会計処理をするにあたり、すべての会社が準拠しなければならないルールとして「企業会計原則」という規則があります。この原則において、日本では会社の損益を計算する前提として発生主義・実現主義・現金主義の考え方を採用しています。今回は、会計処理において非常に重要な発生主義について解説します。適切な処理を行うために、正しく理解して計上しましょう。
目次
発生主義とは
取引が発生した時点で収益や費用を認識し、仕訳を計上する考え方です。その際、金銭のやり取りが終了しているかどうかは関係ありません。収益や費用が発生した時点で入金・支払に関係なく仕訳を計上します。
売上や支出額が確定した時点で帳簿をつけるため、掛売や掛仕入などの金銭のやり取りが行われていない取引でも確定している場合は計上可能です。リース料や水道料金等の数ヵ月に一度の精算となる取引も毎月の会計に均等に計上でき、正確な損益計算を実現できます。
財政状況の把握が正確なため、将来的に納税する金額も予測しやすいのが特徴です。発生主義に基づいて損益計算書が作成されるため、企業の現金の収支については、キャッシュフロー計算書で別途把握する必要があります。
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実現主義とは
損益が実現した時点で計上する方式であり、確実性が高い会計を行えます。販売の実現時点など第三者に支払い・販売したという事実に基づくため、他の計上方式よりも信頼性が高いのが特徴です。
企業会計の原則でもあるため、一般的に収益の計上には実現主義が使われています。「販売の実現」というのは業種や事業によって変わり、以下のような様々な基準があります。
- 出荷基準:相手先へ納品が完了したか否かに関わらず、商品を出荷した日
- 引渡基準:商品や製品を引き渡した日・納品した日
- 検収基準:納品先が商品を検収した日
- 割賦基準:割賦販売をした場合に、その割賦日が到来した日
- 契約基準:契約書を交わした日
多くの業種で採用されており、最も一般的なのが引渡基準です。飲食業や小売業、製造業、デザイン業、コンサルタント業などでは通常、引渡基準が採用されています。
現金主義とは
現金の授受が発生した段階で計上する方法です。現金の動きに合わせて帳簿をつけるだけなので管理コストが低く、不正をしにくい点が大きなメリットです。
その一方で、将来的に発生する費用や、過去に生じた収益について現金主義で計算してしまうと、期間総益計算ができないデメリットがあります。
会計処理の簡単さやわかりやすさがメリットです。帳簿もシンプルでキャッシュの動きを明確に捉えられ、黒字倒産も起こりません。
日本では、小規模事業者である青色申告者の事業所得等については現金主義による計上が認められています。
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3つの主義の関係性について
企業の基本的な会計処理の基準として、発生主義と実現主義があり、その対比として現金主義があります。3つの主義は、以下の表のように収益と費用を認識して記帳するタイミングが異なるのが特徴です。
取引発生時 | 取引確定時 | 入金・支払完了時 | |
発生主義 | ◯ | ◯ | |
実現主義 | ◯ | ◯ | |
現金主義 | ◯ |
企業が現金主義を採用することは原則としてありませんが、会計処理の基準の1つとして認識しておくとよいでしょう。次に、会計処理における3つの違いについて解説します。
現金主義との違い
現金主義は、現金の収支があった時点で収益や費用を計上する方法です。つまり、商品やサービスの提供時期に関係なく、代金の受け取りや支払いが行われた時点で計上します。この方法は、現金の動きに基づいているため、キャッシュフローを重視する企業に適しています。
一方、発生主義は、収益や費用を発生した時点で計上する方法です。商品の販売やサービスの提供時点で、代金の受け取りや支払いが行われていなくても、収益や費用を計上します。この方法は企業の財務状況をより正確に把握でき、適切な経営判断を下すために有用です。
実現主義との違い
実現主義は収益や費用が確定した時点で会計処理を行う手法で、収益を計上する際には原則として実現主義が用いられます。収益の計上に発生主義を用いた場合、企業会計原則における「未実現収益は原則として、当期の損益計算に計上してはならない」という部分に引っかかる問題があります。
発生主義は取引が発生した時点で計上する関係上、帳簿上の売上と実際の収益状況に差異が生じる場合があります。例えば5年間にわたって毎年10万円の製品を提供する契約を締結した場合、発生主義であれば契約を締結した時点で50万円の売上を計上します。
しかし、5年経過する前に契約解除された場合は売上が50万円に届かないことが考えられます。
現金主義と発生主義で利益が変わる
2つの主義では、利益に対する考え方や数字も変わります。例えば、同じ100万円の仕事をし、仕入れや運送の経費が発生したとします。
現金主義では経費が発生した場合、支払った時点で、売上から引かれます。
