アルバイトをしている個人事業主が、源泉徴収票を受け取っていない場合、確定申告はどうなるのでしょう。この記事では、源泉徴収の説明から確定申告が必要なケースとそうでないケース、源泉徴収票が出ない時の対応、確定申告における注意点や所得の種類など、税務申告に関するポイントを網羅しています。アルバイトをしている個人事業主で、確定申告が不安な方はぜひ参考にしてください。
目次
源泉徴収は給与をもらっている人が対象
「源泉徴収」とは、給与から所得税や復興特別所得税などの税金をあらかじめ差し引いて徴収する制度です。そのため、サラリーマン、アルバイトやパートなど給与をもらっている方は、基本的には自分自身で税金を納める(=確定申告する)必要はありません。
源泉徴収によって、毎月の給与から一定の割合で税金が差し引かれますが、これだけでは年間の所得に対する正確な税額を算出することができないため、年末ごろに年間所得の正確な税額を再計算する「年末調整」があります。
年末調整によって、源泉徴収額と納めるべき税額の差分が出ますが、多く税金を支払っていた場合は還付、支払う税金が少なかった場合は追加徴収があります。
源泉徴収されないケースとは
源泉徴収されないケースがあります。それは、月額給与が88,000円未満の場合です。この場合、原則として雇用主側に源泉徴収の義務がないためです。
ただし、月額給与が88,000円を超えていたとしても、扶養親族等の数によっては、源泉徴収の対象になりません。
アルバイトやパートを掛け持ちしている場合、主たる給与を受け取っているバイト先と、従たる給与を受け取っているバイト先で源泉徴収の扱いが異なります。
区分 | 対象 | 源泉徴収の扱い |
主たる給与 | 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している人に支払う給与 | 月額給与88,000円未満の場合、源泉徴収の義務はない |
従たる給与 | 上記以外の人に支払う給与 | 月額給与88,000円未満であっても源泉徴収の義務がある |
参考:No.2520 2か所以上から給与をもらっている人の源泉徴収|国税庁
月額給与88,000円未満で源泉徴収されないのは、「主たる給与」を受け取っているバイト先の場合であり(源泉徴収税額表の「甲」欄を参照)、「従たる給与」を受け取っているバイト先では、月額給与88,000円未満であっても源泉徴収があります(源泉徴収税額表の「乙」欄を参照)。
個人事業主がバイトしているなら給与についても確定申告が必要
個人事業主がアルバイトやパートをしている場合、本業の事業所得だけでなく、受け取る給与所得についても確定申告が必要です。
日本では、すべての所得の総額に対して課税される「総合課税」が採用されているので、個人事業主は、確定申告時にすべての所得を申告しなければなりません。
個人事業主であっても、バイトで受け取る月額給与が88,000円を超える場合は源泉徴収があります。
確定申告で正確な税額を計算し、源泉徴収額と納めるべき税額に差分があれば、年末調整同様、多く税金を支払っていた場合は還付、支払う税金が少なかった場合は追加徴収があります。
また確定申告によって、本業の赤字を相殺できるメリットがあることも覚えておいてください。給与所得から事業所得の赤字分を差し引いた金額を課税所得にできるためです。
個人事業主が確定申告しなくても良いケース
アルバイトやパートをしている個人事業主が確定申告しなくても良いケースがあります。
それは、事業所得が年間20万円以下で、バイトで受け取る給与所得が年末調整されている場合です。所得税法上、副業の所得が20万円以下であれば確定申告は不要であるためです。
ただし、アルバイトやパートを2つ以上掛け持ちしている場合、「従たる給与」は年末調整できないため、「従たる給与」が年間20万円を超えた場合は確定申告を行いましょう。
また事業所得が年間20万円以下であっても、「従たる給与」と合わせて20万円を超えた場合は確定申告が必要です。
事業所得と給与所得の合計が年間48万円未満の場合、課税所得がゼロになるため所得税は発生しません。しかし、年末調整されていない場合などは、税金が還付される可能性があるため注意しましょう。
バイト先から源泉徴収票が出ない場合の対処法
アルバイトやパート先から、年間の給与額や源泉徴収額が記載された「源泉徴収票」という書類が発行されますが、ここでは、アルバイト・パート先から源泉徴収が出ない場合の対処法について解説します。
紛失した場合は再発行を依頼する
