借入金は返済の義務があるため、企業の信用度や経営状況、事業計画を考慮した上で返済を続けることが大切です。この記事では中小企業が借入を申し込むための平均限度額や、限度額が決まる要素について解説します。経営にあたって借入金を必要とする方は、ぜひ今後の参考資料としてお役立てください。
目次
借入限度額の基本的な考え方
ここでは借入限度額の基本的な考え方として、法人の借入限度額の平均、借入限度額を決める目安について解説します。借入限度額の基礎を押さえ、借入申込時の参考にしましょう。
法人の借入限度額の平均について
中小企業における法人の借入限度額の平均は、業種や企業規模、地域によって異なりますが、一般的に月商の約2〜3倍が目安です。この数字は企業が一定の売上を維持できることを前提とした範囲と考えられます。
借入限度額の目安は経営状況や企業の信用度によっても左右されることから、多額の借入が難しい場合があります。成長性が高く将来的に収益が見込まれる事業については、金融機関も積極的に融資を行う傾向です。
ただし日本貸金業協会によると、借り手の収入や借入状況、目的等に応じた金額を超える場合、貸付はできないとしています。たとえ正当な理由であったとしても、借り手の身の丈に合った金額が限度額の目安と考えられます。
借入を申し込む際は、最寄りの金融機関や商工会議所等から情報を集め、適切な借入金額について調べることをおすすめします。
借入限度額を決めるための基本的な目安
借入限度額を決める目安にはいくつかの基準があります。主に以下の3点です。
月商の2~3倍までが目安
企業の資本が多く、自己資本比率が高い
経営状況が良好、もしくは将来的に見ても安定性が高い
まず、売上規模に応じた借入金額として月商の2〜3倍が一般的な指標です。企業が持つ資産や自己資本比率のほか、経営状況の安定を維持することが求められます。
次に、企業のこれまでの経営状況や信用度、提供する担保の有無も必要です。借入を申し込む際は詳細な事業計画を作成し、将来的なキャッシュフローを立てることを意識しましょう。
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法人が借入限度額を決めるための具体的な計算方法
ここでは法人が借入限度額を決める際の計算方法について解説します。計算方法は主に4つあるので、それぞれを参考にしながら借入限度額を算出してみましょう。
月商倍率を用いた計算
月商倍率は、企業の月間売上高を基にした借入限度額の計算方法です。一般的に月商の約2〜3倍程度が目安として用いられます。
例えば月商が500万円の企業の場合、借入限度額は1,000〜1,500万円でしょう。月商倍率によって企業の売上規模に応じた適切な借入額を算出することができます。
しかし、限度額を決める詳細な評価基準は、各金融機関が握っていることを念頭に置く必要があります。算出した限度額は参考程度に留め、実際は金融機関で異なる点に注意してください。
収益ベースの計算
収益ベースの計算は、企業の純利益や経営利益を基に借入限度額を算出する方法です。例えば3年間の経営利益の平均が500万円だった場合、その2.5〜5倍の範囲として考えて1,250〜2,500万円と推測できます。
収益ベースの計算は売上率の高い企業に有効で、過度な借入を避けるための参考になります。ただし、不況等によって影響されやすい数値のため、高額な借入を避けるためにも慎重な計算が求められます。
償還年数に基づく計算
償還年数を用いることで借入金の返済期間を踏まえた計算も可能です。例えば企業が5年間で借入金の返済を予定している場合です。このような場合、年間のキャッシュフローである約5倍の金額を借入限度額に設定できます。償還年数による計算によって、現実的で無理のない返済計画になります。
企業のキャッシュフローが安定しているほど、長期的な借入にも耐えることができます。結果的に、長期にわたってきちんと返済できる能力が認められれば、金融機関からの信頼も高まるでしょう。
しかし、その一方で、短期間での返済を予定する場合、過度な借入は厳禁です。償還年数を設定する際には、将来的な事業計画や市場状況を十分に考慮することが大切です。
インタレストカバレッジレシオによる計算
インタレストカバレッジレシオ(ICR)とは、借入金の利息を返済する能力を測るための指標のことです。証券アナリストが社債を発行する際や企業格付け・評価等を行う際に用いられます。
インタレストカバレッジレシオの算出方法は以下の通りです。
インタレストカバレッジレシオ (営業利益 + 受取利息等配当金) ÷ 支払利息割引料
割り出された数値が高いほど企業の利息支払能力が高いと評価され、借入限度額も増加します。
なおICRの評価は以下の通りです。
目安の数値 | 概要 |
---|---|
1倍以下 | 利息分の返済は困難と評価されている |
2~3倍 | 標準的な返済能力があると評価されている |
10~20倍 | 理想的な返済能力があると評価されている |
20倍以上 | 金融機関等から非常に優良と評価されている |
一般的に、ICRが2倍以上あれば安定した返済ができると評価されやすいです。ただし、企業の経営状況によって返済能力が変動するリスクを踏まえ、ICR値が高くても高額な限度額を希望することは避けましょう。
特に、利息負担が企業の収益にどのくらいの影響を与えるかについては細かく調査することをおすすめします。
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借入限度額を決める判断要素
法人の借入限度額は、さまざまな判断要素によって変動する場合があります。どのような事柄が借入限度額を左右するのか押さえておきましょう。
業種による違い
