるかもしれません。しかし、実際のところ、個人事業開始申告書を出さなくても、特に罰則やペナルティもなければ、大きく損をすることもありません。
ただし、個人事業税の課税対象になった場合には、都道府県から納税通知書が届きます。その際には、過去の所得に対して遡って個人事業税を納める必要がありますので、開業したら、個人事業開始申告書を提出しておきましょう。
個人事業開始申告書の必要性
個人事業開始申告書を提出する必要性はないと感じている人も多いかもしれませんが、個人事業主として事業をスタートする場合には。個人事業開始申告書を提出する必要があります。
しかし、個人事業主として活動を始めたけれども、個人事業開始申告書を提出することを忘れてしまったというケースは少なくないでしょう。その場合でも、確定申告を行うことで、都道府県にも事業主の収入の情報が伝わります。
事業所得が290万円を越えたら個人事業税の課税対象となります。個人事業税が課税される場合には、自動的に事業主に納税通知書が送られ、個人事業開始申告書の有無に関係なく、個人事業税を納める必要がありますので、注意しましょう。
税務処理をしっかりと行うという意味でも、個人事業開始申告書は提出しましょう。未提出のまま何年か過ぎてしまっていても、申告書を受け付けてくれます。個人事業開始申告書を出していないことに気が付いたら、地域の税事務所に連絡し、提出しましょう
個人事業主の税務について詳しく知りたい方は、ぜひ私たち「小谷野税理士法人」にご相談ください。
そもそも個人事業税とは?
個人事業税とは、個人事業主が事業で得た所得に対して課される税金のことです。一般的には「前年の所得が290万円を超えた場合に、都道府県に収める税金」と認識されています。
個人事業税は、所得税とは別に納める必要があります。所得税は国に納める税金ですが、個人事業税は都道府県に納める税金です。個人事業税は、都道府県の条例によって、税率や納税方法が異なります。
個人事業税には、事業所得の一部を都道府県に還元するという意味があり、道路や公園などの公共施設の整備や、教育や福祉などの公共サービスの提供に充てられます。また、個人事業税には、個人事業主の事業活動に対する貢献度を反映する一面もあります。個人事業主は、自分の事業で得た所得に応じて、適正な額の個人事業税を納めることで、社会に貢献することができます。
個人事業税の納付期限
個人事業税の納付期限は、原則8月末日と11月末日で、8月に送付される納税通知書に、第一期分(8月分)と第二期分(11月分)の納付書が入っています。
個人事業税の納付方法は、都道府県によって異なりますが、一般的には、納税通知書に記載された納税額を納付します。納付方法には以下のようなものがあります。
- 納付書を指定された金融機関やコンビニエンスストア、税事務所の窓口へ持参し、現金で支払う
- 口座振替を行う
- クレジットカード納付を行う
- スマートフォン決済を行う
- 地方税共通納税システムeLTAXを使って電子納税を行う
個人事業税の納付を怠ると、延滞税や滞納処分などのペナルティが課される可能性があります。 個人事業税の納付は、個人事業主の義務ですので、納付期限や納付方法を確認して、遅れないようにしましょう。
個人事業税の計算方法
個人事業税は、事業の種類に応じた税率によって課税される地方税です。税率は3〜5%の範囲で、ほとんどの業種は5%です。個人事業税の納付は、8月と11月に2回に分けて行われ、納付した個人事業税は、経費に計上できます。
個人事業税は、自分で計算する必要はありませんが、自分で計算しておおよその額を知っておけば、資金のやりくりやキャッシュの流れを分析するときに役立ちます。個人事業税の計算式は、次の通りです。
個人事業税 =
{ 所得(収入-必要経費) - 各種控除 } × 各業種ごとに定められた税率
個人事業税の計算式は、所得から、個人事業税の計算で利用できる各種控除を差し引いた金額に税率をかけるというものです。「所得」とは収入から必要経費などを差し引いた金額で、「各種控除」とは個人事業税の課税対象となる所得からさらに差し引ける金額です。
区分 | 税率 | 事業の種類 | |||
第1種事業 (37業種) | 5% | 物品販売業 | 運送取扱業 | 料理店業 | 遊覧所業 |
保険業 | 船舶定係場業 | 飲食店業 | 商品取引業 | ||
金銭貸付業 | 倉庫業 | 周旋業 | 不動産売買業 | ||
物品貸付業 | 駐車場業 | 代理業 | 広告業 | ||
不動産貸付業 | 請負業 | 仲立業 | 興信所業 | ||
製造業 | 印刷業 | 問屋業 | 案内業 | ||
電気供給業 | 出版業 | 両替業 | 冠婚葬祭業 | ||
