法人は法人税や法人住民税などの税金を納めなくてはなりませんが、中小企業に対しては税制優遇措置が設けられています。その中の1つが中小企業者等の法人税軽減税率です。この制度は、本来2025年3月末までの予定でしたが、2025年度の税制改正により期間の延長が決まりました。
本記事では、税制改正後の中小企業者等の法人税軽減税率について解説していきます。
目次
法人税のしくみ
法人には、法人税、法人住民税、法人事業税などの税金が課されることになっており、これらをまとめて法人税等と言います。そのうちの法人税は法人の所得に対して課される国税です。
以下では、法人税のしくみをより詳しく解説していきます。
法人税の課税対象となる所得
法人税は法人の所得に対して課せられます。所得の算出方法は以下の通りです。
益金-損金=所得 |
益金とは、売上や売却による収入を指します。対して損金とは、原価や販売にかかった費用などを指します。会計処理に用いる収益や費用とは金額が必ずしも一致する訳ではないため、混同しないようにしましょう。
例えば、益金が1,000万円、損金が350万円の場合の所得は1,000万円-350万円=650万円となり、この650万円に対して法人税等が課せられます。
法人税の税率
法人税の税率は、会社の規模や形態によって15%から23.2%に設定されています。代表的な例として、普通法人の税率は以下のように設定されています。
区分 | 税率 | ||
資本金1億円以下 | 年間所得が 800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% |
適用除外事業者 | 19% | ||
年間所得が 800万円超の部分 | 23.2% | ||
資本金1億円超の普通法人 | 23.2% |
適用除外事業者とは、直近3年間の所得額の年平均額が15億円を超える法人を指します。では、次のような条件の場合の法人税率について解説をします。
- 資本金1億円以下の普通法人
- 課税所得額は850万円
- 適用除外事業者ではない
上記のケースでは800万円までに対しては15%、残りの50万円に対しては23.2%の税率が課されます。
上記の例からも分かるように、法人税の税率は細かく区分されています。自身の会社の税率が何パーセントに設定されているかは国税庁のHPに記載されているため、参考にしてください。
法人税の計算方法
法人税の税額は、所得額に税率を乗して計算します。先ほどの例を用いて計算すると、以下のようになります。
800万円×15%=120万円 50万円×23.2%=11万6,000円 120万円+11万6,000円=131万6,000円 |
上記のケースで納める法人税は131万6,000円です。ただし、賃上げ促進税制などの税額控除が適用される場合は、法人税額から控除額を差し引くことになっています。
法人税の納付方法
法人税の納付方法は主に下記の5種類です。
- 窓口納付
- クレジットカード
- 電子納付
- 口座振替
- スマートフォン納付
現在は、様々な方法で納付できるようになっています。クレジットカードでの納付はクレジット会社のポイントが溜まったり、国税スマートフォン決済専用サイトからPayPayやd払いなどを用いて簡単に納付できたりするため、自身に合った方法で納付しましょう。
納期限までに法人税が納められないと、延滞税や無申告加算税などのペナルティが課せられます。窓口に行く時間がなくとも納付できる方法はいくつもあるため、必ず期日内に納付してください。
中小企業等の法人税軽減税率とは
法人税の税率は原則として23.2%です。しかし、中小企業者等に関しては年800万円以下の部分については15%に軽減されています。これを中小企業等の法人税軽減税率と呼びます。
中小企業等の法人税軽減税率は、2008年に発生したリーマンショックへの対応策として作られた期限付きの制度です。しかし、様々な背景を理由に期間の延長や制度内容の見直しが継続的に行われています。
関連記事:【税理士監修】中小企業の法人税率とは?ざっくり計算!
2025年度税制改正の目的
2025年度の税制改正では、下記のような問題を解決していくために行われました。
- 物価の上昇に伴う税負担
- 老後の資産形成の促進
- 中小企業の成長支援
- 就業調整対策
- 国際環境の変化
- 防衛力を強化するための財源
改正される主な項目は、基礎控除など見直しや新しい税制度の導入、法人課税の見直しなどが挙げられます。「賃上げと投資が牽引する成長型経済」という方針のもと、上記のような改正を通して、より豊かで持続可能な社会の実現を目指しています。
関連記事:法人税が無申告だとどうなる?5つの罰則について解説
2025年度の税制改正後の法人税軽減税率の概要
2025年度の税制改正により、中小企業等の法人税軽減税率は以下のような点が見直されました。
- 適用される法人
- 適用時期
- 税率
以下より、それぞれについて詳しく解説していきます。
適用される法人
中小企業等の法人税軽減税率の対象となる法人は下記の通りです。
- 中小法人
- 一般社団法人等
- 公益法人等
- 協同組合等
今回の改正により所得金額が10億円を超えた事業年度については税率が引き上げられることになりました。また、グループ通算制度を利用している通算法人については軽減税率の対象外となっています。
適用される時期
本来、2025年の3月31日までだった本制度ですが、今回の改正により2027年3月31日までに延長されました。この制度を利用する場合は、法人税を申告する際に適用額明細書を税務署に提出してください。
税率
原則として、中小企業等の法人税軽減税率は15%ですが、所得金額が10億円を超えた事業年度は17%に引き上げられています。原則として、年800万円超の部分に関しては通常の法人税率である23.2%が課せられますが、協同組合等に関しては年800万円超に係る税率は19%です。
より詳しい税率については中小企業庁のHPを参考にしてください。
関連記事:中小企業向け賃上げ税制における「教育訓練費」は?範囲や上乗せ要件を解説
中小企業者等の法人税軽減税率は2027年3月31日まで
中小企業等の法人税軽減税率は、2025年3月31日まででしたが2025年の税制改正により2年間の延長が決定しました。しかし今回の改正では期間の延長だけでなく、対象となる法人や適用される税率について一部変更されています。
詳しい制度内容や軽減税率を利用する際の手続きについて疑問がある場合は、顧問税理士などに相談すると安心です。