代表 小谷野幹雄のブログ

2025年09月25日ダイナミック・プライシング ~MLBから学ぶ(2)~

小谷野です。

現在、日本国民の多くが、「本日の大谷さん」チェックを行っているようです。

第一生命の、2024年サラ川入選の一句「チェックする 今日の株価と オオタニサン」を思い出してしまいます。

 

 

ところで、前回(1)でお伝えしたように、米国メジャーリーグの運営は、日本のような親会社の広告宣伝費(コスト)などではなく、巨額の利益が見込めるビジネスとして成立しています。2012年、ドジャースはファンドに1660億円で買収されましたが、現在価値は1兆円を超えています。

 

今回は、MLBの「ダイナミック・プライシング(需要指向の値決め)」について取り上げます。稲盛さんの言葉を引用するまでもなく値決めは経営です。

 

 

<MLBのDynamic Pricing>

MLBのチケット料金は、ダイナミック・プライシング(変動価格制)とよばれ、対戦相手の注目度、曜日、観戦者の関心度合いにより価格が常に変動します。

外野席でも同じ席が1万円から4万円程度まで変化します。庶民には手が届きませんが、1席数十万円の富裕層向けのシートも必ず販売があります。旅行や出張で、ピンポイントでこの日に試合を見たい人達もいます。経済学でいう価格の需要弾力性が低い(高くても売れる)相手には高く販売します。

このダイナミック・プライシングは、日本の球団でも導入するところが増えてきましたが、まだまだ発展途上段階といわれます。需要予測に基づく値決めは難しく、相当のデータの積み上げと、需要予測のための大型のシステム投資が必要です。

 

 

ところで、ダイナミック・プライシングを行っている日本の企業もありました。

あるホテルでの話です。2ヶ月先まで満室となったホテルの支配人が、オーナーから褒められるどころか、叱られていました。利益の最大化が図られていないからです。2ヶ月も前に満室ということは、販売価格が安すぎたという評価です。高い価格設定を直前まで維持し、直前で値下げして空室を埋めることによって、利益が最大化できるからです。

 

 

<米国ビジネススクールでのケース・スタディ>

35年前、私がかつて米国ビジネススクールで価格理論(Pricing Theory)を学んだときに、こんなケース・スタディがありました。

高齢者夫婦が、6ヶ月後の旅行のためにNYからシカゴに飛ぶために支払う航空券の価値と、ビジネスマンが仕事でどうしても明日NYからシカゴに飛ばなければならない人の航空券の価値は全く異なり、10倍の価格差をつけても販売ができるというものでした。このような利益を最大化するために、航空会社はシステム投資に何百億円も費やす、具体的にはアメリカン・エアーが利益最大化の為に、IBMに巨額のシステム費用を支払い、セ-バーという電子航空予約システムを開発したケースでした。

ちなみにこの頃の日本では、航空券はいつ買っても同じ値段でした。

 

 

<日本の値決めの歴史>

戦後の焼け野原から、僅か23年で日本は、世界第2位の経済大国に駆け上がりました。主役の産業は製造業でした。そこでの製品の値決めは、原価に利益をどのくらい乗せるかという「コスト指向型」が中心でした。このような歴史背景のためなのか、いくらなら買ってくれるかギリギリ高い値段を見つける「需要指向型」の値決めは、日本企業はまだ苦手なのかもしれません(私見)。

 

 

個人的に歌舞伎座でいつも不思議・不満に感じるのは、1等席の範囲が広く、役者の顔が間近に見える、1階1列~5列であっても、遙かに遠い16列目であっても、また2階席の1から7列目も1等席で、同じ値段設定であることです。利益最大化の理論からすれば、1階の前の方は、後方よりも相当高い価額で販売できます。需要予測の精度が高まれば、演目の人気度、曜日、役者の人気度によって値段を変えることもできると思います。見たい人気役者のチケットも定価販売のため、いつも発売初日で売り切れです。

 

 

~定価はないのがノーマル、小谷野でした~

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