会社員から個人事業主へ転向する際に、健康保険の加入について悩む方も多いのではないでしょうか。会社員は会社の健康保険へ加入しますが、個人事業主は国民健康保険や会社の健康保険を任意継続で利用するなど、さまざまな選択肢があります。ここでは、個人事業主へ転向する際に加入できる保険の種類や、国民健康保険よりも健康保険の任意継続を選ぶメリットやデメリットなどについて解説します。
目次
個人事業主が加入できる健康保険とは?
社会保険は公的な保険制度であり、加入が義務付けられています。健康保険も社会保険の一種であり、病気やケガに備えるための保険です。会社員の時には会社の健康保険へ自動的に加入することになりますが、個人事業主になった場合はどのような健康保険へ加入できるのでしょうか?
個人事業主が加入できる健康保険には、以下のような種類があります。
国民健康保険
国民健康保険は、勤務先の健康保険を脱退した人が加入する医療保険です。
国民健康保険の加入対象者は個人事業主などの自営業者、パート・アルバイトです。ただし、75歳以上や生活保護を受けている場合は対象から外れます。
保険料は、前年度の所得と各市区町村が定める保険料率によって納める金額が算出されます。そのため、前年度の所得が高い場合は納める保険料も高額になるので注意が必要です。
国民健康保険へ加入するには、退職の翌日から14日以内に所在地の市区町村への届出が必要です。国民健康保険を始めとする社会保険の詳しい概要は、以下の記事も参考にしてください。
前の会社の健康保険の任意継続
会社の健康保険は、退職時に必ず脱退しなければならないというわけではありません。退職後も「任意継続」として、そのまま利用することができます。
家族が扶養で健康保険へ加入していた場合、家族も継続して会社の健康保険を利用することが可能です。
任意継続するには、退職の際に任意継続したい旨を会社へ伝えなければなりません。
家族の健康保険の扶養家族になる
配偶者など家族の健康保険に扶養家族として加入するという選択肢もあります。
扶養家族として健康保険へ加入する条件は、三親等内の家族であり、被保険者によって生計を維持していることです。家族の健康保険の扶養に入れば、保険料の負担が軽減されるというメリットがあります。
ただし、家族の健康保険の扶養家族に加入するには、収入面の要件も満たさなければなりません。具体的には、年収130万円未満のため、注意が必要です。
国民健康保険組合
特定の職業の場合、個人事業主も健康保険組合に加入することが可能です。国民健康保険組合は、同じ職業で働く組合員が出し合った保険料と国や各自治体の補助金によって成り立っています。業種としては、建設・医師・芸術家・衣類などがあります。
国民健康保険とは異なり、休業補償や傷病手当金などの給付があることがメリットです。ただし、年会費など保険料以外の費用が必要になる組合もあるので、事前に費用について確認しましょう。
個人事業主が健康保険の任意継続をするメリット
会社を辞めて個人事業主に転向する場合、最初から国民健康保険に切り替えるのではなく、会社の健康保険を任意継続するという選択肢もあります。健康保険を任意継続するメリットについて見てみましょう。
所得が増えても保険料が変わらない
国民健康保険は所得に応じて保険料が決まります。そのため、所得が増えるほど保険料の負担が大きくなります。一方で、健康保険の任意継続は国民健康保険と保険料の計算方法が異なります。
健康保険の保険料は被保険者の退職時の標準報酬月額で決まりますが、標準報酬月額には上限が設けられています。任意継続被保険者の場合、標準報酬月額の上限額は30万円です。会社での給与が30万円以上あった場合には、標準報酬月額30万円として保険料を算出します。
つまり、国民健康保険のように所得が増えるほど保険料が高額になりますが、健康保険ならば上限があるので一定以上の保険料を支払うことにはなりません。
個人事業主になって所得が高額になるのであれば、保険料が所得に左右されない任意継続を選択する方が、保険料の負担は軽減されるでしょう。
福利厚生を利用できる
健康保険は組合ごとに、健康診断やレジャー施設の割引、介護サービスの割引などさまざまな福利厚生が用意されています。
こうした福利厚生は、任意継続していればそのまま利用することが可能です。
国民健康保険には会社の健康保険のような福利厚生が存在しないため、福利厚生を利用したい方にとってはメリットが大きいでしょう。
扶養家族も継続できる
任意継続では、扶養家族も同じ健康保険へ加入することが可能です。会社の健康保険に家族も扶養で入っていた場合、家族もそのまま健康保険を利用できます。
一方で、国民健康保険は扶養で家族を入れることができないため、家族はそれぞれ国民健康保険へ加入し、保険料を負担しなければなりません。
任意継続ならば扶養家族の保険料の負担が軽減されるため、扶養家族が多い人にとってはメリットが多いでしょう。
個人事業主が健康保険を任意継続するデメリット
個人事業主が健康保険を任意継続するメリットについてみてきましたが、デメリットも存在します。デメリットについても理解し、任意継続すべきかどうか検討しましょう。
加入期間が限定される
健康保険の任意継続は、ずっと続けられるものではありません。最長2年間という限度が設けられています。そのため、任意継続からいずれは脱退し、他の医療保険への加入が必要になります。
任意継続の期限が切れた後、どのような保険へ加入すべきか事前に考えておきましょう。
