起業を志す人の中には「起業は難しい」「失敗するリスクが高いのでは」と考える方も多いのではないでしょうか。もちろん、起業は簡単なことではありませんし、起業すれば誰でもすぐに稼げるとは限りません。では、実際に起業の成功率はどれくらいなのでしょうか?この記事では、さまざまなデータから見る企業の生存率や、創業まもなく廃業に至る理由、さらには起業の成功率を上げるポイントを解説します。
目次
ベンチャー企業の起業成功率は1割?
「起業しても9割は失敗する」という話を聞いたことがある方も多いかもしれません。実際にそのようなデータが国の機関から発表されている訳ではありませんが、2017年の「日経ビジネス」のWEB記事に以下の記載があります。
ベンチャー企業の生存率を示すデータがあります。創業から5年後は15.0%、10年後は6.3%。20年後はなんと0.3%です。非常に厳しい。 |
引用:「創業20年後の生存率0.3%」を乗り越えるには|日経ビジネス
これは、医療情報のネットワーク化を進める「メディカル・データ・ビジョン」の岩崎博之社長の発言で、ベンチャー企業の20年後の生存率の低さが話題となりました。
起業が成功すれば、当然、存続年数も長くなります。「創業5年後の生存率が15%」ということは「5年以内に失敗する確率が85%である」と置き換えられます。
ベンチャー企業に限ったデータであるとは言え、起業後にビジネスを軌道に乗せることがいかに難しいかを痛感させられる数値です。
創業後生存率から見る日本企業の現状
日本企業全体での生存率はどの程度なのでしょうか。ここからは、中小企業庁の「中小企業白書」などのデータを参考に、日本企業の現状を探ります。
企業の5年後生存率は「81.7%」
2017年に発表された「中小企業白書」によると、日本企業の創業後経過年数ごとにおける起業後生存率は以下の通りです。
創業後経過年数 | 1年後 | 2年後 | 3年後 | 4年後 | 5年後 |
起業後の企業生存率 | 95.3% | 91.5% | 88.1% | 84.8% | 81.7% |
この数値を見ると、5年後生存率は81.7%と、日本企業全体としては高い生存率を保っていることが分かります。
ただし、回答者の中には、現在の職業が「企業経営者(個人事業者、法人の代表取締役)」である人が17.5%含まれます。すでに起業を経験している人は成功率も高いと考えられるため、初めて起業する人の生存率は上記の結果よりも低くなるでしょう。
日本企業の生存率は世界的に見ても高い
同じく「中小企業白書」によると、日本企業の起業後5年以内の生存率は世界の主な先進国と比較しても高いことが分かります。
引用:「中小企業白書」第2部 中小企業のライフサイクル 第1章: 起業・創業
起業してから1年後の生存率はそれほど差が開いていないものの、2〜5年と年数が経つにつれ、諸外国との差が顕著に見られます。
ただし、開業率に着目してみると、以下のグラフの通り、日本で起業する企業数は欧米諸国に比べて少ないことが分かります。
引用:「中小企業白書」第2部 中小企業のライフサイクル 第1章: 起業・創業
開業率も廃業率も低いことから、起業のリスクや失敗時の負債に不安を抱き、起業をためらう人が多いと考えられます。実際、起業のしやすさの世界順位は「89位」と決して高くなく、欧米と比べても起業するまでに日数やコストがかかるとされています。
引用:「中小企業白書」第2部 中小企業のライフサイクル 第1章: 起業・創業
世界的に見ると起業の成功率が高いと言える日本ですが、5年以内に約20%は廃業している事実も浮き彫りとなっています。起業を検討する際には、5社に1社は早期に倒産する恐れがあるとして、リスクを想定しておくべきでしょう。
2023年に倒産した企業の平均寿命は「23.1年」
国内企業の情報を取り扱う、民間の企業信用調査会社「東京商工リサーチ」の調査によると、2023年に倒産した7,636社の日本企業における平均寿命は「23. 1年」であることが分かります。
これは、2007年に調査を開始してから過去2番目に短い年数で、東日本大震災が起こった2011年の「23. 0年」に次ぐ結果となりました。経営基盤がぜい弱な「新興企業」がコロナ禍の影響を受けたことや、物価高による原材料費や人件費の上昇、それに伴う人材不足に要因があるとされています。
倒産企業の構成比を見ると、業歴30年以上の「老舗企業」の割合が30.1%を占めているものの、業歴10年未満の「新興企業」の構成比が近年上昇していることが分かります。
引用:東京商工リサーチ
業歴10年未満の構成比を引き上げた背景には、事業計画を綿密に練って設立した企業より、ゼロゼロ融資などの手厚い企業支援をきっかけに設立された企業が多く、新型コロナウイルスによる市場の急激な変化に対応できなかったと推測されています。
