ビジネスにおいて「創業」と「設立」という言葉はよく耳にしますが、具体的な違いを明確に説明できる方は意外と少ないのではないでしょうか。2つの言葉は似ていますが、事業を運営する上では、それぞれの違いを理解しておくことが重要です。この記事では、創業と設立の違いについて解説し、具体的な企業の事例なども紹介します。
目次
創業と設立の違い
「創業」と「設立」はよく混同されがちですが、実は異なる意味を持つ用語です。それぞれの意味をしっかりと理解しておきましょう。
「創業」とは事業を開始した日
創業とは、事業を開始した日、つまりビジネスとしての活動を始めた瞬間を指します。商売を始めたり、サービスを提供し始めたりした日であり、必ずしも法的な手続きを伴うわけではありません。
創業は、個人が独自の資金で事業を始めた場合や、家族経営の小さな店が営業を開始した場合など、さまざまな形態で用いられます。「創業してから、期間が空いて設立する」というケースも珍しくなく、創業日と設立日が異なる企業も多いです。
「設立」とは登記申請をした日
設立とは、企業が法的な手続きを経て正式に認められた日、すなわち登記申請を行った日を指します。会社法に基づいて設立登記を行い、法人格を取得することを意味しており、会社としての法的なスタートラインとなるのです。
設立日は、会社が法律上で独立した主体として認められるため、契約や取引を行う上での法的な責任や権利が発生する重要な日です。また、設立日は会社の公式記録として登記簿に記載され、外部に対しても公開されます。
英語での表記の違い
創業は通常、ビジネスが始まった時点を指し、「since」を用いて時間の経過を示す際に使われることが多いです。例えば「Since 1990」は1990年から継続していることを意味し、創業の年を示しています。
一方で、設立は会社や組織が法的に成立した日を指し、ここでは「established」が使われることが一般的です。「Established in 2005」という表現は、2005年に会社が法的に形成されたことを示しています。
コーポレートサイトや名刺などに英語表記を使用する際には、伝えたいニュアンスに応じて「since」や「established」を適切に使い分けましょう。
似た意味を持つその他の言葉
「創業」と「設立」の他にも、似た意味を持つ言葉が存在します。それぞれのニュアンスの違いを理解し、適切な場面で使い分けることが大切です。
- 創立:
創立は、団体や組織が正式に形成されることを指します。学校や社会福祉法人など、公的な性格を持つ組織に用いられることが多いです。単に始めるというよりは、ある目的や理念のもとに組織が結束し、公式に活動を開始することを意味します。
- 創設
創設は、新たに何かを作り出すこと、特に制度や組織などを新しく作ることを指します。創立と似ていますが、創設はより広い意味を持ち、新しいシステムやプロジェクトの開始にも使われます。
- 開業
開業は、商売やビジネスを新たに始めること、特に個人商店やクリニックなどの小規模なビジネスに使われることが多いです。事業を立ち上げ、市場に参入することを意味し、個人の職業活動の開始を表現する際に用いられます。
- 発足
発足は、組織やプロジェクトが正式に動き出すことを指し、新しい取り組みの開始を宣言する際に使用されます。政府の新しい機関や委員会、イベントの運営体などに使われることが一般的です。
- 起業
起業は、新しいビジネスを始めることを指し、特に新規事業の創出やスタートアップの立ち上げに関連して使われます。「創業」が過去のことを指す際に多く用いられるのに対し、「起業」はこれから事業をおこす際に使用される傾向にあります。
創業と設立はどちらが先?
一般的には、ビジネスを始める際には「創業」が最初に来ます。「創業→創立→設立」の順番が一般的です。
「創業」は事業を始めることを指しますが、商売を始めるための準備の開始も「創業」とされるのです。この段階ではまだ法人格を持っていない個人事業主や、事業のアイデアを形にしようとしている段階を指します。
次に「創立」は創業した事業がある程度の形を成し、組織としての基盤を築くことを指します。創立は、事業の方向性を定め、組織の枠組みを作ることに重点を置いていますが、創立の時点ではまだ法人としての法的な手続きは完了していません。
最後に「設立」があります。設立とは、事業を法人化することを指し、会社としての法的な体制を整えることです。会社法に基づく登記手続きが必要で、株式会社や合同会社などの法人格を得ることを意味します。設立を経ることで、事業は正式に会社としての地位を確立し、法人としての責任や権利を有するのです。
このように、ビジネスを始める際には「創業」からスタートし、「創立」を経て「設立」へと進むのが一般的な流れとなります。言葉の違いを意識しながら事業を始める方は少ないかもしれませんが、税務や税法上では明確な違いがあるのも事実です。それぞれの違いを理解しておいて損はないでしょう。
創業から設立までの期間が空いている企業の例
「創業」と「設立」は異なる意味を持つため、その間に長い期間を要した企業も多く存在します。ここでは、誰もが知っている企業の事例として、創業から設立までの期間に注目して深掘りしていきます。
任天堂(創業:1889年、設立:1947年)
まず一つ目の企業は、世界的に有名なゲームメーカー、任天堂です。任天堂は1889年に創業し、花札を製造する小さな手工業からスタートしました。しかし、正式な法人としての設立はそれから数十年後の1947年です。この長い期間、任天堂は家族経営の小企業として地道に事業を続け、その後の多角化によって今日の多国籍企業へと成長を遂げました。
YAMAHA(創業:1887年、設立:1897年)
YAMAHAは、1887年に山葉寅楠が創業した楽器製造業から始まりましたが、法人としての設立は1897年とされています。創業から実に10年の歳月を経て正式な企業として設立されるまで、山葉寅楠は楽器製作の技術を磨き、品質の高いピアノやオルガンを生み出す基盤を築いていました。YAMAHAの歴史は、単に事業を始めるだけでなく、確固たる技術と品質を確立するために時間をかけたことを物語っています。
