源泉徴収票は事業者から従業員に対する発行が義務付けられている書類の1つです。そんな源泉徴収票について「具体的にはいつ発行すれば良いの?」「従業員にはいつまでに渡すべき?」と疑問をお持ちの人も多いでしょう。源泉徴収票の適切な取り扱いをするためには、源泉徴収票について理解を深めることが大切です。今回は源泉徴収票について、発行するタイミングや作成方法、注意点などを詳しく解説します。
目次
源泉徴収票を発行するタイミング
源泉徴収票を発行するタイミングは主に3つです。事業者は源泉徴収票の発行義務を怠ると、1年以下の懲役か50万円以下の罰金を科される可能性があります。
源泉徴収票を発行するべきタイミングについてそれぞれ詳しく解説します。
年末調整の終了後
源泉徴収票を発行するタイミングとして、最も代表的なのは年末調整の終了後です。原則として、年末調整を行う時期に在籍している従業員に対しては「給与所得の源泉徴収票」を交付する必要があります。
年末調整とは1年間の給与総額をもとに所得税を計算し、源泉徴収税額との過不足を調整する手続きです。年末調整の結果、源泉徴収税額が多すぎると発覚した場合は還付、不足がある場合は追加徴収を行います。
「給与所得の源泉徴収票」は、その年の給与総額や確定した所得税額等の情報が記載された書類です。従業員に対する報告書の性質を持つため、年末調整の終了後に必ず発行・交付する必要があります。
従業員の退職時
従業員の退職時も源泉徴収票の発行が必要です。従業員の退職時には以下2つの源泉徴収票を発行します。
- 給与所得の源泉徴収票
- 退職所得の源泉徴収票(退職金を支給しない場合は不要)
退職時に発行する源泉徴収票は、従業員の転職先で行う年末調整や、個人で行う確定申告に必要な資料です。退職から1ヵ月以内に発行・交付する必要があります。
従業員からの発行依頼があった場合
従業員からの発行依頼があった場合も源泉徴収票の発行が必要です。源泉徴収票が必要になる場面として、ローン審査や保育園への入園時等が挙げられます。
従業員から依頼があった場合の対応期日について「いつまで」と具体的な決まりはありません。ただし、発行依頼があればなるべく早く対応する必要があります。
従業員からの発行依頼にスムーズな対応をするため、源泉徴収票を速やかに発行できるよう体制を整えておきましょう。
源泉徴収票が必要なケース
源泉徴収票は納税者が1年間の給与や所得税額を確認する目的以外にも、様々な場面で必要となります。源泉徴収票が必要になるケースの具体例を紹介します。
従業員が転職するとき
従業員が転職するときには源泉徴収票が必要です。
年の途中に転職をした場合、年末までに在籍している勤務先が前職の給与や源泉徴収額等も考慮した年末調整を行ないます。そのため従業員は転職先に、転職前の職場で発行された源泉徴収票の提出が必要です。
転職先には原則として、退職の際に発行した源泉徴収票を提出します。ただし源泉徴収票を紛失してしまった等の理由により、退職した従業員から源泉徴収票の再発行を依頼されるケースもあります。その際は、たとえ退職した従業員からであっても、源泉徴収票の発行を依頼された場合は対応が必要です。
収入証明が求められたとき
源泉徴収票は給与所得者の収入証明書類として用いられます。そのため収入証明が求められたときも源泉徴収票が必要です。
収入証明が求められる場面として以下の例が挙げられます。
- ローンの審査時
- 賃貸契約をするとき
- 保育園の入園時
従業員自ら確定申告をする場合
従業員が個人で確定申告をする場合も源泉徴収票が必要です。確定申告書への元本添付は必要ありませんが、給与所得や源泉徴収税額を確認する書類として用いられます。
給与所得者で確定申告が必要になるケースの例を紹介します。
- 給与収入が2,000万円を超えるとき
※給与収入が2,000万円を超える場合、会社での年末調整は行われません。 - 副業等による所得が20万円を超えている
- 医療費控除など、年末調整では対応できない控除を受ける
源泉徴収票の作成方法
源泉徴収票を作成する際は、書式に沿って各項目を順番に埋めていくと効率的です。源泉徴収票の主な項目ごとに作成方法を解説します。
1. 支払金額(給与の総支給額)
支払金額は事業者から対象の従業員に対して1年間に支払った給与等の合計額を記載する欄です。基本給だけでなく、各種手当やボーナスなど、所得税の課税対象になる金銭全般が含まれます。従業員が年の途中に転職をしており前職での給与収入がある場合は、前職の源泉徴収票に記載された給与額も加算します。
反対に、通勤手当をはじめとする非課税所得や、祝い金等の福利厚生によって受け取る金銭は含まれません。
