個人事業主やフリーランスにはさまざまな税金が課せられますが、誰しも「できる限り手元に資金を残したい」と考えるでしょう。また、手元に資金を残すためには、節税や税金対策についての知識も備えておく必要があります。今回は個人事業主やフリーランスが抑えるべき節税・税金対策や、知っておきたい裏ワザ・テクニックについて詳しく解説していきます。
目次
個人事業主・フリーランスとは
個人事業主とは
個人事業主とは、株式会社などの法人ではなく、個人で事業を営んでいる方のことを指します。本記事が示す「事業」とは、原則として独立・継続・反復という3つの要素をすべて満たしている仕事のことです。
例えば、不用品をネットオークションで一度販売して利益を得るだけでは、継続性や反復性が認められないため事業とはいえません。また、サラリーマンとして組織に所属している場合、給与を受け取るということに独立性は認められないため、事業とは異なります。
フリーランスとは
個人事業主と似た働き方として「フリーランス」があります。フリーランスとは、会社などの組織に所属することなく、仕事の依頼に応じて自由に契約を行う働き方のことです。一人で法人を設立して事業を営んでいる場合は、個人事業主ではありませんがフリーランスには含まれるという違いがあります。
一説によると、中世ヨーロッパで契約によって仕えた騎士のことを、フリーランス(当時の武器は槍)と呼んだことが語源ともいわれています。フリーランスの代表的な職種としては、ライターやデザイナー、プログラマーやカメラマンとして、個人で仕事を請け負っている方などが挙げられます。
個人事業主・フリーランスの税金
所得税
所得税とは、1月1日から12月31日までの事業期間に得た収入から、必要経費を差し引いた「所得」に対して課税される税金です。税法上、所得は10種類に分類されており、事業所得や不動産所得、譲渡所得などが該当します。
また、個人事業主やフリーランスの所得税は、所得の増加に比例して税率も大きくなる「累進課税」となっています。税率は5%~45%となっており、最大税率が適用されると課税所得の約半分が所得税として徴収される仕組みです。
なお、2013年~2037年までの所得税には「復興特別所得税」を合わせて納付することが義務付けられています。この復興特別所得税は、東日本大震災による被害から復興するための財源として徴収される税金です。
個人事業税
個人事業税とは、法律によって定められた業種の事業を営んでいる個人事業主やフリーランスに対して課税される税金です。個人事業税の課税対象となる業種は都道府県ごとに異なり、地域や業種によって税率も異なるという特徴があります。納税額は所得にもとづいて算出され、確定申告をすれば個人事業税の申告も行ったことになるため、別途申告する必要はありません。
また、個人事業税には年間で一律290万円の事業主控除が設けられているため、その年の事業所得が290万円以下であれば個人事業税の納付は不要です。自分の地域が個人事業税の納税をどう定めているか、自治体の公式サイトなどで確認しておきましょう。
住民税
住民税とは、1月1日時点で住所を置いている都道府県・市区町村に対して納付する税金です。確定申告後に住民税課税決定通知書が送付され、一括または4回に分割して納付します。
また、個人事業主やフリーランスに課される住民税は「市区町村民税」と「都道府県民税」の2種類を合算した税額です。さらに、市区町村民税と都道府県民税は、定額で課税される「均等割」と、所得に応じて課税される「所得割」によって算出された額を合算することによって決定されています。
消費税
消費税とは、商品やサービスの対価として支払った費用に対して課される税金です。個人事業主やフリーランスは、消費者から受け取った消費税から、仕入れの際などに自分が支払った消費税を差し引き、その差額を納税する必要があります。
ただし、前々年度における課税対象売上高が1,000万円以下の個人事業主やフリーランスの場合、その年の消費税納税義務が免除される「事業者免税点税度」が設けられます。よって、消費税の納税義務が発生するのは「課税対象売上高が1,000万円を超えた年から起算して2年後」ということになるのです。
しかし、前々年の課税対象売上高が1,000万円以下だった場合も、前年の特定期間(1月1日~6月30日)の課税売上高が1,000万円を超えた場合は、消費税の課税事業者となるため注意しましょう。
個人事業主・フリーランスの税金の計算方法
個人事業主やフリーランスが納税する税金には、4つの種類があることを述べました。そのうち、消費税については受け取った消費税から支払った消費税を差し引くことで算出するため、特に計算の必要はありません。
一方、所得税・復興特別所得税・個人事業税・住民税の計算方法については以下のとおりです。