土石採取業 | 写真業 | 公衆浴場業(むし風呂等) | - | ||
電気通信事業 | 席貸業 | 演劇興行業 | - | ||
運送業 | 旅館業 | 遊技場業 | - | ||
第2種事業 (3業種) | 4% | 畜産業 | 水産業 | 薪炭製造業 | - |
第3種事業 (30業種) | 5% | 医業 | 公証人業 | 設計監督者業 | 公衆浴場業(銭湯) |
歯科医業 | 弁理士業 | 不動産鑑定業 | 歯科衛生士業 | ||
薬剤師業 | 税理士業 | デザイン業 | 歯科技工士業 | ||
獣医業 | 公認会計士業 | 諸芸師匠業 | 測量士業 | ||
弁護士業 | 計理士業 | 理容業 | 土地家屋調査士業 | ||
司法書士業 | 社会保険労務士業 | 美容業 | 海事代理士業 | ||
行政書士業 | コンサルタント業 | クリーニング業 | 印刷製版業 | ||
3% | あんま・マッサージ又は指圧・はり・きゅう・柔道整復 その他の医業に類する事業 | 装蹄師業 |
また、個人事業税の計算では、たとえ青色申告事業者でも、最大65万円控除である青色申告特別控除は適用できません。同じように基礎控除などの所得控除も適用できません。
個人事業税の計算で利用できる控除制度には、以下のものがあります。
控除の種類 | 概要 |
事業主控除 | 全ての者が適用できる年間290万円分の控除 |
白色申告事業者の個人事業税の専業専従者給与控除額 | 配偶者86万円、それ以外は1人50万円までの範囲で控除 |
青色申告事業者の個人事業税の専業専従給与控除額 | 青色専従者への妥当な給与支払額の全額 |
損失の繰越控除 | 事業所得の赤字を繰り越して控除とした金額(最大3年間繰越) |
被災事業用資産の損失の繰越控除 | 白色申告事業者で地震や水害などで発生した事業用資産の損失金額(最大3年間繰越) |
譲渡損失の控除と繰越控除 | 事業用に使っていた資産の譲渡によって生じた損失額の控除(青色申告事業者は最大3年間繰越) |
個人事業税の計算方法は、都道府県によって異なりますので、自分の住んでいる都道府県の条例を確認して、正しい納付額を計算しましょう。
個人事業主の経費計上について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
個人事業主が経費計上するメリットとは?経費はどこから出る・落とすのか?知っておきたい基礎知識
個人事業主は経費をどこまで切れる?経費にできるものや上限・メリットなどぶっちゃけ紹介!
個人事業税は控除されることもある
個人事業税は、所得税の計算において、控除されることもあります。所得税は、総所得から必要経費や各種の控除を差し引いた課税所得に対して課される税金ですが、 個人事業税は、必要経費の一種として認められます
たとえば、令和5年(2023年)の事業所得が500万円で、個人事業税が20万円だったとします。この場合、所得税の計算では、事業所得から個人事業税を控除して、480万円となります。
個人事業税の控除は、確定申告の際に行えます。個人事業税を控除することで、課税所得が減り、所得税の負担軽減につながります。個人事業税の納付と控除について、正しく理解して、適正な税金を納めましょう。
個人事業主の節税対策について、詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
個人事業主・フリーランスの節税・税金対策とは?知っておきたい裏ワザやテクニックをご紹介
個人事業を始めるなら個人事業開始申告書を提出しよう
この記事では、「個人事業開始申告書とは?」をテーマに、提出方法や提出しない場合について、さらに、個人事業税について解説してきました。
個人事業開始申告書を提出しないと罰則があるわけではないですが、税務処理をしっかりと行うためにも、提出しましょう。必要書類も特になく、個人事業開始申告書の用紙に必要事項を記入するだけの、比較的簡単な書類ですので、個人事業を始める際には、ぜひ提出しましょう。
また、個人事業開始申告書を提出しないまま、個人事業税の納税対象となった方もいるかもしれません。その場合、後から提出しても受け付けてくれますので、地域の税事務所に連絡し、提出することをおすすめします。
個人事業主にとって、所得の計算や税務処理を自分だけで行うことは、手間と時間がかかり、ミスが発生するケースも少なくありません。個人事業を開始する際は、ぜひ信頼できる税理士を探してみてはいかがでしょうか?
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