2023年にインボイス制度が始まったことに伴い、税制の変化を気にする人が増えています。とくに個人事業主の方は、消費税の免除がなくなるのではと不安を抱いているのではないでしょうか。今回の記事では、個人事業主に対する消費税免除の有無や、課税事業者となる基準などを、詳しく解説します。さらに、インボイス制度の影響や、納税額シミュレーションについても紹介しています。
目次
個人事業主に対する消費税の免除とは?
そもそも、インボイス制度に関係なく、「個人事業主であれば誰でも消費税の免除を受けられる」という制度は存在しません。では、どのようなケースで免除を受けられるのか、確認しておきましょう。
消費税免除は、課税売上高が年間1,000万以下が基準
個人事業主は、課税売上高が年間1,000万以下なら、消費税の納税義務は免除されます。納税せずに済むだけでなく、消費税の税額計算や申告を行う手間も省けます。
なお、免税事業者であっても、消費税分を報酬に上乗せして請求することは可能です。報酬の金額を交渉する際は、税込・税抜についても確認しておくと、トラブルを防げるでしょう。
課税売上高が1,000万超えでも、開業から2年は消費税が課税されない
開業してから2年以内の個人事業主は、年間1,000万を超える課税売上げがあっても、消費税の納税義務はありません。一般的に、「個人事業主は、開業後2年は消費税免除」という言い方をすることもあります。
個人事業主が開業から2年間、消費税を免除されるのは、「基準期間」という考え方によるものです。課税事業者となるかは、基準期間の課税売上げによって判断されます。
個人事業主の場合、消費税における基準期間は、前々年の1月1日から12月31日までと定められています。つまり、課税売上高が年間1,000万を超えた翌々年から消費税の納税義務が生じるということです。
開業から2年間は、一般的には基準期間である前々年に売上げがないため、消費税は自動的に免除されます。3年目からは、前々年に売上げが存在するため、その金額によって判断されます。
3年目から課税事業者となるケースとは
基準期間=前々年に1,000万を超える課税売上げがあると、消費税の納税義務が発生します。つまり、1年目の課税売上げが1,000万を超えた場合、3年目は課税事業者ということです。
なお、売上げ1,000万以下であるけれど、何らかの理由で消費税の課税事業者になりたい場合には、納税地の所轄税務署長に「消費税課税事業者選択届出書」を提出しましょう。
関連記事:個人事業主が納付する消費税とは|計算方法や納付の流れを解説
インボイス制度開始の影響で、消費税は免除なくなる?
インボイス制度が始まったことで、売上げの少ない個人事業主でも課税事業者となるケースが増えました。個人事業主に対する消費税免除の有無と、インボイス制度との関連についてご紹介します。
インボイスに登録すると、消費税は免除されない
適格請求書(インボイス)を発行するためには、適格請求書発行事業者として登録しなければいけません。そして、インボイスの登録を行った場合、売上額に関係なく課税事業者として扱われます。
例えば開業して1年目や2年目でも、インボイスを発行するための登録を行うと、消費税の納税義務が発生します。そのため、個人事業主に対する消費税免除がなくなると話題になっているのです。
インボイスに登録しなければこれまで通り免除あり
開業後2年間の消費税が免除されるのは、基準期間が前々年であることによるもので、インボイスの導入後も変更はありません。インボイスに登録しなければ、これまで通り消費税の免除が適用されます。
インボイスに登録しないことのデメリット
「開業後2年間は、免税事業者でいたい。インボイスには登録せずにいよう」と考える方もいるでしょう。インボイスに登録しなかった場合、2年間は売上げに関係なく消費税の納税義務はありません。しかし、デメリットもあることに注意しましょう。
インボイスに登録しないということは、適格請求書の発行ができないということです。適格請求書がなければ、取引先は消費税の仕入税額控除を行えません。つまり取引先が二重に消費税を負担することになるため、取引を断られたり、消費税分の値引きを交渉される可能性があります。
