M&Aによって発生する税金にはどのようなものがあり、いくらになるのかご存じでしょうか。本記事では、M&Aで発生する税金の種類や税率、税金の申告時期について解説しています。M&Aを検討している方やM&Aによって発生する税金について知りたい方はぜひ本記事を参考にしてください。
目次
M&Aで発生する所得と税金の種類
企業の合併や買収のことを総称してM&Aと呼びます。M&Aをする際には所得やそれに伴った税金が発生しますが、その内容は個人と法人で異なります。
以下では、M&Aで発生する所得と税金について解説していきます。
個人に発生する所得と税金
個人の所得は以下の10種類です。
- 配当所得
- 利子所得
- 事業所得
- 不動産所得
- 給与所得
- 退職所得
- 譲渡所得
- 一時所得
- 雑所得
- 山林所得
10種類の所得の中で、個人の株式譲渡によるM&Aでは、譲渡所得に該当します。これらの所得のうち、配当所得、事業所得、不動産所得、給与所得、ゴルフ会員権の売却などによる譲渡所得、一時所得、雑所得は総合課税と呼ばれる方式で税額が決まります。
総合課税とは、毎年1月1日から12月31日までの1年間のそれぞれの所得を合算し、所得控除後の課税所得に税率を乗じて税額を算出する方式です。
対して利子所得、退職所得、土地や建物、株式の売却による譲渡所得、山林所得は分離課税と呼ばれる方式で税額が決まります。分離課税とはそれぞれが単独で計算する方式です。
個人の所得は10種類に分類され、税額の算出方法は総合課税と分離課税の2つの方法で決定するという点を押さえておきましょう。
法人に発生する所得と税金
M&Aによって法人に発生する所得には、利子所得や不動産所得などの分類はありません。法人の所得には、地方法人税を含む法人税、地方法人特別税を含む法人事業税の所得割、法人住民税の法人税割が課されます。これらの税をまとめて法人税等と呼び、課税所得に法人税率を乗じて算出されます。
株式譲渡により発生する税金の税率
株式譲渡は、保有する株式を譲り渡すことによって会社の所有者を変える方法のことです。株式譲渡では、株主が個人の場合と法人の場合で課税される税金が異なります。以下で詳しく確認していきましょう。
個人株主の税金
株主が個人の場合、株式を譲り渡したことによって所得が発生すれば、その所得が課税対象となります。株式を譲り渡すことで発生する所得を譲渡所得と呼び、売却価格-(取得費+譲渡費用)で計算されます。
例えば株式の売却価格が2億円、取得費が1,000万円、譲渡費用が700万円の場合は、2億-(1,000万+700万)で1億8,300万円が譲渡所得です。譲渡所得の税率は、所得税15%に復興特別所得税を足した15.315%と住民税5%の計20.315%です。
譲渡所得が1億8,300万円の場合の税額は、37,176,400円となります。
法人株主の税金
株主が法人の場合、株式を譲り渡すことで利益が生じるとその利益は会社の利益として取り扱います。譲渡益の計算は個人と同様に売却価格-(取得費+譲渡費用)で算出しますが、法人の税金は他の利益と合計して計算します。
法人が株主の場合は、本業で得た利益が赤字でも株式譲渡益と相殺できます。そのため、譲渡益が2億円で本業で2億円の赤字となった場合は、所得金額が0円となり税金がかからないでしょう。
参考:No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)
組織再編により発生する税金の税率
会社分割や合併など組織の再編によりM&Aを行った場合、税制適格要件を満たしていれば税金はかかりません。
税制適格要件を満たすM&Aの種類には以下の6つが挙げられます。
- 適格新設合併
- 適格吸収合併
- 適格株式転移
- 適格株式交換
- 適格新設分割
- 適格吸収分割
上記に当てはまらないM&Aは移転する資産や負債は時価評価され、移転資産の譲渡損益が課税対象となります。
税制適格の主な要件は次の通りです。
- 対価が株式のみ(対価要件)
- 合併後に株式が継続保有される(株式継続保有要件)
- 合併する側とされる側双方の事業が互いに関連している(事業関連要件)
- 合併する側とされる側双方の事業規模がおおよそ5倍を超えない(事業規模または経営参画要件)
- 合併後も合併前の事業が継続される(移転事業継続要件)
- 合併により従業員のおおよそ80%が引き継がれる(従業者引継要件)
