個人事業主になると、自分の好きなことを仕事にできたり、自由な時間をつくれたりするメリットがあります。しかし、個人事業主には、会社員や法人とは違う税金や社会保険料の負担があり、年収や手取り額は、税金や社会保険料などによって変わるので、計算方法を知っておくことが大切です。この記事では「個人事業主の年収と手取り額の関係」「個人事業主がやめた方がいい年収はいくらなのか」などを紹介します。個人事業主として収入を増やしたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
個人事業主とはどんな働き方なのか
まず、個人事業主とはどんな働き方なのか、そのメリットやデメリットとともに見ていきましょう。
個人事業主の定義と開業手続き
個人事業主とは、自分で事業を行う人のことです。たとえば、フリーランスや個人で店舗を経営する人などが該当します。
個人事業主になるためには、開業手続きをする必要があります。開業手続きとは、事業を始めることを税務署や市区町村などに届け出ることです。開業手続きは、以下のように行います。
- 税務署に開業届を提出する
- 市区町村に国民健康保険の加入届を提出する
- 市区町村に国民年金の加入届を提出する
開業手続きは、基本的に無料で行えますが、事業を始めた日から1か月以内に提出しなければなりません。確定申告は、青色申告か白色申告かを選択することになります。
青色申告については、以下の関連記事も参考にしてください。
関連記事:個人事業主の入門編!青色申告とは?メリットと手続き方法をわかりやすく解説
関連記事:個人事業主の青色申告とは?いくらから必要?メリット・デメリットや帳簿の書き方などについて解説!
個人事業主のメリット
個人事業主のメリットとして、以下の2つが挙げられます。
- 必要経費が認められて節税効果が高い
- 自分で事業を行う自由度が高い
個人事業主は、事業に必要な経費を所得から差し引くことができます。経費とは、事業を行うために支出したお金のことで、たとえば、交通費や通信費、備品や消耗品、広告宣伝費などが該当します。
経費を差し引くことで、課税所得が減り、税金が少なくなります。経費の範囲は、青色申告と白色申告で異なりますが、青色申告の方が経費の種類が多く、節税効果が高いです。
また、個人事業主は、自分で事業の内容や方針を決めることができます。自分の好きなことを仕事にしたり、自分のペースで働いたり、自分の収入を自分で決めたりできることも個人事業主の魅力のひとつです。また、自分の能力や実績に応じて、収入を増やすことも可能です。
個人事業主のデメリット
個人事業主のデメリットとしては、以下の2つが挙げられます。
- 社会的な信用度が低くて融資や人材採用が難しい
- 雇用保険がなくて自己責任のリスクも
個人事業主は、法人と比べて社会的な信用度が低いと見られがちです。そのため、銀行や金融機関からの融資を受けるのが難しかったり、人材を採用するのが困難だったりします。また、取引先や顧客からの信頼を得にくい場合もあるでしょう。
また、個人事業主は、会社員と違って雇用保険に加入できません。自分で保険などに加入しなければ、病気や怪我、失業などのリスクに備えることができないということです。社会保険や雇用保険に加入すると、保険料がかかりますが、それを払わないと、将来的に大きな損失を被る可能性があります。
個人事業主になると、自分で事業を行う自由度が高くなりますが、リスクや負担も増えます。自分の目標やライフスタイルに合わせて、個人事業主になるかどうかを慎重に考えましょう。
個人事業主と会社員・法人の違い
個人事業主は会社員や法人と納める税金や手取り額の内訳が異なります。そのため、会社員として働いていた人が個人事業主になるときなど、その違いを理解していないと、年収が高くなっても税金で引かれて損をしかねません。
ここでは、個人事業主と会社員・法人との違い、法人化するメリットについて解説します。
会社員との違い
個人事業主と会社員の違いは、社会保険料や手取り額、収入の安定性などにあります。
個人事業主 | 会社員 | |
社会保険料 | 全額自己負担 | 会社が半分負担 |
税金 | 自分で計算して支払う | 会社が源泉徴収 |
収入の安定性 | 事業の収入や支出によって変動 | 原則は固定給 |
社会保険料は、個人事業主は自分で全額負担するのに対して、会社員は会社が半分負担してくれます。また、手取り額は、個人事業主は税金を自分で計算して支払うのに対して、会社員は会社が源泉徴収してくれます。さらに、収入の安定性は、個人事業主は事業の収入や支出によって変動するのに対して、会社員は固定給をもらえます。
個人事業主と会社員の違いは、自分で事業を管理する自由度とリスクのバランスにあります。
個人事業主は、自分の好きなことを仕事にできたり、自分のペースで働けたりするメリットがありますが、税金や社会保険料の負担が大きかったり、収入の安定性が低かったりするデメリットもあります。
会社員は、税金や社会保険料の負担が小さかったり、収入の安定性が高かったりするメリットがありますが、自分の好きなことを仕事にできなかったり、自分のペースで働けなかったりするデメリットもあります。
個人事業主として働きたいという人は、会社員との違いを理解した上で、自分の目標やライフスタイルに合わせて選ぶことが大切です。
法人との違い
個人事業主と法人の違いは、税率や責任の範囲、信用度などにもあります。
