個人事業主が納めなければならない税金には、さまざまな種類があります。これから個人事業主として独立したいと考えている方のなかには、個人事業主の税金はいくらかかるのか知りたいという方も多いのではないでしょうか。そこで、今回は個人事業主が納める税金の種類や計算方法、税理士を雇う必要性などについて詳しく解説していきます。
目次
個人事業主とは
個人事業主とは、法人を設立することなく個人として事業を行っている方のことを指します。納税地を管轄する税務署に「開業届」を提出することによって、個人事業主として活動することが可能です。近年よく耳にする「フリーランス」も個人事業主の一種であり、多様化する現代の働き方において注目を集めています。
個人事業主の税金の種類
所得税
所得税とは、所得に対して課せられる税金のことを指します。所得額に応じて、5~45%まで税率が変動する仕組みです。なお、所得税は「収入-経費-所得控除」によって算出される「課税所得」に対して課税されます。
事業税
事業税は、事業を営んでいることに対して課せられる税金のことを指します。都道府県ごとに事業税が課せられる業種が決まっており、税率も地域や業種によって異なることが特徴です。
住民税
住民税とは、自宅の住所や事業所を置いている都道府県・市町村に対して納める税金です。確定申告後に市町村から住民税の請求書が届き、都道府県への税金とあわせて市町村に納付します。なお、サラリーマンも住民税を納付していますが、個人事業主とは税額の計算方法が異なります。
消費税
消費税とは、商品やサービスを購入する場合に課される税金のことです。日常生活で支払うことの多い消費税ですが、個人事業主の場合は消費者から消費税を預かる立場となり、後日まとめて税務署に納付するという仕組みになっています。
国民健康保険料など
個人事業主の場合、国民健康保険や国民年金へ加入しなければなりません。そのため、国民健康保険料などを納める必要があります。
個人事業主にかかる所得税の計算方法
年間収入の金額を計算する
個人事業主にかかる所得税を計算するためには、まず年間の収入を算出する必要があります。なお、売上が確定しているが代金を受領していないという取引も含まれるため注意しましょう。
年間収入の金額から所得控除や経費を差し引く
年間の収入額を算出したら、所得控除や必要経費を差し引きます。この「所得控除」とは、一定の項目に該当する支出が行なわれている場合に、規定の金額を所得から控除できる制度です。例えば、生命保険料控除や配偶者控除、医療費控除などがあります。
また、事業に関連する費用は経費として計上できるため、日頃から領収書やレシートを整理して会計帳簿をつけておきましょう。
課税所得金額を算出して税額を出す
上述のとおり、年間の収入額から所得控除や必要経費を差し引いた額が、課税所得となります。所得税は課税所得に応じて税率が変動するため、該当する税率をかけて所得税の額を算出しましょう。
所得税の納付を行う
所得税の額が確定したら、その金額を納付しましょう。主な納付方法には以下のようなものがあります。
- 預金口座からの振替
- クレジットカードでの納付
- 納付額が30万円以下の場合、コンビニで納付
- e-TAXを利用して納付
個人事業主にかかる所得税のシミュレーション
確定申告の後に所得税の納税額が決まる
個人事業主にかかる所得税は、その年の所得額に応じて変動します。そのため、確定申告の際に所得額を算出する必要があり、所得税の納税額は確定申告時に決定することになるのです。
所得の全てが課税対象になるわけではない
所得税は、その年の所得に対して課税されることを述べてきましたが、全ての所得が課税対象になるわけではありません。具体的には、以下の10種類が所得税の課税対象となっています。
- 事業所得
- 給与所得
- 退職所得
- 不動産所得
- 配当所得
- 利子所得
- 譲渡所得
- 山林所得
- 一時所得
- 雑所得
事業によって得た所得以外にも、不動産や株式などの投資によって得られた所得も確定申告の必要があるため注意しましょう。
所得税率の速算表
課税所得に応じた所得税の税率および控除額は以下のとおりです。
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円〜194万9,000円 | 5% | 0円 |
195万円〜329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
