社会保険は私たちの生活を保障するための大切な公的保険制度です。健康保険や厚生年金保険などの保険制度を総じて社会保険と呼びます。
起業をすれば、従業員が社会保険に加入できるように準備しなければなりません。しかし、社会保険はそれぞれ制度の内容や加入条件などが異なります。
ここでは、社会保険の種類や加入条件、負担割合など社会保険の知識について解説します。企業の人事労務において社会保険制度の知識は必須になるため、こちらの記事を参考にしてください。
目次
社会保険とは
社会保険とは、社会生活の中で起こり得るさまざまなリスクに備えるための公的な保険制度です。
病気やケガ、失業、高齢化などは誰にでも起こり得るリスクであり、社会全体で備えることで、生活の安心・安定を支えることが社会保険の目的です。
そのため、要件を満たす場合は社会保険へ加入し、社会保険料を支払うことで、保険給付を受けられるようになります。
社会保険は、「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」の5つの制度の総称です。ただし、狭義の社会保険として、健康保険・厚生年金保険・介護保険の3つを社会保険と呼ぶこともあります。
企業に勤める従業員は、要件を満たしていれば全員が社会保険へ加入しなければなりません。一方で、個人事業主や年金受給者など企業に属さない場合、国民皆保険制度と呼ばれる国民健康保険や国民年金へ加入することになります。
社会保険の種類
広義的な意味での社会保険は、健康保険・厚生年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険の5つの保険制度があります。
それぞれの社会保険の制度内容について解説します。
健康保険
被保険者やその家族が病気やケガをした際に、治療費や療養によって休業した場合の収入減少に備えるための医療保険制度です。
病院の通院で窓口へ提出する健康保険証が、健康保険制度に該当します。
健康保険へ加入すれば窓口での支払い負担が軽減されます。年齢によって費用負担は異なりますが、原則は3割負担です。残りの7割を全国健康保険協会や健康保険組合など保険者が支払います。
また、健康保険へ加入していることで、病気やケガで一定期間会社を休む場合の「疾病手当金」や、出産・育児期間中の「出産手当金」「出産育児一時金」などを受けとることが可能です。
介護保険
介護保険加入者が一定の条件を満たし、日常生活を送るために介護が必要とされた場合に介護保険サービスを利用できる保険制度です。
介護保険は国が運営する「公的介護保険」と、民間企業が運営する「民間介護保険」の2種類に分けられます。
健康保険の被保険者が40歳になれば加入が義務付けられる保険が、公的介護保険です。介護保険料は、健康保険料とあわせて毎月支払うことになります。
公的介護保険では、要介護認定を受けた65歳以上は、さまざまな介護サービスの利用料の自己負担が1~3割で済むように保証されます。また、40~64歳で要介護認定を受けた場合も公的介護保険を利用できます。
厚生年金保険
日本では国民皆年金制度が採用されており、20歳以上60歳未満の日本国民は公的年金への加入が義務付けられます。年金は、老齢や障害、死亡によって本人や家族の生活の安定が損なわれないように社会で生活を支え合うための制度です。
年金制度は国民年金が基礎となり、自営業者や専業主婦など全ての国民に共通する制度になります。
一方で、厚生年金保険は、会社員や公務員が加入する年金制度です。国民年金に加えて厚生年金にも加入していることになるため、65歳以降から受け取れる年金の金額が多くなるという特徴があります。
雇用保険
雇用保険は、雇用に関する支援を行うための制度です。
働く意欲はあるものの失業や休業をした場合には、生活保障として雇用保険より給付が行われます。また、職業能力を高めるための教育訓練を受講した場合の給付金などの雇用に関する保証もあります。
条件を満たしていれば、パートタイムやアルバイトなど雇用形態に関係なく雇用保険へ加入できます。雇用保険料は、給与から天引きされることが一般的です。
労災保険
企業に勤務する従業員が、業務上や通勤途中でケガや病気、障害、死亡などにあった場合、本人やその家族に保険給付を行うための制度です。ケガや病気の治療費や、休業補償、障害補償などの給付が該当します。
従業員を1人でも雇用する企業は労災保険へ加入する義務があり、労災保険の保険料は企業側が全額負担します。そのため、従業員の負担は発生しません。企業で働く従業員は、自動的に労災保険が適用されることになります。
社会保険の加入条件
社会保険の加入条件は、事業所と従業員のそれぞれで加入条件が定められています。また、社会保険の種類によっても条件は異なります。
それぞれの社会保険の加入条件についてみていきましょう。
事業所の加入条件