相手が適格請求書発行事業者でないことを理由に、一方的に契約を破棄したり値引きを強制したりすることは禁じられています。しかし、相談のうえ契約を打ち切ったり、値引き交渉をしたりすることは可能です。
インボイスに登録しないことで、結果的に消費税を納税する以上の収入減が生じるケースも考えられます。メリットとデメリットの両方を把握したうえで、登録するか否かを選びましょう。
業種や取引先次第でインボイス登録が必要ないケースも
業種や取引先次第では、インボイスの登録をしなくても影響がない場合もあります。
例えば、個人の一般消費者を主な客とする小売業では、相手が適格請求書を必要とする可能性が低く、インボイス登録をしなくても不利益がないケースも多いでしょう。
また、取引先も免税事業者である場合や、すべての取引先がインボイス登録をしないことに了承してくれているケースも、インボイス登録をしなくても問題ないと言えます。
ただし、今後、新規開拓を行った際にインボイス登録を求められることもありえます。先を見据えてあらかじめインボイス登録をするか、求められた際にすぐ登録できるよう準備をしておくと良いでしょう。
関連記事:【税理士監修】個人事業主の消費税の扱いは?インボイス制度の免税業者や免除されているケースなど
個人事業主が納税する消費税の計算シミュレーション
課税事業者となった個人事業主が納付すべき消費税は、どのくらいの金額になるのでしょうか。計算方法について、シミュレーションを交えて解説します。
消費税の課税方法には、「一般課税」「簡易課税」の2種類があります。また、インボイス制度の影響に対する軽減措置として、いわゆる「2割特例」も設けられています。
どの課税方法の場合も、売上げに係る消費税額から、仕入れに係る消費税額を控除した額が納付税額です。
引用:「納付税額の計算のしかた」国税庁
売上げに係る消費税額は、どの課税方法でも、課税売上高に10%、軽減税率の対象取引の場合は8%を乗じて計算するイメージです。一方、仕入れに係る消費税額は、課税方法により算出のしかたが異なります。
一般課税の場合
「一般課税」は、原則的な課税方法です。請求書などに記載されている消費税額のうち、課税仕入れに係る部分を合計した金額を売上げ税額から控除できます。
ただし、課税売上げが5億円超、または課税売上割合が95%未満の場合、計算方法が複雑となります。
簡易課税の場合
「簡易課税」を選択すると、業種ごとに定められた「みなし仕入率」を売上税額に乗じることで、仕入税額控除の額を計算できます。業種や仕入れの内容によっては一般課税よりも控除額が増えるケースも多く、仕入税額を計算する手間も省けます。
みなし仕入率については、下記の表をご参照ください。
事業区分 | みなし仕入率 |
第1種事業(卸売業) | 90% |
第2種事業(小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業に限る)) | 80% |
第3種事業(農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業および水道業) | 70% |
第4種事業(第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業) | 60% |
第5種事業(運輸通信業、金融業および保険業、サービス業(飲食店業に該当するものを除く)) | 50% |
第6種事業(不動産業) | 40% |
引用:「簡易課税制度」国税庁
ただし、簡易課税を選択できるのは、基準期間である前々年の課税売上げが5,000万以下の事業者に限られます。また「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出が必要です。
インボイス制度の2割特例の場合
インボイスに登録するのをきっかけに課税事業者となったケースでは、負担軽減措置として「2割特例」と呼ばれる制度が設けられています。2割特例が適用されるのは、2026年分の申告までです。
2割特例を利用すれば、売上税額の8割を仕入税額として控除できます。言い換えると、売上税額の2割の金額を消費税として納税すれば良いということです。事前に申請などを行う必要はなく、消費税を申告する際に2割特例を利用する旨を付記するだけで適用されます。
