事業を営むうえで必要な支出は、経費として計上することで収入から控除することが可能です。しかし、どんな支出でも経費として認められるというわけではなく、決められた支出のみ計上することができます。そこで、今回は個人事業主が経費にできるものには何があるのか、経費にできる上限やメリットなども解説していきます。
目次
個人事業主の経費とは?
個人事業主の経費とは
個人事業主にとっての経費とは、事業を営むことによって生じた費用のことを指します。仕入れや販売に必要な費用や管理費など、業務上必要とされる内容であれば経費として計上することが可能です。
確定申告の際に経費を収入から差し引くことができ、その結果として課税所得が減少することで節税につながります。ただし、経費を不正に計上してしまうとペナルティを受けることになるため、注意が必要です。
個人事業主の経費にできるものの判断基準
個人事業主の経費にできるかの判断基準としては、主に以下の3つが挙げられます。
- 支出額が経費としての常識の範囲内であること
- 業務上必要な支出であること
- 税務署から指摘を受けたとしても、正当性を主張できること
個人事業主は、事業とプライベートの境界が曖昧になりやすいため、経費として計上できるかどうかの判断が難しい場合があります。経費にしたいのであれば、事業との関連性を明確に示すことができるよう注意しましょう。
個人事業主の経費のメリット
個人事業主が経費を計上することによって得られるメリットとしては、節税につながるという点が挙げられます。個人事業主の場合は、その年の収入から経費を差し引いた額が所得となり、そこから所得控除などを差し引いた課税所得に対して税金が課せられます。
事業に関連する経費をしっかり計上することができれば所得が減少するため、税金の負担を抑えられるという仕組みです。支払うべき税金を最小限に抑えられるという点は、大きなメリットだといえるでしょう。
個人事業主の経費のデメリット
上述のとおり、経費を計上することは節税につながります。しかし、節税を意識するあまりに経費が多くなりすぎたり、経費であることを証明できる書類がなかったりする場合には、税務調査が実施される可能性があります。誤った対応をしてしまうことで税務署から目を付けられる可能性があるという点が、経費を計上するうえでのデメリットです。
仮に税務調査が入ったとしても、経費であることをきちんと証明することができれば問題ありません。領収書やレシートなど、経費の証明となる書類は必ず保管しておきましょう。
個人事業主の経費にできるもの一覧
租税公課
租税公課とは、国や都道府県などの自治体に納める「租税」と、国や地方公共団体によって課せられる「公課」を合わせた勘定科目です。不動産取得税や自動車税、印紙税などは租税公課として計上することができます。なお、所得税や住民税、交通違反金などの罰金は租税公課に含まれないため注意しましょう。
荷造運賃
発送費や運送費、商品の梱包にかかった費用などは荷造運賃として計上することが可能です。なお、梱包に必要なダンボールなどの備品も経費に含むことができます。
水道光熱費
電気代・ガス代・水道代などの公共料金も、経費にすることが可能です。ただし、自宅をオフィスとして使用している場合は、全額ではなく使用部分の割合に応じて調整します。
保険料
自動車保険料や損害保険料、地震保険料などは経費として計上することができます。ただし、自宅兼オフィスとして使用している場合には、居住部分については経費にすることができないため、使用部分に応じて案分する作業が必要です。
消耗品費
事業で使用する消耗品の購入価格が10万円未満であれば、消耗品費として経費に算入することが可能です。パソコンやカメラといったハードウェアのほか、ソフトウェアなどの無形固定資産も、購入価格が10万円未満もしくは耐用年数が1年未満であれば消耗品費に含むことができます。なお、購入価格が10万円を超えたとしても、耐用年数が1年未満であれば経費として計上可能です。
修繕費
不動産や設備にかかる修理費用や管理費用は、修繕費に該当するため経費として取り扱われます。ただし、資産の修繕ではなくグレードアップさせるような投資の場合は、減価償却によって計上していくことになるため注意しましょう。
雑費
