消費税の非課税取引とは消費税の課税対象に馴染まないものや、社会政策的配慮等の理由から消費税が課されない取り引きのことです。同じく消費税が課されない取り引きとして、免税取引や不課税取引がありますが、それぞれ課税されない理由が異なります。今回は消費税の非課税取引と他の税区分の違いや、非課税取引の対象について詳しく解説します。
目次
非課税取引、不課税、免税の違いについて
消費税の非課税取引・不課税取引・免税取引は、いずれも消費税が課されません。一見同じ性質の取り引きに思えるかもしれませんが、それぞれ消費税が課されない理由や課税売上割合の計算における違いについては以下の通りです。
非課税取引とは
非課税取引とは、消費税の課税対象になじまないものや社会政策的配慮の理由から、消費税が課税されない取り引きです。
非課税取引の具体例は国税庁の公式サイトで明確に提示されています。課税対象となる基本的な要件を満たしているものの、「消費に負担を求める」という性質になじまない取り引きが限定的に非課税となるイメージです。
非課税取引は課税売上割合の計算上、原則として分母のみに算入します。課税売上割合の分母は総売上高(課税取引・非課税取引・免税取引の合計額)、分子は課税売上高(課税取引と免税取引の合計額)になります。
不課税取引とは
消費税の課税対象になるのは、日本国内で事業者が対価を得て行う資産の譲渡や貸付け、役務の提供等の取り引きです。この要件を満たさない取引は不課税取引に該当します。
不課税取引の具体例を紹介します。
- 給与や賞与:労働の対価として支払われるものであり、事業として行う資産の譲渡等の対価に当たらないため
- 保険金や共済金:資産の譲渡等の対価といえないため
- 寄附金、祝金、見舞金、補助金や助成金等:一般的に対価の性質を持たないため
- 株式の配当金、その他出資分配金等:株主や出資者の地位に基づいて支払われるもののため
- 試供品や見本品の提供(無償):対価の支払がないため
- 資産の廃棄や盗難、滅失:資産の譲渡等に当たらないため
- 一定の要件を満たす損害賠償金:一般的に対価の性質を持たないため
- 日本国外で行われる取引:「国内取引」という原則を満たさないため
不課税取引はそもそも消費税の適用対象にならない取り引きです。したがって、課税売上割合の計算時には分母・分子のどちらにも参入しません。
免税取引とは
免税取引とは、輸出取引に当たるため消費税が免除される取り引きです。輸出販売された商品等は外国で消費されるものであるため、内国消費税である消費税は課税しないという考えに基づきます。
免税となる取り引きの例は以下の通りです。
- 日本国内からの輸出による資産の譲渡や貸付
- 日本国内と国外との間の通信・郵便・信書便
- 非居住者に対する役務提供
- 非居住者に対する著作権、営業権等の無体財産権の譲渡または貸付
免税取引の額は、課税売上割合を計算する際に分母と分子の両方に算入します。
なお免税の適用を受けるためには、該当の取引が輸出取引等であると証明する書類が必要です。
非課税取引の対象とは
非課税取引に該当するのは、消費税の課税対象になじまないものや社会政策的配慮が必要と判断されるものです。この章では非課税取引の対象について具体例を紹介します。
土地の譲渡と貸し付け
土地の譲渡および貸し付けは、「消費に負担を求める」という性質に馴染まないとされるため非課税取引に該当します。借地権などの土地の上に存する権利も含みます。
ただし、以下のようなケースに該当する場合は非課税取引にはあたりません。
- 土地の貸付期間が1ヵ月未満である
- 駐車場等の施設の利用に伴い土地が使用される
保険料や有価証券の譲渡
保険料や有価証券の譲渡も消費税の非課税対象です。
保険料は社会政策上の配慮により非課税とされています。各種保険適用の療養費・医療費・入院費や介護保険サービスの提供、社会保険医療の給付等も非課税取引です。
有価証券の譲渡は、課税の対象としてなじまないとされるため非課税取引に該当します。国債や株券などの有価証券のほか、小切手や約束手形などの譲渡にも消費税はかかりません。
社会福祉事業などのサービス
社会福祉事業のために提供されるサービスも非課税対象です。以下より該当する取り引きの具体例を紹介します。
- 生活保護法に規定する救護施設の経営
- 児童福祉法に規定する各種施設の経営
- 老人福祉法に規定する養護老人ホーム・特別養護老人ホーム・軽費老人ホームの経営
- 認定生活困窮者就労訓練事業
- 生計困難者を対象とした各種支援事業
参考:国税庁公式サイト「第7節 社会福祉事業等関係-(社会福祉関係の非課税範囲)」
社会政策的な配慮を理由に非課税取引とされています。
住宅の家賃や手数料
住宅の家賃や管理費・共益費等の関連手数料も非課税です。住居費は国民が生活する上で大切な要素の1つであり、消費税の課税は好ましくないという考えに基づきます。
なお、非課税取引に該当するのは、居住の用に供することが明らかにされているもののみです。また以下のような取り引きは非課税対象から外れます。
- 貸付期間が1ヵ月未満である
- 旅館業に係る施設の貸付けに該当する
- 住宅宿泊事業法に規定する住宅宿泊事業(民泊)
※ただし、旅館・ホテル・ウィークリーマンション等は、使用期間が1ヵ月超でも非課税になりません
消費税の課税対象について
非課税取引に該当するのは、消費税の課税対象となる要件を満たすものの、一定の理由から課税が好ましくないとされる取り引きです。そもそも消費税の課税対象となる要件を満たさない取り引きは、不課税取引や免税取引に該当します。以下より消費税の課税対象について詳しく解説します。
消費税の仕組みや計算方法については以下の記事をご覧ください。
関連記事:【税理士監修】インボイス制度と消費税の基礎知識!計算方法や納付の仕組みについても解説!