これに対し、発生主義では、経費が発生した時点で売上から引くことができます。同じ100万円の仕事をしたにもかかわらず、利益に大きな差が出てしまうのです。
発生主義のメリット
ここからは、メリットについて解説します。
正確な財務状況を把握しやすい
費用の発生、収益の実現の事実に基づいて計上するため、意図的に利益を操作できなくなります。事業年度を通してはもちろん、月々の損益も正しく計算可能です。こうすることで、月次損益を正確に把握でき、適切な事業計画の策定や資金繰り対策ができます。
納税すべき金額の予測を立てられる
会計処理は原則として発生主義で行います。発生主義で会計処理をしていると月単位の損益を正しく計上できるため、納税金額の予測もしやすいです。
もし発生主義以外の方式で計上していれば、精度の高い納税予測を行うことが困難になります。そのため、有効な節税や税金の資金繰りの対策が取れなくなります。
発生主義のデメリット
次に、デメリットについて解説します。
会計処理が複雑で知識が必要
適切な期間損益計算ができますが、複式簿記により複雑な会計処理をするため、会計知識を必要とします。会計知識をマスターした上で、さらに費用、収益を漏れなく計上するために複雑な処理が要求されることも、デメリットと言えるでしょう。
現金管理が難しい
発生主義では現金の流れとは異なる時点で収益や費用が計上されるため、現金管理が難しいです。大きな取引を行い、収益を計上したものの、実際の入金が数ヵ月遅れるケースでは、利益を上げているにもかかわらず現金不足になるリスクが発生します。
発生主義会計の仕組み
会計処理では現金の受け取りや支払いの時期に関係なく、収益の獲得または費用の発生時点で収支が計上されます。仕組みについて簡単に紹介していきましょう。
収益の認識
企業が企業間信用で顧客に販売を行う場合、顧客は取引後の一定期間内に企業に支払いを行います。この場合、収益は現金が受領される前の、主に商品の引き渡しやサービスが実行された時に発生するのです。
費用の認識
企業は、サプライヤーや従業員から商品やサービスの提供を受けた時点でその代金を支払う義務が生じます。費用が発生したとみなし、その後企業はまだ現金を支払っていない場合でも、発生した費用を損益計算書に計上します。
商品の提供タイミングと費用
今期に代金を支払い、商品が未利用、サービスの提供がまだされていない場合は、前払費用として貸借対照表に計上し、今期の費用にはなりません。
反対に、商品の提供やサービスの利用は今期中にあっても費用を支払っていない場合は未払い扱いとし、今期の費用となります。
青色申告でも現金主義を認められる特例がある
白色申告でも青色申告でも、基本的には発生主義での帳簿付けが必須です。しかし、以下の条件を満たす個人事業主にのみ、現金主義が認められる特例があります。
- 青色申告者である
- 小規模事業者である
- 特例を受けるための届出を行っている
- 事業所得、不動産所得がある
上記を満たしていれば特例の適用を受けられますが、現金主義による会計処理の場合、複式簿記に該当しないため、最大65万円の控除が適用されず、最大で10万円の控除になるため注意が必要です。
新収益認識基準について
新収益認識基準とは、売上をどのように認識し、どの時点で財務諸表に反映するかについての統一的な基準です。
従来の企業会計ルールでは実現主義の考え方が用いられていましたが、事業内容が多様かつ複雑になるなかで、実現主義の考え方のみでは収益をいつ認識すべきか判断が難しいと問題になり、新収益認識基準の導入につながりました。
新収益認識基準を取り入れることで、国際的な会計基準との調和がとれるようになったといえます。なお、この基準が強制適用されるのは、会社法上の大会社や上場会社など、比較的規模の大きい企業です。
よくある質問
最後に、よくある質問を回答と共に紹介します。
発生主義と現金主義の併用は違法?
違法ではありませんが、取引の計上もれや二重計上が起きやすくなり、正確な納税額の予測が難しくなる可能性があります。さらに、経営戦略の立案や資金繰り計画が不正確になりやすいため、経営判断を誤るリスクが高まるため注意が必要です。
発生主義と現金主義の切り替えに手続きは必要?
個人事業主の場合は届出が必要ですが、法人の場合は特別な手続きは不要です。そのため、法人が誤って現金主義を採用した場合でも、すぐ発生主義に変更できます。なお、切り替えた後は2つの計上方法が混在しないよう、計上漏れや二重計上に充分注意してください。
発生主義を理解して、正確な会計処理を行おう
3つの主義はそれぞれ異なる会計の取り扱い基準を持っており、経営実態や目的に応じて適切な選択が重要です。それぞれ計上するタイミングをよく理解して、間違いのないように会計処理を行っていきましょう。
正しく計上できない場合、期中の経営状況が把握できないといった経営上のリスクが発生する恐れがあります。
会計処理に不安など感じている場合、税理士や会計士など知識が豊富な専門家への相談がオススメです。経理業務を任せることでミスを防ぐだけでなく、作業の効率化や経営に関するアドバイスなど、企業発展に大きく役立つでしょう。
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