個人事業主・法人ともに、基準期間の課税売上高が一定額を超えると消費税の確定申告および納税義務が生じます。個人事業主が消費税について正しい対応をするためには、消費税の計算方法や確定申告のやり方、納税義務が生じる条件等に関する理解が必要です。今回は消費税について個人事業主が押さえておくべき内容を詳しく解説します。
目次
個人事業主の消費税における確定申告とは?
消費税は所得税と同様に申告納税方式を採用している税金です。すなわち消費税の納税義務がある場合は、納税者本人が納付税額の計算をし、確定申告および納税を行う必要があります。
個人事業主の場合、消費税の申告および納付期限は3月31日です。なお、期日が土日祝に被る場合は翌平日にずれます。
消費税の確定申告が必要な個人事業主は?
消費税の申告・納付義務があるのは、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える事業者です。消費税の申告・納付義務がある事業者を課税事業者といいます。
個人事業主はその年の前々年が基準期間となります。すなわち前々年の課税売上高が1,000万円を超える個人事業主は消費税の確定申告が必要です。
個人事業主における消費税の計算方法
消費税の計算方法には原則(一般課税)と簡易課税の2種類があります。計算方法によって納税額が変わるため、消費税の負担を抑えるには有利な計算方法を選ぶことが大切です。消費税の計算方法について詳しく解説します。
原則(一般課税)
原則課税による納付税額の計算方法は以下の通りです。
納付税額=売上時に預かった消費税額(売上税額)-仕入れの際に支払った消費税額(仕入税額)
※売上税額から差し引く額を「仕入控除税額」、売上税額から仕入税額を差し引いて納付税額を計算する仕組みを「仕入税額控除」といいます。
例えば消費税率が10%で売上が1,000万、仕入や経費の合計が400万円の場合、売上税額は100万円、仕入税額は40万円になります。この場合の納付税額は100万円-40万円=60万円です。
簡易課税
簡易課税とは売上税額に業種ごとに定められたみなし仕入率を乗じた額を仕入税額とみなして、納付税額を計算する方法です。簡易課税では納付税額を以下のように計算します。
納付税額=売上時に預かった消費税額-売上時に預かった消費税額 × みなし仕入率
簡易課税で用いるみなし仕入率は事業区分ごとに以下のように定められています。
事業区分
みなし仕入率
該当する事業
第1種事業
90%
卸売業
第2種事業
80%
小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)
第3種事業
70%
農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業
第4種事業
60%
第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業
(飲食店業など)
第5種事業
50%
運輸通信業、金融・保険業 、サービス業(飲食店業を除く)
第6種事業
40%
不動産業
出典:国税庁公式サイト「No.6509 簡易課税制度の事業区分」
簡易課税の計算では実際の仕入税額は使いません。仕入れに係る消費税について、正確な税区分の設定や適用されている税率等の確認が必要ないため、納税事務にかかる負担を大幅に抑えられます。
ただし、簡易課税を選択できるのは基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者のみです。また、簡易課税制度の適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。
個人事業主が消費税の確定申告をする方法
個人事業主が消費税の確定申告をする方法は3種類です。それぞれ確定申告の進め方が違い、異なるメリット・デメリットを有するため、自分に合った方法を選びましょう。
確定申告書等作成コーナーでの作成
確定申告書等作成コーナーは国税庁がオンラインで提供しているサービスです。画面の案内に沿って必要な情報を入力するだけで、消費税の確定申告書の作成および提出ができます。
確定申告書等作成コーナーで消費税の確定申告をする流れは以下の通りです。
- 確定申告書の作成に必要な書類を準備する
- 確定申告書等作成コーナーのトップページを開き「作成開始」をクリックする
- 税務署への提出方法を選択する
納税者が自身で確定申告を行う場合の提出方法は「スマートフォンを利用してe-Tax」「ICカードリーダライタを利用してe-Tax」「ID・パスワード方式でe-Tax」「印刷して提出」の4種類です。 - 作成する申告書等の選択画面で「消費税」をクリックする
- 画面の案内に沿って必要事項を入力し、確定申告書が完成したら「3」で選択した方法で提出する
参考:確定申告書等作成コーナー
確定申告ソフトでの作成