国内で行われる取り引き
消費税の対象になるのは日本国内で行われる取り引きです。
日本国外で行われる取引は不課税取引に該当し、消費税の課税対象外となります。また、一定の要件を満たす輸出取引は免税取引として消費税が免除されます。
ビジネスとして行う取り引き
消費税の対象となるのはビジネスとして行う取り引きです。「事業として行う取り引き」とも表現されます。
ビジネス・事業とみなされるのは、対価を得て行う取り引きを反復・継続・独立して行う場合です。例えば、個人事業主がリサイクルショップを運営して中古品を売買する行為はビジネスに該当します。一方、給与所得者が不用品の処分目的で中古品を売却した場合はビジネス目的の行為とはみなされません。
対価を得て行う取り引き
消費税の課税対象になるのは対価を得て行う取り引きです。無償による贈与や寄附金・補助金のような対価の性質を持たない取り引きは、消費税の課税対象になりません。
ただし、以下のような行為は無償でも対価を得て行われたものとみなされるため、消費税の課税対象になります。
- 個人事業者が販売目的で仕入れ・製造等をした商品等を家庭で消費した
- 法人が自社製品等を自社の役員に贈与した
資産の譲渡や貸付け
消費税法における「資産の譲渡や貸付け」とは、以下のような行為を意味します。
※いずれも有償で、事業として行われることが大前提です。
- 商品・製品等の販売
- 資産の貸付け(リース、レンタル等)
ただし、学校教育における教科用図書の譲渡は非課税取引となります。
役務の提供や輸入取引
役務の提供(サービスの提供)も消費税の課税対象です。具体例として、コンサルティングサービスや塾・予備校等の教育サービスが挙げられます。
ただし、一部の役務提供は非課税取引となります。非課税取引となる役務提供の例は以下の通りです。
- 学校教育
- 各種保険適用の医療サービス
- 外国為替業務に係る役務提供
- 火葬料や埋葬料を対価とする役務提供
- 助産に関するサービスの提供等
また、輸出取引や国外で行われる取引は消費税が課されませんが、輸入取引は原則として消費税の課税対象です。正確には、保税地域と呼ばれる特定の場所から引き取られる外国貨物が課税対象となります。
特殊なケースにおける課税と非課税の判断
消費税が非課税となる取引は明確に定められているため、基本的には国税庁が提示しているルールに沿って判断すれば問題ありません。
しかし例外として、一見すると非課税対象でも実際には消費税が課税される取引も存在します。以下より課税と非課税の判断に悩みやすい特殊なケースについて解説します。
契約期間が1ヵ月未満の場合
非課税取引に該当するものでも契約期間が1ヶ月未満の場合、例外として課税対象になるのが一般的です。契約期間が1ヵ月未満のため課税対象になる取り引きとして以下の例が挙げられます。
- 土地の貸付けで期間が1ヵ月に満たないもの
- 住宅の貸付けで期間が1ヵ月に満たないもの
目的によって課税対象となるケース
基本的には非課税取引に該当するものの、目的によっては課税対象になるケースとして以下の例が挙げられます。
土地の譲渡や貸付け関連
駐車場等の施設利用に伴い土地が使用される場合は消費税の課税対象となります。
医療費関連
美容整形や差額ベッド代など、保険適用外のものは消費税の課税対象です。
また市販の医薬品を購入した場合も非課税取引に該当しません。
教育関連
非課税取引に該当するのは、学校教育法に規定する学校や一定の要件を満たす学校に関連するものです。
塾や予備校等は消費税の課税対象になります。
介護保険サービス関連
サービス利用者の選択による特別なサービス(特別な居室の利用、送迎サービス等)の対価は課税対象です。
住宅関連
居住の用に供することができる物件でも、オフィスとして利用する等の居住以外の目的で利用する場合は課税対象となります。
まとめ
非課税取引・非課税取引・免税取引のいずれも消費税が課されないという点は同じですが、課税されない理由や課税売上割合の計算における扱いが異なります。消費税を正しく管理・計算するためには、それぞれの違いを押さえる必要があります。
ただし、一見非課税取引に該当するものでも、ケースによっては例外的に課税対象となる取引もあります。非課税となる取引の具体例を確認しながら、税区分の適切な管理をしましょう。
消費税について疑問や不安があれば、専門家や税理士への相談を検討しましょう。