2. 給与所得控除後の金額
給与所得控除後の金額は、文字通り支払金額から給与所得控除を引いた額を記載する欄です。
給与所得控除の額は給与等の収入金額に応じて以下のように定められています。
給与等の収入金額
(源泉徴収票の「支払金額」欄に記載された額)給与所得控除額
162万5,000円まで
55万円
162万5,000円超180万円以下
収入金額 × 40% – 10万円
180万円超360万円以下
収入金額 × 30% + 80,000円
360万円超660万円以下
収入金額 × 20% + 44万円
660万円超850万円以下
収入金額 × 10% + 110万円
850万円超
195万円(上限)
たとえば支払金額が600万円の場合、給与所得控除額および「給与所得控除後の金額」欄に記載する額は以下のようになります。
【給与所得控除額】
600万円 × 20% + 44万円=164万円
【給与所得控除後の金額】
600万円-164万円=436万円
3. 所得控除の額の合計額
所得控除の額の合計額は、年末調整で適用された所得控除の合計額を記載する欄です。所得控除は納税者の個人的事情への考慮や、社会政策上の要請などによって設けられています。
なお、所得控除は全部で15種類ありますが、年末調整では反映できない控除も存在します。年末調整で対応できない所得控除の適用を受けたい場合、従業員個人による確定申告が必要です。
所得控除の種類や控除を受けるために必要な手続きについては以下の記事をご覧ください。
関連記事:税金の控除とは?節税のために知っておきたい種類や目的を詳しく解説!
4. 源泉徴収税額
源泉徴収税額はその年の給与所得に対して課される所得税額です。支払金額から給与所得控除と所得控除を差し引いた課税所得に税率を乗じて計算します。
所得税の税率は課税所得額によって以下のように異なります。
課税所得金額
税率
控除額
1,000円~194万9,000円
5%
0円
194万5,000円~329万9,000円
10%
97,500円
330万円~694万9,000円
20%
42万7,500円
695万円~899万9,000円
23%
63万6,000円
900万円~1,799万9,000円
33%
153万6,000円
1,800万円~3,999万9,000円
40%
279万6,000円
4,000万円以上
45%
479万6,000円
5.その他の項目
所得控除の内訳や扶養家族の人数など、所得税額の計算に必要な情報を記載する項目も存在します。埋めるべき項目は適用する所得控除の種類や扶養家族の有無などによって異なるため、どの項目を埋める必要があるか個別に確認が必要です。
その他の項目のうち主要なものの例を紹介します。
- 控除対象配偶者の有無等 / 配偶者(特別)控除の額
- 控除対象扶養親族の数(配偶者を除く)
- 社会保険料等の金額
- 生命保険料の控除額 / 地震保険料の控除額
- 住宅借入金等特別控除の額
- 各種内訳
- 控除対象扶養親族 / 16歳未満の扶養親族の氏名・個人番号
年末調整関係書類の保管方法
源泉徴収票を含む年末調整関係書類は7年間の保管が義務付けられています。書類作成や税務調査等で必要になる可能性もあるため、すぐに提出できる状態での保管が必要です。年末調整関係書類の保管方法について解説します。
紙媒体での保管
紙媒体で保管する場合、年度別および種類別に分類するのが一般的です。紙媒体で保管する際のポイントとして以下の3つが挙げられます。
- まずは申告書の種類別に分類し、それから年数別にまとめてファイルやフォルダ等に収納する
- ファイルやフォルダの目立つ部分に申告書の種類や年度を記載したラベルを貼る
- 横向きにして重ねるように収納すると取り出しにくいため、なるべく立てて保管する
電子データでの保管
電子データで保管する場合、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。電子帳簿保存法の要件は「真実性の確保」と「可視性の確保」に大別されます。
真実性の確保とは、保存されているデータが削除・改ざんされていない状態を維持・証明するための要件です。真実性の確保の要件を満たす方法として、タイムスタンプの付与が挙げられます。
可視性の確保とは、保存したデータを必要に応じて閲覧できるようにするための要件です。可視性の確保はさらに以下の3つに細分化されます。
- 関連書類の備え付け
- 見読性の確保
- 検索機能の確保
電子帳簿保存法の要件については以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:電子帳簿保存法とは?
