起業・創業を検討している方にとって、資金調達は非常に重要な課題です。しかし、創業期は実績と信頼に乏しく、民間の金融機関から融資を受けることが困難となっています。そこで活用したいのが、公的金融機関である日本政策金融公庫です。企業の成長をサポートする様々な融資制度を実施しており、創業者も利用しやすい制度が揃っています。その中でも、今回は「無担保・無保証人」で利用できる新創業融資制度についてご紹介していきます。基礎知識や注意点も含めて詳しく解説しますので、是非とも参考にしてみてください。
目次
新創業融資制度とは
新創業融資制度の概要
資金の使い道
新創業融資制度では、制度趣旨に沿った資金用途に対して融資を行います。対象となる資金の使い道は、以下の2パターンです。
- 新たに事業を始めるために必要な設備資金・運転資金
- 事業開始後に必要となる設備資金・運転資金
「創業融資」であることから、新たに事業を始める場合以外に要する経費は対象外となっています。どのような使い道でも対象となるわけではないため、申請の際は注意が必要です。
返済期間
返済期間については「各融資制度に定める返済期間以内」と定められています。詳しくは後述しますが、新創業融資制度は単体の融資制度ではなく、「他の融資制度と組み合わせて利用する制度」です。つまり、返済期間はベースとなる融資制度によって異なります。
新創業融資制度の対象となる、代表的な融資制度の返済期間は以下のとおりです。
融資制度の種類 | 設備資金 | 運転資金 |
新事業活動促進資金 | 20年以内 | 7年以内 |
新規開業資金 | ||
女性、若者/シニア起業家資金 | ||
一般貸付 | 10年以内 | 20年以内 |
なお、新創業融資制度を申し込む場合には、先にベースとなる融資制度を検討することになります。その後、新創業融資制度を上乗せするか決定するという流れになることを覚えておきましょう。
融資限度額
新創業融資制度の融資限度額は、資金用途によって異なります。
資金用途 | 融資限度額 |
設備資金 | 3,000万円 |
設備資金+運転資金 | |
運転資金 | 1,500万円 |
資金用途が運転資金のみの場合、融資限度額が半減することに注意しましょう。
担保・保証人
新創業融資制度は、数ある創業融資において唯一の「完全に無担保・無保証人で受けられる融資制度」となっています。創業融資の中には無担保・無保証人を謳っている制度がいくつかありますが、この無保証人の部分は「第三者の保証人が不要」という意味を指します。つまり、法人が申し込みをした場合には第三者の保証人が不要である代わりに、法人の代表者が連帯保証人になる必要があるのです。
しかし、新創業融資制度であれば代表者が連帯保証人となる必要はありません。よって、万が一事業に失敗した場合のリスクを、代表者が負担する心配がないことを意味します。これは、新創業融資制度を利用するうえで非常に大きなメリットといえるでしょう。
新創業融資制度の特徴
金利が変動する
新創業融資制度は固定金利ではなく、変動金利を採用しています。よって、経済状況や物価などの影響によって、金利負担が増減することに注意が必要です。新創業融資制度の利率は公式サイトで確認することができ、令和4年10月3日時点での基準利率は2.28~3.25%となっています。現時点ではこちらの利率となっていますが、変更の可能性があるため目安として考えておきましょう。
なお、最新の金利を確認したい方は公式サイトから直接問い合わせる方法が確実です。
無担保・無保証で融資を受けることが可能
上述のとおり、新創業融資制度は完全に無担保・無保証人で融資を受けられる制度です。実績や信用に乏しい創業者が融資を申し込んだ場合、通常は不動産などの担保や保証人をつけることを求められます。しかし、新創業融資制度であれば担保や保証人に関する心配をすることなく、融資を受けることが可能です。
また、法人の場合は代表者が連帯保証人になる必要はありませんが、個人で融資を受ける場合は債務者と連帯保証人の区別がつきません。
| 債務者 | 連帯保証人 |
法人 | 法人 | 不要 |
個人 | 申込者本人 | 申込者本人 |
つまり、新創業融資制度を利用するのであれば「個人よりも法人で利用するほうが有利」といえます。ただし、法人の代表者が自ら希望する場合には連帯保証人となることも可能です。その場合は金利が0.1%軽減されるため、法人での利用を検討している方は覚えておきましょう。
日本政策金融公庫の他の融資制度と組み合わせて利用する
冒頭でもふれましたが、新創業融資制度は他の融資制度と組み合わせて利用する必要があります。つまり、新創業融資制度は単体で用意された制度ではなく「融資を無担保・無保証人で受けるための特別枠」という位置付けになっています。
利用を希望する際は、日本政策金融公庫が実施している他の融資制度についての理解が必須です。新創業融資制度の内容とともに、どのような融資制度と組み合わせ可能なのかを把握しておきましょう。
新創業融資制度と組み合わせて利用できる融資制度
新事業活動促進資金
新事業活動促進資金とは、新規事業立ち上げや経営革新を行う中小企業を支援するための融資制度です。経営の多角化に向けた取り組みや、農林漁業者と連携して行う事業に対して支援を行っています。
新事業活動促進資金の概要は以下のとおりです。
項目 | 概要 |
対象者 | ① 都道府県知事などによる経営革新計画の認定を受けた事業者 ② 中小企業等の経営強化に関する基本方針に定める新たな取り組みを行い、付加価値の伸び率が2年間で4%以上見込まれる方 ③ 農商工等連携事業計画の認定を受けた方 ④ 農林水産業支援サービス業を営んでおり、法律に定める農商工等連携事業を行うことで付加価値の伸び率が3年間で2%以上見込まれる事業者 ⑤ 基盤確立事業実施計画の認定を受けた方 ⑥ 経営力向上計画の認定を受けた方 ⑦ 地域産業資源活用事業計画の認定を受けた方 ⑧ ①~⑦に該当しない方で新たに第二創業を行う方、または第二創業後5年以内の方 |
