開業や起業を考えているが、資金調達の方法がわからないという方も多くいらっしゃいます。資金調達の方法は様々で事業内容や事業の規模によっても異なります。今回は開業のための資金調達方法について紹介します。開業をお考えの方は参考にしてみてください。
目次
開業資金はいくら必要なのか
開業を考えている方のなかには、開業するには「いくらくらい必要なのか」という疑問を抱いている方も多いでしょう。
開業に必要な金額は業種によっても異なりますが、日本政策金融公庫が調べた新規開業実態調査によると、開業資金に使用された金額で一番多かったのは500〜1,000万円未満でした。
ただし、開業する業種によってその金額の幅は異なってきます。たとえば店舗や事務所などが必要になる業種別のおおよその金額は下記が目安になります。
- 飲食店(カフェや居酒屋) 500万~1,000万円
- コンビニエンスストア(店舗設備を本部が用意する場合) 300万~350万円
- 美容室・理髪店 700万~1,500万円
- 事務所系(会計士・弁護士など)50万~300万円
特に高額になりやすい業種としては、店舗の取得にかかる契約金や内装工事、設備導入が必要な飲食店や美容室といった業種です。
しかし、コンビニエンスストアや飲食店でもフランチャイズ展開している場合、本部側で設備費用を用意するケースもあり、その場合に必要となるのは加盟金と諸経費となります。
税理士や弁護士事務所の開業の場合は、事務所取得時に必要な契約金と業務用のソフトウェアといったものの準備にとどまることが多く、店舗経営に比べると比較的少額な傾向にあります。
最近では、開業資金が少ない、または開業資金不要で始められる業種も多くあります。具体的には以下が挙げられます。
<業種の一例>
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開業資金とは
開業資金とは、開業の際に必要となる資金全般をいいます。開業資金として必要な費用としては、主に設備投資費と運転資金に分けられます。
設備投資費の内訳
- 店舗や事務所の取得費
- 改装・改装工事費
- 設備費
- 備品購入費
運転資金の内訳
- 店舗や事務所の家賃
- 従業員の人件費
- 仕入れ費
- 借入金の返済や利子
- 電気代やガス代などの光熱費
開業資金として必要になる費用を算出することは、開業後の資金ショートを起こさないためにも重要な作業になります。
会社運営においては、オフィスの賃料や従業員の給与・法人税・広告宣伝費・福利厚生費といったものなど、想像よりも多く費用が発生する場合もあります。
また、決済にクレジットカードや各種電子決済を採用していると、利益として入金されるまでにタイムラグが発生することも考えられます。
このような場合は利益が入金されるのは月末や翌月となるため、その間の運転資金が必要です。その際に運転資金が足りないと社外への支払いが滞ったり、最悪の場合は倒産になりかねません。
手元に資金がないことで、ビジネスチャンスを逃してしまう可能性もあります。
そのため、開業資金や資金調達は、事業に必要な金額をきちんと把握し、様々なシチュエーションを考慮し用意する必要があります。
開業資金の集め方
開業時に使える資金調達の方法は数多くあります。具体的な開業資金を集める際の調達方法と、それぞれのメリット、デメリットについて紹介します。
補助金/助成金の活用
開業や起業する人が申請できる補助金の一つに、創業補助金というものがあります。国が主催している創業補助金は、平成30年以降「地域創造的起業補助金」という名称に変わりました。
なお、開業、起業の前後に申請できる補助金や助成金は地域ごとに用意されています。たとえば、東京都中小企業振興公社では「創業助成金」を提供しており、上限額は300万円で、助成率は三分の二です。
【メリット】
- 開業・起業前に限らず、後からでも申し込みできる場合が多い
- 返済は基本的に不要
- 申請すれば比較的高い確率で受給できる
【デメリット】
- 募集を常に行なっていない場合があり、申し込み期間が限られる
- 補助金は後払いなので、その間のつなぎ資金が必要である
- 補助対象経費が限定されている
- 収益が上がった場合、補助金額を上限に返金しなければならない場合がある
支給条件は地域ごとに異なりますので、実際に開業する店舗や事務所の所在地ではどのような条件となっているのか調べておきましょう。
クラウドファンディング
クラウドファンディングはインターネットなどを通じ、個人から少額のお金を集める方法です。寄付型や融資型など、さまざまなスタイルがありますが、なかでも日本で一般的なのは購入型です。
購入型は、投資をしてもらう見返りに商品やサービスを提供する仕組みです。
【メリット】
- 大きなリスクがないためチャレンジしやすい
- 開業や起業する前に事業の周知ができる
- 事業のテストマーケティングができる(世の中の反応をみられる)
【デメリット】
- 資金調達のプレゼン資料を作成する必要がある
- 目標金額に達成しない場合がある
- 目標達成ができなかった場合に信用低下につながる
最近では、SNSやテレビのCMでもクラウドファンディングを目にする機会が増えました。露出が増えたことにより、認知度が高まりプロジェクト数も多くなりつつあります。