どの勘定科目にも該当しない経費に関しては、雑費として取り扱われることになります。消耗品費と混同しやすい科目ですが、雑費の特徴は「繰り返し発生するわけではない一時的な費用」として計上される傾向にあるという点です。例えば、引っ越し代やごみ処理代、税理士への依頼費用などが挙げられます。
地代家賃
事務所や店舗、駐車場などの家賃は、地代家賃として経費にすることが可能です。ただし、事業用に使用している範囲内のみが経費に該当します。
外注費
外部の個人事業主や法人との契約によって、業務の一部を委託する際にかかった費用は外注費として計上できます。ホームページや名刺、ロゴなどのデザインを外部に依頼した場合などに該当する勘定科目です。
法定福利費
従業員の健康保険料や雇用保険料、労災保険料や厚生年金保険料などを負担している場合、法定福利費として経費にすることが可能です。個人事業主の場合も、従業員を5人以上雇用している場合には、基本的に社会保険の加入が必要となります。
給料賃金
従業員に対する給与や賞与などは、給料賃金として経費に該当します。ただし、親族に対して支払った給与を経費とするためには、一定の要件を満たす必要があることに注意しましょう。
減価償却費
不動産などの高額な資産を購入した場合、その購入にかかった費用は耐用年数に応じて分割して計上していくことになります。これを減価償却といいますが、減価償却費も経費として計上することが可能です、
旅費交通費
電車代やタクシー代、宿泊代などは旅費交通費という経費に該当します。旅費交通費はプライベートでの利用と混同しやすい科目であるため、事業で利用したことを証明できるように整理しておきましょう。
修繕積立金
個人事業主が購入した不動産に対して修繕積立金を支払っている場合、実際に修繕をしたわけではないため、原則として経費にすることはできません。しかし、修繕積立金は強制的に納付しなければならない性質を持つことから、一定の要件を満たすことで経費として計上することが可能です。
貸倒損失
取引先への売掛金など、債権を回収できなかった場合には貸倒損失として計上します。また、債権回収に高額な費用がかかってしまい、回収費用が債権額を上回ってしまった場合にも貸倒損失として計上することになります。
新聞図書費
事業に必要な情報を取得するために、書籍や雑誌、有料のメールマガジンなどを購入した場合には新聞図書費として経費にすることが可能です。また、新聞や事業とあまり関係のない書籍の場合、事業の参考となった部分のみ経費として計上することができます。
支払手数料
事業を営むうえで発生する振込手数料や代引き手数料、仲介手数料や事務手数料などは、支払手数料として経費に算入することが可能です。
寄附金
原則として、個人事業主は寄付金を経費として計上することができません。しかし、日本赤十字社への寄付金など、一定の要件を満たすことで「寄付金控除」の対象となり、節税につながります。
接待交際費
接待交際費はプライベートと混同しやすいため、税務署が特に厳しくチェックする勘定科目です。しかし、事業に直結している交際費であれば経費として計上することはできます。
専従者給与
専従者給与とは、配偶者などの親族が事業に従事している場合に、その親族に対して支払う給与のことを指します。原則として経費に計上することはできませんが、一定の要件を満たすことで専従者給与として経費扱いとすることが可能です。
未償却の繰延資産
開業費用や社債発行費用など、未償却の繰延資産がある場合にはいつでも経費として計上することが可能です。開業当初に計上していなかった開業費用を、黒字化したタイミングで計上することによって、課税所得を抑えることができます。
通信費
事業で使用している携帯電話料金や固定電話代、プロバイダー料金や切手代などは通信費として計上することができます。事業用とプライベート用で分けて使用している場合は問題ありませんが、兼用している場合には通話料などに応じて按分しなければなりません。
広告宣伝費
テレビや雑誌へのメディア掲載料など、商品やサービスを不特定多数の消費者に対してプロモーションする際にかかる費用は、広告宣伝費に分類されます。広告宣伝費と似た勘定科目に「販売促進費」がありますが、商品やサービスを消費者に対して直接宣伝する際の費用は販売促進費、間接的に宣伝する場合は広告宣伝費に分類されるという違いがあります。
個人事業主の経費の上限はどこまで?いくらまで?