年末調整の提出書類および提出期限
年末調整は源泉徴収票を発行して終わりではありません。関連書類を税務署や自治体に提出する必要があります。
年末調整関連で提出する必要がある書類のとおりです。
書類の種類 | 内容 | 提出先 |
法定調書合計表 | 税務署に提出する法定調書(源泉徴収票・支払調書)を集計した結果を記載した書類 | 税務署 |
源泉徴収票 | 年末調整で発行したものと同様 | 税務署 |
支払調書 | 源泉徴収義務者が支払った報酬の詳細を記載した書類。代表的なものに「報酬、料金、契約及び賞金の支払調書」がある | 税務署 |
給与支払報告書 | 従業員に支払った給与や、年末調整によって計算した所得税等の情報を記載した書類。住民税の計算に用いる | 従業員の住所がある市区町村 |
いずれの書類も翌年1月31日が提出期限です。
支払調書については以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:【税理士監修】支払調書と源泉徴収票|その違いと使い方を徹底解説!
年末調整に関するその他の注意点
最後に、年末調整に関するその他の注意点を2つ紹介します。
年末調整に必要な情報を漏れなく確認する
年末調整を正しく行うためには、年末調整に必要な情報を漏れなく確認することが大切です。
年末調整に向けて、従業員には事前に資料の提出を依頼します。その後提出された資料の内容をもとに各種控除の適用を行います。
提出された書類に不備や漏れがあれば正確な年末調整ができません。年末調整の際に転記や入力ミスをしてしまった場合も税額にズレが生じてしまいます。結果として、源泉徴収票の内容も誤りとなってしまいます。
従業員へ書類提出についてしっかり周知するとともに、年末調整の際には書類の確認を慎重に行いましょう。
確認するべきポイントとして以下の具体例が挙げられます。
- 扶養対象となる配偶者および親族の有無
- 生命保険料や地震保険料の支払いの有無および金額
- 住宅ローンの支払い有無および金額
※住宅ローン1年目は年末調整での対応ができないため、確定申告が必要です
特に扶養親族はミスが起こりやすい部分です。16歳未満の扶養親族は控除対象にはならないものの、従業員が誤って「控除対象扶養親族」の欄に記載してしまうケースがみられます。
扶養親族欄の記載があった場合、念のため16歳未満であるかの確認をすると安心です。
保管期間は7年間
年末調整に関する書類は7年間の保管が義務付けられています。保管期間を過ぎるよりも前に破棄してしまうと税務調査で指摘を受け、追徴課税の対象になる恐れがあるため注意しましょう。
なお電子データで保管する場合、ただ保管するだけでなく、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。
源泉徴収票に関するまとめ
源泉徴収票の発行が必要なタイミングとして、年末調整の終了後・従業員の退職時・従業員から依頼を受けた時の3つが挙げられます。
源泉徴収票を正しく作成するためには、作成方法や各項目の意味について十分に理解を深める必要があります。また、源泉徴収票を含む年末調整関係書類を正しく保管することも大切です。
源泉徴収票や年末調整について少しでも不備・漏れがあると追徴課税等の罰則を科される恐れがあります。しかし細かなルールが多く複雑な部分もあるため、専門知識のない人が完璧に行うのは難しいでしょう。源泉徴収票に関する対応を適切に行うためには、専門家である税理士のサポートを受けるのが安心です。