少子高齢化による影響で国内のニーズが縮小する中、事業承継問題に頭を抱える企業が増加しています。業績が好調であるにも関わらず、後継者不在によって廃業せざるを得ないという企業が後を絶ちません。そこで、大きな注目を集めているのがM&Aです。M&Aによって事業を承継することで、これまで培ってきたノウハウが失われることなく、事業を存続・発展させることができます。この記事では、M&Aに活用できる「事業承継・引継ぎ補助金」について、詳しく解説していきます。
目次
M&Aに活用できる!事業承継・引継ぎ補助金とは
事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継・事業再編・事業統合などを契機とし、新たな取り組みを行う中小企業等を支援するための制度です。事業承継に伴う経営資源の引継ぎに要する費用を補助することによって、中小企業等の組織再編を促進し、経済社会の活性化を図ることを目的として実施されています。
主流であった親族内承継が減少している昨今において、M&Aによる事業承継等にかかる経費も補助対象に含まれており、事業の存続・発展に向けた取り組みを積極的に推進しています。なお、事業承継・引継ぎ補助金は中小企業の取り組みに幅広く対応するため、次の類型が用意されています。
事業区分 | 類型 | 対象となるケース |
経営革新事業 | 創業支援型(Ⅰ型) | 新設法人等が廃業予定者から経営資源を承継する場合 |
経営者交代型(Ⅱ型) | 親族・従業員である後継者が事業を承継する場合 | |
M&A型(Ⅲ型) | 法人・個人が 事業の統合・再編を行う場合 | |
専門家活用事業 | 買い手支援型(Ⅰ型) | 事業統合・再編によって 経営資源を譲り受ける場合 |
売り手支援型(Ⅱ型) | 事業統合・再編によって 経営資源を譲り渡す場合 | |
廃業・再チャレンジ事業 | ※他類型と併用申請可能 | M&Aがうまくいかなかった事業者が、既存事業を廃業したうえで新たなチャレンジをする場合等 |
このように、想定されるケースごとに異なる類型が用意されています。詳細については後述しますが、それぞれの類型で対象事業者や補助内容が異なるため、公募要領はしっかりと確認しておきましょう。
事業承継・引継ぎ補助金の対象事業者
事業承継・引継ぎ補助金では、日本国内に拠点または居住地を置いており、かつ日本国内にて事業を営む企業・農業法人・士業法人・個人事業主が対象事業者となっています。個人事業主には医師や個人農家も含まれますが、青色申告者であることが要件です。また、医療法人・学校法人・社会福祉法人などは対象外となっているため注意しましょう。
また、対象事業者として「中小企業者等」や「小規模企業者」というキーワードが公募要領に記載されていますが、具体的には次の要件を満たす事業者のことを指します。
中小企業者等 該当要件 |
| |
業種 | 資本金 | 常勤の従業員数 |
サービス業(旅館業) | 5,000万円以下 | 200人以下 |
サービス業(ソフトウェア・情報処理サービス業) | 3億円以下 | 300人以下 |
サービス業(上記以外) | 5,000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 50人以下 | |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
ゴム製品製造業(一部を除く) | 3億円以下 | 900人以下 |
上記以外の全業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
小規模企業者 該当要件 |
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業種 | 常勤の従業員数 |
サービス業(宿泊業・娯楽業) | 20人以下 |
サービス業(上記以外) | 5人以下 |
小売業 | |
卸売業 | |
上記以外の全業種 | 20人以下 |
中小企業者等に該当する場合、原則として後述する「専門家活用事業」および「廃業・再チャレンジ事業」の対象となります。なお、これらの要件を満たしていたとしても補助対象外となるケースがあるため、内容をしっかり把握しておきましょう。
また、小規模企業者に該当する場合は「経営革新事業」の対象です。なお、当然のことながら小規模企業者は中小企業者等の要件も同時に満たしています。
事業承継・引継ぎ補助金の主な要件
事業承継・引継ぎ補助金は誰でも利用できるわけではなく、類型ごとに定められた要件をクリアした場合のみ申請することができます。ここでは、各類型で求められる主な要件をご紹介していきます。