個人事業主の確定申告には「白色申告」と「青色申告」の2種類がありますが、基本的にどちらの申告方法であっても計上できる経費に上限はありません。しかし、両者には経費として計上できる範囲に違いがあります。
| 白色申告 | 青色申告 |
備品(10万円以上) | 一括での経費計上は不可 (耐用年数に応じて減価償却費として計上) | 30万円未満であれば一括で経費計上が可能(30万円以上の場合は減価償却費として計上) |
専従者給与 | 経費にできない(ただし、事業専従者控除は受けられる) | 経費にできる(ただし、青色事業専従者給与に関する届出書を事前に提出する必要がある) |
家事按分 | 事業に関わる部分が50%以上の割合を占めなければ経費計上は不可 | 事業に関連する部分であれば、すべて経費計上が可能 |
知っておきたい個人事業主の経費・節税のテクニック
経費を増やすと所得が減るので各種税金が減る
個人事業主が納付する税金のうち、所得税・住民税・事業税は所得に一定の税率をかけることで算出されます。この所得は、年間の収入から経費と所得控除を差し引くことで算出されるため、経費が増えれば所得が減少するという仕組みです。
そのため、経費が増えれば課税される所得が減り、結果的に各種税金の節税につながります。
家賃・水道光熱費・通信費などを経費にする
自宅をオフィスとして使用している場合であっても、事業用として使用している割合に応じて按分することで、自宅の家賃や光熱費などを経費にすることが可能です。これを「家事按分」といいますが、その比率に明確な規定はありません。しかし、事業で使用している面積や時間に応じて、税務署にきちんと説明できるような割合で算出する必要があります。
車を経費にする
事業で使用している車の購入費用やガソリン代、車検代なども経費として計上することが可能です。プライベートでも使用している場合、一般的には運行記録をもとに家事按分することで経費にすることができます。なお、車の購入費用については、原則として6年間にわたって減価償却費として計上していかなければなりません。
減価償却を活用する
車や大型の設備など、原則として10万円以上の高額な資産を購入した場合には、耐用年数に応じて減価償却していかなければなりません。資産ごとの耐用年数は、国税庁の定める「法定耐用年数表」を用いて計算することになります。
また、減価償却の計算方法には2種類あり、概要は以下のとおりです。
定額法 | 一定の金額を毎月の経費として計上する方法。 |
定率法 | 購入から12か月間、多額の減価償却費を計上できる。ただし、年数を経過するにつれて減価償却費が減っていく方法。 |
減価償却の計算方法は原則として「定額法」となっていますが、定率法を希望する旨の届出を提出しておくことによって、購入後すぐに多額の経費を計上することが可能となります。
慶弔金や祈祷料を経費にする
事業との関係が深い方への香典や結婚祝い金など、慶弔金が経費として認められるケースがあります。一方、祈祷料に関しては経費として認められる可能性が低いといえます。祈祷料は事業に直接関係があるとはいえず、必須の費用とはいえないからです。実際に、祈祷料を経費とは認めないという過去の判例も存在しています。
短期前払費用の特例を駆使する
短期前払費用の特例とは、前払いした費用の全額を支払った年に計上できる制度です。例えば、サーバーの使用料など、年間の費用を契約時に前払いしなければならないサービスがあります。このようなケースでは、原則として費用を毎月分に分割して計上しなければなりません。
しかし、短期前払費用の特例の条件を満たすことで、前払いした年に全額を経費として計上することが可能です。つまり、年度末に短期前払費用の特例を駆使することができれば、前払いした翌年分の経費も計上することができ、前払いした年の節税につながるというメリットがあります。
個人事業主の経費の使いすぎに関する注意点
なんでもかんでも経費にしてしまう
上述のとおり、経費が増えれば所得が減るため、各種税金の負担を抑えることが可能です。しかし、節税を意識するあまりに、なんでもかんでも経費にするのは避けることをおすすめします。売上に対して不自然に経費が多く計上されていると、税務署から不信感を抱かれやすくなってしまうからです。経費として計上する際には、税務署から指摘された場合にきちんと証明できる範囲を超えないようにしましょう。
経費の根拠・基準が分かっていない
「なぜ経費として認められるのか」といった、根拠や基準を理解していない場合も注意が必要です。例えば、自宅をオフィスとして利用している場合の家賃も経費にすることができますが、家事按分によってきちんと説明できる割合を算出しなければなりません。「人から家賃の○割くらいまでは経費にできると聞いたから」などの曖昧な根拠では経費として認められないため、経費の根拠や基準は把握しておくようにしましょう。
経費に目を向けすぎて利益を見ていない
経費精算を行っていると、経費にばかり目を向けすぎたことで、利益が少なすぎるという事態に陥るケースがあります。このような場合、税務署から「これだけの利益では生活が困難だから、申告内容に不正があるかもしれない」と疑われる可能性が高いでしょう。経費を意識することは重要ですが、実際に利益がいくら残っているのかという点も意識しましょう。
個人事業主の経費についてわからないことがある場合は専門家に相談も検討
個人事業主は仕事とプライベートが混同しやすいため、事業にかかった費用と生活費の境界が曖昧になりがちです。個人事業主の経費として認められるものの種類や根拠をしっかり把握し、正しく計上していくことが重要です。また、経費ばかりに目を向けず、利益とのバランスも考える必要があります。個人事業主に認められる経費がよくわからないという場合には、専門家への相談も検討してみてください。
今回「個人事業主 経費 ぶっちゃけ」というキーワードが月間検索回数2,700と多めだったため、あえてこちらの言い回しにしています。