税務調査の連絡が入ると「必ず申告内容について指摘されて、追徴課税を受けるのではないか」と不安に思う方も多いのではないでしょうか。税務調査は法人や個人、事業規模などを問わず実施される可能性があり、実施されたからといって必ずしも申告内容に不備があるとは限りません。しかし、税務調査に対して適切な対応ができるよう、日頃から準備しておくことが重要です。そこで、この記事では税務調査に関する基礎知識や、査察調査との違いについて詳しく解説していきます。
目次
税務調査とは
任意調査
税務調査とは、納税者からの税務申告が適正に行われているか確認するために実施される調査のことを指します。法人だけでなく個人に対しても実施され、税務署や国税局の職員によって行われます。日本では、法人税や所得税の税額を自ら申告する「申告納税制度」がとられているため、申告内容に誤りや不正がないか確認することが税務調査の目的です。
税務調査には大きく分けて2種類ありますが、税務調査の大半が「任意調査」に該当します。任意調査は税務署の職員によって実施されるものであり、2日ほどかけて税務申告が適正に行われているかを調査します。法人や個人事業主、相続税の申告を行った個人などが対象であり、事前に任意調査を行う旨の連絡が入るため、突然調査に入られるわけではありません。ただし、帳簿書類の改ざんなどの不正行為や適正な調査が困難な可能性がある場合、事前通知が行われない「無予告調査」が実施されるケースもあります。
なお、任意調査という名称ではあるものの、納税者には受忍義務が定められており、調査を拒否することはできません。また、税務署の職員には「質問検査権」が認められているため、正当な理由なく帳簿書類の提示などを拒否すると、1年以下の懲役または20万円以内の罰金が適用されてしまいます。
強制調査
強制調査とは、国税局査察部によって強制的に実施される税務調査であり、通称「マルサ」が担当しています。裁判所の令状を得て強制的に行われるため、納税者は調査を拒否することができません。国税局査察部は納税に関する資料を押収できる権限が付与されており、ひとつの案件に対して100~200人もの調査官が一斉に立ち入り調査を行います。
また、強制調査の対象となるのは脱税額が1億円を超え、なおかつ悪質な隠蔽工作がなされているような事案に限られる点が特徴です。つまり、立件を目的とした犯罪捜査の一種であり、脱税行為が確認された場合には検察庁に告発、その後刑事事件として処理されることになります。
強制調査は巨額の脱税が疑われる場合など、よほど悪質な行為をしない限り受けることはありませんが、税務調査に関する知識のひとつとして覚えておきましょう。
税務調査はいつ来る?どこまで調べられる?
税務調査が実施される時期
税務調査が実施される時期に明確な決まりはありません。しかし、1~3月は法人の年末調整や個人の確定申告が行われる時期であるため、税務署が多忙となることから実施の確率が低くなります。よって、税務調査が実施されるのは4月以降となる場合がほとんどです。
なお、特に税務調査が実施される確率が高い傾向にあるのは、9~11月となっています。税務署の人事異動は7月に行われるのですが、7~8月にかけて調査チームの再編や調査先の選定が行われるからです。少なくとも、年が明ければ当該年度中に税務調査が入る確率は低いといえるでしょう。
税務調査の調査範囲
任意調査の場合、一般的には過去3年分の帳簿書類やその他物件に関する調査が行われます。「帳簿調査」が基本となるため、請求書や領収書などの帳簿書類が保管されている場所が主な調査場所となります。また、税務署の職員には質問検査権が付与されているため、申告内容の確認のために帳簿の提示を求められた場合、正当な理由なく拒否することはできません。
なお、国税通則法では過去5年分の税務調査が可能と定められており、不正が疑われる場合には過去7年分まで税務調査を実施することが認められています。また、帳簿書類は基本的に7年間保管しておかなければならないことも覚えておきましょう。
