令和7年の税制改正では、個人所得課税や中小企業の成長支援、国際課税の見直しなどさまざまな視点から改正が行われました。
本記事では、税制改正によって延長が決定した企業版ふるさと納税の概要や変更点について解説していきます。企業版ふるさと納税をすることのメリットやデメリットも併せて解説しているため、企業版ふるさと納税に関心がある方はぜひ本記事を参考にしてください。
目次
企業版ふるさと納税とは
企業版ふるさと納税は正式には地方創生応援税制という名前で、市区町村が独自に行う地域創生に対する寄付のことを指します。
通常、企業が寄付を行うと特別な手続きをせずに損金算入できますが、企業版ふるさと納税の寄付額を損金算入する場合は下記の手続きが必要です。
- 「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」の寄付が可能か市区町村に確認する
- 寄付の方法について企業と担当部署とで話し合い、決定する
- 寄付申請書を提出する
- 市区町村から送られてくる納付所を使用して寄付金を支払う
- 市区町村から送られてくる受領書を添付して確定申告をする
企業版ふるさと納税では、個人で行うふるさと納税のように返礼品はなく、寄付額の最大9割相当額を法人税から税額軽減できる仕組みになっています。この9割とは、損金算入による軽減効果が寄付額の約3割と6割の税額控除で構成されています。企業版ふるさと納税の下限額は10万円で、寄付だけでなく企業の人材を地域創生事業に派遣し、人件費を寄付金として処理することも可能です。
関連記事:法人も寄付金控除は適用される?法人税の損金算入についても解説
企業版ふるさと納税における損金算入と税額控除
損金算入とは、益金から損金を差し引くことを指します。企業版ふるさと納税を行った場合、寄付金額のおよそ3割を損金算入できます。損金算入することで所得額が抑えられるため、結果として税負担が軽くなるのです。
一方、税額控除とは計算した税金から直接差し引ける控除のことを指します。例えば、法人税の計算を行う際にはまず所得金額を計算し、所得課税金額を求め、その金額に税率を掛けて法人税額が計算できます。その後、計算した法人税額から直接差し引けるものが税額控除です。
企業版ふるさと納税においての税額控除には、税の種類によりそれぞれの上限が設けられています。
税の種類 | 税額控除の上限 |
法人住民税 | 寄付額の4割または法人住民税の法人税割額の20%のうちいずれか小さい額 |
法人税 | 寄付額の1割を限度(法人税額の5%を上限)とし、法人住民税で4割に達しなかった場合の残額 |
法人事業税 | 寄付額の2割または法人事業税額の20%のうちいずれか小さい額 |
企業版ふるさと納税では、上記の法人住民税、法人税、法人事業税の上限を合算した金額を税額控除できます。
参考:令和7年度税制改正 地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の延長|地方創生
関連記事:損金と経費の違いとは?損金算入・不算入の考え方も解説
税制改正による企業版ふるさと納税の変更点
本来企業版ふるさと納税は2024年まででしたが、令和7年度の税制改正により期間の延長が決定しました。また、このほかにもチェック機能の強化や寄付活動の実施状況の透明化など、よりクリーンな制度になるような見直しが行われています。
以下では、税制改正による変更点について詳しく解説していきます。
期間が3年間延長へ
2024年で終了予定であった企業版ふるさと納税ですが、地方創生をさらに強化するために2027年までの3年間を延長することが決定しました。この期間の延長により、地方へより資金が流れやすくなる見込みです。
チェック機能が強化された
企業版ふるさと納税をめぐり、寄付を受けた自治体が寄付を行った企業のグループ会社に対して発注を行うといった経済的な見返りがあったという事例が発生しています。これを受けて政府は、企業版ふるさと納税をよりクリーンな制度にするべく制度の内容を見直しました。そのうちの1つがチェック機能の強化です。
具体的には、寄付金を使用した事業を行うにあたってのチェックリストを導入し、地方公共団体によるチェックが行われます。また、必要に応じて事業の各段階ごとに国にチェックリストを提出することが求められます。これに加え、寄付を受けたすべての団体は各会計年度終了後に実施報告と併せてチェックリストの提出が必要です。
寄付活動の実施状況の透明化
チェック機能の強化に加えて、寄付金を使用した活動の実施状況の透明化のためのルールが設けられました。具体的には、契約手続き時に寄付法人や関係会社が競争入札において一者応札で受託した場合、寄付法人名を公表するとともに国への報告が義務化されています。
また、競争入札や随意契約の場合は寄付金を活用した事業の発注先を地方公共団体に公表することが必要です。
欠格期間が設定された
企業版ふるさと納税の対象となるためには、地域再生計画を国に提出して認定を受けなければなりません。この地域再生計画の認定が取り消された場合について、2年間の欠格期間が新たに設けられました。
一度、地域再生計画の認定が取り消されると2年間は再申請ができないため注意しましょう。
参考:令和7年度税制改正 地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の延長|地方創生
関連記事:寄付金が税金対策になる?寄付金控除の仕組みや対象について解説
企業版ふるさと納税のメリットとデメリット
企業版ふるさと納税の魅力の1つに、税額控除や損金算入による節税が挙げられます。これは、企業側から見ても大きなメリットといえるでしょう。また、その地域独自の資源や環境を利用した新たな事業を展開できたり、寄付先とのパートナーシップを提携できたりなど、節税以外の面でもメリットがあります。
さらに、寄付活動を行うことで企業の認知度やイメージアップにも繋がる点も企業版ふるさと納税の魅力の1つです。
一方デメリットとしては、資金繰りが必要になる点や返礼品などの利益がないといった点が挙げられます。
企業版ふるさと納税を通して寄付を行う場合、人材派遣型を選択した場合を除いて現金が必要です。納税の際に税額控除や損金算入で寄付額の最大9割の控除が受けられるとはいえ、企業のキャッシュは減ってしまいます。この点を考慮して資金繰りや予算の管理を行わなければなりません。
また、通常のふるさと納税では返礼品を受け取れますが、企業版ふるさと納税の場合は返礼品がありません。そもそも企業版ふるさと納税は社会貢献の一環である点に理解が必要です。
関連記事:【税理士監修】特別償却と税額控除とは?節税のポイントや中小企業向けの控除について解説
企業版ふるさと納税は2027年度まで延長へ
企業版ふるさと納税は、令和7年度の税制改正により2027年までの延長が決定しました。しかし、制度内容の透明化を図るためにチェックリストの提出や寄付法人名の公表などのルールが新たに設けられています。
企業版ふるさと納税では、寄付額の最大9割の税額控除や損金算入が認められてるため、大きな節税効果が期待できます。また、社会貢献にも繋がるため企業イメージのアップなども期待できる制度です。これまで企業版ふるさと納税を行っていた企業も、これから行いたいと考えてる企業も、制度内容や期間について事前に知識を深めておくと安心でしょう。