2024年の税制改正では、日本経済のデフレーションからの脱却と成長を目的に、様々な分野の改正が決定しました。所得税および個人住民税の定額減税や、賃上げ促進税制の強化、交際費の損金不算入制度の除外措置拡大など、個人・企業ともに影響を与えることが予想されます。本記事では、税制改正の概要を解説するとともに、注意すべきポイントをわかりやすく解説します。
目次
所得税・住民税の改正点
2024年の税制改正では、特に所得税と住民税に関する注目すべき変更点があります。大きく2つ、「すべての国民対象の軽減措置」と「既存制度拡充による子育て世帯への優遇」が盛り込まれました。所得税や住民税は事業活動や生活に直接関連するため、改正内容を理解し適切な対応を講じましょう。
具体的な内容は以下の通りです。
- 所得税・個人住民税の定額減税の実施
- 子育て世帯の住宅ローン控除の拡充
- 子育て世帯のリフォーム税制の拡充
「所得税・個人住民税の定額減税」は新しく新設された制度で、令和6年度分の所得税および個人住民税の所得割部分から特別控除額が差し引かれます。所得金額を抑えるものではなく、算出された所得税額から直接控除できるため、納税額が少ない人ほど税負担の軽減になるでしょう。
定額減税は年間の所得合計額1,805万円以下という所得制限がありますが、すべての居住者が対象であり多くの人が受けられる減税制度です。
「子育て世帯の住宅ローン控除の拡充」「子育て世帯のリフォーム税制の拡充」は、既に施行されていた住宅にかかる優遇措置について、期間の延長および内容の拡充が行われました。
住宅ローン控除については、子育て世帯について住宅ローン年末残高の限度額拡大および床面積要件の緩和措置が組み込まれました。リフォーム税制では、子育て世帯が住宅の改修工事を行う場合に、標準的な工事費用相当額の10%を所得税から控除するという内容が追加され、子育て世帯への支援を手厚くした内容となっています。
税制改正のなかでも所得税や住民税の変更は、予期しない税金の負担増や事業運営に影響を及ぼすことがあります。改正内容を前もって理解し、開始時期や終了時期に備えて対応策を準備しておきましょう。
相続税・贈与税の最新情報
2024年度税制改正の中には、相続税および贈与税に関連する項目が多く含まれています。資産管理や計画的な譲渡、事業計画に影響する可能性があるため、しっかり理解して将来における資産管理の方法を考えましょう。
改正の主なポイントは下記の通りです。
- 相続時精算課税にかかる基礎控除の創設
- 暦年課税による生前贈与の加算対象期間等の見直し
- 個人の事業用資産にかかる相続税・贈与税の納税猶予
- 非上場株式等にかかる相続税・贈与税の納税猶予の特例
改正の主要ポイントは「相続時精算課税制度における基礎控除の創設」と、「暦年課税制度の対象期間延長」です。相続時精算課税制度とは、2,500万円まで贈与税を納めずに贈与を受けることができます。
贈与者が亡くなった際にそれまでの贈与額および相続財産を合計し、相続税額を算出し「相続税」として納税する制度です。今回、基礎控除が制定され、年間110万円以内の贈与に関しては贈与税・相続税ともに納税不要になりました。
暦年課税は、1年間で贈与された財産の合計額によって「贈与税」が課されるもので、従来より基礎控除110万円が設けられていました。2024年の改正で、暦年贈与による生前贈与の加算対象期間が3年から7年へと延長されたため、死亡日7年間に行われた贈与が基礎控除110万円以下の場合でも、相続税の対象となります。
相続や贈与を行う際の税負担の軽減が可能になる可能性がありますが、一方で計画的な資産管理がより重要です。税理士の豊富な知識と専門的なサポートによって、税制変更に賢く対処しましょう。
参考: 令和6年分の贈与から贈与税・相続税の計算方法が変わります!|国税庁
固定資産税・登録免許税等の変更概要
2024年度の税制改正に伴い、固定資産税や登録免許税なども変更されました。既存の措置を延長するという内容のため大きく変わることはありませんが、措置が解除されれば個人だけでなく企業にも影響を与える内容のため、しっかり把握しておきましょう。固定資産税・登録免許税等の変更点は下記の通りです。
- 土地にかかる固定資産税等の負担調整措置の延長
- 登録免許税の税率軽減措置の延長
「土地にかかる固定資産税等の負担調整措置」とは、土地の評価額が急激に上昇した場合でも納税額が大幅に増えないように調整し、徐々に本来の額へ近づけていく施策です。近年の急激な地価上昇に対応するものとして、施行されました。
