車両保険は自動車保険の一種で、車両の損害を補償するための保険です。受取人が個人や個人事業主なら保険金は原則非課税ですが、法人だと法人税の課税対象です。一方、自動車に関連する保険の中でも死亡保険金は相続税や贈与税などが課税されます。この記事では、車両保険を中心に自動車保険の保険金の税務処理について解説します。
目次
自動車保険の保険金は基本的に非課税だが死亡保険は課税対象
保険金とは「保険会社から加入者に対して支払うお金」を指します。加入者が支払う「保険料」とは異なるので混同にご注意ください。
自動車保険の保険金受取人が個人の場合、保険金は非課税のものと課税対象のものがあります。修理や治療に関する保険金は基本的に非課税ですが、死亡に関する保険金は課税対象です。主な保険金で分けると以下の通りです。
非課税のもの | 課税対象のもの |
| 死亡保険金(被保険者の死亡時に遺族が受け取る保険金) |
参考:医療費を補填する保険金等の金額のあん分計算|国税庁
参考:所得補償保険の保険金を受け取ったとき|国税庁
参考:死亡保険金を受け取ったとき|国税庁
所得税法第9条第18号では「心身に加えられた損害や突発的な事故の損害に対する補償」は非課税としています。例えば、交通事故で自家用車が壊れた場合、その修理費用を補填するための保険金は非課税です。
一方、保険金の受取人が法人の場合、保険金は法人税の課税対象です。法人税法第22条では「法人が得たすべての収益は原則として益金に該当する」と規定されています。その中には損害を補填するための保険金も含まれます。
よって、法人の場合は「圧縮記帳」の適用も検討しましょう。圧縮記帳とは、保険金で新たな事業用車両を購入する際に課税所得を減らせる方法です。
圧縮記帳について詳しくは下記の記事をご確認ください。
補助金活用で利用できる圧縮記帳とは?条件や方式・対象を解説!
車両保険の保険金を受け取ったときの仕訳
車両保険は自動車保険の一種で、車両に生じた損害を補償するための保険です。事故や自然災害、盗難などによって車両が損傷した場合に、修理費用や買い替え費用を保険金として受け取れます。
ここでは、車両保険金を受け取った際の仕訳を確認しましょう。勘定科目は、個人事業主か法人かで異なります。
個人事業主が保険金を受け取ったら「事業主借」
個人事業主が車両保険の保険金を受け取った場合、原則として非課税です。よって帳簿では、保険金は「事業主借」で、修理費用は「修繕費」「車両費」などで処理します。保険金よりも修理費用が高かった場合、上回る金額のみ経費として計上可能です。
事業に関係のない個人用車両の保険金を受け取った場合、仕訳は不要です。ただし、保険金が事業用口座に入金されてしまった場合は、「事業主借」の勘定科目を使いましょう。
法人が保険金を受け取ったら「雑収入」か「特別利益」
法人の事業用車両の場合、事故で保険金を受け取った際は「雑収入」か「特別利益」の勘定科目を使うのが一般的です。どちらを使うかは、保険金の性質や用途によって異なります。
「雑収入」に分類されるのは、日常的な活動の延長として発生した保険金です。例えば、軽微な修理費用として保険金を受け取るケースが挙げられます。
一方「特別利益」に分類されるのは、日常的な活動からは逸脱した臨時的な収益とみなされる保険金です。例えば事業用車両が事故で全損となり、まとまった保険金が支払われるケースが挙げられます。
保険金と修理費用の消費税に注意
個人事業主でも法人でも、受け取った保険金は消費税の対象外であるため消費税の計算に含まれません。一方、修理費用は消費税の課税仕入れに含まれます。
参考:課税の対象とならないもの(不課税)の具体例|国税庁
参考:損害を被った場合の修理の費用|国税庁
保険金を受け取ったときの税務処理は複雑です。不安な方は税理士にご相談ください。
修理しないと消費税分が差し引かれる場合があるので注意
車両保険の契約内容によっては、事故車を修理しなくても保険金を受け取れます。その場合、条件によっては消費税相当分が支払われないケースがあるため注意しましょう。
通常、保険会社が修理費用を補填する際に作る見積書では、消費税も含んで計算されています。よって修理しない場合、消費税の「課税対象となる消費行為」が発生しないとされ、消費税分が補填額から差し引かれるケースがあります。
