働き方改革やテレワークの普及により、会社員でも副業をする方が増えています。しかし、副業の収入が20万円を超えると確定申告が必要となり、確定申告をしないと税務署から厳しいペナルティを受ける可能性があります。確定申告をしない人は多いといわれていますが、どのくらいの割合なのでしょうか。この記事では、確定申告をしない理由や無申告が発覚する原因、対策方法などを詳しく解説します。副業で収入を得ている方は、確定申告の重要性を知るためにも、ぜひ最後までお読みください。
目次
確定申告していない人の割合は多い?
確定申告とは、所得税納税のための手続きです。確定申告をすると、還付や控除などのメリットがありますが、確定申告をしないと、ペナルティやトラブルに巻き込まれる可能性があります。
確定申告をしていない人の割合については、はっきりとした統計はありません。しかし、近年は副業や内職などの副収入が増えていることや、コロナ禍で自営業者やフリーランスなどの非正規雇用者が増えています。その影響で、確定申告が必要だったり、確定申告をする方が得だったりするのに、確定申告をしていない人が増えているといわれています。
確定申告の時効とは?
確定申告の時効とは、税務署が納税者に対して税金の追徴や調査を行うことができなくなる期間のことで、一般的には「申告期限の翌日から5年」とされています。確定申告をしないと、時効が成立するまでに税務署から追徴課税や調査などの処分を受ける可能性があります。
ただし、故意に申告をしなかった場合や申告漏れが大きい場合などは、時効が7年に延長されたり、時効が適用されなかったりすることもありますので、注意が必要です。
確定申告してない人が多い理由とは?
確定申告は、所得税納税のための手続きですが、それだけではありません。確定申告をすることで、還付や控除などのメリットを受けることができます。しかし、以下のような理由で確定申告をしていない人が多いようです。
確定申告の知識がない
確定申告の知識がないまま副業や内職を始めてしまった人は、確定申告が必要なのか、どのようにすればいいのか、分からないまま放置してしまうことがあります。また、確定申告をすることで得られるメリットについても知らないことも多いでしょう。
確定申告の知識がないと、税務署から追徴課税や調査などの処分を受けることや、税金の無駄払いをするなどの問題につながります。また、将来の税金の節約ができなかったり、役所に行く手間がかかったりするため、副業や内職を始める人は確定申告についての知識をつけておく必要があるでしょう。
確定申告の知識を身につけるには、税務署のホームページやパンフレットなどを参照したり、確定申告のセミナーや相談会などに参加したりする方法があります。また、確定申告アプリやソフトなどを利用したり、税理士や税務サービスなどに依頼したりすることも有効です。
年所得が20万円以下
原則として、年間の所得が20万円以下であれば、確定申告をしなくてもよいとされていますが、源泉徴収されている場合は還付を受けられません。しかし、確定申告をすることで、源泉徴収された税金や年末調整で還付されなかった税金を受け取れます。
また、確定申告をしない場合は赤字繰り越しができないことになります。赤字繰り越しとは、事業や副業で赤字になった場合に、その赤字分を翌年以降の所得から差し引くことで、税金を減らすことができる制度です。そのため、年間の所得が20万円以下であっても確定申告をした方が節税となるケースもあるのです。
さらに、年間所得20万円以下の収入が副業などの副収入の場合は、住民税算出のための申請を役所に行ってしなくてはなりません。しかし、確定申告をしていれば、役所に行く必要もありませんし、基礎控除や医療費控除などの控除を受けられるメリットがあります。
確定申告するための書類がない
確定申告をするためには、収入や支出に関する書類が必要です。しかし、領収書を取っていなかったり、必要な書類が揃わなかったりすることがあります。また、開業届を出していない場合は、手元に確定申告書一式やお知らせが届かず、確定申告をするのが難しくなります。
確定申告するための書類がないと、申告書の記入ができません。また「収入や支出の金額が正確に分からない」「確定申告書に添付する書類が足りない」などの問題が起こる可能性があります。そのためにも、以下のような方法で、確定申告するための書類を揃えましょう。
- 領収書やレシートなどの収入や支出に関する証明書を取っておく
- 開業届を出しておく
- 確定申告書一式やお知らせを税務署から取り寄せる
- 確定申告アプリやソフトなどを利用する
- 税理士や税務サービスなどに依頼する
確定申告が面倒くさい
確定申告をするには、書類を用意したり、税務署に行ったり、インターネットで申告したりする必要があります。これらの作業は手間や時間がかかり、面倒くさいと感じる人も少なくありません。確定申告をしない人の中でも、これが一番多い理由かもしれません。
特に、何年も確定申告をしていない場合は、過去の収支を調べたり、書類を整理したりするのが大変です。また、源泉徴収の還付を受ける場合は、申告期限の3月15日から5年以内に申告しなければなりません。この期限を過ぎると、還付を受けることができなくなります。
確定申告が面倒くさいと感じると、税務署から追徴課税や調査などの処分を受けたり、還付や控除などのメリットを逃したりする可能性があります。さらに、時効が成立しない場合や、副業が勤務先にばれるなど、さらに面倒くさい事態に発展しかねません。
確定申告が面倒くさいと感じる人は、以下のような方法で確定申告をスムーズに済ませることができます。
- 確定申告アプリやソフトなどを利用する
- 税理士や税務サービスなどに依頼する
- 確定申告のセミナーや相談会などに参加する
- 確定申告の期間中に税務署の混雑状況を確認する
確定申告をするメリットは?