個人事業主 | 法人 | |
税率 | 所得が高くなるほど税率が高くなる(所得税) | 一定の税率(法人税) |
責任の範囲 | 自分の財産に及ぶ | 法人の財産に限定 |
信用度 | 低い | 高い |
所得税と住民税は、所得が高くなるほど税率が高くなるのに対して、基本的には法人税は一定の税率で計算されます。
責任の範囲は、個人事業主は自分の財産に及ぶのに対して、法人は法人の財産に限られます。法人は、個人とは別の法的主体として認められるので、法人の財産と個人の財産は区別されます。
信用度は、個人事業主は法人に比べて低いのに対して、法人個人事業主と比べて高いです。法人は、個人とは違って、登記や会計などの法的な手続きや規制を受けるので、事業の透明性や信頼性が高まります。また、法人は、個人とは違って、株式や債券などの資本市場にアクセスできるため、資金調達や投資の機会が増えます。
個人事業主と法人の違いを理解した上で、事業の規模や目的に合わせて働き方を選ぶことが大切です。
法人化を検討した方がいいのか、迷っている方は、ぜひ、わたしたち「小谷野税理士法人」にお気軽にお問い合わせください。
個人事業主がやめた方がいい年収はいくらなのか
個人事業主の手取り額は、税金や社会保険料などによって大きく変わります。では、個人事業主がやめた方がいい年収はいくらなのでしょうか。
ここでは、個人事業主が支払う税金や社会保険料の種類と計算方法、年収800万円以上の個人事業主は法人化を検討すべき理由などを説明します。
個人事業主が支払う税金の種類と計算方法
個人事業主が支払う税金は、主に所得税と住民税の2種類です。所得税と住民税を計算するには、「課税所得」を求める必要があります。
課税所得とは、税金を計算するときに使われる所得のことで、年収から必要経費や青色申告特別控除や基礎控除などの控除を差し引いた金額です。課税所得が求められれば、所得税と住民税を計算できます。
所得税は、課税所得に応じて税率が変わる累進課税制です。税率は、所得が高くなるほど高くなります。所得税の税率は、2023年度の場合、以下のとおりです。
課税所得 | 所得税率 | 控除額 |
1000円から194万9,000円 | 5% | 0円 |
195万から329万9,000円 | 10% | 9,7500円 |
330万から694万9,000円 | 20% | 42万7,500 |
695万から899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万から1799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1800万から3999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円超 | 45% | 479万6,000円 |
住民税の税率は、2023年度の場合、課税所得の10%です。所得税と住民税、課税所得をもとに、個人事業主が支払う税金を求められます。
個人事業主の税金について詳しく知りたい方は、以下の関連記事も参考にしてください。
関連記事:個人事業主の税金はいくら?税理士はいらない?税金の種類やシミュレーションなども含めて解説!
個人事業主が支払う社会保険料の種類と計算方法
個人事業主が支払う社会保険料は、国民健康保険料と国民年金の2種類です。
国民健康保険料は、所得に応じて決まる比例課税制です。社会保険料は、前年の所得に基づいて決められ、所得が高くなるほど高くなります。社会保険料の計算方法は、以下のようになります。
国民健康保険料の計算方法は、住んでいる市町村によって異なりますが、一般的には、前年の所得に市町村の決めた率をかけて、市町村の決めた控除額を引いた金額です。
国民年金の計算方法は、全国統一であり、1か月あたり16,980円です。まとめて前納すれば、一定額が割引されるため費用をおさえられます。
国民健康保険料と国民年金を足した金額が、個人事業主が支払う社会保険料の合計額となります。
所得800万円以上の個人事業主は法人化を検討すべき理由
個人事業主の年収や手取りは、税金や社会保険料などによって変わりますが、所得が800万円以上になると、税金や社会保険料の負担が大きくなります。このことから、個人事業主がやめた方がいい所得は、800万円以上といえるかもしれません。
もちろん、個人事業主になるかどうかは、所得や手取り額だけで決めるべきではありませんが、税金や社会保険料の負担を考えると、所得800万円以上の個人事業主は、法人化を検討すべきです。
個人事業主が法人化するメリットとデメリットをまとめると以下のとおりです。
個人事業主が法人化するメリット | 個人事業主が法人化するデメリット |
税率が低くなる 責任の範囲が限られる 信用度が高くなる | 登記や会計などの法的な手続きや規制が増える 設立費用や登記費用などがかかる 法人税の納付や申告などの事務負担が増える |
法人化するときには、国税庁のホームページや独立行政法人中小企業基盤整備機構のホームページなどが参考になります。
法人化するかどうかは、自分の事業の状況や目標に合わせて決めましょう。
個人事業主の年収と手取り額の関係
次に、個人事業主の年収と手取りの関係を見てみましょう。個人事業主の年収とは、売上のことです。個人事業主の手取り額とは、売上から税金や社会保険料を差し引いた金額のことです。個人事業主の年収と手取りの関係は、以下のようになります。
