当座貸越と当座借越は、どちらも会計処理で登場する言葉ですが、読み方が似ており混同しやすい会計用語です。それぞれの違いを理解すれば、会計処理での迷いはなくなります。本記事では、当座貸越と当座借越の根本的な違いから、実務で使われる2種類の仕訳方法まで、具体的な数字を交えながら分かりやすく解説します。会計処理の精度を向上させたい方は、ぜひ参考にしてみましょう。
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目次
当座貸越と当座借越の違いは?
当座貸越と当座借越の用語の違いはシンプルで、同じ取引を「どの立場から見るか」という視点の違いに過ぎません。
仕訳項目 | 視点 | 意味合い |
当座貸越 | 金融機関(銀行)の視点 | 企業にお金を「貸している」状態 |
当座借越 | 企業側がお金を借りる際に使う仕訳項目 | 金融機関からお金を「借りている」状態 |
金融機関が「貸した」記録に使うのが当座貸越、企業が「借りた」記録に使うのが当座借越です。1つの取引を「見る視点によって呼び名が変わるだけ」と捉えると、分かりやすいでしょう。
企業の会計担当者やフリーランスが帳簿に記録する際に用いる会計上の項目は「当座借越」です。「企業が使うのは借越」という基本を押さえておけば、混同するのを防げます。
当座借越の仕訳方法は2種類
当座借越の会計処理には、「一勘定制」と「二勘定制」があります。一勘定制は日々の処理がシンプルに済み、二勘定制は負債の状況をより正確に把握できる点が特徴です。どちらの方法を選択するかは、企業の経理方針によって異なります。
それぞれの特徴を正しく理解し、自社に合った方法を選びましょう。ここではそれぞれの方法について詳しく解説します。
一勘定制
「当座預金」の勘定科目だけで、入ってきたお金も、借りたお金もすべて管理します。残高を超えても同じ当座預金勘定で処理するため、帳簿上は残高がマイナスです。
メリットは以下の通りです。
- 記帳作業がスピーディーに進む
- 使用する勘定科目が1つで済む
デメリットは以下の通りです。
- 借金がいくらあるか分かりにくい
- 財産と借金が混在しお金の状況が見えにくい
日々の記帳は簡単ですが、企業の財務状況が少し見えにくくなる側面もあります。
二勘定制
当座預金(資産用)と当座借越(借金用)を、明確に分けて管理します。残高を超える支払いがあれば、その分を「当座借越」の勘定科目で記録します。
メリットは以下の通りです。
- 借入額が常に明確で分かりやすい
- 資産と負債が区別され資金繰りの精度が上がる
デメリットは以下の通りです。
- 記帳の際に手間が増える
- 取引ごとに適切な勘定科目を選ぶ必要がある
正確性を確保できる代わりに、日々の作業がやや複雑になります。資金の流れを一目で把握したい企業に適した方法と言えるでしょう。
会計処理におすすめは二勘定制
企業の財産と借金を明確に分けるという点を考慮すれば、会計の基本に忠実な二勘定制をおすすめします。会計の重要な役割は、企業のお金の流れを正しく把握することで、二勘定制は目的に最も適した方法であるためです。
ただし、借越の利用頻度が極めて低い場合や、日々の処理スピードを最優先したい場合は一勘定制も有効な選択肢です。企業が何を重視するかを考え、最適な方法を選びましょう。
当座借越の具体的な仕訳例
当座借越の仕訳はいくつかの型を覚えておけば、簡単に処理できるでしょう。支払い時、入金時、決算時という主要な場面での処理を理解すれば、実務でも慌てず対応が可能です。ここでは、実際の数字を見ながらお金の流れを追いかけてみます。
当座預金残高を超える代金を支払うケース
当座預金の残高以上に支払いをする場合、不足した分は「借金」として帳簿に記載します。ここでは「預金残高40万円の状態で、70万円の仕入れ代金を支払う」というケースで見ていきます。
一勘定制の仕訳例は以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
商品 | 70万円 | 当座預金 | 70万円 |
支払い額70万円をそのまま記録し、結果として当座預金勘定はマイナス30万円です。上記の処理を行えば、特別な対応は必要ありません。
二勘定制の仕訳例は以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
商品 | 70万円 | 当座預金 当座借越 | 40万円 30万円 |
元々あった預金40万円を使い、不足した30万円は「当座借越」という借金の勘定で記録します。一勘定制も二勘定制も理解しておけば簡単に処理できるため、時間のあるときに覚えてしまいましょう。
当座借越がある状態で当座預金口座に入金されたケース
借越(借金)がある状態で入金があった場合、そのお金はまず自動的に借越の返済に回されます。「当座借越が70,000円ある状態で、売上10万円が入金された」というケースで解説します。
一勘定制の仕訳例は以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