ただし、簡易課税制度の事業区分で第1種事業に該当する事業者の場合、簡易課税制度を選択したほうが、納付税額は少なくなります。みなし仕入率が90%で、2割特例を利用する場合の控除額である8割より多いためです。
自身の業種を確認して、簡易課税制度と2割特例のどちらが有利かを検討して選択してください。
消費税額シミュレーション
ここまで、3つの課税方法について、それぞれ計算方法をご紹介しました。続いて、それぞれの課税方法を選ぶことで納付税額がどう変化するのか、実際に以下の例に基づいてシミュレーションをしてみましょう。
- 業種:サービス業(みなし仕入率50%)
- 課税売上高:600万円、売上税額60万円
- 課税仕入高:180万円、仕入税額18万円
まず一般課税では、納付税額の計算は以下の通りです。
簡易課税制度の場合は、サービス業のみなし仕入率は50%なので、下記の計算式で納付税額を算出できます。
インボイス制度の2割特例を利用した場合の納付税額は、下記のように計算します。
まとめると、上述のケースでの納付税額は、一般課税では42万円、簡易課税制度では30万円、2割特例を利用すれば12万円です。2割特例の利用が最も有利で、一般課税より30万円も税額が少ないことが分かります。
ぜひ自身の業種・売上高・仕入高のケースではどの課税方法を選ぶのが良いか、シミュレーションしてみてください。
参考:「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要」国税庁
関連記事:【税理士監修】消費税の確定申告とは?やり方や計算方法、インボイス制度との関係
消費税が払えない場合は専門家や税務署に相談を!
基準年度と比較して売上が減少したり、消費税の納税を考慮せずに資金を使ってしまっていたりと、消費税を払う資金がないということも起こりえます。万が一、消費税が払えないという事態に陥った際の対応を確認しておきましょう。
消費税を支払わないで放置すると、差し押さえになることも
もし消費税が払えないにもかかわらず放置してしまった場合、納付期限の翌日から自動的に延滞税が発生します。延滞税は長期間延滞することで利率が高くなるため、注意が必要です。
また、催促状が届いたにもかかわらず納税を怠ると、催促状より強い意味合いを持つ督促状が送られてきます。督促状が届いてから10日以内に滞納している全額を納税しなかった場合、差し押さえに発展することもあります。
消費税を支払えない場合に活用できる制度
消費税を支払えないからと放置していると、支払う意思がないとみなされ、差し押さえなどの強制徴収へつながってしまいます。そのため、どうしても消費税が支払えない場合、支払いが困難だと分かった時点で速やかに対応しましょう。
1ヵ月ほど猶予があれば納税できそうな場合は、振替納税制度の利用をおすすめします。振替納税制度は金融機関の口座からの自動引落で納税する制度です。
通常、消費税の納税期限は3月31日ですが、振替納税制度で税金が引き落とされるまでは1ヵ月ほどの期間があります。その間に資金を準備できれば、延滞にはならず、延滞税も徴収されません。
1ヵ月の猶予があっても資金を準備できなさそうな場合、税理士などの専門家や税務署に相談しましょう。いつまでに納税できるかや資金調達の方法を説明することで、分割納付などの対策を取ってもらえるケースもあります。
また、大幅な収入減や災害・病気・廃業などによって支払いが困難な場合、要件を満たせば税金の減免や納税猶予を利用できます。納付期限が過ぎた後では適用されないこともあるため、支払えないと分かったら早めに相談しましょう。
関連記事:消費税の非課税取引とは|免税取引との違いや不課税、対象について
個人事業主の消費税に関する疑問は税理士への相談もおすすめ
個人事業主の消費税について、免除の有無やインボイス制度の影響、計算シミュレーションなどをご紹介しました。消費税の申告忘れを防ぐためにも、自分が消費税の課税事業者に該当するか否かは入念に確認しておきましょう。
インボイスに登録するか迷っている、消費税の計算・申告方法が分からない、消費税が支払えないなど、消費税についてのお困りごとやご相談は、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。