近年、企業の経理部門での人手不足が深刻化しています。主な原因として、業務量の増加や専門知識を持つ人材の不足が挙げられます。人手不足の状態が続くと、業務の遅れや負担の偏りが生じ、企業の運営にも影響を及ぼしかねません。それゆえ、なぜ経理部門に人手不足が起こるのかを理解し、具体的な対応策を検討することが重要です。
目次
経理の人手不足が発生する4つの要因
経理部門での人材不足の原因として、まず日本全体の労働人口が減少していることが挙げられます。
しかし、単に「人が足りない」という問題ではなく、その背景には社会全体の変化などさまざまな要因が絡み合っているのです。ここでは、経理の人材確保が難しくなっている4つの主要な原因について解説します。
労働人口の減少
日本では少子高齢化の進行により、労働人口が年々減少しています。若年層の働き手が少なくなることで、経理部門に限らず、企業全体で人材確保が難しくなっているのを実感しているのではないでしょうか。
特に、経理は専門的な知識が必要な職種のため、適切なスキルを持つ人材を確保するのがより困難です。その結果、業務の負担が特定の社員に集中し、長時間労働や業務遅延といったリスクが高まるでしょう。
専門スキルを持つ人材の不足
経理業務には、簿記や会計、税法などの専門知識が必要です。さらに、近年の会計基準の変更や法改正にも迅速に対応できる柔軟性が求められます。しかし、これらのスキルを持つ人材が不足しており、採用が難しくなっているのが現状です。
企業側も新入社員の育成に十分な時間やリソースを割けないケースも多く、スキルの習得が追いつかないまま業務をこなさなければならない状況に陥ることもあるでしょう。人材育成の遅れも、経理部門の人手不足を深刻化させる要因の1つと言えます。
採用の優先度が低い
経理は、企業の売り上げを直接生み出さない「間接部門」であるため、営業やマーケティングなどの部門ほど優先的に人材が採用されにくい傾向があります。その結果、経理の人手不足が慢性的に続きやすくなっているのでしょう。
このような状況が生じる原因の一つとして、経理部門の重要性が十分に理解されていない点が挙げられます。
経理の仕事が滞ると、決算業務が遅れたり、税務処理のミスが起こったりなどのリスクもあります。その結果、取引先や金融機関からの信頼を失いかねません。そのため、経理の人材確保は後回しにしてはいけない課題なのです。
求人倍率の上昇
近年、経理職の求人倍率が上昇しており、人材確保が難しくなっています。特に、経験者を採用する場合、企業間の競争が激しく、優秀な人材の確保がますます困難になっているのが現状です。
また、求人数が増えているにも関わらず求職者数が追いついていないため、企業側が求めるスキルを持つ人材とマッチングしにくい状況が続いています。
このような環境の中で適切な人材を確保するには、従来の採用方法の見直しや、社内での人材育成に力を入れる必要があると言えるでしょう。
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経理の人手不足が企業に与える影響とは?
経理の人手不足は、業務の停滞だけでなく、企業全体に悪影響を及ぼします。特に、一部の社員への負担集中がミスを招いたり、労働環境が悪化したりなどで業務の質が低下してしまうことが課題です。ここでは、経理の人手不足がもたらす問題について解説します。
労働環境が悪化する
経理部門の人手不足が続くと、限られた社員で業務を回さなければならないため、一人あたりの負担が増大します。その結果、長時間労働が常態化し、以下のような問題が発生しやすくなるのです。
- 業務効率の低下:疲労やストレスにより、仕事のスピードや正確性が落ちる
- 健康への影響:体調不良やメンタル不調のリスクが高まる
- 離職率の上昇:優秀な人材が退職してしまう
このような状況が続くと、さらに人手不足が深刻化する要因となるでしょう。
ミスや不正行為のリスクが増える
経理業務は、数字の正確さが求められる仕事です。しかし、人手不足により業務量が過剰になると、次のようなリスクが考えられます。
- データ入力ミス:疲労や注意力の低下によりミスが増える
- 帳簿の誤動作:注意力低下や急いで処理することで誤った操作が発生する
- 不正行為の増加:チェック体制が弱まることで、不正のリスクが高まる
経理のミスは税務調査や監査で指摘を受ける可能性もあるため、企業の信用にも関わる重大な問題なのです。
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人材育成や研修の機会損失となる
経理の人材不足が続くと、限られたリソースで日々の業務を遂行しなければならず、次のような問題が生じます。
- 新人教育に時間を割けない:既存の社員は経理業務に追われ、教育する余裕がない
- スキル不足のまま実務を担当:十分な教育を受けられず、知識が浅いまま実務を任されることになる
こうした状態が続くと、チーム全体のパフォーマンスが損なわれる原因ともなりえるでしょう。
会社の経営判断に悪影響を及ぼす
経理は企業の財務状況を管理し、経営判断を支える重要な部門です。しかし、人手が不足すると以下のような問題が発生するリスクがあります。
- 月次決算や財務報告の遅延:タイムリーな意思決定ができなくなる
- 資金繰りの悪化:経理の遅れが原因で、資金調達や取引先への支払いがスムーズに行われない
- 投資判断の遅れ:財務状況の把握が遅れると、新規事業や設備投資の決定に支障をきたす
上記の問題が長引けば、最終的には企業の競争力を低下させるのみならず、事業成長の妨げになる可能性も高まるのです。
経理の人手不足を解消するためにできること
経理部の人材不足に対処するためには、業務の効率化と人材の確保が重要です。具体的な解決策を紹介するので、参考にしてください。
業務フローを見直しマニュアル化を進める
- 現行の業務プロセスを洗い出し、不要な手順を削減する
- 手順をマニュアル化し、誰でも一定の業務をこなせる環境を整える
業務の効率化を進めるためには、無駄の削減や業務の簡素化を進めるのがおすすめです。一人当たりの作業負担が軽減されるだけでなく、業務のスピードと正確性も向上します。
ITツールを導入し業務を自動化する
- クラウド会計ソフトを活用し、仕分けや帳簿作業を自動化する
- 経費精算システムを導入し、手作業を削減し、ミスを減らす
ITツールを導入することで、少ない人員でも高い生産性を維持できる環境を整えられるでしょう。
社内の人材育成を強化する
- OJT研修を実施し、新人を早期戦力化する
- 外部セミナーへの参加を推奨し、最新の経理知識を習得させる
- 資格取得をサポートし、スキルアップを促進する
社内でスキルアップの機会を提供することで、既存社員の業務範囲が広がり、採用活動においても魅力的な要素となります。
外部リソースを活用する
- 派遣社員や業務委託を活用する
- アウトソーシングで、ルーティン業務を外部に委託する
- 外部専門家と連携し、経理業務の効率化を支援する
経理の人手不足や人材不足を解消するために、外部リソースを活用するのも一つの方法です。すぐに専門的なスキルを持つ人材を確保できるため、繁忙期や急な業務増加にも対応できるのです。
長期的に見ても、外部リソースの利用は経理部門全体の生産性を大きく向上させる手段となるでしょう。
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まとめ
経理部門の人手不足は、労働環境の悪化、ミスの増加、人材育成の低下、企業判断の遅れなど、さまざまな課題を引き起こします。この問題を解決するためには、業務フローの見直しやITツールの導入、人材育成の強化、外部リソースの活用など具体的な対策が効果的です。
経理部門が安定して機能することは、企業の成長にもつながります。人手不足の課題を後回しにせず、持続可能な経理の体制を整えましょう。