在庫処分が節税になると聞いたことはあるけど、どのように扱えばよいのか分からない、過剰在庫に悩んでいるといった方は少なくありません。本記事では、在庫処分による節税効果や在庫処分の方法について解説します。在庫処分による節税について知りたい方はぜひ本記事を参考にしてください。
目次
過剰在庫は課税対象になる?
需要を上回る在庫を抱えている状態を過剰在庫と呼びますが、この在庫自体に税金が課されるわけではありません。
売上原価はあくまで実際に売れた分だけが対象で、抱えている在庫は売上原価にはなりません。そのため、在庫を多く抱えているほど経費が少なくなるという仕組みになっているのです。
過剰在庫の消費税
過剰在庫に対する消費税は、在庫を仕入れる時点で計算するため売却できたか否かは関係ありません。しかし、課税業者から免税業者に変更になったり、免税業者から課税業者に変更になったりした場合は注意が必要です。
課税業者から免税業者へと変更する場合は、期末在庫分の消費税はその期の仕入控除税額に含めることができません。反対に免税業者から課税業者へと変更する場合は、免税事業者のときに仕入れた在庫が残っていれば、その分の消費税を仕入控除税額に含めることができます。
また、基準期間の課税売上高が1,000万円以下の企業は、消費税の納税が免除になる可能性があることにも留意しておきましょう。
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経費として計上できる費用
在庫に関しては、購入した代金のみが資産になると認識している人も少なくありませんが、実際は販売や検収にかかった費用も資産に含まれます。
このような費用の中でも、取得価額に含めないことができるものがいくつかあります。ただし、経費にできる費用の合計は、在庫の購入代金のおよそ3%という条件があるため注意しましょう。経費として計上できる費用は以下の通りです。
- 買入事務や検収、整理、選別、手入れなどにかかった費用
- 特定の時期に販売するために必要な保管費用
- 販売所間の移動による運賃および荷造費
- 製造後の検査や検定、整理、選別、手入れなどにかかった費用
- 製造所から販売所までの運賃および荷造費
また、上記以外にも取得価額に含めない費用があり、国税庁のHPには以下のように記載されています。
次に掲げるような費用の額は、たとえ棚卸資産の取得又は保有に関連して支出するものであっても、その取得価額に算入しないことができる。(昭55年直法2-15「五」、平5年課法2-1「四」、平15年課法2-7により改正)
(1) 不動産取得税の額
(2) 地価税の額
(3) 固定資産税及び都市計画税の額
(4) 特別土地保有税の額
(5) 登録免許税その他登記又は登録のために要する費用の額
(6) 借入金の利子の額
次に掲げるような費用の額は、製造原価に算入しないことができる。(昭50年直法2-21「12」、昭52年直法2-33「4」、昭55年直法2-8「十六」、昭58年直法2-11「四」、平2年直法2-1「五」、平11年課法2-9「六」、平12年課法2-19「六」、平15年課法2-7「十三」、平15年課法2-22「六」、平20年課法2-5「十」により改正、平23年課法2-17「十」、令元年課法2-10「五」により改正)
(1) 使用人等に支給した賞与のうち、例えば創立何周年記念賞与のように特別に支給される賞与であることの明らかなものの額(通常賞与として支給される金額に相当する金額を除く。)
(2) 試験研究費のうち、基礎研究及び応用研究の費用の額並びに工業化研究に該当することが明らかでないものの費用の額
(3) 措置法に定める特別償却の規定の適用を受ける資産の償却費の額のうち特別償却限度額に係る部分の金額
(4) 工業所有権等について支払う使用料の額が売上高等に基づいている場合における当該使用料の額及び当該工業所有権等に係る頭金の償却費の額
(5) 工業所有権等について支払う使用料の額が生産数量等を基礎として定められており、かつ、最低使用料の定めがある場合において支払われる使用料の額のうち生産数量等により計算される使用料の額を超える部分の金額
(6) 複写して販売するための原本となるソフトウエアの償却費の額
(7) 事業税及び特別法人事業税の額
(8) 事業の閉鎖、事業規模の縮小等のため大量に整理した使用人に対し支給する退職給与の額
(9) 生産を相当期間にわたり休止した場合のその休止期間に対応する費用の額
(10) 償却超過額その他税務計算上の否認金の額
(11) 障害者の雇用の促進等に関する法律第53条第1項《障害者雇用納付金の徴収及び納付義務》に規定する障害者雇用納付金の額
(12) 工場等が支出した寄附金の額