市販されている確定申告ソフトを利用して確定申告書を作成する方法もあります。
確定申告ソフトで作成する主なメリットは以下の2つです。
- 入力した仕訳や連携データをもとに自動で集計・必要なデータの作成等ができる
- 所得税の確定申告書を作成した流れで消費税の確定申告書の作成に移れる
デメリットとして以下の2つが挙げられます。
- 消費税の確定申告に対応しているソフトが少ない
- 確定申告書の作成のみに対応したソフトの場合、システム上では確定申告書の提出ができない
確定申告書の作り方や提出方法はソフトによって異なるため、ソフトの案内をご確認ください。
手書きでの作成
消費税の確定申告書を手書きで作成することも可能です。
手書きで作成する場合、国税庁の公式サイトから確定申告書の様式をダウンロードして印刷するか、税務署の窓口で直接受け取りましょう。作成した確定申告書は以下の方法で提出できます。
- 税務署の窓口に直接持参する
- 税務署の時間外収受箱に投函する
- 税務署へ郵送する
PC操作に不慣れな人は手書きの方が作成しやすく感じるかもしれません。ただし手書きではPCで作成する場合と違い、転記ミスや書き損じ等の恐れがあるため注意が必要です。
個人事業主の消費税の確定申告の必要書類
個人事業主の消費税の確定申告に必要な書類は、消費税の計算方法によって異なります。計算方法別の必要書類について詳しく解説します。
一般課税の場合に必要な書類
一般課税の場合に提出が必要な書類は以下の通りです。
- 消費税及び地方消費税の確定申告書(一般用)
- 付表1-3 税率別消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表
- 付表2-3 課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表
出典:国税庁公式サイト「【消費税及び地方消費税の申告等】-Q27 消費税及び地方消費税の申告は、どのような申告書を使えばよいのですか。また、申告書を提出する際に必要な書類はどのようなものがありますか。」
上記の3つの書類は、国税庁の公式サイトまたは税務署の窓口で入手できます。e-Taxで作成する場合は、入力した情報をもとに自動で出力されるため、別途用意する必要はありません。
還付申告の場合は「消費税の還付申告に関する明細書」も必要です。申告書等と同じく、国税庁の公式サイトや税務署の窓口で入手できます。
簡易課税の場合に必要な書類
簡易課税の場合に提出が必要な書類は以下の通りです。
- 消費税及び地方消費税の確定申告書(簡易用)
- 付表4-3 税率別消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表
- 付表5-3 控除対象仕入税額等の計算表
出典:国税庁公式サイト「【消費税及び地方消費税の申告等】-Q27 消費税及び地方消費税の申告は、どのような申告書を使えばよいのですか。また、申告書を提出する際に必要な書類はどのようなものがありますか。」
簡易課税の場合は還付申告になることがありません。そのため「消費税の還付申告に関する明細書」はすべてのケースにおいて不要です。
2割特例の場合に必要な書類
2割特例とは、売上時に預かった消費税額の2割を納付税額とする方法です。インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった小規模事業者が選択できます。
2割特例の場合に提出が必要な書類は以下の通りです。
- 消費税及び地方消費税の確定申告書(一般課税用または簡易課税用)第1表
- 消費税及び地方消費税の確定申告書第2表
- 付表6 税率別消費税額計算表〔小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置を適用する課税期間用〕
2割特例の詳細については以下の記事をご覧ください。
関連記事:課税事業者必読!インボイス制度の2割特例をわかりやすく解説
個人事業主の確定申告の書き方
消費税の確定申告書は第1表から順番に書くわけではありません。消費税の確定申告書の書き方について、一般課税の場合と簡易課税の場合それぞれ詳しく解説します。
※なお、今回紹介するのは確定申告書を手書きで作成する場合の書き方です。確定申告書等作成コーナーや確定申告ソフトを使う場合、画面の案内に沿って入力を進めれば自動的に確定申告書が完成します。
一般課税の場合の書き方
まずは一般課税の場合の書き方を紹介します。
1.付表2-3から記入を進めていく
付表2-3は課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表です。付表2-3の記入を進めることで、納付税額の計算に必要な情報がそろっていきます。
2.付表1-3を作成する
付表1-3は税率別消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表です。付表2-3で計算した売上税額や仕入税額を転記する欄があります。