業種によって借入限度額が変動する場合があります。例えば、小売業では在庫や店舗運営のための資金が必要となることが予想されるため、高い借入限度額が設定されやすいです。一方、IT企業やサービス業だと物理的な設備をそこまで要しないため、借入限度額が低く設定される傾向にあります。
借入限度額を設定する際は、業種ごとの特性やリスクを理解することが大切です。
借入限度額は一般的に月商の2〜3倍ですが、借入金の金額が月商の何ヵ月分に相当するかを示す指標があります。この指標を「借入金月商倍率」と呼び、東京商工リサーチでは2022年の主な倍率が公開されています。下表は同社のホームページを元に作成した借入金月商倍率リストです。
業種名 | 2022年 |
---|---|
不動産賃貸業・管理業 | 24.16 |
専門サービス業 | 24.13 |
宿泊業 | 19.41 |
金融商品取引業、商品先物取引業 | 18.45 |
不動産取引業 | 18.01 |
物品賃貸業 | 12.70 |
道路旅客運送業 | 10.04 |
飲食店 | 9.55 |
繊維工業 | 7.55 |
社会保険・社会福祉・介護事業 | 7.34 |
農業 | 7.11 |
娯楽業 | 7.10 |
倉庫業 | 6.81 |
その他の製造業 | 6.09 |
業務用機械器具製造業 | 5.94 |
運輸に附帯するサービス業 | 5.71 |
金属製品製造業 | 5.50 |
印刷・同関連業 | 5.37 |
廃棄物処理業 | 5.22 |
木材・木製品製造業 | 5.15 |
参考:解消されない“過剰債務“ コロナ禍の借入金、月商の5.4カ月で高止まり ~ 国内企業3万社 2022年3月期決算「企業の借入金」状況調査 ~ | TSRデータインサイト | 東京商工リサーチ
上表のように月商の何ヵ月分の借入を行っているかは、業種によって大きく異なることが分かります。一般的に、利益率の高い事業の方が限度額が上がると言われています。
自己資金の割合
自己資金が多い企業は、外部からの資金調達に依存することなく事業を運営できます。そのため、金融機関からの評価が上がり、借入限度額が上昇しやすいです。
例えば、自己資本比率が高い企業の場合、負債返済におけるリスクが低いので、金融機関も安心して融資できます。
自己資金は経営者の資産や過去の利益積立から構成されるので、健全な財務体質を持つ企業ほど有利な条件で資金調達が可能になります。
設立年数
設立からの年数が長い企業は過去の業績データが豊富なため、経営をどのように続けているかを判断しやすいです。安定的な経営状況だとみなすことができれば、金融機関も安心して融資ができ、高い借入限度額を設定します。
一方、新設企業やスタートアップは業績データが不十分なために、借入限度額が低く設定されます。そのような傾向を踏まえ、新規開業した企業は事業計画書等を提出し、自社の成長ポテンシャルを証明するよう心がけましょう。
関連記事:無利子・無担保での融資(ゼロゼロ融資)とは?いつまで利用できるのか・期間の延長はあるのかなど解説!
目標借入限度額につなげる方法
目標とする借入限度額を達成するためには、さまざまな選択肢があることをふまえて、適切な方法を試すことがおすすめです。ここでは目標借入限度額につなげる方法を4つ紹介します。
自己資金を増やす
創業融資を受ける場合、借りることができる金額は自己資金額の約3倍と言われています。目標とする借入限度額があるのであれば、まずは自己資金を増やすことが大切です。自己資金を増やす方法としては、以下が挙げられます。
- 利益の確保を優先して内部留保として積み立てる
- 削減できる経費を洗い出してコスト削減を図る
- みなし自己資金を申告する
- 不動産や財産を「現物資産」とする
- クラウドファンディングで支援を募る
自己資金を増やすためにはまず利益を確保し、その一部を内部留保として積み立てる方法がおすすめです。削減可能な経費を見直しコスト削減を図りましょう。
また、みなし自己資金や資産の活用、クラウドファンディングなど自己資金を増やす方法は多岐にわたります。どのような方法であれば、自己資金を増やせるかをふまえて考えてみましょう。
事業計画書の質を高める
目標とする借入限度額へつなげるには、事業計画書の質を高めることも意識しましょう。
そのためには具体的かつ実現できると思われる計画を立てることが大切です。事業計画書を作成する際は、市場分析や競合他社の状況を詳細に調査し、自社の強みや差別化要素を明確にする必要があります。
どのようなケースでも該当するような漠然とした内容では、融資の審査を通過しにくいため注意が必要です。
事業が好調なときに融資を申し込む
事業が好調な時期に融資を申し込むことで金融機関による信用度を高められます。業績が好調で収益性が高まっている時に申請を行えば、金融機関はリスクが少ないと判断するためです。
事業の好調さをアピールするには最新の財務諸表や業績報告書を提出し、客観的なデータを用いて説明することが大切です。
あらかじめ金融機関と信頼関係の構築を目指しておくとスムーズな融資手続きにつながるでしょう。
負債を減らしてから申し込む
追加融資を希望する場合は、現在抱える負債をある程度減らしてから申し込みましょう。負債を減らすためには、高金利の負債を低金利のものに借り換えるのがおすすめです。借り換えによって利息負担を減らした上で資金繰りの改善につなげられます。ほかにも不動産や資産を売却し、その際に得た資産を元手に返済して、負債を減らす方法も有効です。
適切な借入限度額を把握しよう
中小企業が借入限度額を設定するには、金融機関の審査に影響すると考えられる要素について把握し、対策を講じることが大切です。
また、自社にとって適切な借入限度額を設定するためには、自己資金を増やすことや質の高い事業計画書の作成・提出が欠かせません。金融機関へ借入の申込を検討する方、限度額の平均や審査事項について知りたい方は、この機会に小谷野税理士法人へご相談ください。