申告内容に不審な点があると税務調査が実施され、そこで否認されると追徴課税が発生する場合があります。帳簿の記載が正しくても、実態や証拠が伴っていなければ否認の対象になるためです。特に交際費・車両費・外注費・給与などは否認される事例が多い項目です。この記事では、否認されやすい事例や対策方法、否認された場合の対応などを解説します。
目次
否認とは?税務調査で否認されたら追徴課税が発生する場合も

そもそも「否認」とは何を意味するのでしょうか。ここでは否認に関する基礎知識を解説します。
否認とは「申告内容などが税務署から認められないこと」
「否認」とは、申告内容や経費の処理などが税務署に認められず、訂正を求められることを指します。帳簿の記載や経費処理が正しくても、実態や証拠が伴っていなければ否認の対象になる場合があります。
代表的なものは経費ですが、売上の未計上、所得の区分誤り、扶養控除、住宅ローン控除の要件違反なども要注意です。
一般的には、まず税務申告の内容を税務署が確認し、不審な点があれば税務調査が行われます。その結果、証拠不足や実態とのズレが見つかると、申告内容の一部が「否認」され訂正を求められます。
なぜ否認される?名目と実態のズレや証拠不足に注意
否認される主な原因は、以下の2点です。
- 帳簿上の処理と実際の取引内容が一致していない
- 実態を裏付ける書類が不足している
例えば帳簿で「車両費」や「旅費交通費」と処理しても、実際は私的利用が中心であれば、経費として否認される可能性があります。また、「会議費」として処理しても、議事録や出席者の記録がなければ「実態がない」と判断され、否認される可能性があります。
帳簿を付ける際は、名目どおりの仕訳と、証拠の保管の両方が重要です。
否認されると追加の納税義務が生じる恐れも
税務調査で否認されると、過少だった税金のほか、加算税などのペナルティを含む「追徴課税」が科される場合があります。
帳簿上の経費が過大だったり売上の申告漏れがあったりすると、課税所得が増加し、新たに所得税や法人税を納める必要が生じます。さらに、過少申告加算税や重加算税などの罰則的な税金が上乗せされる場合もあります。
例えばプライベートな飲食を「交際費」として経費に計上した場合、否認されればその金額分の法人税が再計算されます。さらに、故意の隠蔽と判断されれば「重加算税」が課される可能性もあります。
ただし、必ずしも全額修正になるとは限りません。税務署との協議次第では一部の修正で済む場合もありますし、悪質でなければ加算税が科されないケースもあります。納得できない場合は異議申立てや審査請求で争えます。
追徴課税の金額などについて詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:追徴課税とは?加算税の種類や計算方法、対象期間について解説
関連記事:経費が認められなかったら?税務署の呼び出しや罰則、注意したい経費とは
注意したい否認事例と対策:交際費・車・外注費・給与など

ここでは、否認されやすい事例と対策方法を解説します。
【交際費】プライベートとの区別が曖昧だと否認されやすい
交際費は、取引先との関係維持のために支出する飲食代や贈答費などを指します。
数ある経費の中でも交際費は、プライベートとの線引きが曖昧になりやすい傾向があります。領収書があっても、誰と・なぜ飲食したかを説明できなければ、経費として認められない恐れがあります。
否認されやすい事例 | 否認される理由 |
事業との関係性が不明確な会合 (出席者が家族・友人だけなど) | プライベートな飲食=経費ではないと判断されるから |
| 「実態がない」とみなされるから |
法人名義カードで支払った高額飲食 | 「実質は社長の個人的遊興費」と判断されるから |
否認されないための対策は下記の通りです。
- 摘要欄に「会社名・相手名・目的」を記載する(「XX商事 田中様 接待」など)
- 名刺・メール履歴・商談記録などを保存する
- 領収書だけでなく、前後のやり取りも補完資料として保存する
なお、個人事業主と法人では交際費の損金算入限度額が異なる点にも注意が必要です。
- 個人事業主:上限なし
- 資本金1億円以下の法人:「飲食費の50%」または「年間800万円まで」のいずれか有利な方
- 資本金1億円〜100億円以下の法人:飲食費の50%
- 資本金100億円超の法人:交際費はすべて損金不算入
