固定資産の減損処理とは何なのかご存じでしょうか。本記事では、減損処理の概要や対象となる固定資産について解説しています。また、減損処理のメリットやデメリット、減損処理を行う際の流れと計算方法も併せて紹介しています。固定資産の減損処理について理解を深めたい方はぜひ本記事を参考にしてください。
目次
減損処理とは
減損処理は固定資産の会計処理の一種で、固定資産の資産価値を減らす処理のことを指します。事業の拡大を試みる際に投資で固定資産を購入することは少なくありません。しかし、購入した固定資産から得られる売上が予想を下回り投資額の回収が見込めなくなった ってしまった場合、減損処理を利用してその損失分を計上すれば、購入した固定資産の資産価値を下げて売上の回復を図れるのです。この減損処理で発生した損失を減損損失と呼びます。
減損処理を行うには一定の条件を満たさなければなりません。制約なく減損処理が可能になってしまうと節税目的で固定資産を購入し、あえて減損処理を行うケースが出てくる恐れがあるため、一定の条件のもと認められることになっています。
減損処理できる固定資産の種類
減損処理には一定の条件があることをお伝えしましたが、減損処理できる固定資産は限られています。減損処理できる固定資産の主な種類は、無形固定資産、有形固定資産、投資その他の資産の3種類です。以下では、それぞれの固定資産の種類別に減損処理の具体例を解説していきます。
無形固定資産
無形固定資産とは、のれんやソフトウェアなどの物理的に形を持たない固定資産のことを指します。例えば、新たにソフトウェアを導入した事業を開始したにも関わらず思うように利益が出なかったといったケースでは、ソフトウェアの減損処理を行います。
のれんはM&Aの際に使われる勘定科目です。のれんを減損処理する例としては、M&Aの効果が発揮されず、想定よりも業績が上がらなかった場合などに行います。
有形固定資産
無形固定資産が物理的な形を持たない固定資産なのに対して、有形固定資産は不動産や機械などの物理的に形のある固定資産のことを指します。事業拡大や新規事業の立ち上げに際して、新たに建物や機械を購入するケースは珍しくありません。しかし、事業拡大や新規事業による利益が購入した固定資産に見合わないことも起こり得ます。
そのような場合は購入した有形固定資産の減損処理を行い、収益 売り上げの回復を図ります。
投資その他の資産
投資その他の資産とは、有価証券や出資金などの資産を指します。購入した株価が下がり続け、回復の見込みもない場合などに減損処理を行います。
減損処理のメリットとデメリット
売上の回復を図るために保有している固定資産の資産価値を減らす減損処理ですが、減損処理にはどのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。以下では、減損処理のメリットとデメリットを解説していきます。
減損処理のメリット
すでに解説した通り、減損処理は固定資産の価値を下げる処理のことを指します。減損処理を行うことによって帳簿上の固定資産の価値は減額するため、固定資産の帳簿価格から算出する減価償却費も必然的に下がります。減損処理を行った年は損失が増えますが、次年度以降の減価償却費が減る点は減損処理のメリットと言えるでしょう。
加えて、減損処理をすることによって損失が次年度以降に持ち越されないため、総資本事業利益率や自己資本利益率が上がり、次年度以降の利益が出やすくなるといったメリットもあります。
また、減損処理を行うと決算書がよりリアルに近い内容になる点も減損処理を行うメリットの1つです。減損処理によって業績に貢献しにくい固定資産を費用化できるため、次年度以降の損益計算書がより現実に近い、正確性のある内容で作成できます。
減損処理を行うとその年の損失は多くなり、業績が大幅に悪化したように見えてしまいます。しかし実際は、売上の見込み額が下がったというだけで利益に繋がらない固定資産を保有し続けなくて良くなるため、次年度以降の事業計画がより現実性のあるものになります。このような観点からも、減損処理は次年度以降の利益を正確に把握するための処理だと言えるでしょう。
減損処理のデメリット
減損処理の中でものれんや投資に関するものは、M&Aや投資が失敗したと見受けられるため、会社に対する評価が下がってしまう恐れがあります。将来性が不安だと判断されてしまうと、資金調達がしづらくなったり株価が下がったりする可能性もあるのです。
また、企業には創業時からの利益の積み重ねである繰越利益剰余金というものがあります。減損処理をしてしまうと繰越利益剰余金にも影響を及ぼし、減損処理の額が高いほど繰越利益剰余金に与える影響も大きくなってしまいます。繰越利益剰余金に大きな影響を与えた結果、企業評価が落ちたり株価が暴落したりすることにも繋がりかねない点にも留意しておきましょう。
減損処理をした年は赤字になるケースが多いため、あらかじめ投資家や関わりのある企業には減損処理の経緯や理由について説明しておくことが大切です。
関連記事:法人・個人で銀行から借入を受けるには?審査やメリット・デメリットなどについて詳しく解説!
減損処理はどのタイミングで行う?