プロジェクト数が多いということは、競合が多いことでもあるため、より商品やサービスにストーリー性を持たせたり、強い共感性を呼んだりしないと、クラウドファンディングでの資金調達は難しいでしょう。
また、いつどのくらい資金が集まるかという予測が立てづらいことも考慮しておきましょう。
ベンチャーキャピタル
ベンチャーキャピタルとは、ベンチャー企業や起業したばかりの企業に出資を行う投資会社です。
資本と引き換えにベンチャーキャピタルの出資を受け入れる資金調達方法ですが、立ち上げ直後に出資を受けられる可能性は低く、上場を狙えるような有望な会社に限られる場合があります。
【メリット】
- ベンチャーキャピタルから経営のアドバイスがもらえる
- 顧客、ビジネスパートナーを紹介してもらえる場合がある
- 短期間で上場に向けた成長ができる可能性がある
【デメリット】
- 起業家が保有する株比率が下がる
- 起業直後の資金調達は期待しづらい
- ベンチャーキャピタルの経営方針に従う必要がある
ベンチャーキャピタルは、未上場のベンチャー企業に出資し株式を取得します。そして、将来的に出資した企業が上場した際に株式を売却することで、大きな値上がり益の獲得を目的としています。そのため、上場するためのアドバイスが中心となります。
エンジェル投資家
エンジェル投資家とは、起業して間もない企業に対して資金を出資する投資家です。ベンチャーキャピタルとの違いは、個人所有の資金を投資することです。
調達できる額としては、ベンチャーキャピタルとクラウドファンディングの中間くらいになります。
ベンチャーキャピタルと同様に、上場を目指しているような有望な企業に限られる場合があり、起業直後に出資を受けられる可能性は低いです。
【メリット】
- エンジェル投資家から経営アドバイスを受けることができる
- 顧客、ビジネスパートナーなどの紹介が期待できる
- 出資までのスピード感が速い
- 返済に猶予がある
【デメリット】
- 起業家が保有する株比率が下がる
- 起業直後の資金調達は期待しづらい
- 多額の出資は期待しづらい
- 経営の自由度が下がる場合がある
ベンチャーキャピタルとエンジェル投資家は、保有する株の価値が上がることで利益を得ます。そのため、顧客やビジネスパートナーの紹介をしてくれるなど、企業が成長や上場に繋がる可能性が高いです。
制度融資
制度融資は、中小企業や個人事業主などが事業に必要な資金を調達できるように、各都道府県や各市町村が設けている融資制度です。
制度融資による資金調達は、民間金融機関の貸し付けに信用保証協会が信用保証を付けることで、起業家が借り入れしやすくなっています。
行政が信用保証の斡旋をしてくれ、地域によっては行政が支払利息や保証料を一部負担してくれる場合もあります。
【メリット】
- 創業前に申し込みが可能
- 無担保・借入額によっては第三者の保証が不要
- 行政が支払利息や保証料の一部を補助してくれる場合がある
- 経営の相談にも乗ってくれる
【デメリット】
- 申し込みから実行まで、短くても1ヶ月かかる場合があり時間がかかる
- 支払利息とは別に保証料が必要
融資内容は行政によって異なります。店舗や事務所の所在地となる都道府県や市町村に問い合わせてみましょう。
銀行からの融資
銀行から資金を借り入れる資金調達の方法です。日本政策金融公庫による起業の場合の新創業融資制度では、原則として無担保、無保証で最大3,000万円(うち運転資金は1,500万円)まで可能です。
これから創業する場合や創業後に税務申告1期を終えていない場合は、創業に必要な資金の10分の1以上の自己資金がないと、新創業融資制度の申し込みができません。
【メリット】
- 顧客やビジネスパートナーを紹介してもらえたり、情報提供してもらえる場合がある
- 多額の借入が可能
- 経営に対する介入がない
【デメリット】
- 金利の負担が発生する
- 設立したばかりは利用が難しい場合がある
- 審査が厳しく融資額が希望に満たない場合もある
- 担保や保証人が必要な場合がある
起業や開業して間もない場合は、信用性の観点から大手銀行からの融資は期待できない可能性が高いですが、地方銀行であれば融資を受けられるケースも多いです。
信用金庫
信用金庫から借入を行う資金調達方法です。条件は地域の信用金庫により異なりますが、大抵は銀行より融資してもらえる可能性が高くなります。
【メリット】
- 顧客やビジネスパートナーを紹介してもらえる可能性がある
- 銀行より融資してもらえる可能性が高い
【デメリット】
- 金利の負担が発生する
- 大きい金額の借入が難しいため、起業や開業直後の資金調達には適さない場合がある
信用金庫や地方銀行といった地方金融機関は、創業支援に力を入れているところが多くあります。
なお、信用金庫は会員で構成される協同組合なので利用の際には会員になる必要があります。
公庫融資
公庫の借入は日本政策金融公庫からの借入を指します。日本政策金融公庫は政府が100%出資している金融機関で、個人事業主や中小企業などの支援を目的にしています。使徒に応じ、様々な融資を提供し低金利で借りやすいという特徴があります。
【メリット】
- 起業前の申し込みが可能
- 無担保・借入額によっては第三者の保証が不要
