ストックオプション制度を導入する企業が、近年増加傾向にあります。会社の業績が向上すれば株価は上昇するため、ストックオプション制度で得た自社株で利益を得られます。ただし、ストックオプションには税金がかかります。確定申告にも影響するため、ストックオプションの税金には注意が必要です。この記事では、ストックオプションの税金について解説します。
目次
ストックオプションにかかる税金について
ストックオプションで取得した株には、税金が発生します。まずは、ストックオプションの仕組みや税金との関係性について理解を深めましょう。
ストックオプションとは
ストックオプションとは、株式会社の従業員や取締役が、自社株をあらかじめ決められた価格・株数で取得できる権利です。
会社があらかじめ定めた「行使価格」で株式を交付することを約束し、従業員や取締役など主に会社の内部の者が行使価格で株式を取得できます。
ストックオプションで行使価格よりも株式の時価が高ければ、時価よりも低い価格で株式を取得できる点がメリットです。権利を行使すれば株式の含み益を得られます。
また、株式を所有し続けて会社の業績が向上すれば株価も上昇、更なる利益が得られる可能性もあります。
ストックオプションと税金の関係
ストックオプションで自社株を所有すれば、所得税として税金が課される可能性があります。
そもそも所得税は、個人が得た所得に対してかかる税金です。給料や事業だけではなく、株式など投資で得た利益も所得であり、所得税がかかります。
ストックオプションは受け取った者が利益を得られるため、その利益に対して税金がかかります。ストックオプションの権利を行使したときに、時価の株価と権利行使価格とは差が出るため、その差額が所得税の対象になります。
また、ストックオプションで得た株式を売却した際に利益が出れば、その利益も所得税が課税されます。
ストックオプションの種類と課税のタイミング
ストックオプションは「税制適格ストックオプション」と「税制非適格ストックオプション」の2種類があります。
原則的にストックオプションにおける課税のタイミングは、「権利行使時」と「株式譲渡時」です。ただし、ストックオプションの種類によって課税のタイミングが異なる場合があります。
ストックオプションの種類と課税のタイミングについてみていきましょう。
税制適格ストックオプション
税制適格ストックオプションは、一般的に用いられることが多いストックオプションの通常型といえるストックオプションです。会社の業績が向上して株価が上昇した際に、従業員や取締役が報酬として受け取ることができます。
税制適格ストックオプションは、以下の要件を満たす必要があります。
項目 | 要件 |
付与対象 | 会社及びその子会社の取締役・執行役・使用人 一定の要件を満たす外部協力者(弁護士や専門エンジニア等) |
発行価格 | 無償発行 |
権利行使期間 | 付与決議日後2年を経過した日から10年を経過する日まで |
権利使用限度額 | 年間の合計額が1200万円を超えないこと |
権利行使価格 | ストックオプションに係る契約締結時の時価以上の金額 |
譲渡制限 | 新株予約権は他社へ譲渡禁止 |
保管委託 | 行使後は証券会社または金融機関等による保管・管理等信託が必要 |
税制適格ストックオプションの大きな特徴は、権利行使時点での課税がないという点です。株式売却時にのみ課税されます。
税制非適格ストックオプション
ストックオプション税制の要件を満たさないストックオプションを、税制非適格ストックオプションと呼びます。上述したストックオプションの要件を満たしていないものが該当します。
税制非適格ストックオプションは株式報酬型とも呼ばれ、株式を報酬とすることが前提です。そのため、権利行使額を低くし、権利行使時の株価が報酬になるように設定されることが多いです。
税制適格ストックオプションとは異なり、非適格ストックオプションでは権利行使時と株式売却時の2つのタイミングで課税されます。
権利行使時には売却時のように現金化されていませんが、税制非適格ストックオプションの特性である報酬としての目的が考慮されるため、譲渡所得として税金が課されます。
ストックオプションによる税金の計算方法
ストックオプションで権利行使や株式売却をすれば、確定申告が必要です。確定申告時には税金を支払うことになるため、あらかじめどれくらいの支払いが必要になるか把握しておくべきでしょう。ここからは、ストックオプションによる税金の計算方法を解説します。
税制適格ストックオプションの場合