開業後まもなく廃業する主な理由
開業したばかりの起業が早期に廃業に至る要因には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは開業後まもなく廃業する主な理由として、以下の3つを解説します。
資金計画が甘い
新規事業を立ち上げる際、資金計画の甘さは致命的な問題です。
例えば、開業資金を過小評価してしまい、予期せぬ出費に対応できないケースがあります。初期の売上が見込みよりも低かった場合、固定費や人件費などの出費は変わらず、資金繰りに行き詰まってしまうのです。
また、売上が立ち上がるまでの資金繰りを考慮しないと、運転資金が底をつくこともあるでしょう。予期せぬ出費に対するリザーブがない場合、一時的な資金ショートで廃業に追い込まれることも少なくありません。
実際に、開業後数ヵ月で閉店に追い込まれる飲食店が後を絶たないのは、このような資金計画の甘さが原因である場合が多いです。資金計画は事業の生命線とも言えるため、慎重な計画を行いましょう。
事業計画に具体性がない
事業計画の具体性がないことも、開業後まもなく廃業する主な理由の一つです。
例えば、市場調査を十分に行わず、漠然としたターゲットや曖昧なサービス内容でスタートするケースがあります。その結果、実際の顧客ニーズとのミスマッチが生じ、売上が伸び悩むことにつながります。ターゲット顧客や競合他社の分析が不足している場合、事業は軌道に乗りにくいでしょう。
また、競合他社との差別化が計画段階で不十分だと、市場でのポジショニングが困難になり、結果として事業が軌道に乗らないこともあります。事業計画には、市場のニーズを踏まえた具体的な戦略が大切です。
財務知識が足りない
財務知識が不足していると、経営判断に誤りが生じやすくなり、開業後まもなく廃業に追い込まれることがあります。
例えば、売上の計上方法や税金の知識が不足していると、税金や社会保険料の計算を誤り、税務調査で追徴税が発生するリスクがあります。また、適切な会計ソフトの選定や利用方法を知らないことで、経理処理に手間がかかり、経営の本質的な部分に集中できなくなることもあるかもしれません。
こうした財務面でのミスは資金繰りの悪化を招き、最悪の場合、廃業に至ることにつながります。実際に、スタートアップ企業がこのような理由で経営難に陥るケースは少なくありません。適切な財務管理と知識は、事業を継続する上での重要な要素です。
起業の成功率を上げるポイント
闇雲に事業に乗り出してはいけません。起業の成功率を上げるためには、初期の段階で踏まえておくべきポイントがあります。ここでは、特に初めて起業する方が押さえておくべき4つのポイントについて解説します。
事業計画書を作成する
起業を成功させるためには、目的を明確にし、具体的なビジネスプランを立てることが重要です。事業計画書はそのための重要な指針となり、事業の目標設定から戦略策定し、事業撤退の基準までを網羅できると理想的です。
事業計画書の作成にあたっては、SWOT分析やPEST分析などのフレームワークを活用するのが有効です。
SWOT分析とは、企業の内部環境を「強み」と「弱み」、外部環境を「機会」と「脅威」と大きく4つに分類して分析を行います。
強み(Strength) | 自社の強みを事業機会に活かし、さらに自社の強みを高めるための手段の洗い出す |
弱み(Weakness) | 自社の弱みを克服するための手段を洗い出す |
機会(Opportunity) | 自社の弱みを克服するための手段を洗い出す |
脅威(Threat) | 目標の達成の障害になる市場の変化や政策などを洗い出す |
PEST分析は、企業の戦略立案や市場調査において、外部環境の要因を体系的に理解し、それらがビジネスに与える影響を評価するために利用されます。
政治(Political) | 政府の政策・法規制・税制・貿易制限など、政治的な要因が企業活動に与える影響を分析する |
経済(Economic) | 経済成長・失業率・物価水準・為替レートなど、経済的な要因が企業の収益性やコスト構造に与える影響を分析する |
社会(Social) | 人口動態・教育水準・文化的傾向・健康意識の変化など、社会的な要因が市場の需要や企業のブランドイメージに与える影響を分析する |
技術(Technological) | 新技術の開発・技術革新のスピード・研究開発投資・特許知的財産権の問題など、技術的な要因が企業の製品開発や生産過程に与える影響を分析する |