確定申告をしない人の中には、そのメリットを知らないために放置しているケースもあるでしょう。ここでは、確定申告をするメリットについて、以下の5点を紹介します。
還付が受けられる
確定申告をすることで、源泉徴収された税金や年末調整で還付されなかった税金を受け取ることができます。
たとえば、副業や内職などで収入があった場合、その収入に対して源泉徴収された税金がありますが、その税金は所得に応じて計算されているため、実際の所得とは異なる場合があります。このような場合は、確定申告をすることで、過払い分の税金を還付してもらえます。また、医療費や寄付金などの控除を受けることも可能です。
還付を受けるには、確定申告書に必要な情報を記入し、源泉徴収票や領収書などの書類を添付して、税務署に提出する必要があります。窓口での提出や郵送以外にも、インターネットで電子申告する方法もあります。
還付金は、申告した口座に振り込まれます。還付金の振り込み時期は、申告期間中に申告した場合は、3月下旬から4月上旬です。期限後に申告した場合は、申告から約1ヶ月後となりますが、還付金自体の受け取りは可能です。
控除が受けられる
確定申告をすることで、さまざまな控除を受けられます。控除とは、所得から差し引くことで、税金を減らすことができる制度です。たとえば、医療費控除や寄付金控除は、確定申告をしなければ受けられません。また、青色申告をすることで、青色申告控除や経費の全額控除などのメリットがあります。
控除を受けるには、確定申告書に必要な情報を記入し、控除に関する書類を添付して、税務署に提出する必要があります。控除の効果は、所得税の納税額や還付額に反映されます。
青色申告の場合赤字繰り越しできる
確定申告をすることで、青色申告をすることができます。青色申告とは、事業や副業の収入や支出を正確に記録し、税務署に提出することで、税金の優遇を受けることができる制度です。青色申告をするには、開業届や青色申告承認申請書を税務署に提出しましょう。
青色申告をすることで、以下のようなメリットがあります。
- 青色申告控除という65万円の控除が受けられる
- 経費の全額控除ができる
- 赤字繰り越しができる
赤字繰り越しとは、事業や副業で赤字になった場合に、その赤字分を翌年以降の所得から差し引くことで、税金を減らすことができる制度で、最大で3年間まで可能です。赤字繰り越しをするには、確定申告書に必要な情報を記入し、赤字繰り越し計算書を添付して、税務署に提出しなければなりません。
納税方法の相談ができる
確定申告をすることで、納税方法の相談ができます。やむを得ない理由がある場合に、納税の猶予を税務署に申し出ができるのです。たとえば、病気や災害などで収入が減ったり、支払能力が低下したりした場合などが該当します。
納税方法の相談をするには、確定申告書に必要な情報を記入し、納税方法の相談書やその理由を証明する書類を添付します。納税方法の相談は、税務署の判断によって認められるかどうかが決まりますが、認められた場合は、納税通知書に記載された納税方法に従って、分割払いや支払期限の延長などの方法で納税できます。
正しい納税により事業が安定する
確定申告をすることで、正しい納税により事業が安定するというメリットがあります。正しい納税とは、自分の収入や支出に応じて、適切な税金を納めることです。
正しい納税をすることで、以下のようなメリットがあります。
- 税務署からの追徴課税や調査などの処分を避けることができる
- 還付や控除などのメリットを受けることができる
- 赤字繰り越しなどの制度を利用できる
- 納税方法の相談などのサービスを利用できる
- 事業の収支状況を把握できる
- 事業の信用力や資金調達力を高めることができる
関連記事:【税理士監修】税務署の管轄とは?地域別・状況別・ オンライン利用時などの確定申告書提出先の詳細ガイド
確定申告をしていない人が受けるペナルティは?
