FXや株のトレーダーだけで生計を立てている人が個人事業主になることは難しいでしょう。なぜなら、トレードの利益が事業所得として認められることはほぼ無いからです。トレードの利益は雑所得か譲渡所得になるため、青色申告制度の活用を受けることは難しいです。では、他にトレーダーにできる税金対策はあるのでしょうか?この記事では、トレーダーが個人事業主になりにくい理由や、トレーダーにおすすめの節税策を解説します。
目次
FXや株の利益が事業所得として認められることは、ほぼない
FXや株のトレーダーが個人事業主になるケースはほぼありません。なぜなら、トレードの利益は事業所得として認められることがほぼないからです。
ここでは、トレードの利益が事業所得としてほぼ認められない理由を解説します。
FXや株による利益は、基本的に雑所得に分類される
前提として、短期間でトレードするFXや株による利益は、基本的に雑所得に分類されます。
FXの利益は、国税庁のサイトに「他の所得と区分し『先物取引に係る雑所得等』として課税される」という旨の記載があります。
また、株の利益は、雑所得・事業所得・譲渡所得のいずれかに区分されると規定されています。しかし国税庁の電話相談センターによりますと、現実的な運用として、事業所得として認められることは稀だということです。
個人で行う株式の売買は資産の運用であり、商品やサービスの提供とは異なるため、事業所得として認められづらいのが現状です。
株の利益 | 雑所得or事業所得になる | 譲渡所得になる |
条件(1つでも満たせばいい) |
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参考:措置法第37の10《株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》関係|国税庁
FXや株の利益が事業所得として認められなかった判例が複数ある
事業所得は他の所得との損益通算ができますが、雑所得は他の所得との損益通算ができません。
FXや株の赤字を他の所得と損益通算するため、「FXや株の利益は事業所得である」と主張した訴訟は過去に複数あります。しかし、いずれも「事業所得ではなく雑所得である」との判決が下っています。結果、他の所得との損益通算は却下されました。
所得税法施行令63条では、事業所得は「対価を得て継続的に行なう事業」から生じる損益とされています。しかし、トレードの損益はこれに該当しないというのが理由の一つです。
参考:所得税法施行令 | e-Gov 法令検索
参考:判例017981|最高裁判所
参考:平22.2.16、裁決事例集No.79|国税不服審判所
参考:税務訴訟資料 第261号-2(順号11618)東京地方裁判所|国税庁
参考:税務訴訟資料 第263号-122(順号12246)横浜地方裁判所|国税庁
なお、事業所得の損益通算について詳しくは下記のサイトをご確認ください。
参考:損益通算|国税庁
開業届を出しても、ほぼ事業所得として認められない
開業届とは、個人が新たに事業を開始したと税務署に報告する書類です。よって、「職業をトレーダーと記載して開業届を出せば、個人事業主として事業所得が認められるのでは?」と考える方もいらっしゃるでしょう。
しかし、開業届を出すこと自体がトレードの利益を「事業所得」として自動的に認めさせるわけではありません。開業届の提出は「事業を始めた」という意思表示に過ぎず、所得の種類を決定する手続きではないからです。
所得の種類は、開業届の有無に関係なく、実情を見て税務署が判断します。
【税理士監修】開業届とは?書き方や必要書類、提出方法までの完全ガイド
FXや株のトレーダーが個人事業主になるメリットはほぼない
FXや株のトレーダーも、開業届を出せば個人事業主という身分は得られます。ただし、個人事業主になるメリットはほぼありません。事務の手間を掛けて開業届を出しても、トレードの利益は事業所得としてほぼ認められないからです。
利益が雑所得や譲渡所得だとしても経費の計上は認められるので、手間を掛けて開業届を出す必要はないでしょう。
仮にトレードの利益を事業所得として確定申告したとしても、後から税務署に否認される可能性は高いでしょう。その場合、再申告を求められるだけではなく、追徴課税も伴います。