税務調査では、調査官が必要と判断した場合に納税者の了解を得ることで、事務所内の金庫や机の中も調査することが可能です。また、パソコン内のデータを確認したり、従業員に対して聞き取り調査が行われたりするケースもあります。なお、個人所有のパソコンやスマートフォンを業務で使用している場合、調査上必要と判断された場合には中身を提示しなければならない可能性もあるため注意が必要です。
税務調査(任意調査)の流れ
税務署からの事前通知
税務調査の実施が決定すると、税務署からの事前通知が入ります。事前通知では「実施日」「調査場所」「調査対象税目」「調査対象期間」などの内容が伝えられますが、無予告で税務調査が行われるケースもあるため注意が必要です。なお、税務申告を税理士に委任していた場合は、その税理士に対して事前通知がなされます。
調査実施日の調整
事前通知が入った後、税務署と調査実施日を調整していきます。税務調査の実施日は、法人や個人事業主にとって都合の良い日程に合わせてもらうことが可能です。また、税理士に税務調査の立会いを依頼する場合は、税理士との日程調整も忘れないようにしましょう。
必要書類の準備
税務調査が実施されるまでに、帳簿書類などの必要書類を準備していきます。顧問税理士がいるのであれば税務調査前に打合せを行い、書類内容に不備や漏れがないかをしっかりと確認しておきましょう。また、税務調査当日に聞かれそうな質問や項目なども検討し、対応のシミュレーションを行っておくことも重要です。
税務調査当日
税務調査当日には、税務署から調査官が派遣されます。帳簿書類や銀行口座の入出金履歴などの確認を求められ、納税者の同意を得ながら調査が進められていきます。ただし、任意調査とはいえ、正当な理由なく調査を拒否することはできません。税務調査を故意に妨害しているとみなされた場合、罰則が適用されることもあるため注意しましょう。また、問題なく税務調査が実施された場合、2日程度で調査が完了します。
税務署の指摘への回答
税務調査は、調査官による実地調査が完了すれば終了というわけではありません。実地調査での内容を踏まえ、税務署からの指摘や質問に対応していく必要があります。顧問税理士がいる場合は対応を一任できますが、いない場合は納税者自身が質問への回答や追加資料の準備などをしなければなりません。なお、税務署への対応が完了し、調査結果が決定するまでには1か月以上かかることが一般的です。
調査結果
税務調査の結果には、以下の3パターンがあります。
- 申告是認
税務調査を実施した結果、申告内容に不備がなかった場合は「申告是認」という評価がされます。納税者には「申告是認通知書」が送付され、申告内容の修正などをする必要はありません。 - 修正申告
納税者の申告内容に不備が見つかった場合、税務署から「修正申告」を勧められます。修正申告は納税者自らが誤りを認めて行う手続きですが、義務ではありません。よって、調査結果に不満がある場合には、後述する更生処分を選択することも可能です。なお、修正申告を行った場合は自らの非を認めたことになるため、調査結果への異議申し立てが不可能となることに注意が必要です。修正申告に応じる場合は、専門家からのアドバイスを参考にしながら慎重に検討していきましょう。 - 更正
税務署からの修正申告に応じない場合、各税法の規定を根拠とした「更正」という処分がなされる場合があります。更正後の税額や更正の理由などが記載された「更正通知書」が送付されるので、修正申告の内容と相違ないか確認が必要となります。税法に沿って理解・検討していかなければならないため、専門家への相談も検討してみてください。
税務調査で必要となる書類
帳簿
任意調査の場合、主に帳簿書類の確認が行われます。一般的には、過去3~5年間分の資料があれば問題ありません。税務調査当日に提示を求められた場合、スムーズに対応できるよう準備しておきましょう。なお、具体的には以下の書類などの準備が必要となります。
- 仕訳帳
- 現金出納帳
- 総勘定元帳
- 買掛帳
- 売掛帳
- 経費帳