すでに解説した通り、減損処理にはメリットとデメリットの両方があり、どちらも無視できない要素となっています。減損処理を行うか否かの判断に迷った場合は、景気の動向や営業損失がどの程度続いているのかといった点に注目するようにしましょう。以下では、減損処理を行うタイミングについて具体的に解説していきます。
景気が後退している
減損処理を行う1つのタイミングとして景気の後退が挙げられます。営業利益の低迷は内的要因によって起こるとは限りません。景気の後退により事業を縮小せざるを得ない状況になり、結果として想定していた利益を上げられないケースもあるでしょう。
このような場合、減損処理を行い売り上げの回復を図るというのも1つの手段と言えます。
営業損失が長期間続いている
会社の主たる事業で利益を出せない状況が続くと営業損失が発生します。新たな事業の立ち上げや設備の導入などで固定資産に投資をしても、会社の利益として回収できていない状況が数年間続いている場合は減損処理を行うタイミングであると言えます。
減損処理を行えば次年度以降の決算に影響を与えずに済むため、メリットとデメリット両方を加味して検討しましょう。
関連記事:収入より経費が多い赤字の場合でも確定申告すべき?その理由と注意点を解説
減損処理の流れ
減損処理は基本的に以下の手順で進めていきます。
- 資産のグループ化
- 減損の兆候の把握
- 損失の認識
- 減損損失の測定
以下ではそれぞれの手順について詳しく解説していきます。
資産のグループ化
まずは、どの資産が減損処理の対象となるのか把握するために資産のグループ化を行います。具体的には、継続して収益が把握できるような本店、支店などの単位で資産をグルーピングしていきます。
収益というのは、1つの固定資産のみから生み出される訳ではありません。資産のグループ化を行う際には、資産を収益を生み出す最小の単位に分けることが重要です。
減損の兆候の把握
資産のグループ化が完了したら、それぞれのグループに減損の兆候がないかの確認を行います。具体的には、以下の内容に当てはまれば減損の兆候があると言えます。
- 営業損失が2期連続で赤字になっている
- 資産の市場価値の下落が顕著である
- 製品価格の下落などによって経営環境が悪化している
- 資産の使用の変化により資産の価値や営業収益などが低下した
上記のような減損の兆候がない資産は、減損処理の必要がありません。減損の兆候がある資産があれば、次のステップに進みましょう。
損失の認識
減損の兆候が見られる資産があった場合は、損失を認識し減損の必要性の判定をします。具体的には、減損の兆候が見られる資産グループが生む割引前将来キャッシュフローと帳簿価格の総額を比較します。
割引前将来キャッシュフローとは、該当の資産グループを継続的に使用した場合の資金収支と資産グループを処分した場合の資金収支の合計額のことです。この割引前将来キャッシュフローが帳簿価格を下回っていれば、減損処理の対象となります。
ただし、非上場の中小企業は、中小企業の会計に関する指針で定められている判定項目に該当すれば減損処理の対象となります。中小企業の会計に関する指針で定められている内容は以下の通りです。
- 将来、該当の資産の使用の見込みが客観的にない
- 該当の固定資産の用途の転用を試みたが採算が見込めない
さらに詳しく解説すると、該当の資産の使用の見込みが客観的にない状況とは、長期にわたって企業活動に使用されていない状況のことを指します。
減損損失の測定
損失の認識によって減損処理を行うべきだと認められた資産グループまたは資産は、帳簿価格を回収可能価額まで減額して、その減額した金額分を減損損失として扱います。減損損失として扱う金額は下記の式で求めましょう。
減損損失額=帳簿価格-回収可能価額
減損損失額を算出する際に使用する回収可能価額は、使用価値もしくは正味売却価額のいずれか高い方です。使用価値とは、減損処理を行う資産グループや資産を継続的に使用した場合と、使用後の処分によって生じると考えられる将来キャッシュフローの現在価値を指します。
正味売却価額は、減損処理を行う資産グループや資産の時価から、処分によって生じる費用の見込み額を差し引いた金額のことです。減損損失は、損益計算書の特別損失に計上しましょう。
減損損失の仕訳方法
減損処理を行う場合は、帳簿価格を回収できる見込み額まで減らす仕訳が必要です。この仕訳の方法には、直接控除方式と間接控除方式という2種類があります。
直接控除方式とは資産の取得価額から減損金額を直接減らす方法で、基本的には直接控除方式を用います。対する間接控除方式は、資産の取得価額と減損金額の両方を減損損失累計額という科目を用いて記す方法のことです。
例えば、土地と建物に減損損失が認められた場合、直接控除方式の仕訳は以下のようになります。
借方 | 貸方 | ||
減損損失 | 300万円 | 土地 | 200万円 |
建物 | 100万円 |
同様の条件で、間接控除方式によって仕訳を行う場合は以下のようになります。
借方 | 貸方 | ||
減損損失 | 300万円 | 減損損失累計額 | 300万円 |
直接控除方式では、減損損失の計上に伴って土地や建物など減損損失を行った資産の貸借対照表上の価額も減ります。間接控除方式では、減損損失累計額の他にも減価償却累計額という科目を用いるケースもあります。また、直接控除方式、間接控除方式ともに一度減損損失として計上すると、戻し入れる処理はできないという点に留意が必要です。
減損処理のやり方や対象となる固定資産について知ろう
固定資産の資産価値を減らす処理を減損処理と呼びます。減損処理には次年度以降の利益が出やすくなる、次年度以降の減価償却費が減るといったメリットがある一方、企業評価が落ちたり株価が暴落したりするリスクもあるため、慎重に判断することが重要です。
減損処理を行う場合は、資産のグループ化や減損の兆候の把握などの作業が必要で、中でも減損損失の測定では専門知識を有する計算が求められるため、税理士などの専門家に依頼すると安心です。