会社や法人においては創業より「設立」が重要
創業は特定の法的手続きを必要としない一方で、設立は会社や法人が法的に認められるための手続きを完了させることを意味し、法的な存在としてのスタートラインに立つ瞬間です。
設立日は、会社や法人が正式に法人格を得た日として記録され、法的な意味を持つ重要な日となります。では、設立する前と後では具体的に何が変わるのでしょうか。
まず、法人格を有することで、会社や法人は独立した財産を持ち、個人の財産とは区別されます。事業に関するリスクを個人から分離し、経営者の責任を限定することが可能になるのです。
また、法人としての信頼性が高まることで、取引先からの信用を得やすくなり、資金調達や事業拡大の機会も広がるでしょう。さらに、税務上のメリットも存在し、法人税率やさまざまな税制優遇措置を活用できます。
設立することで、会社や法人が社会において正式に認知され、税制上や会社法上で保護される対象となります。したがって、創業者が将来の展望を見据え、事業を安定させて成長させるためには、設立のステップを踏むことが重要と考えられます。
創業から設立までにやっておくべき準備
創業から設立までの期間は、具体的にどのようなことをするべきなのでしょうか。以下に、創業から設立までにやっておくべき準備をリスト化し、それぞれのポイントを簡単に解説していきます。
市場調査・アイデア出し
市場調査は、事業の可能性を探るために不可欠です。需要があるのか、ターゲットとなる顧客層・適正価格などを調査し、事業戦略を練りましょう。競合他社の動向も把握し、自社の差別化ポイントを明確にすることも重要です。
事業計画書の作成
事業計画書は、事業の概要・経営方針・財務計画などをまとめたもので、融資や補助金申請時にも必要です。説得力のある事業計画書を作成し、運営方針を明確に伝えましょう。
以下の記事では事業計画書の書き方や記入例を紹介していますので、参考にしてください。
関連記事:事業計画書とは?サンプルやフォーマットは無料で手に入る?書き方や記入例を解説
資金調達
事業運営には資金が必要です。自己資金の準備はもちろん、融資や補助金などの資金調達方法を検討し、資金計画を立てましょう。
以下の記事では開業資金の集め方について解説していますので、資金調達の際には参考にしてください。
会社設立に必要な手続きの準備
個人事業主として起業する場合と法人設立する場合で必要な手続きが異なります。会社を設立するにあたっては、定款の作成や法人印の準備、登記申請などが必要です。
以下の記事では会社設立に必要な準備を解説していますので、参考にしてください。
関連記事:会社設立の手続きとは?会社設立から事業開始までの知っておきたい基礎知識をご紹介
人員やリソースなどの準備
事業運営に必要な「ヒト・モノ・カネ」の準備も必要です。事務所の選定、人員の確保、資金計画など、事業をスムーズに進めるためのリソースを整えましょう。銀行口座の開設準備、会計ソフトの導入検討、インターネット環境の整備も重要です。
また、会社設立後すぐに営業活動を開始できるよう、自社Webサイトの構築や営業資料の作成、広告計画なども準備しておくと良いでしょう。
法人は「設立」しないと融資を受けられない?
新しく事業を開始する際に最も受けやすいとされる日本政策金融公庫の「創業融資」という融資制度があります。しかし「創業」しただけで設立していない段階では融資を受けられません。法人の会社名義で融資を受ける場合、会社設立後に受け取る「登記簿謄本」が届くまで審査が進まないケースがほとんどです。
つまり、法人として設立し、法人格を得ることは融資を受けるための必須条件となります。
日本政策金融公庫は、事業計画の信頼性や返済能力を重視しており、法人としての正式なスタートを切っていない段階では、正確な評価が困難だからです。ただし、個人事業主の場合は開業届の提出前であっても融資の申し込みが可能です。
また、民間の金融機関においても、法人設立後に提供される融資プランが多く存在します。各金融機関は、法人設立によって事業の正当性や継続性を見極め、融資の可否を判断します。例えば、メガバンクや地方銀行では、新規法人向けのビジネスローンを用意しており、法人設立証明書の提出が必須です。
さらに、信用保証協会を通じた融資保証制度も、法人設立が前提です。信用保証協会が融資の一部を保証することで、金融機関からの融資をスムーズに行うことを支援しますが、法人としての体制が整っていなければ受けられません。
このように、法人設立は融資を受けるための条件ともなっており、金融機関にとっても、貸し付ける側のリスクを抑えるための重要な指標です。創業しただけでは不十分ですので、資金計画の際には融資を受けるタイミングに注意しましょう。
以下の記事では、新創業融資制度について詳しく解説しています。創業融資を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
関連記事:新創業融資制度とは?日本政策金融公庫が提供する融資について解説!
創業と設立の違いを理解し、事業のスタートを成功させよう
「創業」と「設立」は混同されがちな用語ですが、事業を始める際には違いを正しく理解することが重要です。創業はビジネスアイデアが形となり、実際に活動を開始する段階を指します。一方で、設立は法的な手続きを経て会社が誕生することを意味し、法人格を持つ組織としてのスタートを意味します。
事業を立ち上げる際には、創業時にしておくべきこと、設立時に必要な手続きが分かれています。また、事業のスタート時には、資金調達や税務など、新しく考えなければならないことも多いです。これから起業を考えている方でお困り事があれば、私たち「小谷野税理士法人」が全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。