経営革新事業
まず、M&Aや事業承継を行う際に「有機的一体としての経営資産」を承継する必要があります。店舗や事務所、設備のみを承継する場合は対象外となるため注意が必要です。また、M&Aや事業承継を契機として、新規事業の展開や新商品の開発などに取り組む必要があります。M&Aや事業承継を行ったとしても、これまでどおりの事業を続けるだけでは補助対象となりません。
その他にも、経営革新事業の3つの類型ではそれぞれ細かな要件の違いがあります。詳細は公募要領を確認し、どの類型に該当するか検討していきましょう。
専門家活用事業
専門家活用事業では、地域への貢献度が重要視されています。地域の雇用や地域経済全体をけん引する事業を行っており、事業承継後も継続されるかといった点が主な要件となります。専門家活用事業はふたつの類型に分類されているため、該当する類型の要件を確認しておきましょう。
廃業・再チャレンジ事業
廃業・再チャレンジ事業は、他の類型とともに申請する「併用申請」と、単独で申請する「再チャレンジ申請」に別れており、それぞれ要件が異なっています。
再チャレンジ申請では、補助事業期間内に廃業手続きが完了していなければなりません。また、併用申請では対象のM&Aや事業承継、もしくは廃業が補助事業期間内に完了している必要があります。加えて、過去に売り手としてM&Aを試み、6か月以上取り組んでいることなどが挙げられます。
事業承継・引継ぎ補助金の補助金額
事業承継・引継ぎ補助金では、類型ごとに補助内容が異なっています。
| 類型 | 補助額 | 補助率 | 上乗せ額(廃業費) |
経営革新事業 | 創業支援型 (Ⅰ型) | 100万円~500万円 | 1/2 | +150万円 |
経営者交代型 (Ⅱ型) | ||||
M&A型 (Ⅲ型) | ||||
専門家活用事業 | 買い手支援型 (Ⅰ型) | 100万円~400万円 | ||
売り手支援型 (Ⅱ型) | ||||
廃業・ 再チャレンジ事業 | 併用申請 | 50万円~150万円 | ||
再チャレンジ申請 |
なお、補助事業期間内に経営資源の引継ぎが完了しなかった場合など、補助上限額が減少したり、廃業費用が対象外となったりするケースがあります。採択された場合にきちんと補助を受けられるよう、要件を確認しておくことが重要です。
事業承継・引継ぎ補助金の対象事業
事業承継・引継ぎ補助金の対象事業は、各類型によって要件が定められています。ここでは、それぞれの類型ごとに対象事業とその要件を解説していきます。
経営革新事業
経営革新事業では、M&Aや経営者の交代を契機として、承継した経営資源を活用しながら行う経営革新等の取り組みが補助対象事業とされています。具体例としては、以下の内容を伴う事業などが挙げられます。
- 新商品や新サービスの開発・生産
- 既存商品の新たな生産・販売方式の導入
- 既存サービスの新たな提供方式の導入
- 新規事業による新分野への進出
- その他、新たな事業に伴う販路拡大・市場開拓・生産性向上等の取り組み
なお、これらの要件を満たしていることを「認定経営革新等支援機関による確認書」によって示す必要があります。
また、公序良俗に反する事業である場合や、同一の補助対象経費について他の補助金・助成金の交付を受けている場合は、対象外となるため注意が必要です。
専門家活用事業
専門家活用事業では、事業の買い手側と売り手側によって対象事業が異なります。
- 買い手支援型(Ⅰ型)
買い手支援型の対象事業としては、M&Aや事業承継によって経営資源を譲り受けた後、シナジーを活かした経営革新等の取り組みが見込まれるものと定められています。加えて、地域経済全体をけん引する事業を行うことも見込まれる事業でなければなりません。
- 売り手支援型(Ⅱ型)
売り手支援型の対象事業となるには、事業の譲渡者が地域経済全体をけん引する取り組みを行っており、これらの状況が第三者によっても継続されることが見込まれることが必要とされています。
なお、公序良俗に反する場合など、経営革新事業と同様の要件に該当する場合には補助対象外となります。
廃業・チャレンジ事業
廃業・チャレンジ事業の対象事業は、他類型と同時に申請する「併用申請」と、単独で申請する「チャレンジ申請」によって分類されています。
- 併用申請
併用申請の対象事業となるのは、法人自体の廃業に伴う解散登記・在庫処分・不動産の解体や原状回復を行う事業です。さらに、事業の一部を廃業するために必要となるこれらの事業も対象となります。
- チャレンジ申請