個人事業主の年収とは
個人事業主の年収とは、自分で事業を行って得た収入のことです。個人事業主の年収は、売上と同じです。売上とは、事業を行うことで得たお金のことで、たとえば、フリーランスの場合、売上はクライアントから支払われた報酬となります。また、個人で店舗を経営する場合は、売上は商品やサービスを販売したことで得たお金が売上となります。
個人事業主の年収は、自分で事業を行うことで決まります。つまり、自分のスキルや実績、価格設定、仕事量などによって、年収は変わります。
個人事業主は、自分の収入を自分で決めることができるので、年収を増やすことも可能です。しかし、年収が高くなるほど、税金や社会保険料の負担も増える可能性があるため、手取り額は減少する傾向にあります。
個人事業主の手取り額を計算する方法
個人事業主の手取り額を計算する方法は、以下のようになります。
手取り額 = 売上 -経費- 税金の合計 – 社会保険料
個人事業主の手取り額は、売上から経費や税金、社会保険料を差し引いた金額です。税金の合計は、所得税、住民税、事業税などの合計です。社会保険料は、国民健康保険と国民年金の合計です。
税金の合計や社会保険料は、売上や課税所得に応じて変わります。また、青色申告と白色申告かどうかによって、経費や控除の範囲が異なります。
個人事業主の手取り額を計算するには、まず、課税所得を求める必要があります。次に税金の合計を計算します。税金の合計は、所得税、住民税、事業税の合計です。税金の合計が求められたら、次に社会保険料を計算します。
以上のようにして、個人事業主の手取り額を計算できます。個人事業主の手取り額は、所得が高くなるほど、税金や社会保険料の負担が増えるため、減少する傾向にあります。
個人事業主が手取りを増やすためのコツ
個人事業主が手取りを増やすためには、年収を上げることも大切ですが、課税所得を減らすことも重要です。課税所得を減らすことで、税金や社会保険料の負担を軽減できます。課税所得を減らすためには、以下のようなコツがあります。
経費や青色申告で課税所得を減らす
個人事業主の手取り額は課税所得に応じて変動しますが、課税所得を減らすことで、税金の負担を軽減できます。課税所得を減らすためには、以下のような方法があります。
一つ目は「経費の調整」です。事業に必要な経費は、所得から差し引けます。経費とは、事業を行うために支出したお金のことで、たとえば、交通費や通信費、備品や消耗品、広告宣伝費などが該当します。経費の範囲は、青色申告と白色申告で異なりますが、青色申告の方が経費の種類が多く、節税効果が高いです。
二つ目は「青色申告をすること」です。青色申告とは、個人事業主が税務署に届け出て、経理や帳簿の管理を行うことです。青色申告をすると、青色申告特別控除などの控除が受けられます。
控除とは、所得から差し引くことで、課税所得を減らすことができる金額のことです。青色申告特別控除とは、青色申告をすることで受けられる控除で、最大65万円まで差し引くことができます。
経費や青色申告を利用することで、課税所得を減らせます。課税所得を減らすことで、税金の負担を軽減でき、手取りを増やすことにつながります。
税理士に依頼する
個人事業主は、税金や社会保険料の計算や申告などの手続きが複雑で、時間や労力がかかることが多いです。また、税務に関する知識や経験が不足していると、適切な節税や資産形成ができないこともあります。そのため、個人事業主が手取りを増やす方法の一つとして「税理士に依頼する」という方法もあります。
税理士に依頼することのメリットは、以下のようなものがあります。
- 税務の専門家に任せることで、正確で適切な税金の計算や申告ができる
- 税務の最新情報や節税のノウハウを提供してもらえる
- 税務に関する相談やアドバイスを受けられる
- 税務にかかる時間や労力を削減できる
- 税務上のトラブルやリスクを回避できる
税理士に依頼することで、個人事業主は自身の業務に集中できるでしょう。しかし、税理士に依頼するには、費用や条件も考慮する必要があります。
税理士に依頼する費用は、税理士や依頼内容によって異なりますが、一般的には、月額数万円から数十万円程度です。税理士に依頼する条件は、税理士との契約や信頼関係などを見極めましょう。
税理士に依頼する前には、ホームページや口コミを詳しく調べたり、複数の税理士と比較したりすることをおすすめします。
税理士への依頼を検討している方は、ぜひ、わたしたち「のびよう会計」にお気軽にお問い合わせください。
個人事業主として手取りを増やすなら税理士への依頼も検討しよう
「個人事業主として事業をする」「法人化する」などの選択肢がありますが、自分の目標やライフスタイルに合わせて決めることが大切です。個人事業主になると、自分で事業を行う自由度が高くなりますが、リスクや負担も増えることを忘れないようにしましょう。個人事業主の所得が800万円以上になると、個人事業主よりも法人化した方がお得になるといわれています。
個人事業主の年収と手取り額は、税金や社会保険料によって大きく変わります。個人事業主として手取りを増やすためには、スキルアップや価格設定で年収を上げたり、経費や青色申告で課税所得を減らすほか、税理士に依頼する方法もあります。税理士への依頼を検討しようか迷っている方は、ぜひ、わたしたち「小谷野税理士法人」にお気軽にお問い合わせください。