- 固定資産台帳
帳簿作成の元資料
帳簿書類を確認する際は、それらを作成した根拠にあたる資料の提示も併せて求められます。以下のような書類も、帳簿書類と一緒に準備しておきましょう。
- 請求書
- 領収書
- 預金通帳
- 借用書
- 小切手控え
決算関係書類
税務調査当日には、決算関係の書類もすぐに提示できるよう準備しておきましょう。
- 損益計算書
- 貸借対照表
- 棚卸表
人件費の書類
人件費関連で必要となる書類には、以下などが挙げられます。
- 給与明細
- 源泉徴収簿
- 扶養控除等申告書
- 労働者名簿
- 勤怠管理表
- 年末調整書類
その他
上述した書類以外にも、必要に応じて以下の書類などの提示を求められる場合があります。もし提示を求められた場合はすぐに対応できるよう、事前に準備しておきましょう。
- 契約書
- 見積書
- 株主総会議事録
税務調査と査察調査(国税調査)の違いとは
税務調査は税務署・査察調査は国税局なので管轄が異なる
税務調査と査察調査では、そもそも管轄が異なります。税務調査は、各税務署の職員によって実施されるのに対し、査察調査では国税局査察部(マルサ)の調査官が派遣されます。
税務調査と査察調査は基づく法律も違う
税務調査と査察調査では、実施の根拠となる法律も異なります。
| 根拠法 | 目的 |
税務調査 | 国税通則法 | 申告内容が適正であるかを確認し、不備が見つかった場合には指摘・指導を行うことを目的として実施される。 |
査察調査 | 国税犯則取締法 | 巨額の脱税が疑われる場合など、立件を目的として実施されます。裁判所の令状をもって実施される調査であり、一種の犯罪捜査にあたります。 |
査察調査(国税調査)の流れ
税務調査とは違い、ある日突然、査察官がやってくる
国税局査察部によって行われる査察調査は、脱税などの犯罪の証拠を押さえることを目的としています。任意調査のように事前通知を行うと逃亡されるおそれがあるため、事前通知なしで突然100~200人の調査官が派遣されます。また、査察調査が実施される場所は会社や店舗などに限らず、代表者の自宅や共謀の疑いがある取引先等にも一斉に調査が入ることが特徴です。
強制的な調査であるため、日程調整などもなく逃れられない
査察調査は「犯則調査」とも呼ばれ、犯罪の証拠を押収したり脱税の容疑がかけられている事業者の逃亡を阻止したりすることが目的です。よって、査察調査の実施が決定すると日程調整などは認めてもらえず、観念するほかありません。
関連書類や情報を押収され、数ヶ月〜1年程度の調査期間に入る
ニュースや映画などで数百人もの調査官が一斉に乗り込み、書類が入った段ボールや金庫などを押収していくシーンを見たことがある方も多いのではないでしょうか。このようなシーンは査察調査で見られる光景であり、書類やパソコンなどの調査に必要と判断された物品は、納税者の同意なく強制的に押収されます。また、調査の結果が出るまでには短くても数か月、長ければ1年以上の期間を要することもあります。
調査完了後には脱税などで刑事告発される可能性がある
査察調査は一種の犯罪捜査であり、実施された時点でかなりの裏取りがされています。よって、調査結果により脱税などの犯罪が成立すると判断される割合が高く、その後は刑事告発されるという流れになります。
国税局が公表しているデータによると、査察調査後に告発となった割合は約60~70%となっており、立件される可能性は非常に高いといえるでしょう。検察庁に刑事告発された事業者は、検察官による捜査・取り調べも受けることになります。
税務調査で準備不足になったり、突然の査察調査の対象になったりしないように専門家へ相談して事前に対策を
税務調査への適切な対応や、査察調査の対象とならないようにするためには、日頃から対策を立てておくことが重要です。特に、査察調査の対象となってしまった場合は刑事告発される可能性が高く、重い処罰を受ける危険があります。このような不測の事態に陥らないよう、専門家と連携して事前に対策していきましょう。