否認されやすい具体例や、交際費についてもっと詳しく知りたい場合は下記の記事も併せてご確認ください。
関連記事:交際費の税務調査で否認されるケースとは?注意点と対策を徹底解説
【車】事業用と私用の区別が曖昧だと否認されやすい
車に関する費用は、事業に必要であれば経費にできますが、私用の線引きが曖昧だと経費として認められない可能性があります。
否認されやすい事例 | 否認される理由 |
プライベート用の車を事業用として全額経費計上 | 事業関連費用として認められないから |
家族の送迎やレジャーにも使っている車のガソリン代 | 事業と無関係な使用分が含まれているから(一部は経費にできる場合も) |
駐車場代や高速代を毎月経費にしているが使用記録がない | 「実態がない」とみなされるから |
否認されないための対策は下記の通りです。
- 走行記録表(日報)などで移動の目的・行き先・距離を記録しておく
- 私用でも使う場合は、事業と私用の使用割合を明確に分けておく
私用でも使っている場合は、全額を経費にするのではなく、使用割合に応じた按分処理をしましょう。按分処理について詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:社用車の経費はいくらまで認められる?購入・リース・減価償却のポイントを解説
関連記事:家事按分とは?経費にできる割合や目安、計算方法を解説
【退職金】支給金額や在職期間が不自然だと否認されやすい
退職金は、適正な金額・時期・手続きで支給されていれば、経費として認められます。しかし、金額が功績と見合ってなかったり、在職日数が極端に短かったりすると、否認される恐れがあります。
否認されやすい事例 | 否認される理由 |
在職期間が短い役員に多額の退職金を支給 | 功労に見合わないと判断されるから |
実際には退職していないのに退職金を支給 | 「実態がない」とみなされるから |
退職金規程や株主総会の決議がない | 支給の正当性を証明できないから |
退職金を経費にするには、金額・支給手続き・退職の事実が整っている必要があります。具体的な対策は下記の通りです。
- 退職金は在職期間・役職・功績に応じた妥当な金額で支給する
- 支給前に退職金規程を整備し、株主総会などで承認を得る
- 退職している事実が証明できるよう、退職届や辞令など証拠書類を保存する
- 家族役員などに対しては、特に客観的な支給理由・基準を適用する
退職金の目安や仕訳例など詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:役員退職金(役員退職慰労金)の損金算入時期は?計算方法や税金における注意点を解説
関連記事:従業員の退職金はいつ損金算入できる?適用時期と注意点を解説
【外注費】実態が従業員と同じだと「給与」とみなされ否認されやすい
外注費とは、業務を外部に委託した際に支払う費用で、雇用関係のない事業者への報酬などが該当します。しかし、その事業者の働き方が従業員と同じであれば「給与」とみなされる恐れがあるため注意しましょう。
外注費は給与と比べて、発注側の税負担が軽くなる傾向があります。外注費社会保険の負担がなく、消費税の仕入税額控除も適用できるためです。できるだけ外注費で処理したいと考える事業者が多いため、税務署は重点的にチェックする傾向です。
否認されやすい事例 | 否認される理由 |
外注契約だが勤務時間や勤務場所が固定されている | 雇用契約に近いと判断されるから |
外注先が指揮命令を受けて働いている | 発注側の管理下で働いていると判断されるから |
外注先の業務内容・出勤状況が社員と同じ | 実質的に雇用関係と判断されるから |
否認されないための対策は下記の通りです。
- 外注先とは請負契約書を交わし、報酬・納品・再委託の可否など条件を明記する
- 指揮命令や勤務場所の拘束がないことを、契約・実態の両面で徹底する
- 外注先が開業届を提出済みで、他の取引先もあることを確認する
- 納品書・請求書・振込記録など、取引実態を証明する書類を保存する
外注費が否認されて「給与」と判断されると、源泉徴収漏れ分の追徴税や加算税・延滞税が科される恐れがあります。また、社会保険の加入漏れについて年金事務所から是正指導を受けるケースもあります。
外注費の取り扱いについて詳しくは下記の記事も併せてご確認ください。