社会保険の適用対象となる事業所は、「適用事業所」と呼ばれます。社会保険ごとの適用事業所の条件は、以下の通りです。
健康保険・厚生年金保険・介護保険
事業主のみで従業員がいないという場合を除き、全ての法人は加入しなければなりません。株式会社や合同会社などの法人だけではなく、従業員が常時5人以上いる個人の事業所(農林水産業、サービス業などは除く)も該当します。
加入は本社や支店、工場など事業所単位で行います。
雇用保険・労災保険
従業員を1人でも雇っている場合は、加入が義務付けられています。ただし、農林水産業に例外があります。
また、雇用保険・労災保険に関しては、条件に該当しない事業所の場合でも、従業員の半数以上が同意している場合、任意加入の申請が認められます。こうした事業所を「任意適用事業所」と呼びます。
従業員の加入条件
適用事業所で働く従業員で条件に該当する場合、社会保険への加入が必要です。社会保険ごとの従業員の加入条件は、以下の通りです。
健康保険・厚生年金保険・介護保険
適用事業所で常時使用されている従業員は、原則として被保険者になります。健康保険は75歳未満、厚生年金保険は70歳未満の人が対象です。
次の条件に該当する場合、パートタイムやアルバイトでも社会保険の対象になります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 所定内賃金が月額8万円以上(残業代や賞与は含まない)
- 勤務期間が2カ月を超えることが見込まれる
- 学生以外
- 従業員数101人以上の企業に勤務(2024年10月より従業員数51人以上に拡大)
尚、所定労働時間とは、あらかじめ定められた労働時間のことを指します。この労働時間は、雇用契約書や労働条件通知書に記載されています。
また、介護保険は健康保険の加入者で、40~64歳が加入対象になります。
雇用保険
雇用保険の加入には、以下の条件を満たす必要があります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 31日間以上雇用される見込みがある
- 高等学校や大学に在学する学生ではない
上記の条件を満たしていれば、正社員だけではなくパートタイムやアルバイトなども加入対象です。ただし、労働性があると認められない役員の場合は加入対象外になります。
労災保険
雇用形態に関わらず、パートタイムやアルバイトなども含めて全ての従業員が加入対象です。基本的には、1日だけ雇うような場合でも必ず加入しなければなりません。
ただし、雇用保険と同様に、労働性の認められない役員は対象外になります。
社会保険料の負担割合と計算方法
社会保険料は会社と従業員が共に負担することになり、従業員の給料から天引きすることが多いです。
各種保険料の負担割合と計算方法について解説します。
健康保険料
健康保険料の負担割合は、会社と従業員が折半します。
健康保険料は、毎月の給与だけではなく賞与からも支払います。それぞれの健康保険料の計算式は、以下の通りです。
- 標準報酬月額×健康保険料率=毎月の給与から納付する健康保険料
- 標準賞与額×健康保険料率=賞与から納付する健康保険料
健康保険料率は、都道府県によって異なる保険料率を使用します。全国健康保険協会のホームページよりご確認ください。
介護保険料
介護保険料の負担割合は、会社と従業員が折半します。
介護保険料は40~64歳の被保険者に発生し、健康保険料に上乗せする形で行います。54歳以上の従業員は給与から控除するのではなく、居住する市区町村へ納付します。
介護保険料の計算式は、以下の通りです。
- 標準報酬月額×介護保険料率=毎月の給与から納付する介護保険料
- 標準賞与額×介護保険料=賞与から納付する介護保険料
介護保険料率は、全国健康保険協会のホームページよりご確認ください。
厚生年金保険料
厚生年金保険料の負担割合は、会社と従業員が折半します。
厚生年金保険の保険料率は、年金制度改正によって平成16年から段階的に引き上げられてきましたが、平成29年9月で引き上げが終了し、現在は18.3%で固定されています。
厚生年金保険料の計算式は、以下の通りです。
- 標準報酬月額×18.3%=毎月の給与から納付する厚生年金保険料
- 標準賞与額×18.3%=賞与から納付する厚生年金保険料
雇用保険料
雇用保険料は、会社と従業員の双方が負担します。基本的に会社の負担割合が大きいです。
雇用保険料の計算式は、以下の通りです。
- 標準報酬月額×雇用保険料率=毎月の給与から納付する雇用保険料
- 標準賞与額×雇用保険料率=賞与から納付する雇用保険料
負担割合と保険料率は、「一般の事業」「農林水産・清酒製造の事業」「建設の事業」の3つの区分ごとに決められており、定期的な見直しが行われています。そのため、厚生労働省のホームページより確認が必要です。
労災保険料
