個人事業主にとって、日本政策金融公庫は信頼できる資金調達先の1つです。500万円規模の融資にも対応しており、事業の規模や状況に応じて、それ以上の融資を受けられるケースもあります。この記事では、日本政策金融公庫の融資制度の概要や、主な制度や選び方、注意点についてご紹介します。これから融資を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
日本政策金融公庫からの融資額の基準
日本政策金融公庫の融資は、いくつかの基準に基づいて金額が決まります。創業資金の総額から自己資金を引いた金額が融資の対象として検討されるのが一般的です。
また、各融資制度ごとに限度額が設定されており、新規開業支援貸付では最大7,200万円までの融資に対応していますが、一方で500万円以下の小規模な融資にも対応しています。
ただし、希望すればそのまま希望金額を借りられるわけではなく、金利条件や返済能力を含めた審査が行われる点を理解しておきましょう。
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融資額を決定する要因
日本政策金融公庫の審査融資では、以下のような視点から融資額が決定されるでしょう。
自己資金の割合
自己資金が多いほど審査での信用度が高まり、融資が受けられる可能性が高くなります。
一般的に、自己資金は開業資金全体の30%以上が望ましいとされています。例えば、総額1,000万円の事業を計画している場合、300万円以上の自己資金が理想です。
信用情報
過去のローン返済履歴や金融取引に関する信用情報も重要な判断材料です。信用情報に問題がなければ、より有利な条件での融資が期待できます。日頃から信用情報を健全に保つことが重要と言えるでしょう。
業務経験
事業に関連する業界での経験は、事業成功の可能性を高める要素として評価されます。同業種での経験が豊富であれば、業界知識や人脈を活かせると判断されるためです。
また、異業種からの参入でも、これまでの経験やスキルが新事業に活用できる場合は、プラスの評価を受けることもあります。
事業の性質・成長性
事業が将来的に安定した収益を見込めるか、市場での競争力があるかといった点は、審査における重要な評価項目です。
ビジネスプランの説得力
融資を希望する金額が大きくなるほど、事業の発展性や資金の使用目的を明確に説明する必要があります。
これらの要素を事前に把握し、準備を整えたうえで申請を行うとスムーズな融資獲得につながるでしょう。
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融資制度の特徴と選び方
日本政策金融公庫には、さまざまな融資制度が用意されています。それぞれの制度は特徴や用途が異なるため、自社の状況やニーズに合った制度を選ぶことが大切です。以下に代表的な融資制度の特徴をまとめました。
新規開業・スタートアップ支援資金
対象 | 新たに事業を始める方や事業開始後おおむね7年以内の方 |
融資限度額 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) |
返済期間 | 設備資金:20年以内(うち据置期間5年以内) 運転資金:10年以内(うち据置期間5年以内) |
利率 | 基準利率(ただし要件を満たす方は特別利率) |
新たに事業を開始する個人事業主や事業開始後間もない方に向けた制度です。この制度では、特定の条件に該当すれば低い金利で融資を受けられます。
一般貸付
対象 | ほとんど業種の中小企業 |
融資限度額 | 運転資金・設備資金:4,800万円 特定設備資金:7,200万円 |
返済期間 | 運転資金:5年以内(うち据置期間1年以内) 設備資金:10年以内(うち据置期間2年以内) 特定設備資金:20年以内(うち据置期間2年以内) |
利率 | 基準利率 |
個人事業主や法人が、事業資金として幅広い用途で利用できるのが特徴の制度です。設備投資や運転資金に対応しており、柔軟に融資資金を使用できます。融資限度額は事業の内容や申請者の信用状況により異なります。
女性、若者/シニア支援資金
対象 | 女性、または35歳未満か55歳以上の方 なおかつ新たに事業を始める方、事業開始後おおむね7年以内の方 |
融資限度額 | 直接貸付:7億2,000万円 特定設備資金:1億2,000万円 |
