経営承継円滑化法という言葉は聞いたことあるけどどんな法律か詳しく分からない、事業承継を検討しているがどのような流れで手続きを進めたらいいのか分からない、とお悩みの方も多いのではないでしょうか。そこでこの記事では、経営承継円滑化法の概要から支援内容、活用時のポイント・注意点まで分かりやすく解説します。経営承継円滑化法の適用を検討している方はぜひ参考にしてください。
目次
経営承継円滑化法とは
経営承継円滑化法とは、中小企業の事業継承が円滑に行えるように経営者と事業後継者をサポートするためにできた法律です。
正式名称は「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」と言い、経営者の高齢化や後継者不足などの課題に対応すべく2008年に制定されました。
経営承継円滑化法では、事業承継税制や遺留分に関する民法の特例、金融支援などについて定められています。この経営承継円滑化法は定期的に見直しが行われており、2021年には所在不明株主に関する会社法の特例が新たに加わりました。
法人企業にとっては経営承継円滑化法を活用することで、税制の特例や相続税の負担軽減などの経済的な負担を軽減できるほか、事業承継に関する手続きを簡略化できます。また、経営者の育成や持続可能な経営に関する支援も行われており、経営基盤の強化も図ることができます。
参考:e-Gov法令検索|平成二十年法律第三十三号「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」
経営承継円滑化法の支援について
経営承継円滑化法では補助金や税制優遇制度があり、資金調達がしやすくなるほか税負担を軽減することが可能です。
ここでは、事業承継の円滑化において活用できる支援策について詳しく見ていきましょう。
登録免許税・不動産取得税の特例
経営承継円滑化法では、登録免許税と不動産取得税において特例が設けられています。登録免許税と不動産取得税は、事業を継承する際に負担となるため、税負担を軽減できる点は大きな魅力です。
特に不動産を多く抱える企業や、地価が高騰している地域で事業を営む企業にとっては、直接的な利益につながるでしょう。また、登録免許税の特例により経営権が移転しやすくなるメリットもあります。
登録免許税・不動産取得税の特例を活用することで、より効果的に事業承継を行うことが可能です。
参考:fundbook│経営承継円滑化法とは?知っておきたい事業承継税制の活用法
事業承継ガイドライン
経営承継円滑化法には、事業承継ガイドラインが作成されています。これは事業承継における課題の理解を目的に中小企業・小規模事業者の経営者向けに作られました。
事業継承の際に経営者と後継者がとるべき行動が分かりやすく説明されているため、これによりスムーズに事業承継を行うことが可能です。
ガイドラインでは事業承継の重要性から手順、活用すべきツール、後継者の育成、注意すべきポイントまで、幅広く具体的に記載されています。
また、親族内承継や従業員承継、M&Aなどケースごとに事業継承の手順と支援策がまとめられているので、引き継ぎ先や企業の状況に合わせて事前に確認しておきましょう。
参考:中小企業庁|財務サポート 「事業承継」事業承継を実施する
参考:M&Aキャピタルパートナーズ│事業承継ガイドラインとは?策定の背景・目的からガイドラインの内容まで解説|
事業承継・引継ぎ補助金
事業承継・引継ぎ補助金は、事業承継時に後継者が負担する費用を軽減することを目的に導入された制度です。
対象となる費用は、事業再編・事業統合を含む事業承継を計画するにかかる費用や専門家への相談料、必要な登記や許認可などが挙げられます。
支援対象者は3つに大別され、経営革新事業と専門家活用事業、廃業・再チャレンジ事業があります。さらに事業ごとに複数の支援類型事業が設けられ、支援類型事業ごとに補助上限額が設定されています。
事業を継続していくために活用したい補助金の1つとして挙げられるでしょう。
関連記事:事業継承に活用したい!事業承継・引継ぎ補助金の全容について徹底解説
関連記事:事業承継補助金の活用術
遺留分に関する民法の特例・所在不明株主に関する会社法の特例
事業承継では、遺留分に関する民法の特例と所在不明株主に関する会社法の特例が定められています。
そもそも遺留分とは、簡単に言うと遺族が最低限の生活が送れるように、相続人に対して保障される権利、遺産の留保分のことを指します。
事業承継の場合では、遺留分の対象に会社株式や事業用財産が含まれません。そのため、相続人から遺留分侵害額の支払いを求められずに事業を引き継ぐことが可能です。遺留分の紛争が防止できるほか、会社株式や事業用資産を分散させることなく集中して事業継承を進められるといったメリットがあります。
次に、所在不明株主に関する会社法の特例についてです。所在不明株主とは、株主名簿に記載はあるが5年以上会社と連絡が取れず、所在が不明になっている株主のことを言います。
一定要件を満たした上で都道府県知事の認定を受ければ、所在不明における承継手続きの期間を5年から1年に短縮することが可能です。所在不明株主に関する会社法の特例が適用されれば、手続きの時間を短くして所在不明の株式を買い取ることができます。
参考:中小企業庁|経営承継円滑化法による支援(3.遺留分に関する民法の特例)
参考:fundbook│経営承継円滑化法とは?知っておきたい事業承継税制の活用法
事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターは、全国47都道府県に開設されている事業承継に関する総合的な支援を行う公的相談窓口です。
M&A・従業員承継に関するアドバイスや事業承継候補先の紹介、事業承継計画の策定支援、後継者教育プログラムなど、多岐にわたるサービスを提供しています。
これらの支援を通じて、中小企業の経営者と後継者は、事業承継における法的・財務的・経営的な課題を解決するための具体的なアドバイスを受けることができます。