3.申告書第2表を作成する
付表1-3の内容を転記し、申告書第2表を作成します。転記ミスを起こさないよう注意しましょう。
4.申告書第1表を作成する
付表および申告書第2表から必要事項を転記します。
簡易課税の場合の書き方
簡易課税の場合も付表から作成します。大まかな流れは以下の通りです。
1.付表4-3と5-3を作成する
付表4-3と5-3には、お互いから転記が必要な項目があります。そのため付表4-3と5-3の作成は並行して進め、転記が必要な箇所があれば随時埋めていきましょう。
2.申告書第2表を作成する
付表の作成が完了したら、申告書第2表の作成を進めます。付表4-3から転記します。
3.申告書第1表を作成する
一般課税の場合と同様、申告書第1表の作成は最後です。付表4-3および申告書第2表から転記して項目を埋めていきましょう。
確定申告の際によくある疑問
個人事業主の消費税確定申告に関するよくある疑問を2つ紹介します。
課税売上高1,000万円以下の場合の消費税の確定申告
課税売上高が1,000万円以下の個人事業主の場合、通常は免税事業者として扱われるため消費税の申告義務はありません。
ただし、免税要件を満たしている個人事業主も「消費税課税事業者選択届出書」の提出によって課税事業者になることができます。届出を提出して課税事業者になった場合は、課税売上高が1,000万円以下でも消費税の確定申告が必要です。
課税売上高1,000万円以下の個人事業主が消費税の課税事業者になる理由として「インボイス発行事業者になるため」が挙げられます。インボイス発行事業者として登録できるのは課税事業者のみのため、インボイスを発行したい場合は課税事業者になる必要があるのです。
免税事業者を含め、個人事業主がインボイス発行事業者の登録をするメリット・デメリットについては以下の記事で解説しています。
関連記事:【税理士監修】インボイス制度が個人事業主に与えるメリット・デメリットは?押さえておきたいポイントについてわかりやすく解説!
確定申告の売上に消費税を含むかどうか
確定申告の売上に消費税を含むかは、採用している経理方式によって異なります。
税込経理方式の場合
税込経理方式とは、売上や仕入等の額に消費税を含む方式です。税込経理方式を採用している場合、確定申告の売上にも消費税を含める必要があります。
税抜経理方式の場合
前述した税込経理方式の反対で、売上や仕入等の額に消費税を含めず、消費税額を区分して処理する方法です。税抜経理方式の場合は確定申告の売上にも消費税を含めません。
なお、税込経理方式と税抜経理方式は好きな方を選択できますが、原則として選択した方式をすべての取引に適用する必要があります。
参考:国税庁公式サイト「No.6909 税抜経理と税込経理の選択適用(個人の場合)」
個人事業主が納税する消費税の節税ポイント
消費税の納付税額を抑えるためには、日頃から節税ポイントを意識することが大切です。個人事業主の消費税の節税ポイントを2つ紹介します。
売上を抑え経費を適切に活用する方法
1つ目のポイントは売上を抑え経費を適切に活用することです。
消費税は売上に係る消費税額から仕入税額を差し引いた額が納付税額となります。すなわち売上税額が少ない、もしくは経費が多い(仕入税額が多い)ほど、納付税額が少なくなる仕組みです。
売上を意図的に抑えるのは難しいため、仕入税額を増やす手段の方が重要となります。仕入税額を増やす具体的な方法として以下の例が挙げられます。
- 仕入や経費を漏れなく計上する
- 領収書等の証憑をなくさず適切に保管する
- 備品の購入や設備投資を行う
なお、当然ですが経費の水増しや不適切な会計処理は厳禁です。
事業にあわせた課税方式の選択
事業にあわせた課税方式の選択も大切です。
消費税の計算方法には一般課税と簡易課税の2種類があると紹介しました。それぞれ計算方法が異なるため、消費税の納付額も変わります。
仕入等が売上高に占める割合よりみなし仕入率の方が大きい場合、簡易課税の方が仕入控除税額が大きくなるため納付税額が少なく有利です。反対に仕入や経費が多いケースや、大規模な設備投資を行うケースでは、一般課税の方が仕入控除税額が大きくなりやすいでしょう。
一般課税と簡易課税のうち、納付税額が少なくなりそうな方を選ぶのがおすすめです。
まとめ
前々年の課税売上高が1,000万円を超える個人事業主は課税事業者になるため、消費税の確定申告が必要です。必要書類や確定申告書の書き方は一般課税と簡易課税のそれぞれで異なります。
個人事業主が消費税について適切な対応をするには、消費税の仕組みや確定申告について理解を深めることが大切です。
なお、消費税の確定申告には複雑な部分も多く、事業者だけで正確に対応するのはハードルが高い可能性があります。消費税の確定申告について疑問や不安があれば、専門家である税理士に相談しましょう。