労災保険料は、会社が全額負担します。そのため、従業員から保険料を徴収することはありません。
労災保険料に関しては、他の社会保険料と計算方法が異なるため注意が必要です。計算方法は、以下の通りになります。
- 全従業員の前年度(1年間)の賃金総額×労災保険料率=労災保険料
賃金総額には基本給だけではなく、賞与や残業手当、通勤手当、扶養手当なども含まれます。一方で、役員報酬や出張費、傷病手当金、結婚祝金などは含まれません。
労災保険料率は業種別に決められているため、厚生労働省のホームページよりご確認ください。
社会保険の加入手続き
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社会保険の加入対象になる従業員を雇用した場合、企業は速やかに加入手続きを行わなければなりません。社会保険の加入手続きには、それぞれ必要な書類があります。
ここからは、各種社会保険の加入手続きについて解説します。
健康保険・厚生年金保険・介護保険
法人を設立して狭義の社会保険の適用を受ける場合には、「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を作成して届け出ます。その際には、以下の書類を準備します。
- 法人登記簿謄本
- 法人番号指定通知書のコピー
- 事業主の世帯全員の住民票写し(強制適用となる個人事業所の場合)
また、加入条件を満たす従業員を雇用した場合には、会社側が従業員の社会保険手続きを行わなければなりません。入社から5日以内に従業員と会社側がそれぞれ必要書類を準備し、提出します。必要な書類は以下の通りです。
【会社側】
- 健康保険・厚生年金保険 皮膚権者資格取得届 / 厚生年金保険70歳以上被用者該当届
- 健康保険被扶養者(異動)届
- 健康保険・厚生年金保険 保険料口座振替納付(変更)申出書
【従業員側】
- 被扶養者の戸籍謄本もしくは、住民票の写し
- 退職証明書や雇用保険被保険者離職票の写し、雇用保険受給資格者証の写し、直近の確定申告の写し、課税証明書など(被扶養者認定される場合)
手続きは窓口時さんや郵送、電子申請が可能です。持参の場合は管轄の事務センターや年金事務所、健康保険組合へ書類を提出します。
雇用保険
雇用保険の加入対象となる従業員を雇用した場合、雇い入れの日の翌月10日までに加入手続きを行わなければなりません。
初めて従業員を雇い入れた場合には、以下の書類を管轄の労働基準監督署へ提出します。
- 労働保険関係成立届
- 労働保険概算保険料申告書
その後、管轄のハローワークに以下の書類を提出します。
- 雇用保険適用事業所設置届
- 雇用保険被保険者資格取得届
従業員が退職した際にも雇用保険の手続きが必要となり、退職日の翌月から10日以内に手続きを行います。
労災保険
労災保険は、従業員の雇用毎に加入手続きを行う必要はありません。
初めて従業員を雇用した際に、雇い入れた日から10日以内に所轄の労働基準監督署へ「保険関係成立届」「履歴事項全部証明書」を提出します。そして、保険関係が成立した翌日から50日以内に都道府県の労働局もしくは日本銀行へ「労働保険概算保険料申告書」を提出します。
従業員を雇用する毎に加入手続きを行う必要はありませんが、労働保険料は年度毎に更新手続きが必要です。
社会保険の加入における注意点
社会保険に加入しなければならない事業所であるにも関わらず、加入手続きを怠った場合には、会社側は複数の罰則を受けることになります。
社会保険の未加入が発覚した場合の罰則には、次のようなものがあります。
- 6カ月以下の懲役、もしくは50万円以下の罰金
- 過去2年間の保険料の徴収
- 従業員負担分の保険料も企業側が併せて支払う
- 延滞金の発生
- ハローワークへ求人を出せない
社会保険を未加入のままにしていれば、上記のようなペナルティを受けることになるだけではなく、会社の信用問題にも影響してしまいます。
社会保険の加入は法律で義務付けられたものなので、加入条件に適応する場合は速やかに手続きを行いましょう。
社会保険の種類や加入条件はしっかり確認しましょう
社会保険への加入は従業員を守るために必要なものであり、未加入のままでいれば企業側は多くのリスクを背負うことになります。
社会保険の加入条件や手続き方法は保険ごとに異なるため、注意しなければならない部分も多いですが、必ず社会保険の加入手続きを行うようにしましょう。
社会保険の加入手続きや保険料の管理は、税理士に相談することも可能です。税理士ならば企業の設立時に加入手続きをサポートすることや、従業員の雇用時に加入条件に該当するかどうか適切に見極めることができます。
小谷野税理士法人では、経験と知識の豊富な税理士が起業時からワンステップでサポートを行います。社会保険や起業に関する悩みや疑問は、問合せフォームよりお気軽にお問い合わせください。