返済期間 | 運転資金:7年以内(うち据置期間2年以内) 設備資金:20年以内(うち据置期間2年以内) |
利率 | 特別利率 |
さまざまな人材の起業を支援することで、地域経済や社会全体の活性化を図ることを目的とする制度です。制度を利用するには、特に事業の将来性・収益性・返済計画の明確さが求められます。
また、この制度では基準利率より低い特別利率が適用されます。具体的な利率は、条件により異なるのでチェックしましょう。
事業再生・企業再建支援資金
対象 | 経営改善、経営再建に取り組む必要がある中小企業 ※細かい条件あり |
融資限度額 | 直接貸付:20億円 |
返済期間 | 20年以内(うち据置期間2年以内) |
利率 | 基準利率、特別利率 |
経営が厳しい状態にある企業向けの資金調達手段です。事業再生の支援を受けつつ、持続可能な経営に向けた改革を進めることが可能です。
この制度を利用するには、認定支援機関協力による経営改善計画策定支援事業を利用しているか、経営改善計画を策定し、関係金融機関の同意を得ている必要があります。
参考:事業再生・企業再建支援資金(企業再建・経営改善支援関連)
これらの制度を選ぶ際には、以下のポイントを押さえましょう。
- 事業のフェーズ(創業・成長・再生など)
- 資金の使途(運転資金・設備資金など)
- 利用条件(年齢・業種・地域など)
また、制度によって申請条件や規定があるため、日本政策金融公庫の担当者と相談しながら選ぶのが安心です。自社に最適な融資制度を見極めることが、融資を成功させる鍵です。融資を受けられれば、資金面の安定と持続可能な事業を実現できるでしょう。
創業融資に必須!創業計画書について
創業融資を受けるには、必要な書類の準備と、説得力のある創業計画書の作成が必要です。また、日本政策金融公庫で事前に相談するのもおすすめです。ここでは、具体的な手順とポイントをまとめました。
必要な書類と内容
創業融資を申請する際には、以下の書類を準備しましょう。
- 本人確認書類(例:運転免許証、パスポートなど)
- 課税証明書
- 銀行口座情報
- 創業計画書
特に創業計画書は、事業の目的、運営方針、収支計画を具体的に示す重要な書類です。また、資金の使途を詳細に記載することで、審査官に事業の全体像を把握してもらいやすくなるでしょう。
事前にどの書類が必要かリストアップし、計画的に準備を進めることが成功への第一歩です。
創業計画書の作成のポイント
説得力のある創業計画書を作成するポイントは「要点を絞って、分かりやすく伝えること」。事業の目的や必要資金、収益の見通しなど、押さえるべき点をしっかりと盛り込みましょう。以下は、創業計画書に記載すべき主な項目です。
事業の目的
どのようなビジネスを行い、どのように社会的ニーズに応えていくのかを示します。誰のためにどんな価値を提供するのかを具体的に記載しましょう。ターゲットとなる顧客層や市場のニーズを明確にすることがポイントです。
商業戦略
競合とどう差別化するのか、自社ならではの強み・価値が何かを明らかにします。市場調査の結果に基づいた分析を盛り込むことで、説得力を高められるのです。
営業計画
どのようにして商品やサービスを届けるのかを説明します。例えば「店舗での直接販売」「オンライン販売」「代理店を通じた販売」などを記載しましょう。
資金調達計画
必要な資金の総額と、その資金をどう調達するのかを説明します。自己資金、融資、投資家からの資金など、内訳をはっきりさせることで、資金の透明性が伝わるでしょう。
収支計画
売上予測、経費、利益などを、できるだけ具体的な数値に基づいた計画を立てます。年間・月次の損益計算書を添付すると、よりリアルな事業像を伝えられるでしょう。
リスクと対策
事業を進める中で想定されるリスクと、その対策をあらかじめ記載します。リスクへの備える姿勢があることが伝われば、金融機関からの信頼を高められるのです。
経営チーム
経営メンバーの経歴やスキルも、信頼を高めるために重要な要素です。特に関連業界での経験がある場合は、しっかりアピールしましょう。
スケジュール
事業の立ち上げから軌道にのるまでの流れを、節目(マイルストーン)ごとにまとめます。どの時期に何を達成するのかが明確だと、実現の可能性がより伝わりやすくなります。