しかし、本気でトレードの利益を事業所得として申告したいと考えている方は、税理士にご相談ください。事業所得として認められるには、明確なビジネスモデルや顧客が得られる価値があることなどが求められます。
勝算があるかどうか税理士と相談し、リスクやメリットを十分に理解した上で事業所得を申告しましょう。
追徴課税について詳しくは、以下の記事をご確認ください。
FXや株の個人トレーダーが活用できる税金対策
雑所得や譲渡所得である場合、青色申告の特典は受けられません。ここでは、他に活用できる節税方法を3つ解説します。
- 経費を計上して課税所得を減らす
- 損益通算や繰越控除を利用する
- 各種控除を活用する
一つずつ見ていきましょう。
経費を計上して課税所得を減らす
トレードの利益が雑所得や譲渡所得であっても、経費が計上できます。収入から経費を引いた額が課税所得となるため、経費をもれなく計上して税負担を軽くしましょう。
ここでは、計上が認められる主な経費を紹介します。特に、雑所得の経費の範囲は事業所得とほぼ変わりません。
雑所得 | 譲渡所得 |
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参考:雑所得|国税庁
参考:必要経費の知識|国税庁
参考:必要経費又は譲渡に要した費用等とは|国税庁
雑所得となるトレードを自宅で行っている場合、家賃や光熱費の一部を経費にできる「家事按分」が適用できる場合があります。詳しくは下記の記事をご確認ください。
一方、譲渡所得は、売買に直接関連するコストしか経費にできないので注意しましょう。詳しくは下記の記事をご確認ください。
投資の確定申告で認められる経費とは?税金対策や申告書の書き方
損益通算や繰越控除を利用する
株やFXで赤字が出た場合、損益通算や繰越控除を利用できるケースがあります。損益通算とは、同一年度内で発生した利益と損失を相殺できる制度です。また、繰越控除とは、最大で3年間損失を繰り越せる制度です。どちらも節税に繋がります。
株の損益通算や繰越控除について詳しくは、下記のサイトや記事をご確認ください。
株式投資で損をしたときの節税法!確定申告での損益通算のやり方を解説
参考:上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除|国税庁
また、FX取引が含まれる「先物取引に係る雑所得」でも、この2つの節税制度が利用できます。
FXの損失は、同じ「先物取引に係る雑所得」の範囲内でのみ、損益通算と繰越控除が可能です。他の「先物取引」とは、商品先物取引やCFD取引などです。ただし、損失が発生した年に確定申告を行っている必要があります。
なお、給与所得や事業所得といった他の所得との損益通算や繰越控除はできません。FXを含む先物取引は、投機的な要素が強いと考えられています。そのため、他の安定的な収入(給与所得など)と損失を相殺できないようにルールが設けられています。
FXではない雑所得(フリーランス業務や少額のアフィリエイトの収入など)とは、損益通算や繰越控除ができません。
各種控除を活用する
一定の要件に当てはまる場合、課税所得から一定の金額を差し引ける「控除」という制度があります。
例えば、配偶者や子供がいる場合は配偶者控除や扶養控除を活用できます。また、1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合、超過分について医療費控除を受けられます。
これらは一例で他にも控除は多数ありますので、要件など詳しくは下記の記事をご確認ください。
税金の控除とは?節税のために知っておきたい種類や目的を詳しく解説!
【税理士監修】医療費控除とは?申請・計算方法や他の制度との違いを解説
FXや株の個人トレーダーの節税税策は税理士にお任せください
この記事では、トレーダーが個人事業主になることも、トレードの利益が事業所得として認められることもほぼ無いと解説しました。
代表的な節税策も紹介しましたが、税制度は毎年のように変わります。自分にとって最適な節税策を知りたい方は、ぜひ税理士にご相談ください。税理士は個別の状況に合わせて、最新かつ最善の策をご提案できます。