- 年間の収入から必要経費を差し引き、「所得」を算出する
- 所得から所得控除を差し引き、「課税総所得」を算出する
- 課税総所得に所得税率を掛け、その額から税額控除を差し引くことで「所得税」を算出する
- 所得税額に1%を掛け、「復興特別所得税」を算出する
- 課税総所得の10%にあたる額から税額控除を差し引き、「住民税の所得割額」を算出する(住民税は所得割額と、所得に関わらず一律の均等割額を合算して納付)
- 課税総所得に、該当する個人事業税率を掛けることで「個人事業税」を算出する
個人事業主・フリーランスの節税の基礎
確定申告で青色申告を行う
個人事業主やフリーランスに必要な税金や計算方法について把握できたら、抑えておくべき節税の基礎についても理解しておく必要があります。
まず、個人事業主やフリーランスは、確定申告を「青色申告」で行うようにしましょう。確定申告には白色申告と青色申告がありますが、後者であれば最大65万円の控除が受けられる「青色申告特別控除」という制度があります。
青色申告を行うためには、確定申告をする年の3月15日までに「青色申告承認申請書」を提出しておかなければなりません。白色申告よりも必要書類は多くなりますが、青色申告を行うことで大幅な節税が可能となっています。
経費をもれなく計上する
個人事業主やフリーランスが節税するうえで重要なのが、経費をもれなく計上することです。上述のとおり、各種税金は年間の収入から経費を差し引いた所得にもとづいて算出されます。つまり、計上できる経費が多ければ所得を圧縮することができ、その結果として税金の負担も抑えられるという仕組みです。
経費をもれなく計上するためには、どれが経費にあたるのかを把握しておかなければなりません。個人事業主やフリーランスが経費として計上できるものは「事業を営むために必要な費用」です。例えば、仕入れ費用や交通費、事業で使用する消耗品などが挙げられます。
経費に含まれないものを計上することは当然認められませんが、経費として計上できるものを見落とさないように注意しましょう。
所得控除などの受けられる控除を把握する
前項で述べた経費以外にも、控除によって所得を減らすことが可能です。控除は「所得控除」と「税額控除」に大別されますが、具体的には以下のような制度があります。自分が該当する控除はあるか、事前に確認しておきましょう。
所得控除 | 概要 |
基礎控除 | 確定申告をする方は全員対象。38万円が控除される。 |
扶養控除 | 合計所得が48万円以下の扶養家族がいる方が対象。控除される金額は、38万円〜58万円の間で条件によって異なる。 |
配偶者控除 | 合計所得が48万円以下の配偶者がいる方が対象。控除される金額は13万円〜48万円の間で条件によって異なる。 |
医療費控除 | 生計をともにする親族や自分の医療費が年間で10万円を超えた場合に対象となる。控除額は指定の計算方法で算出する。 |
生命保険控除 | 生命保険や介護医療保険などを支払っている方が対象。控除額は指定の計算方法で算出する。 |
税額控除 | 概要 |
源泉徴収税額控除 | 売上から源泉徴収額が引かれている場合に対象となる。既に支払った合計額が控除される。 |
住宅ローン控除 | 住宅ローンを利用して住宅を購入・増築・新築した方が対象。控除額は、借入残高をもとに指定の計算方法で算出する。 |
配当控除 | 利益配当や基金利息など、配当所得がある方が対象。控除額は指定の計算方法で算出する。 |
個人事業主・フリーランスの節税対策と裏ワザ・テクニック
家賃・生命保険料などを年払いで支払う
家賃や生命保険料などを年払いにすることで、その年の経費としてまとめて損金算入することが可能です。月払いにすると、家賃や生命保険料が発生する月にならなければ損金算入できないため、その年の経費として計上できない場合があります。また、生命保険料は年払いだと負担が軽減される場合もあります。まとめて支払うことも検討しましょう。
少額減価償却資産の特例を利用する
青色申告を行っている個人事業主・フリーランスのうち、資本金が1億円以下で従業員が500人以下の場合、取得価格30万円未満の減価償却資産をまとめて計上できる「少額減価償却資産の特例」の利用が可能です。
例えば、事業年度末に減価償却資産を取得した場合、通常であれば1か月分しか減価償却費を計上することはできません。しかし、少額減価償却資産の特例を利用することによって、事業年度末だったとしても、その年の経費として全額を計上することができます。
短期前払費用の特例を利用する