このように、創業計画書には「誰を、何を、どのように届けるのか」また「どうやって実現するのか」を具体的に示すことが大切です。
内容が整理されていて、読み手がスムーズに理解できる計画書は、それだけで信頼を得られる材料となるでしょう。不安がある場合は専門家からのアドバイスを受けるのもおすすめです。
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融資を受けやすくするためのポイント
審査をスムーズにすすめるために意識したいポイントをご紹介します。より良い結果を得るために、申請書類の準備や融資の使い道の明確化など、審査の通過率を高めるための方法を見ていきましょう。
資金使途を明確にする
資金を「何に、どれくらい使うのか」をはっきりさせることは、融資審査を通過するための基本です。使い道が明確であるほど、計画性の高さを審査官へアピールできます。
例えば、以下のような費用の目的ごとに金額を明示しましょう。
- 運転資金(仕入れ費や人件費など)
- 設備投資(店舗の設備や機材の購入費など)
- マーケティング費用(広告や宣伝に関する必要など) など
明確に内訳を示すことで、資金が正当な目的で使用されることを証明でき、融資の審査を有利に進められます。
特に、運転資金のように継続的に必要な支出には「なぜ必要なのか」「どのくらい必要なのか」を丁寧に伝えることが大切です。こうした説明があれば金融機関を説得でき、審査においても評価されやすくなります。
具体的な返済計画を立てる
返済計画は、融資審査の中でも特に重視されるポイントです。計画が現実的であるほど、金融機関にとって安心材料となり、融資が通りやすくなります。以下のような情報を記載しましょう。
- 月々の具体的な返済額
- 返済期間
- 月々の収支計画に基づいた返済可能額の試算
実際に返済が可能であることを証明する具体的なデータを示すことで、金融機関からの信用を高められます。
また、予期せぬ支出の増加や収入の減少といったリスクに備えるための代替プランを用意しておくことも効果的です。「万が一の際にも対応できる体制が整っている」と示すことも、リスク管理能力の高さもアピールにつながるでしょう。
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融資を受けた後に気をつけること
融資を受けたら終わり、ではありません。事業を安定・成長させていくには、その後の資金管理や計画の見直しが重要です。ここでは、融資後に気をつけたいポイントを解説します。
返済計画の定期的な見直し
融資を受けた後も、返済計画は定期的に見直しましょう。事業の成長や収支の変動により、当初の計画が今の状況に合わなくなることがあるからです。
例えば、予想以上の利益が出ている場合には、早期返済を検討することで、利息の負担を軽減できます。一方で、収益が減少した場合には、返済スケジュールを無理のない形に調整することも視野に入れましょう。
また、返済計画の見直しだけでなく、金融機関との信頼関係を築くことも大切です。必要に応じて返済条件の調整や変更について相談することで、より現状に即した返済条件を得られる可能性も高まるのです。
確定申告時に注意すること
確定申告の際には、融資で得た資金をどのように使用したかを正確に記録しておくことで、申告時のトラブルや疑義を避けられます。特に、次の点に注意しましょう。
- 融資を何に使用したのかを明確にしておく
- 領収書や請求書は整理して保管しておく
廃業や事業の縮小を検討している場合は、融資に関する記録が後々の手続きにおいて必要になることも。
また、コロナ禍により2020年以降、特別な支援や助成金を受け取った事業者は注意が必要です。意図せず申告漏れや誤った処理をしないよう、支出記録と収入状況を正確に管理することが求められます。
まとめ
日本政策金融公庫の融資は、新たに事業を始める方や個人事業主にとって心強い資金調達手段です。
しかし、融資を成功させるためには、事前の準備が欠かせません。審査を通過するには、明確な資金使途や現実的な返済計画、信頼性のある事業計画を整えましょう。さらに、融資を受けた後も適切な運用と定期的な見直しが必要です。
融資に関しては専門的な知識が必要な場面も多いため、税理士など専門家のサポートを受けながら進めるのも有効です。信頼できるパートナーに相談することで、安心して資金調達と事業運営に取り組めるでしょう。