合同会社の資本金には制限がなく、実際に1円からでも可能です。しかし重要なのは、事業が安定するまでの間の運転資金として、自社に合った目安で設定することです。本記事では、合同会社の資本金の適正金額について、設定の目安やルール、注意点について解説します。
目次
合同会社の資本金の適正金額
合同会社の資本金には制限がなく、基本的に1円からでも設定可能です。しかし実際には1円で資本金を設定している会社は少ないため、自社にあった適正金額を設定することが大切です。
合同会社の資本金は1円でも可能
2006年施行の会社法によって資本金の制限がなくなり、会社の資本金は1円からでも可能とされました。
しかし、定款や登記事項証明書などで誰でも知れる資本金を1円にすると、社会的な信用度が低くなる可能性があります。
また資本金が極端に少ないことで、金融機関からの融資が受けにくくなることも考えられます。合同会社の資本金は、第三者から見て信用が得られやすい金額設定を心がけましょう。
合同会社の資本金の平均
法務省の登記統計によると、2024年3月の合同会社の設立件数は3,629件、資本金総額は52億3,321万円でした。合同会社の資本金平均額の計算式は以下の通りです。
52億3,321万円÷3,629件≒144.2万円
上記の計算の通り2024年3月現在、合同会社の資本金の平均額は約144万円です。
また、2024年3月の資本金階級ごとの合同会社設立件数及び割合は、以下の表のように統計されています。
資本金額の階級 | 合同会社件数 | 合同会社数割合 |
100万円未満 | 1,763件 | 48.58% |
100万円以上300万円未満 | 1,144件 | 31.52% |
300万以上500万円未満 | 265件 | 7.30% |
500万円以上1,000万円未満 | 436件 | 12.01% |
1,000万円以上2,000万円未満 | 17件 | 0.47% |
2,000万円以上5,000万円未満 | 1件 | 0.02% |
5,000万円以上1億円未満 | 3件 | 0.08% |
1億円以上 | 0 | 0% |
上記の表から、約半数の合同会社が資本金を100万円未満で設定している事が分かります。また、資本金を300万円未満で設定している合同会社の割合が約8割です。
参考: 登記統計 商業・法人登記の種類別・資本金階級別 会社の資本金の額の変動の件数及び金額 | 統計表・グラフ表示 | 政府統計の総合窓口
自社に合った資本金設定の目安の決め方
前項で一般的な合同会社の資本金額について解説しましたが、大切なのは自社にとって適切な資本金額を設定することです。
資本金設定の目安としては、自社の運転資金の3〜6ヵ月分を想定することがおすすめです。
会社設立後、経営が安定するまで、通常は約半年ほどかかることが想定されます。経営が安定するまでの間も安心して事業を進められるように、余裕を持った資本金を準備しましょう。
なお、主な運転資金として以下のようなものが考えられます。
- 仕入れ費
- 人件費
- 家賃
- 水道光熱費
- 設備費
- 通信費
この他、自社の業種によって必要な運転資金を考慮し資本金を設定しましょう。
合同会社の資本金ルール
株式会社における資本金は、出資者(株主)から集めた資金や、経営者自身の資金から成り立ちます。
一方、合同会社における資本金は、社員(経営も行う者)の資金から成り立ちます。合同会社の資本金にはいくつかのルールが存在するため、本項で1つずつ確認しましょう。
なお、資本金に関しては、以下の記事でも詳しく解説されていますので、ぜひ参考にしてください。
関連記事:会社設立の資本金はいくら必要?払込方法や最低金額などを詳しくご紹介
資本金の出資方法に関するルール
合同会社の資本金の出資方法は、「現金出資」と「現物出資」の2種類です。合同会社の社員は、設立の登記をする時までに金銭の全額を払込み又は現物の給付を行います。
「現金出資」は名前の通り現金で出資する方法で、基本的に代表経営者の口座への振込で行います。
なお、その現金は家賃や設備費用などの会社の運転資金に充てられます。登記の際は「出資に係る払込み及び給付があったことを証する書面」が必要です。
「現物出資」は、建物や設備などをそのまま会社の持ち物にする方法です。現物の評価額を資本金に計上するため、金額が500万円を超える場合は弁護士などの検査役に評価学の算定を依頼しなくてはなりません。
登記の際は、資本金の額が「会社法及び会社計算規則に従って計上されたことを証する書面」が必要です。
資本金額の制限がない
前述した通り、現在資本金の額に制限はなく、1円からの資本金に設定することも可能です。
しかし現実には社会的信用や融資の面から、極端に少ない資本金は、あまりおすすめできません。
資本準備金がない
株式会社には「資本準備金」というものがあり、資本金の1/2未満で資本金に計上しなかったお金を、赤字補填などのために積み立てておけます。
