所得や納税額を正しく申告しているかを調査する税務調査には、いくつかの種類があります。税務調査は国税庁や税務署が行っており、支出や収入に大きな増減がある場合は税務調査の対象となる場合があります。本記事では、税務調査の種類やそれぞれの特徴、基本的な税務調査の流れなどについて解説していきます。
目次
税務調査とは
税務調査は国税庁や税務署が行う調査で、収入や納税額を正しく申告しているか否かを確認するために行う調査のことを指します。税務調査を行うことで漏れなく税金を納めていることを保証し、国の税収を正しく保つことができるのです。
税務調査で申告漏れを指摘されると、正しく申告、納税しなおすだけではなく場合によってはペナルティが課されるため注意しましょう。
関連記事:税務調査とは?いつ・どこまで調べられるのか?大まかな流れや査察調査(国税調査)との違いなども解説
税務調査は細かく分類すると11種類になる
税務調査は大きく分けると任意調査と強制調査の2種類に分類されますが、強制力の有無や調査時期など様々な視点で分類すると、およそ11種類にもなります。
【税務調査の種類】
- 任意調査
- 予告調査
- 無予告調査
- 強制調査
- 簡易調査
- 一般調査
- 特別調査
- 金融機関調査
- 内部調査
- 臨場調査
- 反面調査
以下より、税務調査の11種それぞれについて詳しく解説していきます。
1.任意調査
税務調査を強制力の有無という視点での分類では、まず任意調査と強制調査の2つに分けられます。
任意調査は、その字面の通り任意で行う税務調査です。税務調査における任意とは調査を強行するか任意で行うかということではなく、納税者の意見を無視して強制的に帳簿類を調べられないということであるため、税務調査自体を拒否することはできません。
任意調査は税務署や国税局の税務調査官が行っており、課税処分を目的としています。すでに解説した通り、任意調査では納税者の同意なしに帳簿類を調べることはできません。しかし、税務調査官には質問検査権があるため、税務調査官からの質問や資料提供の依頼には応じる必要があります。
原則として、任意調査は事前に税務調査を行う旨の通知があります。任意調査によって申告漏れなどが確認された場合は、ペナルティとして延滞税などが課されます。
なお、任意調査はさらに「予告調査」と「無予告調査」に分けられます。以下よりそれぞれの調査内容について詳しく解説をします。
2.予告調査
任意調査は原則として事前に税務調査を行う旨の通知がなされます。このように、事前に予告して行う任意調査を予告調査と呼びます。
予告調査では、調査を行う日時や調査の目的、調査対象となる税目などについて通達があるため、調査当日までに必要となる帳簿などを準備しておきましょう。
3.無予告調査
任意調査のうち、予告なしに行われる税務調査が無予告調査です。予告調査では隠蔽や逃亡する可能性があると判断された場合、予告なしに税務調査が行われます。
予告調査にするか無予告調査にするかは、申告内容や提出した書類などによって総合的に判断されます。また、現金を取り扱う業種か否かも無予告調査の対象となる1つの要素だと言われています。
4.強制調査
強制調査は非常に強い強制力がある税務調査で、国税犯則取締法に基づいて行われます。この強制調査は、裁判所の令状を基に捜査や差し押さえを行うことが認められているため、調査自体を拒否することができません。
強制調査は、悪質な脱税を暴いて刑事事件として立件することを目的として行われるため、正しい額を納税するだけではなく、刑罰も科されることになっています。
5.簡易調査
税務調査を調査期間という視点で分類すると、簡易調査、一般調査、特別調査の3つに分けられます。
簡易調査はこの3種の中で最も調査期間が短く、基本的には半日程度で終了します。簡易調査は主に下記の3つの方法のうち、いずれかで行われます。
- 来署調査
- 着眼調査
- 電話または文書での確認
来署調査は、納税者が税務署に赴いて調査内容について説明を行います。着眼調査とは特定の税目について行われる調査で、場合によっては文書のみで完結するケースもある調査方法です。電話または文書での確認では、調査対象の項目について電話や文書による確認が行われます。
いずれの調査も、一般調査、特別調査と比べて調査期間が短くなっています。
6.一般調査
一般調査は税務署の中でも法人課税部門、個人課税部門、資産課税部門が行う調査です。原則として2~3日で調査が終了します。簡易調査に比べて調査期間が長い点が特徴と言えるでしょう。
7.特別調査
特別調査は他の2種類と比べて、最も調査期間が長く設定されています。税務署や国税庁に加え、特別国税調査官も調査に参加することになっており、場合によっては1ヵ月程度かけて調査が行われます。
8.金融機関調査
税務調査と聞くと納税者の自宅やオフィスで行われると思われがちですが、実際は金融機関や取引先など様々な場所で行われます。その中でも、銀行や保険会社、証券会社などの金融機関で行われる税務調査を金融機関調査と呼びます。
金融機関調査では納税者の資産調査などが行われます。
9.内部調査
内部調査は、税務署内で納税者が提出した書類について調べる調査のことです。この他にも、調査官が実際に経営しているお店に客として赴きお店の実態を確認する内観調査やお店の外から客入りを確認する外観調査などもあります。
10.臨場調査
税務調査官と納税者が対面して行う調査を臨場調査と呼びます。臨場調査では、税務調査官がオフィスや店舗などの実地に赴き調査を行います。基本的に納税者が立ち会って調査を行うことになっており、顧問税理士などがいる場合は立ち会いを依頼することも可能です。
