消費税の計算において、小数点以下の端数が生じることがあります。特に、インボイス制度では請求書の記載ルールが変更され、消費税の端数処理にも新たな注意が必要となりました。事業者は、1円未満の端数について切り捨て・切り上げ・四捨五入の中から選択できます。しかし、端数処理には注意が必要なケースもあり、社内で統一のルールを決めておくことが大切です。
目次
消費税の小数点以下の扱い方
消費税の計算で生じる小数点以下の金額の扱い方には、「切り捨て」「切り上げ」「四捨五入」の3つの方法があります。切り捨ては小数点以下を無視し、切り上げは1円単位で上に丸め、四捨五入は小数第一位が5以上であれば1円単位で上に丸め、4以下であれば無視します。
切り上げ・切り捨て・四捨五入のどれでも良い
消費税の端数処理に関して、事業者は切り上げ・切り捨て・四捨五入のいずれかを選択してよいとされています。これは、国税庁および総務省のホームページにも明記されています。
適格請求書に記載すべき消費税額等の端数について 適格請求書の記載事項である消費税額等に1円未満の端数が生じる場合は、一の適格請求書につき、税率ごとに1回の端数処理を行う必要があります。 なお、切上げ、切捨て、四捨五入などの端数処理の方法については、任意の方法とすることができます。 |
例えば、商品の税抜価格が「111円」、消費税8%とします。このとき、税込み価格は「119.88円」となり、切り上げを選択すれば120円、切り捨てなら119円、四捨五入であれば120円として計算します。
消費税の端数処理は1円未満の金額に関するものであり、全体の取引における影響は小さいと考えられます。ただし、切り上げ・切り捨て・四捨五入などが発生すると、長期的に見ると大きな差になる場合があります。
インボイス制度の導入により、請求書の記載ルールが厳格化されましたが、端数処理に関しては依然として企業の裁量に任されています。法律上はどの方法を選んでも問題ないとされていますが、実務上は取引先との合意や顧客への配慮が必要です。
処理方法に一貫性を持たせることがポイント
消費税の端数処理においては、処理方法に一貫性を持たせることが重要です。「この商品は切り上げ」「この請求書は四捨五入」など、処理方法をバラバラに選択することは推奨されません。
端数処理の方法が一定でない場合、取引先との信頼関係にも影響する場合があります。また、計算方法に一貫性がないと税務申告時に誤差が生じる可能性があり、それが累積すると大きな金額の差異につながることもあります。
例えば、ある期間における複数の取引で端数処理を一貫して行わなかった場合、消費税の総額に影響を及ぼし、税務上の不整合が発生するリスクがあるのです。
さらに、内部での経理処理が一貫していれば、従業員の作業負担を軽減し、ミスの発生を防ぐことにもつながります。
インボイス制度導入後も、端数処理の一貫性は変わらず重要です。端数処理の方針を明確にし、全従業員が理解しやすい形で周知すると良いでしょう。
関連記事:地方消費税はどうやって計算する?消費税との違いや算出方法を解説
消費税の端数は切り捨て・切り上げのどちらが多い?
消費税の端数処理の方法は、事業者によって選択できるものの、どの方法を選ぶか迷うこともあるかもしれません。一般的には、どの方法を選択している企業が多いのでしょうか。
「切り捨て」を採用している企業が多い
消費税の端数処理において、切り捨てを採用している企業が多いとされています。
端数を無視することで、顧客や消費者に対して少ない金額を請求することになるため、価格競争においてもわずかながら有利に働くことがあります。また、請求書の計算において小数点以下を切り捨てることで、企業は税金を多く納めるリスクを避ける効果も期待できるでしょう。
上記の理由から、多くの企業が消費税の計算方法として切り捨てを選択しています。ただし、この方法が常に最善とは限らず、企業の方針や業界の慣習によって異なる場合もあります。
スーパーやコンビニでも「切り捨て」が多い
スーパーやコンビニエンスストアにおいても、消費税の端数処理に「切り捨て」を採用するケースが多く見られます。小数点以下を切り捨てることで、消費者にとってわずかでも安く感じられるため、購買意欲を高める期待も込められているかもしれません。
また、現在はインボイス制度の観点により不可とされていますが、複数の商品を購入する際は、単品ごとに消費税を計算してから合計する「積み上げ計算」と、商品の税抜き価格を合計してから消費税をかける「割り戻し計算」の2通りが存在していました。
当時はどちらを選択してもよいとされていましたが、2つの計算方法の間で「1円のズレ」が生じるケースもあります。過去には「ファミリーマートで100円のコーヒーを3つ買ったら300円だったのに、セブンイレブンでは301円で混乱した」と話題になったこともあります。