税制適格ストックオプションでは権利行使時には課税されず、株式売却時に課税されます。株式の売却価格が権利行使価格を上回れば、利益が発生します。その利益が譲渡所得になり、課税対象になります。
株式売却時の譲渡所得の計算式は、以下の通りです。
課税対象額:(売却価格−権利行使価格)×株式数
譲渡所得税額:課税対象額×(所得税率+住民税率+復興特別所得税率)
所得税率は15%、住民税率は5%、復興所得税率は基準所得税額に税率2.1%をかけて算出します。
税制非適格ストックオプションの場合
税制非適格ストックオプションでは、権利行使時と株式売却時に課税されます。権利行使時には給与所得で計算し、株式売却時には譲渡所得として計算するため、注意が必要です。
株式売却時には売却価格が権利行使価格を上回った場合に税金がかかります。株式売却時の計算方法は、税制適格ストックオプションと同様です。
権利行使時には権利行使時価が権利行使価格を上回った場合に税金がかかり、以下の方法で計算します。
課税対象額:(権利行使時株価−権利行使価格)×株式数
給与所得など税額:課税対象額×(所得税率+住民税率+復興特別所得税率)
所得税率と復興特別所得税率は所得金額に応じて変わり、住民税の税率は10%で計算します。
ストックオプションの確定申告について
ストックオプションでは場合によって、確定申告が必要です。申告漏れや申告ミスをすれば、国税庁による税務調査によって発覚します。そうなれば、再申告が必要なだけではなく、ペナルティとして延滞税や重加算税が課せられることもあります。
適切に確定申告を行えるように、ストックオプションの確定申告について知っておきましょう。
確定申告が必要なケースと不要なケース
ストックオプションでは必ずしも確定申告が必要になるとは限りません。ストックオプションの種類や課税が発生するタイミングによって確定申告の必要性が異なります。確定申告が必要なケースは、権利を行使して取得した株式を売却して利益が出た時です。
まず、税制適格ストックオプションは権利行使によって株式を取得しても、譲渡するまでは非課税として扱われます。株式を売却して利益が出た場合に確定申告が必要です。
次に、税制非適格ストックオプションは権利行使時と株式売却時の2つのタイミングで課税されます。ただし、権利行使時の課税は一般的には給与所得になるため源泉徴収の対象になり、源泉徴収で納税が完了します。そのため、権利行使時の確定申告は不要なケースがあります。
一方で、権利行使後に株式を売却して利益が出た場合、源泉徴収なしの口座で利益を管理するのであれば確定申告が必要です。
確定申告の方法
ストックオプションで確定申告が必要な場合、自身で確定申告の手続きを行います。所得税や住民税などの税金は会社が給与所得より天引きして支払っていますが、ストックオプションの課税に関しては従業員が各自で確定申告しなければなりません。
確定申告では、以下の書類が必要です。
- 申告書一表
- 申告書二表
- 申告書第三表(分離課税用)
- 株式に係る譲渡所得等の金額の計算明細書(特定権利行使株式分及び特定投資株式分がある場合)
これらの書類は国税庁のホームページや、所轄の税務署の窓口で入手できます。この場合、本人確認書類や各種控除証明書などの添付書類も併せて提出が必要です。
近年では、スマホやパソコンから手軽に確定申告することもできます。国税庁のホームページに確定申告書作成コーナーがあるので、手順に沿って申請を行います。この場合、マイナンバーカードが必要になります。
また、確定申告は税理士に依頼することも可能です。税理士に依頼した場合の費用に関しては、以下の記事を参考にしてください。
関連記事:確定申告を税理士に頼む際の費用とは?相場と費用対効果を知ろう
ストックオプションの税金は税理士に相談しましょう
ストックオプションでは税金がかかる場合があり、確定申告による納税が必要です。
確定申告が必要な場合には、翌年の確定申告期間内での手続きを行わなければなりません。手続きを忘れると、税務調査の対象になってしまう可能性があります。
ストックオプションの税金や確定申告についての知識がなければ、確定申告の手続きでも不安や分からない点が多いでしょう。確定申告の手続きは自分でも行えますが、税理士に依頼することも可能です。
税理士ならば正しく税額を計算することができ、期間内に手続きを適切に済ませることができます。ストックオプションの税金だけではなく、節税に関する相談なども可能です。
小谷野税理士事務所では、経験と知識の豊富な税理士が多数在籍しています。まずはお気軽に問い合わせフォームよりご相談ください。