累進課税という税制は知っているけれど、税率については詳しく知らないという方は少なくありません。本記事では累進課税の税率や目的、種類について解説しています。累進課税の税率を知りたい方や累進課税についての理解を深めたい方はぜひ本記事を参考にしてください。
目次
累進課税とは
累進課税は所得税などに適用されている仕組みで、課税の対象額が多くなれば多くなるほど税率も上がる課税方式のことを指します。日本には、税率が10%または8%の消費税や総排気量で税額が変わる自動車税などさまざまな種類の税金がありますが、累進課税という方式が適用される税は多くはありません。
では、累進課税はどのような目的で導入されたのでしょうか。以下では、累進課税の目的について解説していきます。
累進課税の目的
累進課税は国民の所得格差をなくし、一人一人に合わせた納税ができるように導入されました。たとえば所得税の税率が33%の場合、所得1,000万円の人の所得税は330万円で手元には670万円が、所得300万円の人の所得税は99万円となり手元には201万円が残ることになります。
税率が同じになってしまうと670万円で生活する人と201万円で生活する人が出てくることになり、所得が低い人が生活に困ったり不公平感を抱く原因になります。しかし、所得1,000万円の人の税率はそのままで所得300万円の人の税率を10%まで下げれば、不公平感は拭われるでしょう。
このように、累進課税は経済的に余裕がある人から多く集め、余裕がない人の負担を軽くするという目的で作られた仕組みなのです。こうして集められた税金は、福祉や社会保障充実のために使われています。
累進課税の種類
経済格差を埋め、一人一人に合った納税ができるように作られた累進課税という制度には、単純累進課税と超過累進課税という2つの種類があります。以下では、それぞれの内容について解説していきます。
単純累進課税
単純累進課税とは、課税対象額が一定のラインを超えた場合に所得全体に係る税率が変化する課税方式です。たとえば所得300万円の人の税率が10%とすると、300万円×10%=30万円となります。
単純累進課税でポイントとなるのは税率のボーダーラインです。先ほどの例で出した所得300万円の場合の税金は30万円で手元に残るのは270万円となります。しかし、所得が330万円の人の税率は20%になるため330万円×20%=66万円となり手元に残るのは264万円となるのです。
このように単純累進課税では、税率のボーダーラインによって収入の差が少なくても納税額が極端に増えてしまいます。
超過累進課税
超過累進課税は、課税対象額が一定のラインを超えた場合に超えた部分に対してのみ税率が上がる課税方式です。現在の所得税ではこちらの方式が採用されています。
たとえば、所得300万円の人の場合は195万円以下には5%、195万円を超える部分には10%の税率が適用されます。
累進課税の対象
すでに解説しましたが累進課税が適用される税金は多くなく、所得税、相続税、贈与税にのみ適用されます。
所得税は、年間の所得に対して課税される税金のことです。会社員の場合は給与所得控除が差し引かれ、個人事業主の場合は経費を差し引くことができます。相続税は亡くなった方から財産を相続する際に課税される税金で、贈与税は生きている人から財産を譲り受ける際に課税される税金のことを指します。
参考:所得税のしくみ|国税庁
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累進課税の税率と計算の方法
累進課税は所得税、相続税、贈与税に適用されますが税率は税の種類によって異なります。以下では、それぞれの税率と計算方法を解説していきます。
所得税の税率
所得税の税率は7段階に区分されています。具体的な税率について、国税庁HPでは以下速算表が掲載されています。
課税される所得金額
税率
控除額
1,000円 から 1,949,000円まで
5%
0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで
10%
97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで
20%
427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで
23%
636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで
33%
1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで
40%
2,796,000円
40,000,000円 以上
45%
4,796,000円
※平成25年から令和19年までの各年分の確定申告においては、所得税と復興特別所得税(原則としてその年分の基準所得税額の2.1%)を併せて申告・納付することとなります。
たとえば、課税所得330万円の場合は税率が20%で控除額が427,500円なので、330万円×20%-427,500円=232,500円となり、232,500円が納税額となります。
相続税の税率
相続税の税率は遺産総額から基礎控除額を引いた金額に対して法定相続分どおりに遺産を分配したと仮定した場合の各相続人の取得金額によって決められています。具体的な税率について、国税庁HPでは以下の速算表が掲載されています。
<相続税の速算表>
法定相続分に応ずる取得金額
税率
控除額
1,000万円以下
10%
0円 1,000万円超から3,000万円以下
15%
50万円
3,000万円超から5,000万円以下
20%
200万円
5,000万円超から1億円以下
30%
700万円
1億円超から2億円以下
40%
1,700万円
2億円超から3億円以下
45%
2,700万円
3億円超から6億円以下
50%
4,200万円
6億円超
55%
7,200万円
たとえば、法定相続分に応ずる取得金額が3,000万円だった場合は3,000万円×15%-50万円=400万円となり、400万円が納税額となります。
贈与税の税率
贈与税は一般贈与財産と特例贈与財産で税率が異なります。贈与税の基礎控除額は110万円です。具体的な税率について国税庁HPでは以下の速算表が掲載されています。
<一般贈与財産用>(一般税率)
この速算表は、「特例贈与財産用」に該当しない場合の贈与税の計算に使用します。
例えば、兄弟間の贈与、夫婦間の贈与、親から子への贈与で子が未成年者の場合などに使用します。
基礎控除後の課税価格
税率
控除額
200万円以下
0%
0円 300万円以下
15%
10万円
400万円以下
20%
25万円
600万円以下
30%
65万円
1,000万円以下
40%
125万円
1,500万円以下
45%
175万円
3,000万円以下
50%
250万円
3,000万円超
55%
400万円
<特例贈与財産用>(特例税率)
この速算表は、贈与により財産を取得した者(贈与を受けた年の1月1日において18歳(注)以上の者に限ります。)が、直系尊属(父母や祖父母など)から贈与により取得した財産に係る贈与税の計算に使用します。
(注)18歳とあるのは、令和4年3月31日以前の贈与については20歳となります。
例えば、祖父から孫への贈与、父から子への贈与などに使用します(夫の父からの贈与等には使用できません。)。
基礎控除後の課税価格
税率
控除額
200万円以下
10%
0円 400万円以下
15%
10万円
600万円以下
20%
30万円
1,000万円以下
30%
90万円
1,500万円以下
40%
190万円
3,000万円以下
45%
265万円
4,500万円以下
50%
415万円
4,500万円超
55%
640万円
贈与税の具体的な税額計算は、次の(1)から(3)の計算例を参考にしてください。
(1)「一般贈与財産用」の計算をする場合
(2)「特例贈与財産用」の計算をする場合
(3)「一般贈与財産用」と「特例贈与財産用」の両方の計算が必要な場合
たとえば、1年間にもらい受けた財産が500万円で一般贈与財産に当てはまる場合、500万円-110万円=390万円が課税対象額となります。390万円を一般贈与の税率表に当てはめて390万円×20%-25万円=53万円なので53万円の納税が必要となるのです。
上記と同じ条件で、特例贈与財産に当てはまる場合は、390万円×15%-10万円=48万5千円の納税が必要となります。
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累進課税の種類と税率を理解しよう
累進課税は課税の対象額が多くなれば多くなるほど税率も上がる課税方式で、所得税や相続税、贈与税に適用されています。累進課税は一人一人の状況に応じた納税ができるように作られた仕組みで、不平等感や格差を小さくする役割があります。
累進課税には単純累進課税と超過累進課税という2つの種類がありますが、単純累進課税では、税率のボーダーラインによって収入の差が少なくても納税額が極端に増えてしまうといったデメリットがあるため採用されていません。
累進課税の税率は所得税、相続税、贈与税によって異なるため、それぞれの税率や計算方法を理解しておくことが大切です。