一方、契約内容で「修理の有無に関わらず全額を支払う」と規定されている場合は、消費税分も支払われます。修理せずに車両保険金を請求する際は、支払条件などの契約内容を確認しましょう。
死亡保険金に課税される税金は3種類
自動車事故による死亡保険金は課税対象です。適用されるのは以下の3つの税金のいずれかです。
税金の種類 | 被保険者(死亡した人) | 保険料の支払者 | 保険金の受取人 |
相続税 | A | A | B |
贈与税 | A | B | C |
所得税 | A | B | B |
亡くなった人が保険料を支払っていたら「相続税」
相続税の課税対象になるのは、亡くなった人と保険料の支払者が同一人物である場合です。ただし受取人が相続人であれば非課税枠が適用でき、非課税限度額を超える部分のみが課税対象となります。
非課税限度額は法定相続人1人当たり500万円までです。例えば法定相続人が2人いる場合1,000万円までの死亡保険金が非課税となり、1,000万円を超えた金額が課税対象となります。
一方、受取人が相続人ではない場合、非課税枠は適用できません。相続人の範囲について詳しくは下記の記事をご確認ください。
【税理士監修】相続人は誰がなるのか。相続人となる人の範囲や順位について解説
なお、相続税は確定申告ではなく、税務署に「相続税申告書」を提出して申告します。詳しい計算方法などは下記の記事をご確認ください。
【税理士監修】生命保険の死亡保険金には相続税がかからない?非課税枠や注意点も解説
亡くなった人・保険料支払者・受取人がすべて異なるなら「贈与税」
贈与税の課税対象になるのは、亡くなった人・保険料の支払者・保険金の受取人がすべて異なる場合です。
ある女性が自動車事故で亡くなったケースを例に挙げましょう。女性を被保険者として夫が保険料を支払い、その夫婦の子供が保険金の受取人であった場合、その保険金は贈与税の対象です。
ただし贈与税には年間110万円の非課税枠があるため、それを超えた金額が課税対象となります。
なお、贈与税は確定申告ではなく、税務署に「贈与税申告書」を提出して申告します。
参考:贈与税の申告等|国税庁
保険料支払者が受取人なら「所得税」
所得税の課税対象になるのは、保険料の支払者と保険金の受取人が同一人物である場合です。保険金は受け取り方によって「一時所得」か「雑所得」かのどちらかとして扱われます。
一時所得になるのは、死亡保険金を「一時金」で受け取った場合です。
保険金からすでに支払った保険料を差し引き、さらに特別控除額50万円を差し引いた金額の半分が課税対象です。例えば保険金が100万円で支払った保険料が30万円の場合、課税対象額は以下の計算式で導けます。
課税対象額 = (100万円 – 30万円 – 50万円) ÷ 2 = 10万円
課税対象の一時所得がある場合、所得税の確定申告が必要です。
参考:一時所得|国税庁
一方、雑所得になるのは死亡保険金を「年金」で受け取った場合です。課税対象額は以下の計算式で導けます。
課税対象額 = 年間受取額 – 年間受取額に対応する支払保険料
例えば年間受取額が120万円、払い込んだ保険料の総額が500万円、年金受取期間が10年の場合、以下のように計算します。
- 年間受取額に対応する支払保険料を計算
保険料総額500万円 ÷ 年金受取期間10年 = 50万円(必要経費) - 課税対象額の雑所得を計算
年間受取額120万円 – 必要経費50万円 = 70万円(課税対象額)
課税対象額が25万円以上ある場合、保険会社で所得税が源泉徴収されます。よって、確定申告で税金の過不足を精算しましょう。
参考:保険契約者(保険料の負担者)である本人が支払を受ける個人年金|国税庁
年金受給者でも確定申告が必要?知って得・知らないと損なケース
保険金の税務処理は複雑!不安な方は税理士にご相談ください
この記事では、自動車保険、特に車両保険の保険金の税務処理について解説しました。
国税庁は「保険会社から受け取った一時所得の申告漏れが多い」と公表しています。死亡保険金はそれだけ目を付けられている項目です。申告漏れがあると追徴課税を課せられますのでご注意ください。
参考:【申告相談】Q17所得税等の確定申告の際に、誤りの多い事例にはどのようなものがありますか。|国税庁
また、車両保険の保険金を受け取ったとき、個人事業主と法人で税務処理が大きく異なります。さらに消費税の計算も複雑です。不安な方はぜひ税理士にお任せください。