事業所得があるすべてのフリーランスや個人事業主は、お金の流れを記録した「帳簿」を付けることが義務付けられています。しかし、仕事が忙しいと帳簿付けは後回しになってしまうことも。確定申告間際になって、帳簿を付けていないことに気づく方も多いのではないでしょうか。この記事では、帳簿が無いことによる具体的なリスクと、今からできる最低限の対策を解説します。
目次
帳簿がなくても確定申告は可能だが税務調査のリスクがアップ
確定申告では帳簿そのものを提出する必要は無いため、帳簿がなく、適当な数字を記載しても確定申告はできてしまいます。しかし、おすすめできません。税務署は、他の同業者と申告内容を比較してすぐ異変に気付きます。結果、税務調査が来る可能性を高めるだけです。
税務調査で帳簿が無いことや適当な帳簿であることが発覚すると、本来支払うべき金額より多くの金額を支払います。以下のペナルティなどが科される可能性があるためです。
帳簿を付けていない、もしくは帳簿が不完全な場合のペナルティ | 過少申告加算税 | 申告した税額が実際より少ない場合、新たに納めることになった税金の最大15%を追加で支払う。 |
帳簿の提出が無い場合等の加算税の加重措置 | 帳簿の提出を求められても帳簿が提示できなかったとき、過少申告加算税が最大10%上乗せされる。 | |
重加算税 | 意図的に不正な申告や隠蔽をしたと判断された場合、新たに納めることになった税金の最大50%を追加で支払う。 | |
延滞税 | 新たに納めることになった税金と上記加算税に加え、遅延日数に応じた利息金も支払う。 | |
青色申告の取り消し | 青色申告の承認が取り消され、青色申告の特典が受けられず納税額が増えることがある。 | |
実際に納めるべき税額より税金が高くなるリスク | 推計課税 | 同業者の売上や経費などを参考に、税務署が対象者の収入や支出を推定して税額を決定する。実際の所得よりも高く見積もられた場合、本来支払うべき税額よりも多額の税金を支払う。 |
仕入税額控除の対象外 | 売上時に受け取った消費税から、仕入れ時に支払った消費税を差し引く制度が受けられず、消費税全額を納税しなければならない。控除には帳簿と請求書等の保存が必要なため。 |
上記の他に追加で支払うものが発生するケースもあります。
だからといってそもそも確定申告を行わないのはもっと悪手です。「無申告加算税」として本来納めるべき税金の最大30%を追加で払ったり、延滞税が発生したりする場合があります。
帳簿が無いとしても、次の章で解説する「最低限の対処法」を参考にして、必ず確定申告を行いましょう。
参考:加算税の概要|財務省
参考:延滞税について|国税庁
参考:仕入税額控除のために保存する帳簿および請求書等の記載事項|国税庁
帳簿を付けていないときの最低限の対処法
帳簿を付けていなくても適切な対処をすれば、税務調査時のリスクを軽減できます。
必要な書類をかき集める
まずは、取引に関する書類や領収書を集めて整理しましょう。最低限、以下の書類を準備してください。
売上や収入が分かる書類 | 源泉徴収票、支払調書、通帳の取引履歴、レジの記録、領収書、振込明細など |
経費が分かる書類 | 仕入れ先からの領収書、備品購入のレシート、取引履歴、従業員に支払った給与の明細、光熱費や家賃の引き落とし金額が分かる通帳など |
開業時の書類 | 店舗の賃貸借契約書、内装費に関する書類など(賃貸料の証明や減価償却費の算定などに役立つ) |
手元に書類が無い場合は、相手業者に照会するとデータを貰えることがあります。また、銀行やカード会社なら明細の再発行を依頼可能です。すべての証拠書類が揃わなかったとしても、少しでも事実に近づくことでペナルティを最小限にできます。諦めずに集めましょう。
今からでも帳簿を付ける
上記の書類を月別に整理したら、エクセルや民間の会計ソフトなどを使って、日付・売上金額・仕入れ金額・経費・内容など必要事項を記帳していきます。最低限、「すべての収入を漏れなく記入する」「必要な経費を正確に記入する」の2点を意識してください。
すでに確定申告の提出期間なら、まとめたデータを国税庁e-Taxソフトや民間の会計ソフトに入力しましょう。帳簿のデータを元に自動で税金の計算が行われ、確定申告書類ができあがります。完成した書類のデータに不備がなければ、税務署へ提出しましょう。
もしも確定申告の締切まで本当に時間が無い場合は、最終手段です。だいたいの金額で確定申告と納税をします。後日、正確な金額が分かったらすぐに差額を修正申告すれば、ペナルティや延滞税を最小限にできます。
青色申告は最低限「仕訳帳」と「総勘定元帳」を付ける
青色申告を行う場合は、複式簿記での記帳が必要です。帳簿を付けていない場合は、主要簿に分類されている「仕訳帳」と「総勘定元帳」のふたつを最低限付けましょう。
まずは仕訳帳を作ります。仕訳帳とは、日々の取引を日付順に記録した帳簿です。資産の増加は「借方」、収益の増加や負債は「貸方」に分けて記入しましょう。「日付」「勘定科目」「金額」「摘要」が記載されている必要があります。
次に総勘定元帳です。総勘定元帳は、仕訳帳の記録を元に、すべての取引を勘定科目ごとに分類して記録します。
仕訳帳や総勘定元帳は、必要事項さえ網羅されていれば手書きでもエクセルでも構いません。しかしミスが発生しやすいため、自動転記機能のある会計ソフトを使うのがおすすめです。
余裕があれば、主要簿である「仕訳帳」と「総勘定元帳」を補完する補助簿を作りましょう。補助簿があると、税務調査が入った際に、取引の詳細を証明しやすくなります。補助簿はすべて作る必要はなく、必要なものだけでOKです。
補助簿には、主に以下の種類があります。
現金出納帳 | 現金の出し入れを記録する帳簿。家計簿のようなもので、現金の残高を確認できる。 |
売掛帳 | 売上が発生したが、まだ代金を受け取っていない取引を記録する。クレジットカードの売上など。 |
買掛帳 | 仕入れた商品やサービスの代金を後払いする取引を記録する。未払いの仕入代金など。 |
経費帳 | 事業に関連する経費を記録する。消耗品費・地代家賃・水道光熱費・給与賃金など。 |
固定資産台帳 | 10万円以上で購入し、長期にわたって使用する資産を記録する。パソコン・コピー機・事務机など。 |
預金出納帳 | 銀行口座間のお金の動きを記録する。通帳の内容を転記し、入出金の理由を記載する。 |
他にも、手形記入帳、債権債務記入帳、入金伝票、出金伝票、振替伝票、現金式簡易帳簿などがあります。
個人事業主の青色申告とは?いくらから必要?メリット・デメリットや帳簿の書き方などについて解説!