確定申告をしないまま放置していると、ペナルティを受ける可能性があります。確定申告をしていない人が受けるペナルティは、以下のようなものがあります。
還付が受けられない
確定申告をしていない人は、還付が受けられないことになります。たとえば、年間所得20万円以下の人で報酬の源泉徴収をされている人や年末調整ができず所得税の還付を受けていない人は、確定申告をすることで還付を受けることができます。しかし、確定申告をしないと、還付を受ける権利を失ってしまいます。
特に、源泉徴収の還付は、申告期限の3月15日から5年以内に申告しなければなりません。この期限を過ぎると、還付を受けることができなくなりますので、注意が必要です。
確定申告をしないと、税金を納めすぎたまま還付を受けられませんが、還付申告をすれば、過去5年分までの納めすぎた税金を取り戻すことができます。還付申告は、確定申告期間とは関係なく、該当する年の翌年1月1日から5年間可能です。
還付申告をするには、通常の確定申告書に必要事項を記入し、税務署に提出します。還付申告をすれば、源泉徴収された所得税額や適用できる控除を申告しておらず、税金を納めすぎた場合や、確定申告でしか申告できない控除を適用したい場合などに、納めすぎた分の税金が還付されます。
青色申告控除が受けられない
確定申告をしていない人は、青色申告控除が受けられません。青色申告とは、事業や副業の収入や支出を正確に記録し、税務署に提出することで、税金の優遇を受けることができる制度です。青色申告をすることで受けられる65万円の控除を「青色申告控除」といいます。
青色申告をするには、開業届や青色申告承認申請書を税務署に提出する必要があります。青色申告控除は、所得税の納税額や還付額に反映されます。
赤字分の繰り越しができない
前項の「確定申告をするメリットは?」でも触れたとおり、確定申告をしていない人は、赤字分の繰り越しができません。赤字分を繰り越すと、事業や副業で赤字になった場合に、その赤字分を翌年以降の所得から差し引けるため、節税につながります。
赤字分の繰り越しは、青色申告をすることで可能となり、最大で3年間まで繰り越せます。
赤字の場合の確定申告について詳しく知りたい方は、以下の関連記事も参考にしてください。
関連記事:収入より経費が多い赤字の場合でも確定申告すべき?その理由と注意点を解説
無申告加算税の課税
確定申告をしていない人は、無申告加算税の課税を受ける可能性があります。無申告加算税とは、確定申告が必要なのにしなかった場合に、所得税の納税額に加算される税金です。
無申告加算税の税率は、一般的には所得税の納税額の15%です。ただし、故意に申告をしなかった場合や申告漏れが大きい場合などは、税率が40%になることもあります。無申告加算税は、税務署からの追徴課税の際に課されます。
延滞税の課税
申告期限内に確定申告をしていない人は、原則として延滞税の課税を受けます。延滞税とは、納税期限を過ぎても納税しなかった場合に、納税額に加算される税金です。
延滞税の延滞税額は、以下の合計額で算出します。
令和3年1月1日以後の期間に対応する延滞税の割合
①納期限(※)までの期間及び納期限の翌日から2月を経過する日までの期間については、年「7.3%」と「延滞税特例基準割合+1%」の いずれか低い割合
②納期限の翌日から2月を経過する日の翌日以後については、年「14.6%」と「延滞税特例基準割合+7.3%」のいずれか低い割合
※延滞税特例基準割合とは、各年の前々年の9月から前年の8月までの各月における銀行の新規の短期貸出約定平均金利の合計を12で除して得た割合として各年の前年の11月30日までに財務大臣が告示する割合に、年1%の割合を加算した割合をいいます。
引用:国税庁|延滞税の計算方法
上記のとおり、延滞税は納税通知書に記載された納税期限から起算して、納税するまでの日数に応じて計算されます。通知書が届いたら、納税期限を確認しましょう。
副業の場合勤務先に連絡が来る可能性も
確定申告をしていない人は、副業の場合勤務先に連絡が来る可能性もあります。これは、住民税算出のための収入の申請をしていないからです。
副業などの副収入がある場合、役所にその収入を申告することが必要です。この申告をしないと、役所から勤務先に連絡が来ることがあります。これは、勤務先に副業を隠している場合には、副業がばれる原因にもなるでしょう。
確定申告をしておけば、特別徴収として自分で支払うことが認められる場合もあります。副業を隠している場合、確定申告をしたからといってばれることは少ないですが、確定申告をしていないことで副業がばれるケースはよくあります。
督促状が届くことも
確定申告をしていない人は、督促状が届くこともあります。督促状は、税務署から納税を促す通知書です。