源泉徴収票を紛失してしまった場合は、アルバイト・パート先に再発行を依頼してください。
確定申告の書類に、源泉徴収票に記載されている給与所得の金額を記入するため、無くさないように保管しておきましょう。ただし、確定申告時に源泉徴収票を添付する義務はありません。
バイト先が発行しなかった場合は発行を依頼する
源泉徴収票が発行されていない場合は、アルバイト・パート先に発行を依頼してください。
源泉徴収がない場合でも、通常、源泉徴収票は発行されます。年末調整の時期に合わせて、12月ごろ発行するパターンが多いです。
退職した場合は退職した時点で発行されますが、なかなか発行されない場合もあるので、退職したアルバイト・パート先に急ぎ発行を依頼しましょう。
バイトしている個人事業主が確定申告で注意するポイント
アルバイト・パートをしている個人事業主が、確定申告で注意するポイントについて解説します。
給与所得の金額も記入する
確定申告書に、給与所得の金額も記入しましょう。確定申告書第1表「収入金額等」の欄に、本業で得た事業所得(その他の所得含む)だけでなく、アルバイトで得た給与所得も記入してください。
源泉徴収税額を記入する
源泉徴収されている場合は、確定申告書第2表「所得の内訳(所得税及び復興特別所得税の源泉徴収税額)」の欄に、源泉徴収額を記入してください。
詳細な書き方については、以下の関連記事をご確認ください。
【税理士監修】確定申告のやり方ガイド!いつからいつまでの収入?郵送のケースや必要書類・マイナンバーカードについて
提出期限に注意する
確定申告の期限は、所得を得た年の翌年「2月16日〜3月15日」です。例えば、2023年1月1日〜12月31日の間に得た所得は、2024年2月16日〜3月15日に確定申告を行います。所轄税務署に提出しましょう。
提出方法は、税務署窓口へ直接持ち込むまたは郵送する、e-Taxから申請するの3パターンです。所轄税務署が不明な場合は、以下のリンクから検索してください。
期限内に提出できなかった場合、「期限後申告」という方法で申告できます。しかし、無申告加算税や延滞税が課されたり、青色申告控除が受けられない等のペナルティが発生するので、必ず期限内に申告しましょう。
個人事業主が確定申告する所得には何がある?
個人事業主が確定申告する所得の一部を解説します。
事業所得
事業所得とは、個人事業主として行う事業活動から得られる所得のことで、事業収入から必要経費を差し引いた金額を指します。
必要経費とは、事業運営にかかる費用(仕入れ費用、家賃、光熱費、通信費、消耗品費など)のことです。
給与所得
給与所得は、アルバイトやパートなど雇用契約に基づいて支払われる給与や賞与から得られる所得のことで、給与や賞与から源泉徴収税額を差し引いた金額を指します。
また給与所得は、以下表の通り、所得額に応じた給与所得控除が適用されるので、確定申告の際は留意しましょう。
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) | 給与所得控除額 |
162万5,000円まで | 55万円 |
162万5,001円~1,80万円 | 収入金額 × 40% – 10万円 |
180万円~360万円 | 収入金額 × 30% + 80,000円 |
360万円~660万円 | 収入金額 × 20% + 44万円 |
660万円~850万円 | 収入金額 × 10% + 110万円 |
850万円以上 | 195万円(上限) |
不動産所得
不動産所得は、所有する土地や建物を賃貸することによって得られる所得のことで、賃貸収入から必要経費を差し引いた金額を指します。
不動産所得にかかる必要経費としては、管理費、修繕費、減価償却費、固定資産税、借入金利息などが挙げられるでしょう。
一時所得
一時所得とは、事業所得や不動産所得のような営利目的の活動によって生じる所得ではなく、偶発的に得られる所得を指します。
例えば、保険の満期金や懸賞金などが一時所得に当たります。偶発的に得た所得への税負担軽減措置として、一時所得には最大50万円の特別控除が適用されます。
バイトしている個人事業主は専門家に相談しよう
ここまで説明したように、個人事業主として事業を行いながらアルバイトやパートをする場合、確定申告は複雑になります。適切に手続きを行わないと、申告に関するリスクやペナルティが生じるかもしれません。
小谷野税理士法人では、経験豊富な専門家が個別の状況に応じた助言を行い、スムーズな政務処理をサポートしますので、お気軽にご相談ください。