会社経営に関する用語の中でも、「欠損金」「債務超過」は混同されやすい言葉ですが、それぞれ意味や使われる場面は異なります。欠損金は、法人税法上の事業年度の所得がマイナスになったときの金額のことを指します。それに対し債務超過は、会社が持つ資産より負債のほうが多くなってしまった状態を指します。本記事では欠損金と債務超過、そして赤字との違いについてわかりやすく解説します。
目次
欠損金とは?
欠損金は、企業がその期に出した損失が利益を上回った場合に発生するもので、主に税務上の用語として使用されます。具体的には、収益から支出を引いた結果がマイナスになると、その金額が欠損金となります。
この欠損金は「繰越欠損金」として、次年度以降に持ち越すことができます。繰越欠損金は、一定期間にわたり所得と相殺することが認められており、これにより税負担を軽減できる制度として、法人税の負担軽減ができるようになっています。
欠損金が発生する原因
欠損金が発生する主な原因としては、売上の減少や経費の増加が挙げられます。
たとえば、景気の変動や市場の競争激化が原因で売上が減少する場合、経営状態が厳しくなり、結果として欠損金が生じることがあります。また、原材料費や人件費の高騰などによる支出の増加も経費が収益を上回る要因の1つとなっています。
繰越欠損金について
企業が欠損金を出した場合は「繰越欠損金」として翌年度以降に繰り越すことができます。これは、過去の損失を将来の利益と相殺できる制度ですが、これを毎年利用して繰越される金額が増えていくと注意が必要です。
繰越欠損が長期間にわたって積み重なると、今度は過去の損失を取り戻すために相応の利益を出さなければなりません。しかし毎年欠損金を出している状態から黒字転換をするのは難しく、実際は経営がどんどん厳しくなる危険性が高まります。繰越欠損金の金額が大きくなればなるほど財務状況は圧迫され、最終的には事業継続が厳しくなるリスクが高まります。
なお、繰越欠損金として計上できる条件は青色申告をしている事業者で、繰越期間は10年と定められています。
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債務超過とは?
債務超過は企業の負債が資産を上回っている状態を指します。ここでいう資産とは、売掛金や預貯金にかぎらず、有価証券や不動産など現金化できるすべての財産のことです。これらすべての財産の合計金額よりも負債額の方が多い状況を債務超過といいます。このような企業の資本は実質マイナスとなっている状況です。
この状態になると、企業の信用力が著しく低下し、金融機関からの融資が受けにくくなります。また、取引先との関係にも悪影響を及ぼし、取引条件の悪化や契約の見直しを求められることもあります。
債務超過がもたらす影響とリスク
債務超過が続くと、当然ながら運転資金に影響を及ぼします。必要な資源も購入できなくなり、受注や生産もできない状況に陥る可能性が高まります。これにより事業の継続そのものが難しくなるケースも出てきます。
また、企業の信用失墜により取引先や顧客からの信頼も損なわれ、売上減少に拍車がかかる可能性があります。
さらに、たとえば東京証券取引所などの基準では、一定期間内に資本状態を改善できない企業に対しては、上場廃止が適用される場合もあり、資本市場からの退出という重大なリスクにもつながります。
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赤字とは?
赤字は損益計算書において収益が支出を下回る状態を示す言葉であり、経営の短期的な状況を指します。たとえば、ある企業の売上が1,000万円だったとして、その際にかかった材料費や経費が1,200万円であった場合、収益は200万円のマイナスになります。このように利益がでない状態のことを赤字といいます。
欠損金との違いは、赤字は一時的な経営の状況を示すものであるのに対し、欠損金は税務上の観点から持続的な影響を生む可能性がある点で異なります。したがって、赤字が発生すると欠損金が生じる可能性があるものの、赤字が必ずしも欠損金になるわけではありません。
とはいえ、赤字が長期間にわたって続く場合は企業として適切な対応を行う必要があります。まずは損益計算書(P/L)で詳細を確認し、コスト削減やキャッシュフローの改善などを図ることが求められます。
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資本欠損とは?