チャレンジ申請の対象事業は、法人自体の廃業に伴う解散登記・在庫処分・不動産の解体や原状回復を行う事業となっております。チャレンジ申請の場合は、事業の一部撤退だけでは対象外となる点に注意しましょう。
なお、廃業・チャレンジ事業においても他の類型と同様の対象外要件が設けられています。
事業承継・引継ぎ補助金の申請方法
事業承継・引継ぎ補助金では、経済産業省が運営する補助金申請システムである「jGrants」を利用し、電子申請を行います。このシステムを利用するためには、事前に「gBizIDプライム」アカウントを取得する必要がありますが、発行までに1~3週間程度の期間を要するため、初めに手続きを行いましょう。
また、「経営革新事業」と「廃業・チャレンジ事業」においては、認定経営革新等支援機関による事業計画の確認を受ける必要があります。事業計画の策定には時間を要するため、こちらも早めに進めておきましょう。
これらの手続きと並行して、交付申請に必要となる書類の作成・取り寄せを行っていきます。必要書類が揃い次第、オンライン申請フォームから電子申請を行い、申請手続きは完了です。
事業承継・引継ぎ補助金の申請後の流れ
事業承継・引継ぎ補助金(令和4年度当初予算)の申請後は、以下の流れで手続きを進めていきます。
申請後スケジュール | 日程 |
交付決定 | 令和4年9月中旬~下旬 |
補助事業期間 | 交付決定後~令和4年12月16日 |
証票提出・確定検査・補助金交付請求 | 令和4年12月17日以降~令和5年1月頃 |
補助金交付 | 令和5年2月上旬頃 |
後年報告義務 | 補助金交付から5年間 |
交付決定を受けると、約3か月程度の補助事業期間にうつります。この期間中に、対象経費の契約や支払いを済ませなければ、交付を拒否される可能性が高くなるため要注意です。支払い等を完了後、証明書類の提出とともに交付請求を行います。
なお、事業承継・引継ぎ補助金には後年報告義務があります。補助対象事業に関する「事業化状況」および「収益状況」を事務局へ報告しなければなりません。補助金の受給後も、これらの義務はしっかりと履行していきましょう。
事業承継・引継ぎ補助金の公募期間
事業承継・引継ぎ補助金(令和4年度当初予算)の公募期間は、以下のとおりとなっています。
事業スケジュール | 日程 |
公募要領公開 | 令和4年7月7日 |
交付申請受付期間 | 令和4年7月25日~同年8月15日 |
申請受付期間は3週間となっているため、gBizIDプライムアカウントの取得や、必要書類の作成を早めに進めておく必要があります。また、申請する類型によっては認定経営革新等支援機関との連携も必要となることから、事前に相談しておくことが重要です。
令和4年度当初予算と令和3年度補正予算の違いとは
令和4年7月7日に、事業承継・引継ぎ補助金(令和4年度当初予算)の公募要領が公開されました。よって、2022年は「令和4年度当初予算」と「令和3年度補正予算」の、ふたつの補助金が公募されています。では、両者には一体どのような違いがあるのでしょうか。
対象項目 | 令和4年度当初予算 | 令和3年度補正予算 |
申請受付期間 | 令和4年7月25日~同年8月15日 | 令和4年7月27日~同年9月2日 |
交付決定 | 令和4年9月中旬~下旬 | 令和4年10月中旬以降 |
補助事業期間 | 交付決定後~令和4年12月16日 | 交付決定後~令和5年4月30日 |
公募回数 | 1回 | 4回 |
補助上限額 | 400万円 | 600万円 |
補助率 | 1/2 | 2/3 |
加点事由 | × | ○ |
事前着手 | × | 第1回目のみ可 |
まず、公募回数に大きな違いがあります。令和3年度補正予算は第2回目の公募が開始しており、さらに後2回の実施が予定されています。また、補助上限額と補助率にも違いがあり、令和4年度当初予算では補助範囲が縮小されました。
なお、事前着手とは、交付決定前に対象経費の契約等に着手することが認められるかという点を指しますが、令和3年度補正予算の第1回目のみ例外的に認められました。令和3年度補正予算の第2回目以降および令和4年度当初予算では、交付決定後に着手する必要がある点に注意しましょう。
M&Aに活用できる補助金の詳細を知りたい方は専門家へ相談を
長期化しているコロナ禍の影響や、年々深刻化していく事業承継問題への対策として、M&Aは検討すべき選択肢となっています。M&Aや事業承継は多額のコストが必要となるため、要件に該当する場合は返還不要である補助金を積極的に活用していきましょう。M&Aや補助金の手続きは複雑になっているため、詳細を知りたい方は専門家への相談も検討してみてください。