税制適格の要件は上記の6つですが、どの要件を満たせば良いのかは合併する企業同士の関係によって異なります。合併する企業同士の関係は持株比率50%超の支配関係、持株比率100%の完全支配関係、共同事業を行う関係という3つに分類されます。
以下では、それぞれの関係ごとにどの要件を満たせばよいのかについて解説していきます。
持株比率50%超の支配関係の場合
合併する企業同士が持株比率50%を超える支配関係の場合は、適格要件の対価要件、移転事業継続要件、従業員継続要件の3つを満たすことで税金が発生しません。
持株比率100%の完全支配関係の場合
合併する企業同士が持株比率100%の完全支配関係の場合は、対価要件を満たすことで税金が発生しません。
多くの上場企業は、M&Aの際に一度持株比率を100%にして完全支配関係にしたのち、適格合併をする手法を取ります。完全支配関係によって合併することで、経済的な実体をほぼ維持した状態で組織再編がしやすくなります。
共同事業を行う場合
合併する企業同士で共同事業を行う場合は、すべての適格要件を満たさなくてはなりません。1つでも当てはまらない要件があると税金が発生するため、共同事業を行う場合は要件を満たせるか注意しながら進めましょう。
第三者割当増資により発生する税金の税率
第三者割当増資とは、売却側が買収側に対して新たに株式を発行し、買収側が多くの株式を保有することで経営権を譲る方法です。第三者割当増資では譲渡所得や利益が発生せず、単純に新たな出資と株式の発行があったという扱いになるため基本的には税金はかかりません。
事業譲渡により発生する税金の税率
事業譲渡は企業が行ってきた事業自体を譲り渡す方法です。事業譲渡により発生する税金は、事業売却損益と本業の利益を足した金額に対して課税されます。
事業売却損益は事業譲渡金額-(譲渡資産-譲渡負債)で算出します。
例えば、事業譲渡金額が1億円、譲渡資産が5000万円、譲渡負債が1000万円の場合は、1億-(5000万-1000万)で6,000万円が事業売却損益です。
事業譲渡では譲渡対象資産に課税対象のものが含まれていた場合、上記のほかに消費税が課税される可能性があります。事業譲渡により発生する消費税の金額は、課税対象資産の税抜金額に10%を乗じて算出します。
また、譲渡する対象に不動産が含まれる場合は買収側に対して登録免許税や不動産取得税がかかります。譲渡対象に土地が含まれる場合は土地の所有権移転登記が必要です。土地の所有権移転登記を行う際には、登録免許税が課されるため注意しましょう。
登録免許税は土地の課税標準額×15/1000(軽減税率が適用される場合)、不動産取得税は取得された不動産の課税標準額×3/100(軽減税率が適用される場合)で算出します。
関連記事:事業承継における融資制度とは?知っておきたい事業承継ローンについても解説
M&Aで発生する税金の申告時期
M&Aによって発生する税金の種類や税率について解説してきましたが、実際にM&Aを行う場合は税金の申告時期についても把握しておく必要があります。
以下では、M&Aで発生する税金の申告時期について解説していきます。
法人に課される税金の申告時期
M&Aによって法人に課される税金には法人税や消費税がありますが、基本的に企業が支払わなければならない税金は会計年度が終了した翌日から2ヶヵ月以内と定められています。そのため、12月末で会計年度が終了する場合は2月までに納税しなければなりません。
ただし、会計処理の都合上2か月以内に申告できない場合は、申告期限の延長の特例の手続きを行うことで期限が延長できます。申告期限は延長できますが、納付期限は延長されないため注意しましょう。
個人に課される税金の申告時期
個人に課せられる税金の金額は確定申告によって計算されます。確定申告は毎年2月16日から3月15日までの間で行われるため、この期間内に申告・納付しましょう。
関連記事:M&Aに活用できる補助金!事業承継・引継ぎ補助金について徹底解説
M&Aによって発生する税金について理解を深めよう
M&Aの手法には株式譲渡、組織再編、第三者割当増資、事業譲渡の4種類があり、選択する手法によって税率も異なります。また、株式譲渡の場合は個人株主なのか法人株主なのかによっても税率が異なるため、それぞれの違いについて把握しておきましょう。
M&Aによる税務は複雑な仕組みになっているため、どのようにM&Aを進めれば良いのか悩んだ際には専門家に相談すると安心です。