「登録免許税の税率軽減措置」とは、不動産を購入して登記する際に支払う税金「登録免許税」が、一定の要件のもと減税されます。登記の際には必ず支払わなければならず、不動産の金額が大きければ登録免許税も多額になるため、個人にとっても法人にとっても税負担の軽減になるでしょう。
参考:登録免許税の税率の軽減措置に関するお知らせ|国税庁
令和6年度税制改正の対抗(2/10)|財務省
法人税・法人住民税・法人事業税の改正内容
法人税等に関わる変更点としては、「賃上げ促進税制の見直し」が行われました。
賃上げ促進税制とは、従業員の給与増加促進を目的に、給与増加率にあわせて法人税額の控除を受けられる制度です。改正前では「大企業・中小企業向け」「最大控除率25%」でした。改正後は「中堅企業も対象」「女性活躍支援による控除率の上乗せ」「最大控除率の引き上げ」と内容の拡充が行われました。
さらに、中小企業においては、一定の要件を満たせば控除しきれなかった金額について、最大5年間繰越可能と変更されました。小規模な中小企業が賃上げを促進するメリットとなりそうです。
賃上げや女性の活躍支援など、企業として社会的役割の向上にも繋がるため、うまく制度を活用しながら取り組むとよいでしょう。
関連記事:「(税制改正特集)賃上げ促進税制の見直し」小谷野税理士事務所
消費税改正のポイント
2024年の税制改正における消費税の変更点について、個人や法人が注目すべき要点を明確にします。消費税は日常生活やビジネス運営において不可欠な税金です。このため、改正内容を正確に理解し、適切な対策を講じることが極めて重要です。
- プラットフォーム事業者に課税
- インボイス制度の見直し
特定プラットフォーム事業者が、国外事業者の代わりに消費税の納税義務制度が導入されます。従来、国外事業者の消費税徴収に限界があったため、国外事業者が利用するプラットフォームが課税されることとなりました。
2023年10月より始まったインボイス制度については、今回の見直しで、一部帳簿記載要件が緩和されたほか、課税仕入れ額10億円を超えた部分に対して、インボイスにかかる経過措置の適用が認められなくなりました。
事業形態によって影響は異なりますが、個人事業主だけでなく、小売業やサービス業、製造業など幅広く対象となるため、申告漏れが発生しないように注意しましょう。
税制改正に伴う消費税の変更ポイントをしっかりと把握し、個人や企業が適切な対応を取ることで、適切な税負担とビジネスチャンスの鍵となるでしょう。
関連記事:(税制改正特集)消費税|小谷野税理士法人
ストックオプション・交際費の取り扱い
自社株を一定の金額で保有できる「ストックオプション」について、「保管委託要件の緩和」および「権利行使価額の限度額引き上げ」が決定しました。
従来、税制適格ストックオプションの行使によって得た株式は、直ちに金融商品取引業者等に保管委託を行わなければならないとされていました。今回の税制改正によって、「新株予約権行使に係る株式会社が保管すること」を要件に、保管委託が不要となりました。
自社で株式を保管できるため、M&A等の場合に即座に対応できるメリットがあるほか、スタートアップ企業や成長期の企業で働く人々に影響があると考えられます。
また、権利行使価額の限度額が従来の1,200万円から2,400万円(一定の株式会社は3,600万円)に引き上げられました。限度額が引き上げられたことにより、株価が上昇した場合に利益を得やすくなります。
次に、交際費の取り扱いについてです。交際費については「交際費課税の延長および見直し」が実施されました。交際費にかかる基準として、現行1人当たり5,000円以下が損金不算入対象外(交際費計上可能)とされていましたが、基準金額が10,000円以下に引き上げられました。
基準金額が増えたことで、今まで金額超過によって経費計上できなかったものも対象となり、節税効果が上がると考えられます。企業の経費処理方針の見直しや、税務計画における変更の可能性を考慮しましょう。
参考:令和6年度 税制改正(案)のポイント|財務省
税制改正に伴う相談は税理士がベスト
税制改正は、日本の経済状況等を鑑みて毎年行われるため、事業の傍ら内容把握や対策を講じることは難しいでしょう。
税理士は最新の税制改正情報を迅速に把握し、変更内容が個人や企業に与える具体的な影響を詳細に分析します。税制改正の影響分析だけでなく、節税対策の立案、税務申告のサポート、税務調査対策など税に関する幅広いアドバイスを得られます。
税制改正の対応策にお悩みの方は、小谷野税理士法人までご相談ください。