このような問題を受け、セブンイレブンは2021年5月から税込価格を小数点第2位まで表示するよう変更し、顧客の混乱を防ぐ措置を講じました。しかし、一般的には、切り捨てによる微小な差額は顧客にとっても店舗にとっても大きな影響は少ないと考えられており、「切り捨て」が広く採用されています。
参考:セブン、税込価格を「小数点第2位」まで表示へ 過去には「100円×3個=301円」問題で謝罪|ITmedia ビジネスオンライン
関連記事:【税理士監修】消費税の確定申告とは?やり方や計算方法、インボイス制度との関係
インボイス制度における端数処理の変更点
2023年10月1日から施行された「インボイス制度」では、消費税の端数処理におけるルールに変更がありました。仕入れ税額控除の還付を受けるためにも、以下の3点を把握しておきましょう。
適格請求書への消費税額の記載が必須
インボイス制度の導入に際して、適格請求書には消費税額の記載が必須となりました。適格請求書とは、取引内容と消費税額が正確に記載された公式な請求書です。消費税の適正な納税を確保するために導入され、税務上の透明性を高め、仕入税額控除の適用を可能にします。
以前は、端数処理のルールは特に定められておらず、消費税額の記載が必須ではありませんでした。しかし現在では、インボイス制度によって適格請求書に消費税額を明記し、端数処理に関しても明確な基準が設けられたのです。事業者は、より正確で透明な税務処理が求められています。
関連記事:個人事業主が納付する消費税とは|計算方法や納付の流れを解説
商品ごとの端数処理は不可
従来は商品ごとに端数処理が可能でしたが、インボイス制度下では認められません。消費税額の計算において商品ごとの端数処理は不可とされ、適格請求書あたり税率ごとに1回の端数処理を行うルールが定められました。これは、税率ごとに合計金額を算出した後、その合計金額に対して一回だけ端数処理を実施するというものです。
請求書全体で一度に行うことで、全体としての誤差を減らすことにつながります。これにより、税務上の透明性が向上し、税額控除が適用されます。
「積上げ計算」の選択も可能に
インボイス制度の導入により、課税期間全体にわたる消費税額の計算に、新たな選択肢が加わりました。これまでは「割戻し計算」のみが使用されていましたが、インボイス制度導入後は、事業者は「積上げ計算」または「割戻し計算」のどちらかを選べます。
積み上げ計算では、各請求書に記載された消費税額を単純に合計します。具体的な計算例は以下の通りです。
- 各請求書の消費税額を合計:6円 + 6円 + 6円 = 18円
この場合、3件の請求書に対する消費税額は合計で「18円」です。
一方、割り戻し計算は税込みの金額を合算し、その合計から消費税額を計算する方法です。この場合、税込み合計金額から税抜き金額を求め、その後に消費税率を適用して消費税額を算出します。具体的な計算例は以下の通りです。
- 税込み金額の合計を求める:90円 + 90円 + 90円 = 270円
- 税込み合計金額から税抜き金額を求める:270円 × ( 100 / 108 ) = 250円
- 税抜き金額に消費税率を掛けて、消費税額を算出:250円 × 8% = 20円
この場合、3件の請求書に対する消費税額は合計で「20円」です。積み上げ計算と比較すると、割り戻し計算の方が消費税額が高くなります。
インボイス制度では、売上に対する消費税の計算には割り戻し計算を、仕入に対する消費税の計算には積み上げ計算を使用することが一般的です。ただし、売上・仕入ともに割り戻し計算方式を選択することも可能です。
- 売上に対する消費税額の計算方法:割戻し計算
- 仕入に対する消費税額の計算方法:積み上げ計算
しかし、売上の消費税計算に積み上げ計算方式を選択した場合は、仕入の消費税計算にも積み上げ計算方式を選ばなければなりません。また、一度選択した計算方法は、その課税期間において一貫して適用する必要があるため、選択には注意が必要です。
なお、インボイスにおける消費税以外の特例等については、以下にて詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
関連記事:【税理士監修】インボイス少額特例とは?適用要件や活用方法をわかりやすく解説
消費税における小数点以下の処理方法を正しく理解しよう
消費税の計算における小数点以下の端数処理は、切り上げ・切り捨て・四捨五入の方法から自由に選択できます。しかし、インボイス制度の下では、適格請求書における端数処理に特定のルールが設けられています。取引先と端数処理の方法が異なっている場合など、社内でのルール決めも重要です。
また、端数処理を誤ると税務上の不整合が生じる可能性があるため、正確な処理が必要です。特に、インボイス制度や仕入税額控除の適用要件は複雑で、税理士など専門家の意見を参考にしたほうが良いケースも見られます。消費税の扱い方にお困りの場合や、自社のリソースだけでは正確な処理が難しい場合は、私たち「小谷野税理士法人」が全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。