保険料が全額負担になる
会社へ在籍している間は会社が保険料を折半で支払ってくれますが、退職して任意継続になれば会社は保険料を負担してくれません。
任意継続では、保険料を全額自己負担する必要があります。同じ健康保険を使用しているのに保険料が倍額になるため、負担が大きく感じられます。
任意継続ならば保険料もそのままの金額で済むと誤った考えで任意継続を選択しないようにしなければなりません。会社が保険料を負担してくれなくなるため、保険料はこれまでよりも高額になると考えておきましょう。
国民健康保険よりも保険料が高くなる場合がある
任意継続の保険料は、退職時の標準報酬月額で決まることが原則です。標準報酬月額に保険料の利率を掛けた金額が保険料になります。
個人事業主になってからの方が会社員をしていた時よりも所得が減った場合、国民健康保険よりも任意継続の保険料の方が高くなることもあるでしょう。そうなれば、任意継続をする意味がなくなってしまいます。
任意継続を選んだことで保険料が高くなってしまわないように、事前に自治体の保険料利率を確認し、保険料を比較検討することを推奨します。
個人事業主で健康保険の任意継続が向いている人・向いていない人
個人事業主が健康保険の任意継続をすることにはメリットもデメリットもあります。どのような人が任意継続に向いているのでしょうか?健康保険の任意継続が向いている人・向いていない人の具体例を紹介します。
向いている人
個人事業主になってからも会社の健康保険を利用できる任意継続に向いている人は、以下のような人だといえます。
- 個人事業主になってから収入が上がる人
- 扶養家族が多い人
- 前の会社の健康保険の福利厚生に魅力がある場合
- 健康保険の未加入状態を避けたい
個人事業主になってからの収入が会社員の時の収入を上回る場合、任意継続が向いているといえます。
国民健康保険は累進課税制なので所得が高いほど保険料が高額になります。しかし、任意継続では会社員時代の収入で保険料が計算され、標準報酬月額の限度額が30万円です。保険料を比較して、保険料が安い方を選ぶべきでしょう。
また、扶養家族が多い場合や、家族もそのまま扶養家族として健康保険を継続したい場合も任意継続の方が向いています。健康保険を脱退すれば、家族全員が各自で国民健康保険への加入が必要です。手続きの手間や保険料を考慮し、そのまま会社の健康保険を利用する方も少なくありません。
その他にも、会社の健康保険の福利厚生を利用したい場合や、健康保険が未加入になる状態を避けたい場合にも任意継続が適しているでしょう。
向いていない人
個人事業主になって健康保険を任意継続するよりも、他の健康保険への加入を検討すべき人は、以下のような人です。
- 国民健康保険の方が健康保険料が安くなる
- 収入が少なく、家族の健康保険の扶養に入れる
会社を辞めて個人事業主になってからすぐには事業が軌道に乗らず、会社員の時ような収入を得られないケースもあります。個人事業主になってからの所得が高くない場合、国民健康保険へ加入する方が保険料を抑えられる場合もあるでしょう。
また、個人事業主としての所得が少なく、配偶者や親などの健康保険の扶養に入れるのであれば、扶養家族として健康保険へ加入する方が得です。
個人事業主が健康保険を任意継続する場合の注意点
個人事業主になっても会社の健康保険を任意継続するのであれば、注意すべき点がいくつかあります。以下の点に注意してください。
申請期限がある
個人事業主が健康保険を任意継続する場合、退職の翌日から20日以内に申請が必要です。この申請期限を過ぎれば、任意継続することはできません。任意継続したい場合は、早めに会社へ任意継続したい旨を伝えましょう。
手続きに関しては、会社が書類を準備してくれる場合もあれば、自分で書類を準備しなければならない場合もあります。自分で準備をする場合、加入している健康保険組合のホームページから申請書を取得します。ホームページが見当たらない場合は、電話などで問い合わせてみてください。
健康保険証は一度返却しなければならない
任意継続すれば会社の健康保険をそのまま利用できますが、これまで使用していた健康保険証は一度会社へ返却しなければなりません。任意継続の手続き後、新しい健康保険証が届きます。
新しい保険証が届くまでの期間に医療機関を受診する際には、窓口にて健康保険証の切り替え期間であることを伝えましょう。医療費は原則として、受診当日は10割で立て替えます。そして、後日「療養費支給申請書」を健康保険組合へ提出すれば、保険者負担分の還付を受けられます。
自分に最適な健康保険を選びましょう
会社を退職して個人事業主になる場合、健康保険の任意継続が可能です。任意継続には限度額の設定があることや家族も扶養に入れるというメリットがある反面、2年後には脱退しなければならないというデメリットもあります。
どのような保険を選ぶことが最適なのか、じっくり検討することが大切です。
国民健康保険へ加入する場合、個人事業主として確定申告すれば健康保険料を控除できるというメリットがあります。従業員を雇う場合の保険料は法定福利費として経費で計上できます。
個人事業主として課税所得を抑えたい場合、税理士へ相談してみましょう。節税についてのアドバイスや確定申告などの手続きのサポートを受けられます。
小谷野税理士法人では、経験と知識の豊富な税理士が多数在籍しています。さまざまな事業や状況に応じたアドバイスとサポートが可能ですので、問合せフォームよりお気軽にご相談ください。