個人事業主に課される地方税である「個人事業税」。前年の所得に基づいて計算された税額を翌年に支払うシステムですが、廃業後はどうなるのでしょうか。廃業した後であっても、廃業年の所得に基づく個人事業税は課税されます。一方で、廃業年にのみ適用できる特例もあり、税負担を軽減できる場合も。この記事では、廃業に伴う個人事業税の手続きについて解説します。
目次
個人事業税とは個人事業主が納付する税金
個人事業税は、都道府県が個人事業主に課す地方税です。税率や税額の計算方法など詳しくは下記の記事をご確認ください。
所得税や住民税は経費にできませんが、個人事業税は必要経費として計上できます。計上できるタイミングは、原則として「実際に支払ったとき」です。
なお、個人事業税は前年の所得に基づいて課税されます。例えば、2025年の所得に基づく個人事業税は2026年に支払うため、その支払額は2026年の経費として計上します。
ただし廃業すると、翌年に個人事業税を支払うのが経済的に苦しくなる可能性があります。納税できなくなる事態を防ぐため、廃業する年には特例が適用できます。次の章で、特例について詳しく見ていきましょう。
個人事業税について廃業時に注意すること3点
ここでは、個人事業税について廃業時に注意することを3点解説します。
- 廃業後であっても個人事業税は課税される
- 廃業年には「個人事業税の見込控除」の特例が適用できる
- 見込控除を忘れていた場合は「更正の請求」ができる
以下、1点ずつ見ていきましょう。
廃業後であっても個人事業税は課税される
廃業後であっても、廃業年の所得に基づく個人事業税は課税されます。事業が終了していても支払い義務がある点に注意しましょう。事業者が死亡して廃業した場合は、相続人に納税義務が承継されます。
廃業時には、税務署に出す廃業届とは別に、個人事業税の手続きも必要です。手続き方法は都道府県によって異なるのでご注意ください。
東京都の場合、廃業から10日以内(死亡による廃業の場合は30日以内)に「事業開始(廃止)等申告書」を都税事務所に提出します。
年の途中で廃業した場合は、廃業から1ヵ月以内(死亡による廃業の場合は4ヵ月以内)に個人事業税の申告が必要です。所得税の確定申告とは別に申告が必要ですのでご注意ください。
年の途中で廃業した場合、その年の1月1日から廃業日までの期間の所得に基づいて個人事業税が計算されます。通常、個人事業税には年290万円の事業主控除が適用されますが、廃業年は事業を行った月数に応じて控除額が変わります。
参考:個人事業税|東京都主税局
廃業年には「個人事業税の見込控除」の特例が適用できる
廃業年には、通常の年とは異なる特例が適用できます。それが「個人事業税の見込控除」です。これは、通常なら翌年度に課税されるであろう個人事業税の見込み額を、廃業年度の経費にできる制度です。これにより、廃業年や翌年以降の税負担を軽減できます。
通常の年は、個人事業税の未払計上はできないためご注意ください。
個人事業税の見込み額は、以下のように計算します。
{廃業年の事業所得 + 不動産所得(収入 – 必要経費)+ 所得税の事業専従者給与の額– 個人事業税の事業専従者給与の額+ 青色申告特別控除の額(最大65万円)– 損失の控除額– 事業主控除(年290万円・年の途中で廃業したら月割額)}× 税率(3〜5%)
計算例は以下の通りです。
例:東京都で飲食店を6月に廃業した場合(専従者なし・白色申告・損失控除なし)
(1)前年と廃業年の状況
- 前年(廃業の前年度)の所得:500万円
- 廃業年の所得:200万円
- 個人事業税率:5%
(2)前年の個人事業税の課税所得と税額
- 課税所得:500万円 – 290万円(事業主控除12ヵ月分)= 210万円
- 税額:210万円 × 5% = 10万5,000円
(3)廃業年の個人事業税の課税所得と見込税額
- 課税所得:200万円 – 145万円(事業主控除6ヵ月分)= 55万円
- 見込税額:55万円 × 5% = 27,500円
(4)廃業年に経費として計上する個人事業税の見込税額
前年分の税額 + 廃業年分の税額 = 10万5,000円 + 27,500円 = 13万2,500円
繰越控除などがある場合は見込み額の計算が複雑になるため、税理士などに計算を依頼するとミスを避けられます。
見込控除を忘れていた場合は「更正の請求」ができる
個人事業税の見込控除をし忘れていた場合、「更正の請求」を行うと払いすぎた税金が戻ってくる可能性があります。更正の請求とは、過剰に納めた税金の還付を受けるために、税務署に対し申告内容の修正を求める手続きです。
請求の仕方について、詳しくは下記の記事をご確認ください。
【税理士監修】確定申告が間違っていたときの修正申告のやり方・流れ
参考:所得税及び復興特別所得税の更正の請求手続|国税庁
廃業の翌年に事業税の納税通知書が来て見込控除を忘れていたことに気付いた場合、通知された額をそのまま経費計上し更正の請求をしましょう。先ほど解説した「見込み額の計算」は不要です。通知された額はすでに決定した税額であり、見込み額は必要ないためです。
ただし、廃業に伴う更正の請求ができるのは、支出があった日の翌日から2ヵ月以内です。一般的な更正の請求の期限である「5年」と混同しないようご注意ください。
未払金などにより、廃業年の確定申告後に経費が発生した場合も同様に、発生日の翌日から2ヵ月以内なら更正の請求ができます。廃業年が赤字で控除しきれない場合、廃業の前年の所得から控除します。
法的根拠は所得税法の第63条と第152条、ならびに所得税法施行令の第179条をご参照ください。
参考:所得税法 | e-Gov 法令検索
参考:所得税法施行令 | e-Gov 法令検索
税務の専門知識がない場合、2ヵ月以内に更正の請求をするのは時間的にタイトに感じるでしょう。不安な方は税理士などの専門家に相談するのがおすすめです。
廃業後は「廃業届」の提出など各種手続きも忘れずに
この記事で解説したのは、都道府県に対する個人事業税の事務手続きについてです。しかし、個人事業主が廃業する際は、他にも税務署や関係機関への届け出や手続きが必要です。例えば、廃業届の提出や、消費税の手続きなどが挙げられます。
廃業に伴う各種手続きについて、詳しくは下記の記事をご確認ください。
廃業届の書き方・タイミングは?3つの注意点も解説
個人事業主は廃業届をいつ出すべき?その書き方と廃業方法
廃業後の個人事業税でお困りの方は税理士にご相談ください
この記事では、個人事業税について廃業時に注意する点を解説しました。
廃業時には、見込控除の特例を活用することで、税負担を軽減できる可能性があります。見込控除の適用漏れや追加の経費発生があった場合は、税務署へ「更正の請求」をすれば税金の還付を受けられる場合もあります。
一方で、節税できる手続きには、複雑な計算や手続きが不可欠です。専門的で煩雑な手続きは、ぜひ経験豊富な税理士にご相談ください。税負担を最小限に抑えるサポートができます。