個人事業主である程度の収益を得られるようになると、法人化を検討する方が増える傾向にあります。
法人化すれば信用度が高まって資金調達しやすくなることや、税金対策に有利になることなど、さまざまなメリットがあります。
しかし、法人化して後悔するようなケースも少なくありません。法人化して後悔しないためにも、後悔する原因や後悔しないための対処法について知っておきましょう。
目次
法人化を後悔する9つのケース
法人化には多くのメリットもある反面、デメリットやリスクもあることを理解しておかなければなりません。
法人化を後悔するようなケースとして、以下のようなものが挙げられます。
節税効果が少ない
法人になれば税金面で有利になると考え、法人化する方も多いでしょう。
しかし、実際には法人化しても節税効果があまり得られないようなケースもあります。むしろ法人化によって納税額が増えてしまうケースもあり、後悔することになってしまいます。
個人事業主の税金は「所得税」で、累進課税制度により所得が高くなるほど支払う税金が多くなる仕組みです。
一方で、法人は「法人税」として税金を支払うため、個人事業主とは仕組みが異なります。法人税は非累進課税制度が導入されており、年間所得800万円以下の部分は15%、800万円を超える部分は23.20%と区分されています。
つまり、利益が少ない場合は個人事業主のままでいる方が税率が低いため、法人化で節税効果があまり得られないといえます。所得が高ければ一定の税率に抑えられる法人の方が節税に有利です。
また、法人化すれば、法人税以外にも法人住民税などさまざまな税金の支払いが生じるため、一定の利益を得ていなければ法人化による節税効果は低いといえるでしょう。
起業における税金に関しては、以下の記事を参考にしてください。
関連記事:起業後の税金にはどんな種類がある?個人事業主・企業の税金について詳しく解説
法人を設立するコストが高い
個人事業主の開業は税務署に開業届を提出するだけなので手間や費用がかかりませんが、株式会社を設立して法人化するには費用と手続きが必要です。
法人化するために必要となるコストは、25万円程です。基本的に必要となるコストの詳細は、以下の通りです。
定款認証(紙定款)印紙代 | 40,000円 |
定款認証手数料 | 32,000円(資本金によって最大52,000円) |
登録免許税 | 150,000円 |
法人の設立を税理士などの専門家へ依頼すれば、さらに費用がかかります。
会社設立にかかる費用を把握していなければ想定外の大きな支出になるため、後悔することになるでしょう。
ランニングコストの負担が大きい
法人化すると個人事業主とは異なり、ランニングコストの負担が大きくなります。
まず、法人化すれば社会保険の加入が義務付けられます。社長1人の会社であっても法人は社会保険へ加入しなければなりません。社会保険料の半分を会社が負担することになるため、従業員が増えるほど保険料の負担は大きくなります。
また、オフィスを構えれば家賃や光熱費、通信費などの固定費を払い続けなければなりません。とくに従業員の給与は人件費として経費の大半を占めることになります。
法人化によってランニングコストの負担が大きくなったことで、個人事業主のままでいれば良かったと後悔するケースもあるでしょう。
お金を自由に使えなくなる
法人化することで、稼いだお金の使い道に制限が生じてしまうことも後悔する理由の一つに挙げられます。
個人事業主の場合、事業で得た利益は事業主の所得になるので、自由に使えます。
しかし、法人化すれば、事業で得た利益は自由に使えません。利益は会社のお金になるため、経営に必要な固定費や人件費、銀行への返済などに使われます。
法人と個人の資産とは異なるものとして考えられます。代表者であっても会社のお金を個人的に使うことはできません。会社からの役員報酬として受け取ることになります。事業で大きな利益を得たとしても、役員報酬として一定の金額が支払われることになり、その金額は1年間変更できないなど制約があります。
万が一、法人のお金を個人的に使ってしまえば、横領として扱われるので注意が必要です。
事務作業や手続きの手間が増える
法人化すれば、事務作業や手続きの手間が増えます。複雑な事務作業や手続きでの処理も多いため、法人化したことを後悔するようなこともあるでしょう。
法人は年に一度は決算を行い、税務申告や決算公告をする義務が法律によって定められています。これらの手続きには専門的な知識が必要であり、個人の確定申告よりも複雑です。そのため、自力で作業することは困難であり、税理士に任せることが一般的です。
その他にも、従業員の管理や定款の変更申請など、法人化すれば手間のかかる事務処理や作業は多数あります。知識のある従業員を雇えば解決しますが、その分の人件費が発生します。
経営方針を自由に決められない
個人事業主の場合は、事業をどのように進めるか自分自身で自由に決められます。
しかし、法人化すれば、経営方針を代表者が自由に決めることはできません。法人では出資者や他の役員が関わっているため、経営方針について他者の意見が入ります。自分とは異なる意見を受け入れなければならない場合もあれば、意見が食い違ってトラブルになることもあるでしょう。
法人化して自身が代表者であったとしても、共同経営者や出資者にも発言権があります。そのため、自分だけの意見を通すことは難しいといえます。
自分のやりたい事業のために法人化しても、経営方針に関する自由度が失われて後悔することもあるでしょう。
精神的な負担が大きい
法人化すれば、経営者として責任が増すため精神的な負担は大きくなります。
従業員が増えるほど、従業員の生活や将来への責任を感じてプレッシャーを抱えることも少なくありません。従業員だけではなく、金融機関からの融資などを受ければ売上に対する不安やストレスを感じることもあるでしょう。
また、税務に関する業務も複雑になるため、税務調査が入らないかと不安になるケースもあります。
赤字でも税金の支払いがある
個人事業主は赤字ならば、所得税や住民税が発生しません。しかし、法人化すれば売上が赤字だったとしても、支払わなければならない税金があります。