資本欠損とは、企業の純資産が資本金や準備金を下回る状態のことです。これは、これまで積み重ねた損失が大きすぎて、株主にとっての会社の価値が大きく減っていることを意味します。
この状態になると会社の経営基盤が不安定になり、長期的に利益を出したり成長したりするのが難しくなります。さらに資本欠損が続くと会社の信用が下がってしまい、銀行などからお金を借りるのも難しくなることがあります。最悪の場合は債務超過に陥り、会社の経営そのものが危機的な状況に陥る恐れもあります。
資本欠損が発生した場合の対策は?
資本欠損に直面した場合、迅速な対応が不可欠です。まず検討すべきは資本の増強です。具体的には、新規株式発行や融資による資金調達のほか、不採算事業の整理やコスト削減といった収益性の改善が求められます。また、スポンサー企業の支援や外部資本の導入など、外部との連携による経営再建も選択肢の1つです。
損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)から財務状況を読み解く
企業の財務状況を正しく把握するためには、損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)の両方を理解することが欠かせません。ここでは、それぞれの財務諸表における欠損金や債務超過、赤字等の状況について解説をします。
損益計算書で企業の収益力を見る
損益計算書(P/L)は、企業の収益と費用を示し、特定の期間の業績を計測するための重要な書類です。ここでの赤字は企業の収益性が低下している状態を意味し、経営改善が求められるサインとなります。
貸借対照表で企業の財務体質を見る
貸借対照表(B/S)は、その時点における資産、負債、純資産の状況を可視化し、企業の財務健全性を把握するために使われます。特に債務超過は貸借対照表を通じて把握され、企業が保有する資産よりも負債の方が大きい危機的状況を指します。
税務会計における欠損金と繰越欠損の重要性
税務会計の視点では欠損金と繰越欠損が関係します。欠損金はその会計期間に発生した税務上の赤字額で、益金と損金の結果として算出されます。企業が赤字の場合、その金額が欠損金として税務処理に影響します。
また、繰越欠損は過去の赤字の累積額を表し、一定期間(法人税法上は原則10年間)将来の黒字と相殺できる制度で、税負担の軽減に寄与します。これはキャッシュフローや中長期の税務戦略にも大きく関係します。
このように、損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)の両方を適切に理解することで、赤字による欠損金、繰越欠損、債務超過といった指標の違いがより明確となり、企業の財務状況を包括的に評価できるようになります。
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欠損金や債務超過への対処方法
欠損金や債務超過の状態に直面している企業は、まずは自社の財務状況を詳細に分析し、課題の本質を明確にすることが重要です。
特に欠損金が発生している場合には、欠損金の繰越控除を活用することで税負担を軽減することが可能です。これは中長期的な視点での経営改善に役立ちます。
債務超過に至った場合には、資産の圧縮や負債の見直し、さらには返済条件の変更など財務構造の抜本的な改革が必要です。こうした取り組みに加え、再建計画の策定や外部専門家との連携を通じて、経営の再建と信用力の回復を図ることが求められます。
まとめ
欠損金や債務超過に関して正しい理解は、企業経営においてとても重要です。これらの用語は、企業の財務状況を把握するための基本であり、その意味や影響を正しく理解することで、経営者は状況に応じた適切な判断を下せるようになります。
たとえば欠損金が発生した場合は、繰越欠損金として処理することで最大10年間にわたり繰り越して利益と相殺することが可能です。これを有効に活用すれば、利益が回復したタイミングでの税負担を抑えることができます。
債務超過についても、賃借対照表を正しく読み解くことで財務状況の改善が図れるようになるでしょう。
このように欠損金が出たり債務超過に陥った際も、迅速かつ適切な対応が事業の再建に繋がります。ただし、損益計算書や賃借対照表を正しく理解して利用するには専門知識が必要になります。特にキャッシュフローの改善や納税における制度の活用については、専門家の協力が欠かせません。
税理士であれば、法人税の負担軽減や控除、制度の活用も含めて提案をすることが可能です。赤字決算となった際は、その後の対応も含めぜひ一度相談をしてみることをおすすめします。