参考:fundbook│経営承継円滑化法とは?知っておきたい事業承継税制の活用法
事業承継ファンド
そもそもファンドとは、投資家から集めた資金を企業などに投資して、得た利益を投資家に分配する仕組みのことを指します。
事業承継ファンドは、後継者不在に悩む中小企業の経営者をサポートすべく作られたもので、事業承継時の資金調達をサポートすることが目的です。親族内承継や従業員承継が難しい場合や後継者の経営ノウハウ・資金が不十分な場合などに活用できます。
さらに、経営の独立性を保ちたい方や外部から優秀な人材を集めたい方、経営に関するアドバイスを受けたい方にもおすすめです。
事業承継ファンドでは、事業承継に伴う経営権の移転費用や運転資金の増強するための費用、新規事業展開や研究開発への投資資金などを集めることにも利用できます。
事業承継ファンドを活用する際は、事前に事業承継・引継ぎ支援センターや税理士といった専門家を通じてファンド側に入念にヒアリングしましょう。
参考:日本M&Aセンター|事業承継ファンドとは?仕組みや活用のメリット、事例について紹介
経営資源集約化税制
経営資源集約化税制とは、中小企業の経営資源の集約化により生産性向上を図るために制定された税制です。
正式名称は「中小企業の経営資源の集約化に資する税制」です。経営資源を整理し、核となる事業部門に資源を集中させることで、新規事業の拡大や多角化などを促進させます。経営資源集約化税制は、M&Aに関するリスクの低減やキャッシュフローの改善にも繋がるとされています。
経営資源集約化税制には、設備投資減税と準備金積立の2つの措置が用意されています。これらの措置を受けるためには、要件が定められているため事前に確認が必要になります。
ほかにも経営力向上計画を作成したり、適用期間に制限が設けられていたりするので、手続きを行う際は注意して進めましょう。
参考:中小企業庁│経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)の活用について
参考:事業承継支援・コンサルティング【名古屋事業承継センター】│経営資源集約化税制を大解剖!要件や手続きの流れなど徹底解説
事業承継税制の活用ポイント
経営承継円滑化法の特例の1つに、事業承継税制というものがあります。
事業承継税制は、事業承継時における税負担を軽減することが目的の税制優遇制度です。これを活用することで贈与税や相続税の納税が猶予・免除される点や後継者への引継ぎがスムーズに行えるようになります。
ここからは、事業承継税制を活用する際のポイントをお伝えします。
事業承継税制を受けるためには、特例承継計画の策定、都道府県庁へ認定申請、税務署へ申告書の提出の順で進めてください。
まずは経営承継円滑化法に則った特例承認計画を作成しましょう。特例承認計画には、具体的な事業計画や後継者の情報、承継する会社株式の詳細を記載します。認定支援機関からの所見の記載も必要になるため、商工会議所や顧問税理士などに相談した上で早めに準備をしておくことをおすすめします。
都道府県庁に特例承認計画を提出すると、事業承継税制が認定されたことが証明された認定書が発行されます。申告期限までに認定書の写しと事業承継税制を利用する旨を記載した贈与税・相続税の申告書を税務署に提出しましょう。
事業承継税制を受けるためにはさまざま要件を満たす必要があるため、専門家と連携するのが得策です。
参考:fundbook│経営承継円滑化法とは?知っておきたい事業承継税制の活用法
経営承継円滑化法を活用する際の注意点
経営承継円滑化法の活用には多数の要件があるほか、手続きが複雑な経営承継円滑化法ですが、事前に注意点を知ることで有効的に活用することが可能です。
最後に経営承継円滑化法を活用する際の注意点をご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
事業継承の相談先は専門家に
事業承継の悩みを相談しようとしても、誰にどのように話せばよいのか分からないというケースもあるでしょう。また、事業の特性を理解し、具体的なアドバイスができる専門家が周囲にいないというケースも多い傾向になります。
事業承継について第三者に相談をする際は、先述した事業承継・引継ぎ支援センターや税理士といった専門家を活用するのも1つの手です。
事業承継は作成する書類や必要となる書類などが多いことに加え、専門的な知識や技術が求められる場面も多いものです。経験豊富な専門家からのアドバイスを受けることで、円滑に事業承継を進められます。
しかし、会社に適した相談先を探すには想像以上に労力や時間を要します。専門家や税理士に相談する際は、早い段階から計画を進めることをおすすめします。
参考:fundbook│経営承継円滑化法とは?知っておきたい事業承継税制の活用法
打ち切りの際に事由を確認する
経営承継円滑化法の支援制度を活用している企業にとって、支援の打ち切りは大きな痛手となるでしょう。そのため、事前に支援が打ち切られるケースについても確認しておくことが大事です。
例えば、事業継承後の規模縮小や経営方針の変更、法律で定められた期間内に事業承継が完了しないケースなどが挙げられます。これらのケースに該当すると、税制上の優遇措置などが打ち切られることになり、経営に大きな影響を与える可能性があります。
承継計画を策定する際は、打ち切り事由を事前に確認し計画に大きな変更が生じないように十分な対策を講じることが重要です。
また、適用条件が変わることもあるため、常に最新の情報をチェックしましょう。
参考:fundbook│経営承継円滑化法とは?知っておきたい事業承継税制の活用法
経営承継円滑化法の疑問は税理士に相談
経営承継円滑化法を適用して事業継承する場合には、事業承継税制や補助金など検討すべき点が数多くあります。そして法律と照らし合わせながらさまざまな手続きを踏まなければなりません。
スムーズに手続きを進めるためには事業承継の専門家に依頼するのがベストです。顧問税理士であれば、事業継承の相談から実際の手続きなどもまとめて任せることができるでしょう。