- 制度融資に比べ、2〜3週間と結論が出るのが比較的早い
【デメリット】
- 金利の負担が発生する
融資の上限は3,000万円で、うち運転資金は1,500万円以内とし、金利は0.90%〜3.35%となります。借入上限金額は事業計画書や自己資金を勘案して決まります。
再就職手当
再就職手当とは、雇用保険の受給資格者が創業や起業した場合にもらえる手当です。この再就職には創業や起業も含まれます。会社を辞めて起業する場合には、都道府県労働局や公共職業安定所(ハローワーク)に相談してみましょう。
【メリット】
- 前職の退職日より原則として1年以内の申請対象者であれば、いつでも申請することができる
- 的確な要件であれば基本的に手当を受け取ることができる
【デメリット】
- 起業した日の翌日から1ヶ月以内に支給申請書を郵送する必要がある
- 自己都合で前職を退職した場合は、待機期間満了後1ヶ月を経過してからの起業でなければ支給対象から外れてしまう
再就職手当は厚生労働省の補助金です。専門分野は社会保険労務士となりますので、社労士に相談してみましょう。
社員持株会
社員持株会とは、社員同士で起業する会社の資本金を出資しあう資金の調達方法です。
従業員の自社株式取得にあたって、会社が拠出金の給与控除や奨励金の支給など様々な便宜を与え、従業員の自社株取得が容易になり、財産形成を助成する制度です。
【メリット】
- 社員同士のモチベーションがアップする
【デメリット】
- 株主が細かく分散する可能性がある
- 退職時に株の現金買取が必要
社員持株会を資金調達の方法に選ぶ場合は規約の作成が必須です。また、従業員特株主の組織や取りまとめる理事が必要になります。
他企業からの出資
株式を他企業に譲渡し出資を受ける資金調達方法があります。しかし、株式の譲渡比率が50%を超える場合は、事実上経営権の譲渡と同じことになってしまうため注意が必要です。
【メリット】
- 出資元の協力を得られる場合がある
- 株主が分散ぜず大きな出資が期待できる
【デメリット】
- 出資元に主導権を握られてしまう可能性がある
- 経営の自由度が下がる
この資金の調達方法は、他企業や業界関係者との繋がりが重要です。イベントに参加し、関係を作るというケースも多くあります。
ビジネスコンテスト
ビジネスコンテストは官公庁や企業が主催するイベントです。法人や個人事業主がビジネスプランについて競い合い、審査員に選ばれた受賞者は賞金や資金補助を得られます。また、投資家や資本家からの支援を受けられるチャンスに繋がる場合もあります。
【メリット】
- 優秀なアイデアを発表することにより知名度が上がる可能性がある
- 人脈が広がる可能性がある
【デメリット】
- 賞を受賞しない限り資金を得ることができない
- 頑張りが成果に影響しない場合がある
コンテストに参加するためには、ビジネスプランを考えたり資料を作成する必要があります。そのための時間を要するため、開業スケジュールに影響を及ぼす可能性もあります。
解約返戻金のある生命保険の解約
解約返戻金のある生命保険の場合は、解約返戻金の範囲内で契約者貸付を受けることが可能です。つまり、保険会社から資金調達をすることも可能ということです。
【メリット】
- 銀行融資のような借入のための審査がない
- 契約者貸付は死亡保障の機能は失わず、保険契約は従来のまま借入ができる
- いつでも返すことができる
【デメリット】
- 金利が3%前後かかる場合がある
銀行よりも金利が高いです。
公庫や銀行からの資金調達が優先ですが、資金調達の手段として契約者貸付を受けることで借りられる金額を把握しておくと良いでしょう。
資産を売却する
資産を売却することは、事業とは関係のない資産を売却し事業に投資する方法になります。
売却できる資産としては、主に下記のものがあります。
- 土地や建物などの不動産
- 家具や家電などの設備
- 装飾品や車両などの資産
- 特許権や実用新案といった無形資産
有形だけでなく、無形のものも売却が可能です。
【メリット】
- 買い手がいた場合はすぐに資金調達が可能
- 不動産の場合は維持管理費の削減になる
【デメリット】
- 売却できる資産が必要
- 買い手がいないと売却できない(資金にならない)
- 売却の手間や手数料が発生する
資産売却においては、売却先がなければ資金調達に至らないため、いかに価値のある資産を所有しているかがポイントになります。
資金調達の際に気をつけたいポイント
開業資金を調達するにあたっては、以下のポイントを顧みながら検討をしましょう。
- 資金調達方法の種類や特徴、違いをよく理解する
- 返済不要の調達方法から検討する
- 融資金額が多い場合は、返済の負担も大きくなることも考慮する
- 補助金や助成金を利用した場合は後払いになる
公的融資はベンチャー企業を応援するために多額の融資を受けられることがあります。しかし、融資額が多いとそれだけ返済の負担も大きくなるので、返済計画も合わせた事業プランを立てることが重要です。
開業資金の調達方法で困ったら税理士へ相談を
事業開始後には想定外の支出もあります。計画通りにいかないことを想定し、開業資金は余裕を持って準備することをおすすめします。
また、資金調達の際は事業内容や返済プランなどに合った方法を選ぶことが大切です。