(13) 借入金の利子の額
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在庫処分による節税効果
在庫を処分すれば経費が増え、課税額を抑えられます。以下では、在庫処分がどのように節税に繋がっていくのかを解説していきます。
棚卸資産の減少で節税になる
過剰在庫を処分することで棚卸資産が減少し、結果として節税に繋がります。すでに解説しましたが、売上総利益は売上高-売上原価で求められます。この売上原価は抱えている在庫の仕入れ価格ではなく売れた在庫の仕入れ価格なので、在庫である棚卸資産が減少すれば売上総利益も低くなるのです。
加えて過剰在庫を処分することで保管にかかるコストも削減でき、それらを管理する人件費も抑えられます。また、金融機関から借入をしている場合は決算書で在庫状況を確認されるため、過剰に在庫を抱えていれば評価が下がる恐れがあります。過剰在庫を処分すれば金融機関からの評価を上げることにも繋がるため、得られるメリットは多いと言えるでしょう。
赤字部分を損金算入できる
在庫処分と聞くと廃棄をイメージする人も少なくありませんが、赤字で販売することで赤字部分を損金算入するのも節税手段の1つです。在庫処分は廃棄に比べて少しでも収益を得られることに加え、売却分の仕入価格を売上原価に計上できるため廃棄よりもおすすめの方法と言えます。
評価損の計上
抱えている在庫の中には、売りたくても売れない滞留在庫というものがあります。滞留在庫は決算の際に時価が仕入れ価格よりも下がっていれば、その差額を評価損として計上できる仕組みになっています。
評価損を計上するためには一定の条件を満たしている必要があり、その条件について国税庁のHPでは以下のように記載されています。
(1) いわゆる季節商品で売れ残ったものについて、今後通常の価額では販売することができないことが既往の実績その他の事情に照らして明らかであること。
(2) 当該商品と用途の面ではおおむね同様のものであるが、型式、性能、品質等が著しく異なる新製品が発売されたことにより、当該商品につき今後通常の方法により販売することができないようになったこと。
評価損として計上するのは簡単なことではありません。しかし、評価損を計上できれば事実に即した決算書の作成が可能です。
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在庫処分の方法
在庫処分がどのように節税に繋がるかについては解説しましたが、実際に在庫を処分するにはどのような方法があるのでしょうか。以下では在庫処分の方法を4つ紹介していきます。
値引きして販売する
すでに解説しましたが、過剰在庫は廃棄するよりも赤字で販売した方が収益効果があります。店舗で商品を販売する事業形態であれば、値引きして販売すると良いでしょう。値引き販売の方法には、決算セールのように期間限定で値引いて販売する方法と過剰在庫のみを値引き金額で常時販売する方法があります。
廃棄処分する
在庫処分の方法のなかでも確実に処分できる方法が廃棄処分です。仕入れた商品や製造した商品を処分することに抵抗感がある人も少なくありませんが、多くの在庫を抱えていると保管場所や人件費もかさみます。
在庫を廃棄処分する場合は、廃棄損の証拠として産廃業者の請求書や領収書、廃棄した在庫の写真などを保管しておくと安心です。
業者間オークションに出す
企業同士がオークションを通して在庫品を売買することを業者間オークションと呼びます。業者間オークションには販売制限が付けられる、小口販売ができるといったメリットがあり個人間オークションと比べて適正な価格での取引が期待できます。
買い取り業者に依頼する
過剰在庫をまとめて処分したい場合は、買い取り業者に依頼する方法がおすすめです。業者間オークションや値引き販売は売れるまでに時間がかかる可能性があります。買い取り業者に依頼すると、過剰在庫をまとめて処分できます。
しかし、過剰在庫は言わば売れ残った商品なので、買取価格は低めに設定されていることに留意しましょう。
在庫処分による節税効果と処分方法を理解しよう
過剰在庫を処分することは節税に繋がると言われてます。具体的には、在庫処分によって棚卸資産が減少したり値引き価格で販売し赤字部分を損金算入したりすることで節税に繋げられます。
在庫処分には値引き販売や廃棄処分、業者間オークション、買い取り業者への依頼といった方法があります。どの処分方法を選択するかは、抱えている在庫や状況によって考えるといいでしょう。
仕入れや製造を行った在庫を処分することを残念に感じる人も多くいますが、節税や保管にかかるコスト、人件費などを考慮して処分を検討してみましょう。