資金用途 | 設備資金・長期運転資金 ⑧に該当する場合は、既存事業の廃止・清算にかかる資金を含む |
融資限度額 | 直接貸付 7億2,000万円(うち運転資金2億5,000万円) 代理貸付 1億2,000万円 |
利率 | 基準利率 ただし、一部の対象事業者は特別利率 |
返済期間 | 設備資金 20年以内(うち据置期間2年以内) 運転資金 7年以内(うち据置期間2年以内) |
新事業活動促進資金では、対象となる事業者の要件が8つに分類されています。その中でも「経営革新計画」の認定を受けることによって、様々な支援策を受けることが可能です。また、特別利率が適用されるため金利負担も抑えることができます。
詳細が気になる方は公式サイトで申請要件をしっかりと確認し、専門家への相談も検討することをおすすめします。
新規開業資金
新規開業資金とは、日本政策金融公庫が新規事業を始める方に向けて支援を行っている融資制度です。事業を始めるために必要な設備費用や、事業開始後の運転資金が対象経費となっています。
なお、新規開業資金の概要は以下のとおりです。
対象項目 | 概要 |
対象者 | 新たに事業を始める方・事業開始後7年以内の方 |
資金用途 | 設備資金・運転資金 |
融資限度額 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) |
利率 | 基準利率 ただし、一部の対象者は特別利率 |
返済期間 | 設備資金 20年以内(うち据置期間2年以内) 運転資金 7年以内(うち据置期間2年以内) |
新規開業資金に申し込むためには、創業計画書を提出する必要があります。この事業計画が適正であり、かつ当該計画を遂行する能力があると認められなければなりません。
また、事業開始後7年以内の方が対象となっていますが、この年数はあくまで目安です。8年目以降の方も融資を受けられる可能性があるため、希望する場合は日本政策金融公庫の窓口で相談する必要があります。
これらの要件を満たすことで新規開業資金を申請することができますが、利率などについて細かい規定が設けられています。利用を検討する場合は、これらの内容もしっかりと確認したうえで申請するようにしましょう。
女性、若者/シニア起業家支援資金
女性、若者/シニア起業家支援資金とは、その名のとおり女性や若者、高齢者の新たな取り組みをサポートするための制度です。これから起業しようとする方はもちろん、事業開始後7年以内の方も対象となっています。
なお、女性、若者/シニア起業家支援資金には「国民生活事業」と「中小企業事業」の2種類がありますが、ここでは創業期の事業者が対象となる国民生活事業での概要をご紹介していきます。
項目 | 概要 |
対象者 | 女性(年齢制限なし)、35歳未満もしくは55歳以上の方のうち、 ① 新たに事業を始める方 ② 事業開始後おおむね7年以内の方 |
対象経費 | 設備資金・運転資金 |
融資限度額 | 7,200万円(うち運転資金は4,800万円) |
返済期間 | 設備資金 20年以内(据置期間2年以内) 運転資金 7年以内(据置期間2年以内) |
利率 | 特別利率A ただし、一定の要件に該当する場合はそれぞれに定める特別利率。 |
女性、若者/シニア起業家支援資金の対象要件は「創業者であり、35歳~54歳の男性ではないこと」と言い換えることができます。他の創業融資と比較して、要件がシンプルな制度である点が特徴です。
ただし、審査を通過するためには適正な事業計画と、それを遂行できる能力があることを認められる必要があります。創業計画書の作成に不安がある場合は、専門家の手を借りることも選択肢のひとつとして検討していきましょう。
新創業融資制度を利用できる人の要件とは
創業資金総額の1/10以上の自己資金を確認できる方
新創業融資制度を利用するためには、一定額の自己資金を用意しておかなければなりません。この創業資金総額とは「これから取り組む事業に要する経費」のことを指します。例えば、家賃・人件費・仕入れ費用・運転資金などが創業資金にあたります。
これらの「事業全体にかかる経費の1/10以上の自己資金」を確認できることが要件となっています。注意が必要なのは「融資希望額に対する1/10以上の自己資金ではない」という点です。これから行おうとしている事業にかかる経費の総額が母数となることを、必ず覚えておきましょう。
また、1/10の自己資金のみを用意した場合、必ずしも希望どおりの額で融資を受けられるとは限りません。基本的に、融資額は自己資金の3~4倍程度といわれています。融資を確実なものとするためにも、自己資金はできる限り用意しておくことをおすすめします。
新規事業を始める方、または税務申告を2期分終えていない方
新創業融資制度の対象者は「新たに事業を始める方」または「事業開始後、税務申告を2期終えていない方」と定められています。後者の「税務申告を2期終えていない」という要件ですが、これは申請者が個人か法人かによって考え方が異なります。
個人事業主の場合、決算日は必ず12月31日となります。よって、開業日に関わらず12月31日で1期目が終了するという仕組みです。対して、法人の場合は決算月を自由に設定することができます。4月1日に設立した会社の決算月が7月だったと仮定した場合、その会社の1期目は3か月で終了することになるのです。
このように、事業年度の問題は個人と法人で違いがあることを覚えておきましょう。
日本政策金融公庫の提供する新創業融資制度について詳しく知りたい方は専門家への相談も検討
新創業融資制度は、他の融資制度と組み合わせることによって利用できる、非常に魅力的な制度です。法人で利用した場合には代表者が連帯保証人となる必要もなく、最大3,000万円もの融資を受けることができます。しかし、ベースとなる他の融資制度でも審査を通過する必要があり、自己資金要件なども設定されています。新創業融資制度について詳しく知りたい方は、専門家への相談も検討してみてはいかがでしょうか。