関連記事:税務調査で外注費が認められない?判断基準とリスクを解説
関連記事:【税理士監修】外注費と給与の違いは?判断基準や区分について
関連記事:親族に業務委託しても大丈夫?法人の外注費が否認されないポイント
【給与】実働と合っていない支払いは否認されやすい
給与は、実際の労働の対価として支払われ、経費にも計上されます。逆に言えば、働いた実態がないのに形式的に給与を支給していた場合、経費として認められない恐れがあります。特に役員報酬や家族への給与は、実働内容や金額の妥当性が重視されます。
否認されやすい事例 | 否認される理由 |
| 実働の実態がないとみなされるから |
職務内容や業務量と比べて給与が過大 | 金額の妥当性がないと判断されるから |
役員報酬を期中で自由に増減している | 原則として定期同額でなければ経費にならないから |
否認されないための対策は下記の通りです。
- 家族に給与を支払う場合でも、業務内容・時間・成果などを具体的に記録する(タイムカード・業務日報など)
- 給与金額は、他社相場や職務内容に見合った合理的な額に設定する
- 役員報酬は事前に株主総会で決議し、定期同額で支給する
役員報酬を設定する際の注意点など詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:役員報酬にかかる税金とは?計算方法とその節税の秘訣
税務調査で否認されたら?2つの対処法を解説

税務調査での否認事項を認める場合と、認めない場合の2つの対処法を解説します。
素直に否認事項を認めて修正申告する
否認された内容に納得できる場合は、できるだけ早く修正申告を行いましょう。速やかに行動すれば、延滞税などのペナルティを最小限に抑えられる可能性があります。
特に加算税は、対応が遅いほど重くなる仕組みです。そのため、申告内容に不安がある場合は、税務調査の実施を待たずに自主的に修正するのがおすすめです。
修正申告のタイミング | 過少申告加算税の割合 |
税務調査の事前通知前 | 0%(加算税なし) |
税務調査の事前通知後 | 5〜10% |
税務調査実施後 | 10〜15% |
参考:確定申告を間違えたとき|国税庁
参考:加算税の概要|財務省
ただし、修正申告を提出すると、その内容についての不服申立てはできなくなってしまいます。納得できない点がある場合は、修正申告すべきか専門家などに相談してから慎重に判断しましょう。
関連記事:修正申告とは?税務調査で修正申告が発生するのはどんな時なのか詳しく解説
関連記事:修正申告で延滞税はかかる?計算方法・納付方法・勘定科目も解説
否認事項に納得できない場合は不服申立てをする
否認に納得できない場合は、「再調査の請求」や審査請求などの「不服申し立て」ができます。納税者側に正当な主張があれば、否認の撤回や一部是正が認められるケースがあります。
関連記事:税金に関する不服申立
税務調査で否認され追徴課税が発生した場合の勘定科目
否認事項を認めて修正申告すると、本税の追加納付に加えて、加算税や延滞税といったペナルティも発生するケースがあります。
法人税などは、一般的に「法人税等」「法人税等調整額」といった勘定科目で仕訳します。否認により追加で納めたと分かるよう、摘要欄などに追加の旨を明記しておきましょう。
一方で、加算税や延滞税は「租税公課」が使われます。こちらも他の租税公課と混同しないよう摘要欄へ明記しましょう。
追徴課税で生じた税金はいずれも損金不参入ですのでご注意ください。
税務調査で否認されないか不安な方は税理士にご相談ください
この記事では、税務調査における否認について解説しました。
否認とは、申告内容などが税務署に認められないことを指します。帳簿と実態が食い違っていたり、証拠がなかったりすると否認される場合があります。否認されると、追加の納税義務が生じる恐れがあるため注意が必要です。
特に交際費や外注費、役員報酬などは否認リスクが高く、自己判断が難しいケースも多くあります。否認による追徴課税を防ぐには、日頃から誠実な帳簿処理をするのはもちろんですが、税理士のサポートを受けるのも有効です。
税理士のサポートがあれば、申告前に「これは危ないな」という処理を発見できます。また、仮に税務調査に発展しても税理士が立ち会えます。納得できない否認があれば、不服申し立てのサポートも可能です。