合同会社の場合、この資本準備金がありません。したがって、資本金以外の出資金は資本剰余金として計上されます。資本剰余金は登記簿謄本に記載されず、また金額の制限もありません。
資本金は増資が可能
合同会社の資本金は、増額が可能です。増資には以下の2つの方法があります。
- 現在会社にいる社員が出資する方法
- 新しい社員が出資する方法
増資の際には、合同会社変更登記申請書の他、以下の書類を添付し法務局へ提出します。
- 総社員の同意書
- 出資の証明書
- 過半数社員の一致の証明書
- 資本金計上の証明書等
なお、増資の登録免許税として資本金額の1,000分の7の額(その額が3万円に満たない場合は、3万円)が必要です。
また新しい社員による増資の場合、別途3万円(資本金の額が1億円以下の会社は、1万円)を納付します。
合同会社の資本金を決める際の注意事項
資本金をいくらに設定するか決める際に、上記のルールの他、注意しなければならない事項が存在します。
注意点は主に、資本金と税金との関係と、事業の許認可内容の2つです。本項で1つずつ詳しく解説します。
資本金と税金の関係に注意する
資本金をいくらに設定するかによって、登録免許税や消費税、法人住人税など様々な税金を節税できるかどうかが変わります。
資本金の設定金額が1,000万円など、合同会社の資本金としてはあまり現実的ではないものが多いですが、税金との関係性について正しい知識を得ておきましょう。
登録免許税
合同会社の設立時、法務局に登記申請を行いますが、その際に登録免許税が課せられます。合同会社の設立登記に必要な登録免許税は、資本金額の1,000分の7の額(その額が6万円に満たない場合は、6万円)です。
登録免許税が最低金額の6万円で抑えられる資本金額の計算方法は、以下の通りです。
登録免許税6万円≒資本金857万円×0.007
したがって資本金を857万円以下に設定すれば、登録免許税を最低金額に抑えられます。
消費税
資本金が1,000万円未満の場合、起業後2期目まで消費税の納税義務が免除されます。
ただし、1期目の前半6ヵ月の売上が1,000万円を超え、かつ人件費(役員報酬含む)が1,000万円を超えた場合には、2期目は課税の対象です。
2期目まで最大期間免税事業者を希望する場合には、資本金は1,000万円未満に抑え、売上額にも注意しましょう。
なお、インボイス制度を取り入れ適格請求発行事業者の登録を行った場合には、課税事業者に該当するため、資本金額に関わらず消費税は免除されません。
法人住民税
法人住民税の均等割では、資本金等の額が1,000万円以上になると、以下の表のように段階的に税額も増加していきます。
資本金等の額 | 都道府県民税均等割 | 市町村民税均等割 従業者数50人超 | 市町村民税均等割 従業者数50人以下 |
1,000万円以下 | 2万円 | 12万円 | 5万円 |
1,000万円超 1億円以下 | 5万円 | 15万円 | 13万円 |
1億円超 10億円以下 | 13万円 | 40万円 | 18万円 |
10億円超 50億円以下 | 54万円 | 175万円 | 41万円 |
50億円超 | 80万円 | 300万円 | 41万円 |
法人住民税節税の観点からも、消費税と同様に資本金は1,000万円未満に抑えると良いでしょう。
法人税
資本金が1億円以下の場合、法人税の軽減税率が適用されます。軽減税率は、所得金額が800万円以下の部分は15%、800万円超の部分は23.2%の適用です。
なお資本金が1億円超の場合には、所得金額の800万円以下の部分にも23.2%の軽減税率が適用されます。
法人事業税
資本金が1億円以下の場合、法人事業税の外形標準課税が免除されます。ただし資本金が1億円という額は、合同会社にとってあまり現実的ではありません。ほぼすべての合同会社が外形標準課税を免除されているのが現状です。
事業の許認可によっては資本金額に注意する
冒頭で資本金は1円からでも可能とお伝えしましたが、特定の事業の許認可によっては資本金額に基準が定められているケースがあります。
資本金の額が基準に満たないと事業の許認可を受けられなくなってしまうため、あらかじめ要件を確認しておきましょう。
許認可要件としての資本金の業者別一例は、以下の通りです。
- 一般建設業:500万円以上
- 第1種旅行業:3,000万円以上
- 一般労働者派遣事業:2,000万円×事業所数 以上
- 有料職業紹介事業:500万円以上
合同会社で上記のような許認可が必要な事業を始める場合には、資本金の最低金額を心得たうえで準備を行いましょう。
合同会社の資本金は自社に合った目安で決定を
合同会社の資本金の適正金額について、設定の目安やルール・注意点について解説しました。
合同会社の資本金には制限がないため1円に設定することも可能ですが、事業が安定するまでの間の運転資金として、半年分ほどを目安に設定しましょう。
その他資本金は、金額の設定次第で節税に繋がったり、事業によっては許認可に関係していたりと様々な注意点を考慮する必要があります。自社に合った資本金の目安に関しては、専門家に任せるという判断もおすすめです。