短期前払費用の特例とは、1年間継続して利用するサービスなどの費用をまとめて前払いした場合に、前払いした全額をその年の経費として計上することができる制度です。通常、10万円以上の備品や年間契約のサーバー費用などは、費用を支払った月に全額を経費計上することはできません。しかし、短期前払費用の特例を利用することで全額を計上することができるため、その年の所得を圧縮することが可能です。
法人化を検討する
個人事業主やフリーランスの節税対策として、法人化を検討することも重要です。所得税は累進課税制度を採用しているため、所得が増加すれば最大で45%まで税率が上がっていきます。一方、法人税の税率は最大で23.2%となっているため、利益が多ければ法人化することで節税につながるケースがあるのです。また、法人化することで、自分が受け取る給与に対して給与所得控除を利用することもできます。
ふるさと納税を行う
ふるさと納税を行うことによって、寄付金のうち自己負担額の2,000円を超える部分が、所得税と住民税から控除されます。控除されるのは上限額の範囲内となっていますが、寄付先の自治体から返礼品を受け取れることからも注目を集めています。なお、ふるさと納税には確定申告の手続きを省略できる「ワンストップ特例」が設けられていますが、確定申告が必要な個人事業主やフリーランスは利用できません。
iDecoを活用する
iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、個人事業主やフリーランスでも加入できる年金制度です。掛け金は加入者が拠出し、金融商品も自ら選択することで運用していきます。iDeCoの掛け金は全額が所得控除の対象となるため、当年分の所得税と住民税を節税することが可能です。
小規模企業共済制度・経営セーフティ共済などに加入を検討する
小規模企業共済制度とは、個人事業主やフリーランスなどの積み立てによる退職金制度です。この小規模企業共済制度への掛け金も、全額が所得控除の対象となります。また、取引先などの倒産に備える経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)への掛け金も所得控除を受けられるため、加入を検討しましょう。
個人事業主・フリーランスの節税・税金対策の知っておきたいポイント
税金の支払いはクレジットカードで行う方がお得
税金の種類によっては、クレジットカードで支払うことが可能です。税金をクレジットカードで支払うことができればポイントを貯められるため、現金で支払うよりも支払い負担が軽くなることがあります。固定資産税や自動車税などの地方税もクレジットカードで納付可能な自治体もあるため、事前に確認しておきましょう。
節税対策で売上をいじるのは危険なので避ける
節税のために、売上を過少に計上するといった行為は危険なのでやめましょう。取引先などの情報から売上の計上漏れが発覚し、税務調査が実施されるケースがあるのです。税務調査によって違法な脱税行為と認められた場合には「重加算税」が課せられ、本来支払うべき税額の30~40%もの追徴課税を要求されることになります。
実効税率25%くらいが有効というのは本当?
実効税率とは、所得に対してどれくらいの税金を納めているのかという割合のことを指します。この実効税率は25%程度が望ましいといわれることがありますが、本当なのでしょうか。たしかに、実効税率が高い個人事業主やフリーランスは、税務調査の対象になりにくいといえるかもしれません。
しかし、健全な節税対策を行うことで実効税率が低くなることは、何ら問題ありません。税金について正しい知識を身につけ、適切な方法で節税を行っていきましょう。
節税で所得を減らしすぎると審査に通りづらくなるので注意
節税するためには、経費や控除を利用することで課税所得を圧縮する必要があります。しかし、節税を意識するあまりに所得を減らしすぎると、クレジットカードや各種ローンなどの審査を通過しづらくなるため注意が必要です。たとえ節税が目的であったとしても、審査担当者は所得を重要な判断基準にしています。近いうちに住宅や自動車などの購入を検討している方は、特に注意しましょう。
節税と浪費を間違えると本末転倒になるので気をつける
経費を増やすことで節税につながりますが、無駄な浪費をしてしまっては本末転倒です。事業に関する出費をすれば経費は増えますが、当然のことながら手元に残る資金も少なくなってしまいます。適切な節税効果を得ることができ、ただの浪費になっていないか慎重に検討しましょう。
個人事業主・フリーランスの節税・税金対策を有効に行いたい場合は専門家に相談を検討
今回は、個人事業主やフリーランスの節税・税金対策について、抑えておきたい基礎知識や裏ワザ・テクニックなどをご紹介してきました。うまく節税したいのであれば、もれなく経費を計上することや、受けられる控除を事前に把握しておくことが重要です。節税や税金対策についてもっと詳しく知りたいという方は、専門家への相談も検討しましょう。