11.反面調査
反面調査では納税者と関連する取引先企業や銀行などに対して調査を行います。取引先企業や銀行で調査を行うことで、金銭の流れが把握できるのです。場合によっては、在職の従業員や退職した従業員も調査の対象となります。
基本的な税務調査の流れ
税務調査には様々な種類があることを解説しましたが、基本的には任意調査として行われるケースがほとんどです。任意調査は、原則として以下のような流れで進めます。
- 税務調査実施の旨の通知
- 税務調査を行う日程の調整
- 必要書類の準備
- 税務調査の実施
- 調査結果の通知
基本的に任意調査においては、事前に通知がある「予告調査」が多いです。通知が来るのは、調査委実施日の1〜3週間前で調査の日時や場所、目的などについて説明されます。その後、調査を担当する税務調査官や顧問税理士などと日程のすり合わせを行い、必要書類を揃えます。
必要書類の準備過程で申告漏れや記載ミスを発見した場合は、税務調査実施日までに修正申告を行いましょう。調査実施日までに修正申告を行えば延滞税の支払いだけで済み、調査後に修正申告をする場合よりもペナルティが軽くなります。
税務調査の当日は、事業に関する質問を投げかけられるため回答できるようにしておきましょう。通常は調査自体は1日〜数日程度で終了します。調査終了後1週間〜3週間ほどで結果が通知されます。調査の結果、問題がないと判断された場合は是認通知書が届きます。この場合、是認通知書を受け取った時点で税務調査は終了です。
参考:税務手続について~ 近年の国税通則法等の改正も踏まえて ~|国税庁・国税局・税務署
関連記事:修正申告とは?税務調査で修正申告が発生するのはどんな時なのか詳しく解説
税務調査の際に必要な書類
税務調査が実施される場合は、基本的に下記の書類を準備しなくてはなりません。
- 帳簿
- 帳簿作成の根拠となる書類
- 決算に関わる書類
- 人件費に関わる書類
帳簿とは、具体的に仕訳帳や総勘定元帳、経費帳などのことを指します。これらの帳簿を作成する際に使用した領収書や請求書も併せて準備しておきます。
また、損益計算書や棚卸表など決算に関する書類も必要です。これらに加えて、源泉徴収簿や扶養控除等申告書など人件費に関わる書類や見積書、株主総会議事録なども準備します。
税務調査ではどのような点をチェックされる?
税務調査では主に売上や仕入の金額、損金の振り分け、事業年度と収入または支出のズレの有無、帳簿と領収書の整合性などが確認されます。以下では、具体的にどのような点をチェックされるのか解説していきます。
売上および仕入金額
預金通帳と帳簿、決算書の売上や仕入れの金額に相違がないかは、税務調査において必ず確認されるポイントです。また、申告における不正でよく見られる手法が仕入金額の改ざんであることから、仕入金額も必ずチェックされます。また、金額に相違がなくても前年度と比較して大幅に売上や仕入金額の増減が認められる場合は、その理由について尋ねられる可能性があります。
損金の振り分け
法人が所有している資産を減少させる損失や費用、経費を税法上では損金と呼びます。税法上の損金と会計上の経費や費用は必ずしも一致するわけではなく、会計上は損金として扱えても税法上では損金として扱えないものが存在します。
そのため、税務調査では正しく損金の算入と不算入を振り分けられているのか確認されるケースが多くなっています。損金として算入できない代表的な支出としては、限度額を超えた寄付金や交際費、減価償却費などが挙げられます。
事業年度と金銭の流れのズレの有無
事業年度と金銭の流れのズレを期ズレと呼びます。該当する事業年度のものではない売上や費用を計上していると、本来の納税額と実際の納税額とに差が生じます。そのため、税務調査時に期ズレがないかチェックされる可能性があります。
事業年度前後の取引については、計上するタイミングにミスが生じやすいため、金銭の流れに矛盾が生じないように注意しましょう。
帳簿と領収書の整合性
税務調査の際には必ず帳簿類を確認されますが、場合によってはそれらの根拠となる領収書まで確認されます。
例えば、帳簿から同じ飲食店での支出が頻繁に経費計上されている場合は、私的利用ではないかと嫌疑をかけられる可能性があります。領収書を示したうえで利用の目的や一緒に利用した相手との関係などを説明しなくてはなりません。
また、社員旅行や忘年会などの費用についても確認がされるでしょう。帳簿の金額と領収書の金額の相違だけでなく、出張で不参加の社員はいなかったかなど人数の確認まで行われる可能性があります。そのため、出張費や忘年会などの費用を計上している場合はその時系列なども正確に説明できるようにしておきましょう。
11種類の税務調査の特徴について把握しておこう
税務調査は任意調査や強制調査という大別も含め、調査場所や調査期間など様々な観点で分類すると11種類にまで分類されます。
それぞれの種類の特徴や性質、どのような場所や方法で調査を行うのか把握しておけば、実際に税務調査が実施されることになった場合でも慌てずに対応できるでしょう。
税務調査時には税務調査官から帳簿や金銭の流れについて質問されることも多く、帳簿作成にミスがあると、相応のペナルティが課せられます。質問に正確に答えたりミスなく帳簿作成を行うには、税の専門家である税理士の存在が心強いでしょう。顧問税理士がいる場合は、税務調査時には相談して立ち合いを依頼することをおすすめします。