また、資金調達の際には、金融機関への説明資料としても役立ちます。作成にあたっては、日本政策金融公庫や中小企業基盤整備機構、地域の商工会や商工会議所などの起業相談窓口や税理士などの専門家によるアドバイスを受けることも可能です。
事業計画書の書き方や記入例については、以下の記事で詳しく紹介していますので、合わせて参考にしてください。
関連記事:事業計画書とは?サンプルやフォーマットは無料で手に入る?書き方や記入例を解説
自社に合った資金調達を行う
資金調達は起業において最も重要な要素の一つです。創業を支援するさまざまな融資制度が存在します。
日本政策金融公庫の新創業融資制度 | 新たにビジネスを始める方を対象に、低利での融資を提供する制度。創業計画の実現性が認められれば、必要な資金を安定的に借り入れられる。 |
自治体の制度融資 | 地域経済の活性化を目的とした、各地方自治体による独自の創業支援融資制度。地域に根差したビジネスを展開する起業家に対して、有利な条件での資金提供を行う。 |
起業支援制度 | 民間の金融機関や支援団体が提供するさまざまなプログラムや制度。資金調達だけでなく、事業運営に必要なノウハウやネットワークを得られる場合も多い。 |
上記以外にも、以下のような返済不要な資金調達方法があります。
補助金や助成金 | 国や自治体が提供する無償の資金で、返済不要。設備投資や運転資金に活用できる。 |
クラウドファンディング | インターネットを通じて不特定多数から資金を募る方法。リターンを設定して支援を呼びかける。 |
ファクタリング | 売掛金を現金化する手法。資金繰りを迅速に改善でき、急な資金ニーズにも対応可能だが、手数料が発生する点には注意が必要。 |
ベンチャーキャピタル | 事業の成長段階に応じた大規模な資金提供が特徴で、事業拡大を目指す際に有効です。ただし、株式の一部を譲渡する必要があります。 |
エンジェル投資家 | 個人投資家が事業のポテンシャルを見込んで資金を提供するもの。メンターシップやネットワークの提供も期待できる。 |
それぞれの方法にはメリットやリスクがあるため、自社の状況に合った最適な資金調達戦略を立てることが重要です。
以下の記事では開業資金の調達方法について詳しく解説していますので、合わせて参考にしてください。
顧客の課題やニーズを的確に捉える
市場における顧客の課題やニーズを理解することは、製品やサービスを売り出す上で大切です。
市場分析を行い、ターゲットとなる顧客層が抱える問題点を洗い出し、それに対する解決策を提供することで、競合他社との差別化を図れます。「ターゲットとなる市場はどの程度の大きさなのか」「競合はどのような企業が存在するのか」「顧客はどのような解決策を求めているのか」を把握しておきましょう。
市場調査を行うことで、顧客の需要を見極め、成功の可能性を高められます。市場のトレンドを把握し、顧客の声に耳を傾け、フィードバックを商品開発やサービス改善に活かすことで、持続可能なビジネスを目指しましょう。
また、法規制の確認も欠かせません。事業を始める前に、関連する法律や規制を把握し、遵守する必要があります。特に、新しい技術やサービスを提供する場合、法的な制約があるために事業を思い通りに進められない可能性もあるため、この段階で専門家の意見を求めることも一つの手です。
会計の知識をつける
会計知識は、企業経営において基本です。財務状況を正確に把握することで、適切な経営判断を下せるようになるでしょう。起業家が身につけておきたい主な知識は、以下の3つです。
- 会計管理の基礎知識
- 決算書の読み方
- 資金計画の立て方
特に、キャッシュフローの管理は事業を継続させる上で欠かせない要素であり、会計知識があれば、資金繰りの問題を未然に防げます。会計に関する知識はセミナーや書籍、オンラインコースなどで身につける方法もありますが、税理士や会計士に依頼することも有効です。
ポイントを押さえて起業を成功に導こう
創業してから5年以上存続できる企業は約80%で、5社に1社は早期に撤退している現状があります。また、近年では起業後10年未満で事業から撤退している企業の割合が増えており、国内企業の平均寿命の短さも伺えることから、起業の成功率は必ずしも高くないことが分かります。
このような状況の中、起業してビジネスを成功させるためには、しっかりと事業計画を立て、市場ニーズの把握が重要です。さらに、資金調達や会計の知識も必須であり、初心者の方がすべてを順調に進めるには厳しい世界だと言えます。
起業の成功率をより高めたい方や、会計や税務の知識に不安がある方は、早い段階から税理士に相談することをおすすめします。税理士をお探しの起業家の方は、私たち「小谷野税理士法人」が全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。