税務調査の一環である「反面調査」。反面調査への理解は、事業を営む上で不可欠です。なぜなら反面調査は、税務調査を受ける者だけではなく、その周りの関係者も広く巻き込むからです。この記事では、反面調査の基本的な知識や、他社の反面調査が自社に来たときのポイントを解説します。さらに、自社が税務調査を受けたときの反面調査を最小限にする方法もお伝えします。
目次
反面調査とは自社以外の「第三者への調査」のこと
反面調査とは、調査対象者の関係者(取引先や銀行など)に対して、税務当局が行う調査です。
通常の税務調査では、調査されている対象者本人の提出した帳簿や書類を元に、税務署の調査官が申告内容に不備がないか確認します。
しかし調査官が「対象者が出す情報だけでは不十分だ」と判断した場合、第三者からの情報収集、つまり反面調査が行われます。
情報が不十分だと判断される状況は様々です。例えば、下記のケースでは反面調査が行われる可能性があります。
- 対象者の過去の帳簿などが残ってない
- 悪質な申告漏れが疑われる
- 税務調査に対し、対象者が協力的ではない
反面調査を受けるのは、銀行の他、疑いの内容次第で以下の取引先が対象となります。
調査官が疑う内容 | 反面調査の対象 |
売上の計上漏れの疑い | 売上先 |
仕入の過大計上の疑い | 仕入れ先 |
架空外注費の計上疑い | 外注先 |
架空人件費の計上疑い | 雇用者、従業員やその家族など |
架空経費の計上疑い | 支払先 |
なお、対象者の税務調査だけで十分な情報が得られたときは、反面調査がないケースもあります。
取引先の反面調査を受けるときのポイント
ここでは、自社と関係のある取引先が税務調査を受け、その反面調査が自社に来た場合のポイントを解説します。
反面調査は予告なく行われることもある
反面調査は、調査されている対象者本人にはもちろん、反面調査先にも予告なく問い合わせがくる場合もあります。
そのため、自社は突然の対応に追われます。事前通知がないのは、調査対象者と反面調査先が事前に口裏合わせするのを防ぐためです。
調査官は反面調査先に「これは反面調査だ」という内容を伝えるよう指針が規定されています。
参考:調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について|国税庁
反面調査は拒否できないが延期できる
反面調査が突然来ても、自分の業務を優先できる権利が認められています。
例えば、重要な会議や取引が予定されている場合、反面調査の日程調整が可能です。他にも入院や葬儀など、調査官が納得できる「やむを得ない理由」があれば、調査の延期が認められます。
延期する際は、調査の妨害と見なされないように明確に理由を説明しましょう。
納税者は調査に協力しなければならない義務があり、 延期は可能ですが拒否はできません。調査の妨害は、1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金となる可能性があります。
反面調査の範囲はどこまで?最長7年分調べる
一般的な反面調査では、過去3年分の帳簿書類を確認します。しかし悪質な問題が見つかった場合は、最長7年分遡ります。
反面調査の際は、必要な内容だけに絞って対応しましょう。調査官からの質問や要求に対して過剰な情報を提供すると、自社に不都合な情報も出てしまうケースもあります。
無用なトラブルを防ぐために、税務調査を受けている取引先の情報に限定して提供しましょう。
質問には真摯に答える
税務調査を受けているのがたとえ大切な取引先であっても、嘘の回答をしてはいけません。
調査で嘘の回答をすると、1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金となることがあるからです。聞かれていない内容まで答える必要はありませんが、聞かれた内容には正確に回答しましょう。
自社の税務調査で反面調査を最小限にする方法4つ
自社の税務調査の際、取引先に反面調査で迷惑を掛けるのは心苦しいはずです。
残念ながら反面調査をゼロにするのは難しいので、反面調査の範囲を最小限にできるよう努めましょう。つまり、取引先へ調査に行く必要性が無いようにします。
帳簿や請求書などデータはすべて準備しておく
一般的な税務調査の前には、事前連絡があります。その際に調査対象税目や調査対象期間などが知らされるので、該当する帳簿書類を最長7年分すべて準備しておきしょう。
書類やデータに不備があると、情報不足が指摘され、実態を確認するための反面調査がされてしまいます。
税務調査では、取引の証拠が重要です。帳簿はもちろん、請求書や領収書といった「帳簿の根拠となる書類」も一緒に準備しましょう。
税務調査に正直に対応する
税務調査では、調査官の質問に正確に答えて協力的な姿勢を示し、分からなければ正直に「分からない」と言いましょう。
真摯に対応すると調査官の心証が良くなり、調査を円滑に進められます。一方、質問に答えないなどの非協力的な態度を示すと、反面調査される恐れがあります。
なお、「反面調査に行かないでほしい」と調査官にお願いするのは止めましょう。怪しいだけで逆効果です。
税理士に税務調査の立ち会いを頼む
顧問税理士が居ない場合は、税務調査の事前連絡が来たらすぐに税理士を探しましょう。顧問税理士がいる場合は、顧問税理士に協力を依頼してください。
事前準備の段階から税理士に依頼すれば、準備すべき書類のアドバイスなどサポートが受けられます。
税務調査にも税理士が立ち会えば、調査官からの質問に対して最適な受け答えができるため、反面調査を最小限にできます。
税務調査に税理士の立会は必要?どこまで調べる?税理士に任せるメリット・デメリットや費用相場について解説!
大事な取引先には事前に連絡しておく
最大限の努力をしても、反面調査をされてしまうことはあります。反面調査が避けられそうにないときは、主要な取引先に連絡して、税務調査が来た旨を伝えましょう。
調査官が反面調査に行くかもしれないと認識してもらいます。事前に連絡すれば、いきなり反面調査に入られるよりは印象が良くなるでしょう。
反面調査のよくある質問
反面調査についてよくある質問を2点まとめました。
反面調査は拒否できる?
拒否はできません。調査の妨害や嘘の回答は、1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金の対象です。
ただし「やむを得ない理由」がある場合、調査の延期が可能です。例えば重要な業務、入院、葬儀などが「やむを得ない理由」に該当します。
反面調査の法的根拠は?
国税通則法74条の2では、「国税当局職員は、必要があるとき、然るべき者に質問し、事業に関する帳簿書類などの提示や提出も求められる」という主旨の表記があります。
上記の「然るべき者」の中には、国税通則法74条の2-1-ハで「調査対象者に金銭や物品のやりとりがあると認められる者」も含まれる、という主旨の表記があります。
この「調査対象者に金銭や物品のやりとりがあると認められる者」が、反面調査の対象です。
参考:国税通則法(昭和三十七年法律第六十六号)|e-Gov法令検索
反面調査の対策は税理士に相談を
反面調査で問題が発覚しなかったとしても、反面調査を受けた取引先との関係が悪化する可能性があります。
調査官が調査に来ることで業務が止まって迷惑に思ったり、「あの会社は、税務調査が入るようなことを普段からしているのかな」と不信感が生まれたりするためです。
この記事でお伝えしたように反面調査を最小限にする努力は重要ですが、それよりも大切なことは、「そもそも税務調査に入られない」こと。そのためには、日頃の適切な帳簿付けや正確な申告がマストです。
顧問税理士がいれば、日頃から適切な会計処理をサポートできるため、突然の税務調査に不安を抱く必要はありません。
また、税務調査が来たとしても、調査官と適切にやりとりできるため、反面調査を最小限にできます。