督促状が届くと、分割払いや支払の延長などの相談も難しくなります。また、督促状が届いた後も納税しない期間が続くと、差し押さえなどの強制執行の対象になる可能性があります。
起訴されるケースも
確定申告をしていない人は、起訴されるケースもあります。起訴されると、裁判にかけられたり、罰金や懲役などの刑事罰を受けたりすることになります。
起訴されるのは、以下のような場合です。
- 確定申告が必要なのに故意にしなかった場合
- 確定申告をしたが、故意に虚偽の内容を記載した場合
- 確定申告をしたが、故意に必要な書類を添付しなかった場合
- 確定申告をしたが、故意に収入や支出を隠したり、偽造したりした場合
確定申告できなかった場合の対処法
所得税の確定申告が必要にもかかわらず、期限までに申告しない場合に受けるペナルティについて紹介しましたが、確定申告できなかった場合はどうすればよいのでしょうか。
確定申告をしていないことに気づいたら、すみやかに対処することが大切です。そのまま放置していてはいけません。
ここでは、確定申告できなかった場合にとるべき対処法について解説します。
事故や災害などの場合は延長申請
確定申告をできなかった理由が、事故や災害などのやむを得ない事情による場合は、延長申請をすることができます。延長申請とは、確定申告の期限を延ばしてもらうことです。
延長申請をするには、確定申告書に必要な情報を記入し、延長申請書やその理由を証明する書類を添付して、税務署に提出する必要があります。延長申請は、税務署の判断によって認められるかどうかが決まりますが、認められた場合は延長された期限までに確定申告をする必要があります。
参考:国税庁|C1-15、H1-16 災害による申告、納付等の期限延長申請
控除は減るが早めに申告する
確定申告をできなかった理由が、事故や災害などのやむを得ない事情ではない場合は、延長申請しても認められません。この場合は、控除は減ることになりますが、早めに申告することがおすすめです。早めに申告することで、以下のようなメリットがあります。
- 無申告加算税や延滞税の課税を軽減できる
- 源泉徴収の還付や基礎控除などの控除を受けることができる
- 税務署からの追徴課税や調査などの処分を避けることができる
確定申告したことない人がスムーズに確定申告を済ませるには?
確定申告をすると税金の還付や控除などのメリットがありますが、確定申告したことがない人は、どうすればスムーズに確定申告を済ませることができるのでしょうか?ここでは、以下の2つの方法についてご紹介します。
確定申告アプリの利用
確定申告アプリとは、スマートフォンやタブレットなどの端末で確定申告を行うことができるアプリケーションのことです。確定申告アプリを利用すると、以下のようなメリットがあります。
- 確定申告の必要書類をスキャンしてアップロードするだけで、自動的に計算や記入をしてくれる
- 確定申告の手続きを分かりやすくガイドしてくれる
- 確定申告の期間中でも、いつでもどこでも確定申告を行うことができる
- 確定申告の結果をすぐに確認できる
- 確定申告の内容を保存しておくことができる
確定申告アプリの中には、無料で利用できるものや有料で利用できるものがあります。無料のものは、基本的な機能に限られることが多いので、より高度な機能やサポートが必要な場合は、有料のものを選ぶとよいでしょう。
確定申告アプリの例としては、以下の2つがあります。
マネーフォワード クラウド確定申告|無料で使える確定申告アプリ
税理士に依頼
確定申告に不安がある人は、税理士に依頼するという方法もあります。税理士に依頼すると、以下のようなメリットがあります。
- 税理士が確定申告の書類を作成してくれる
- 税理士が確定申告の手続きを代行してくれる
- 税理士が確定申告に関する相談に応じてくれる
- 税理士が確定申告に関する最新の情報や知識を持っている
税理士に依頼する場合は、料金が発生します。料金は、税理士や依頼内容によって異なりますが、一般的には数千円から数万円程度です。税理士に依頼する場合は、事前に料金やサービス内容を確認しておくとよいでしょう。
税理士への依頼を検討している方は、以下の関連記事も参考にしてください。
関連記事:確定申告に税理士に頼む際の費用とは?相場と費用対効果を知ろう
確定申告をしていないことに気づいたらできるだけ早く申告を
確定申告を行うことで、税金の還付や控除などのメリットを得ることができます。確定申告は、毎年2月16日から3月15日までの期間に行う必要がありますので、早めに準備を始めましょう。
期限後申告や無申告のペナルティを避けるには、期限内にきちんと確定申告を行うことが何より大切です。確定申告をしていないことに気づいたら、できるだけ早く申告しましょう。
また、確定申告をしたことがない人は、確定申告アプリの利用や税理士に依頼するという方法を検討してみてください。