専門家などに相談する
帳簿の付け方が分からない場合は、帳簿の付け方指導などを行なっている機関や専門家に相談するのも手段です。
例えば、税務署では、無料の記帳指導会を設けています。しかし、記帳指導会は確定申告が近いシーズンには行われていないので、急ぎの場合は他の手段を検討しましょう。また、税務署は節税に対して積極的なアドバイスをしないので、節税に対しては自分で理解しておく必要があります。
税務署への無料相談は危ない?知っておくべきリスクと安全な相談方法をご紹介!
他にも、全国各地にある青色申告会では、会費を納めている会員を対象に、記帳や申告に関する相談を受け付けています。しかし確定申告が近いシーズンは相談が予約制になることが多いため、急ぎの場合は注意が必要です。
また、相談できる内容や回答は一般的なものにとどまり、専門性が高い内容は相談できません。
参考:青色申告会のサービス|一般社団法人全国青色申告会総連合
確定申告の締切が間近で余裕が無い場合は、税理士に相談しましょう。税理士は依頼者の状況に合わせて最適な対処法を提案し、正確な帳簿作りをサポートします。もしも税務調査が入ったとしても、税理士が対応するので安心です。
確定申告を税理士に頼む際の費用とは?相場と費用対効果を知ろう
確定申告が近いのに帳簿を付けてない!よくある質問
ここでは、よくある質問4点について解説します。
白色申告なら帳簿は付けなくてもいいと聞いたが?
白色申告でも帳簿を付ける義務があります。2014年以前は、事業所得が300万円以下の白色申告者は帳簿を付ける義務はありませんでした。しかし2014年以降は、白色申告でも記帳と帳簿保存が義務化されています。
白色申告なら、帳簿はノートに手書きでもいいの?
白色申告でも青色申告でも、ノートに手書きで帳簿を作ることは可能です。事務用品店などでは帳簿用のノートが販売されています。
ただし、手書きは書き間違いや計算ミス、転記の誤りなどが発生しても気付きにくいのがデメリットです。税務調査でミスが発覚すると多額のペナルティが発生する恐れもあるので、注意して記入しましょう。
過去20年も帳簿を付けておらず税務調査も来ていないが、今後も付けなくて良い?
今後は帳簿を付けましょう。なぜなら、すべての事業者に帳簿を付ける義務があるからです。過去20年間に税務調査が来ていなくても、今後来ないという保証はありません。
税務調査が来て帳簿が無いと発覚した場合、最大7年分の税金や延滞税、ペナルティなどをすべて支払う必要があります。
帳簿が無いのに税務調査が来たらどうすればいい?
収入や支出が分かる資料を可能な限り用意した上で、帳簿が無い理由を正直に調査官に話しましょう。
誠実に対応すれば、ペナルティなどの負担を軽減できる可能性があります。聞かれたことには嘘偽りなく答え、今後は適切に帳簿を作成する意志があると伝えましょう。
ペナルティを最小限にしたい方は、税務調査対応に強い税理士に相談するのがおすすめです。税理士は必要な書類の準備や税務調査への対応をサポートするだけではなく、今後適切な帳簿を作るためのアドバイスをしてくれます。
帳簿付けが苦痛なら税理士に相談しよう
事業所得がある場合、帳簿付けは避けて通れません。「忙しいのに膨大な時間を割かれる」「帳簿を付ける時間そのものはお金を産まない」など、帳簿付けを苦痛に感じている場合は、税理士に相談しましょう。
記帳業務を税理士に丸投げできれば悩む時間やストレスから解放され、目の前の業務に集中できます。また、自分では見落としていた節税方法が見つかる可能性もあります。
税理士に依頼すると、税務調査の面でも安心です。確定申告書に顧問税理士の表記があれば税務署からの信頼度が上がって、そもそも税務調査が来にくくなります。仮に税務調査が来たとしても、税理士の適切なサポートが受けられます。