法人の場合、法人住民税というものがあり、法人税割と均等割りの2つの方法で算出されます。法人割税割は、法人税の金額で税額が変動するため、赤字ならば免除される部分の法人住民税です。
一方で、均等割は法人税の金額で税額が変動することはなく、資本金や従業員数によって地域ごとに決められた税額です。均等割の部分は赤字でも免除されないため、必ず支払いが発生します。
赤字で苦しい時に税金を納めることは大変ですし、法人化したことを後悔することがあるかもしれません。
簡単に廃業できない
法人化したものの予想よりも売上を得られないことや、資金繰りが苦しくなってしまうようなこともあるでしょう。法人化して事業が上手くいかなければ廃業すれば良いと考えるかもしれませんが、法人は簡単に廃業できません。
法人が廃業するための手続きには、時間と手間がかかります。
廃業するにあたって解散決議や清算人の選定が必要ですし、債権者への告知や財産の清算、解散登記など手順を踏みながらさまざまな手続きを進めていかなければなりません。一般的に、廃業に要する期間は2カ月以上といわれています。
また、解散登記にかかる登録免許税や官報公告費用などが発生し、廃業する手続きに最低でも7~8万円は必要です。未納の税金も清算しなければならず、廃業にはコストがかかります。
法人化を後悔しないための対処法
法人化して後悔するケースについて解説しましたが、原因の多くは想定外のことが起こったことによる後悔です。法人化する前に入念に準備を整えれば、後悔するようなことにはならないでしょう。
法人化を後悔しないためにできる対処法には、以下のようなことが挙げられます。
法人化するタイミングを適切に判断する
法人化して後悔しないためには、法人化するタイミングを適切に判断することが大切です。
「法人化しても事業内容は変わらない」と法人化することを軽視して手続きをすれば、設立後に想定外の労力や出費が発生し、後悔することになります。法人化してからの事業計画や資金繰り、経営方針などについて事前に計画を立てて準備するようにしましょう。
法人化に適したタイミングは、以下の通りです。
- 所得税の税率が上がり、法人化すれば節税効果を得られる
- 年間売上が1000万円以上を超え、安定している
- 今後の事業拡大に向けて資金調達をしたい
- 大口の取引が増加している
安易な考えで法人化すると後悔することになるため、法人化のタイミングに適しているのかじっくり検討しましょう。
個人事業主から法人成りについての詳しい内容は、以下の記事を参考にしてください。
関連記事:【税理士監修】会社設立する売上目安とは?個人事業主の所得・年商ならいくらから?法人成りのメリット・デメリットも紹介
法人化してからの税金について学ぶ
法人化して後悔することの多くは、「節税効果が得られない」「赤字でも納税が必要」「税金の手続きが複雑」など税金に関することです。
法人と個人事業主では税金の仕組みが大きく異なります。法人ならではの税金の仕組みを理解していれば、法人化による税金面での後悔を軽減できるでしょう。
知識のないまま法人化すれば、気付かぬ間に法令に違反するようなことをしてしまうかもしれません。そうなれば税務調査が入り、罰金などのペナルティを受けるリスクも出てきます。
専門家に相談する
専門家に相談してみることも、法人化で後悔しないための対策です。自分だけで解決しようとするのではなく、税理士など専門家の意見も聞いてみましょう。
税理士に相談すれば、法人化するタイミングや設立の手続き、資金調達、法人化してからの税金対策など法人化で後悔しないためのアドバイスを得られます。
とくに法人設立の手続きや、法人の税金の仕組みは複雑です。事業の状態に合った資本金や決算期、役員報酬など法人の設立には検討すべきことが多数あります。
知識と経験のある税理士に相談すれば、法人化を後悔しないように法人設立を進められるはずです。
あえて法人化しないという選択肢もある
法人化して後悔することになるならば、あえて法人化しないという選択肢もあります。
個人事業主として一定の所得を得ても、必ずしも法人化する必要はありません。ある程度の利益を得るようになっても、あえて法人化せずに個人事業主のまま事業を続ける方もいます。
実際、事業の拡大予定がないのであれば、法人化してもメリットを感じられにくいでしょう。法人化するメリットは、社会的信用度を高まり、資金調達が有利になるという点です。事業を拡大するつもりがないのであれば、無理をして法人化する必要はないといえます。
また、現在よりも事業の成長が望めない場合も、法人化する必要性はないでしょう。所得が高いほど法人化することで節税効果を期待できますが、売上が落ちてしまった時は個人事業主の方が税負担の面で有利です。そのため、成長が望めず、売上が下がる可能性があるのであれば、法人化するタイミングを考え直すべきです。
一方で、手続きや事務作業が複雑になるという理由で、法人化することを避けているのであれば法人化について検討すべきです。個人事業主のままでいるよりも手続きや事務作業は増えますが、税理士に任せることが可能です。
あえて法人化しないままでいるべきか、法人化すべきか、法人化のメリット・デメリットやデメリットへの対策を比較しながら検討しましょう。
法人化を後悔しないためにも専門家へ相談しましょう
個人事業主から法人化しても、法人化するメリットを必ず得られるとは限りません。とくに税金面や手続き、事務作業面で想定外の手間や支出が重なり、法人化しなければ良かったと後悔することもあるでしょう。
しかし、法人化を後悔しても簡単に法人を廃業できるというわけではありません。廃業にも手間やコストがかかります。
法人化を後悔しないためには、法人化する前にしっかりと事業や資金の計画を立て、専門家のアドバイスを得ることが大切です。税理士に相談すれば、法人設立に向き・不向きのアドバイスだけではなく、法人設立の手続きや税金面でのサポートも受けられます。
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