330万円〜694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
695万円〜899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万円〜1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円〜3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
なお、平成25年から令和19年までの確定申告では、所得税に加えて「復興特別所得税」も併せて納付することになっています。
個人事業主の課税所得500万円の所得税シミュレーション
実際に、上記の「所得税率の速算表」を用いて所得税のシミュレーションを行ってみましょう。年間の収入から必要経費を差し引いた所得が500万円だった場合、計算方法は以下のとおりです。
所得税:500万円(収入)×20%(税率)-42万7,500円(控除額)=57万2,500円(所得税額) |
このように、課税所得が算出できれば必要な所得税をすぐに計算することが可能です。
個人事業主と事業者免税点制度
事業者免税点制度とは
個人事業主に設けられている事業者免税点制度とは、前々年の課税対象売上が1,000万円以下の場合、その年の消費税が免除される制度のことです。この事業者免税点制度によって、個人事業主は課税対象売上が1,000万円を超えた2年後から、消費税の納税義務が生じることになります。
ただし、前々年の課税対象売上が1,000万円以下であったとしても、前年の特定期間(1月1日~6月30日)における課税対象売上が1,000万円を超えた場合、消費税の課税事業者となるため注意が必要です。
個人事業主はインボイス制度後に課税業者になるべき?
2023年10月1日から、インボイス制度が導入されます。このインボイス制度とは、消費税の「仕入税額控除」と事業者間における「請求書の発行方法」に関する制度です。
インボイス制度が導入されることによって、消費税を仕入税額控除の対象とするためには、原則として「適格請求書の保存」が必要となります。そして、この適格請求書を発行できるのは「適格請求書発行事業者」として登録している課税事業者のみであり、消費税の免税事業者は適格請求書を発行することができません。
仕入れ側からすると、免税事業者との取引によって生じた消費税は仕入税額控除の対象外となってしまうため、免税事業者との取引を避ける可能性があります。このような事態を避けたいのであれば、免税事業者は消費税の課税事業者となることを検討する必要があるでしょう。
個人事業主と租税公課
租税公課とは
租税公課とは、国や都道府県などの自治体に納める「租税」と、国や地方公共団体によって課せられる「公課」に分類される勘定科目です。租税公課は経費として計上することができるため、きちんと計上することで節税につながります。
租税公課として認められる税金
租税公課として認められる代表的な費用は、以下のとおりです。
分類 | 費用の種類 | 概要 |
租税 | 個人事業税 | 法律で定められた業種に該当する事業を行っている場合に課せられる税金 |
租税 | 自動車関連税 | 事業で使用している自動車にかかる税金 |
租税 | 印紙税 | 契約書や領収書などの課税文書に課せられる税金 |
租税 | 固定資産税 | 不動産などの固定資産に課せられる税金 |
公課 | 印鑑証明書や住民票の発行にかかる手数料 | |
公課 | 商工会・協同組合などの会費や組合費 | |
公課 | その他の公共サービスを利用する際の手数料 |
このほかに、不動産取得税や地価税なども租税公課として計上することができます。
租税公課として認められない税金
租税公課として認められない税金には、以下などがあります。これらに該当する場合には、租税公課として計上することができないため注意しましょう。
- 住民税
- 所得税
- 復興特別所得税
- 罰金
- 相続税
- 国民健康保険料
個人事業主におすすめの節税方法
青色申告で確定申告を行う
確定申告の方法には2種類あり、白色申告と青色申告があります。節税効果を得たいのであれば、青色申告がおすすめです。青色申告には、事業所得または不動産所得から最大65万円を控除できる「青色申告特別控除」という制度があります。また、事業に従事している家族への給与を経費にできる「事業専従者控除」や、事業によって生じた赤字を翌年以降3年間にわたって繰り越すことなどが可能です。