当座預金 | 10万円 | 売上 | 10万円 |
入金額10万円をそのまま当座預金の増加として記録します。マイナス70,000円だった残高が、プラス30,000円に変わります。
二勘定制の仕訳例は以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
当座預金 当座借越 | 30,000円 70,000円 | 売上 | 10万円 |
入金10万円のうち、70,000円でまず借金(当座借越)を返済します。残った30,000円が純粋な預金の増加分です。
2つのケースを紹介してきましたが、どちらも難しくはありません。両方のケースを理解して、正確な会計処理を心がけましょう。
決算時の処理方法
決算日時点で借越(借金)が残っている場合、企業の決算書に「短期的な借越(借金)」として正しく載せるため、一時的に勘定科目の名前を替える作業が必要です。
「期末に借越が20万円残っている」場合の仕訳は以下の通りです。
勘定方法 | 借方 | 貸方 | ||
一勘定制 | 当座預金 | 20万円 | 短期借入金 | 20万円 |
二勘定制 | 当座借越 | 20万円 | 短期借入金 | 20万円 |
どちらの方法でも、最終的に「短期借入金」という正式な負債の科目に集約されます。年度が明けたあと、勘定科目を元に戻し、通常の状態に戻すための再振替仕訳を実行します。
勘定方法 | 借方 | 貸方 | ||
一勘定制 | 短期借入金 | 20万円 | 当座預金 | 20万円 |
二勘定制 | 短期借入金 | 20万円 | 当座借越 | 20万円 |
決算をまたぐ場合は、期末と期首の一連の処理をセットで覚えておきましょう。
会計処理でミスしないための注意点
ここでは、会計処理でミスを防ぐための注意点を解説します。仕訳に使う勘定科目や計上するタイミングなど、見落としがちなポイントに注意が必要です。
大切なポイントを事前に把握しておけば、ミスを防ぎ、会計処理の精度が高まります。会計処理に不安がある方は、ぜひ参考にしてみましょう。
当座貸越は仕訳では使わない
繰り返しになりますが、企業の会計担当者が「当座貸越」という勘定科目を使うことは一切ありません。当座貸越は金融機関側が使う用語です。私たちが帳簿に記録する際に使うのは当座借越であると、はっきり区別しましょう。
当座借越の契約をしただけでは仕訳をしない
金融機関と当座借越契約書にサインしただけでは、帳簿に何も書く必要はありません。お金が実際に動いてからが、会計担当の出番です。
契約はあくまで「いざというときに借りられる権利」を得ただけで、資産や負債に変動はないからです。会計担当の方は契約したからといって、焦る必要はありません。必要なときに適切に処理を行いましょう。
不渡りがないか確認する
契約で定められた限度額を超えて支払いをすると、不渡りという重大な事故につながります。不渡りは企業の信用に傷をつけるため、絶対に避けなければなりません。
特に一勘定制では借入額が見えにくいため、定期的に残高を確認し、限度額を常に意識する体制が不可欠です。
ただし、不渡りを正確に把握しておけば、資金繰りのリスクを未然に防げます。会計担当の方は、不渡りを把握しておきましょう。
当座借越は長期借入金とは違う
当座借越は、1年以内に返済するのが前提の「短期借入金」に分類されます。1年を超える返済期間の「長期借入金」とは異なるため、決算で勘定科目を振り替えるとき、必ず短期借入金を使います。
区別を間違えると、企業の財務状況を誤って示すことになるため注意しましょう。
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よくある質問
ここでは、当座借越に関して寄せられる質問と回答をまとめました。
当座借越のメリットは?
急な支払いが重なっても、残高不足を気にせず対応できる点がメリットです。契約さえしておけば、限度額まで審査なしで自動的に資金を調達できます。いざというときの資金繰りに便利です。
当座借越のデメリットは?
契約時の審査が厳しい点がデメリットです。金融機関は返済能力や信用力を慎重に判断するため、業績が不安定な場合は契約できないケースもあります。利用したくても、誰でもすぐに契約できるわけではない点は理解しておきましょう。
当座借越を利用できるのは法人のみ?
個人事業主でも利用できます。法人か個人かという区分ではなく、金融機関と当座預金取引があり、所定の審査を通過すれば契約が可能です。事業の形態に関わらず、短期的な資金繰りの手段として活用できます。
当座貸越と当座借越の違いを正しく理解しよう
当座貸越と当座借越は、同じ取引を金融機関と企業、それぞれの視点から見た呼び方の違いです。企業の会計処理では、当座借越を二勘定制で処理すれば、財務状況を正確に把握できます。
もし、自社での判断に迷ったり、より高度な資金管理を目指したい場合は、専門家である税理士への相談がおすすめです。会計処理は企業のお金の流れを支える大切なプロセスです。
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