減価償却資産の償却方法の届出をする
不動産や設備への投資を行った場合、その年に購入費用を全額計上するのではなく、耐用年数に応じて分割して計上していくことを「減価償却」といいます。この減価償却の計算方法には定額法と定率法がありますが、できる限り税額を抑えたいのであれば「定率法」がおすすめです。定率法は毎年一定割合の額を経費として計上することができるため、減価償却資産を購入した年に計上できる経費の額を大きくすることができます。
この定率法を希望する場合には、事前に「所得税の減価償却資産の償却方法の届出書」を提出しておく必要があるため注意しましょう。
自宅兼オフィスは按分した上で経費計上する
自宅をオフィスとしても使用している場合、事業に使用している部分の家賃や光熱費を経費として計上することが可能です。ただし、自宅のどの部分をオフィスとして利用しているのか、その割合と根拠を提示できるようにしておきましょう。
小規模共済に加入しておく
小規模共済とは、個人事業主などに向けた積立方式の退職金制度のことを指します。小規模共済への掛け金は。その全額が所得控除の対象となるのです。節税効果が高いうえに、廃業時には共済金を受け取ることができるためメリットは大きいといえるでしょう。
経営セーフティ共済に加入しておく
経営セーフティ共済とは、取引先の倒産などによって連鎖的に倒産が発生することを防ぐための制度です。こちらも小規模共済と同様、掛け金の全額を必要経費として計上することができます。
個人事業主に税理士はいらない?
会計ソフトなどを使って自身で申告を行う個人事業主もいる
近年は会計ソフトが充実してきたことによって、自身で確定申告を行う個人事業主も増えています。銀行口座やクレジットカードを会計ソフトと連携しておけば、自動的に帳簿が作成されることが特徴です。また、会計ソフトの指示通りに入力していくことで、確定申告の必要書類を作成することも可能となっています。
税理士に依頼すると費用がかかることを嫌う個人事業主もいる
税理士に依頼するためには、当然のことながら費用が発生してしまいます。まだ事業が軌道に乗っていない場合、税理士費用を負担に感じる方も多いでしょう。そのため、まだ売上規模が小さく、自身で申告手続きを行うことが可能な場合には、税理士に依頼するメリットを感じにくいかもしれません。
税理士とのやりとりが負担に感じる個人事業主もいる
事業の内容や経営状況を税理士に理解してもらうためには、綿密なコミュニケーションが不可欠です。こういった税理士とのコミュニケーションコストを、負担に感じる個人事業主もいます。
個人事業主が税理士に税務を依頼するメリット
税理士に依頼すれば税務の負担を軽減することができる
税務のプロである税理士に依頼すれば、これまで自身で行ってきた申告手続きなどを任せられるため、税務の負担を軽減することが可能です。また、税務に関する相談ができるため、複雑な問題が発生した際の不安も解消できるという点は大きなメリットだといえるでしょう。
税理士に依頼すれば節税のアドバイスを受けることができる
税理士に依頼する最大のメリットとして、いつでも節税に関するアドバイスを受けられるという点が挙げられます。例えば、これまで経費だと思っていなかった費用が、実は経費として計上可能であるといったアドバイスも受けられるでしょう。節税によって納税額を抑えることができれば、資金繰りの改善にもつながります。
税理士がいれば万が一の税務調査の際も対応を依頼できる
個人事業主であっても、確定申告の内容に不審な点などがある場合には税務調査の対象となる可能性があります。税理士に依頼していれば、税務調査の事前準備から税務調査官への対応、修正申告が必要になった場合の手続きまで代理で行ってもらうことが可能です。税務調査が不安という方も、税理士がいれば安心して任せることができるでしょう。
このように、個人事業主であっても税務の専門家である税理士にサポートを依頼することには、大きなメリットがあるといえます。
税金の知識に不安がある個人事業主は専門家に相談を検討を
今回は、個人事業主が納める税金の種類や計算方法、税理士に依頼する必要性などについてご紹介してきました。必要経費が多ければ課税所得が減少するため、所得税や住民税の負担を減らすことができますが、無駄な出費をしてしまっては資金繰りの悪化につながりかねません。節税方法などの税金に関する知識に不安がある方は、専門家への相談を検討してみてはいかがでしょうか。