障害者を雇用すると、企業は税制の優遇措置を受けることができます。本記事では、障害者雇用での税制優遇措置がどんな制度なのか、どのような措置を受けられるのかについて解説しています。また、税制優遇措置の対象となる要件も併せて紹介しています。障害者雇用での税制優遇措置について知りたい方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
目次
障害者雇用により企業が受けられる2つの税制優遇措置
積極的に障害者雇用を行っている企業は税制優遇措置を受けることができます。現在実施されている税制優遇措置は、助成金の非課税措置と事業所税の軽減措置の2種類です。
以下では、それぞれの措置について詳しく解説していきます。
助成金の非課税措置
助成金の非課税措置の概要について、厚生労働省は以下の表を掲載しています。
項目
要件
内容
助成金の非課税措置
【所得税・法人税】
障害者雇用納付金制度に基づく助成金を受けて固定資産を取得
固定資産の取得または改良に充てられた助成金の額は総収入額に不参入(所得
税)または損金算入(法人税)されます。
出典:障害者を雇用する事業主のみなさまへ~障害者を雇用する事業所に係る税制上の優遇措置について~|厚生労働省
本来、助成金は収入として扱うようになっており、所得税や法人税の課税対象です。しかし、障害者雇用納付金制度に基づいて助成金を受け、それにより固定資産を取得、改良すると非課税になります。
非課税措置の対象となる助成金は以下の4つです。
- 障害者作業施設設置等助成金
- 障害者福祉施設設置等助成金
- 重度障害者等通勤対策助成金
- 重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金
上記の助成金を使って固定資産を取得したり改良したりすると、使用した金額を非課税にできます。この非課税措置を利用した場合、法人では圧縮記帳で損金算入することで法人税が非課税になります。
また、個人事業主では総収入金額に不参入にすることで所得税が非課税になるため、この会計処理の方法を覚えておくと安心です。
事業所税の軽減措置
事業所税の軽減措置の概要について、厚生労働省は以下の表を掲載しています。
項目
要件
内容
事業所税の軽減措置
障害者を雇用
従業者割の事業所税については、従業者給与総額の算定及び免税点の判定において、障害者は従業者から除くものとされています。
① 障害者を 10 人以上雇用
② 雇用割合が 50%以上※
③ 重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金の受給
資産割の事業所税については、当該事業 所の床面積の 1/2 に相当する面積を控除 します。
※重度身体障害者及び重度知的障害者については、1人を2人(短時間労働者については1人を1人)として、 精神障害者である短時間労働者については、1人を0.5人としてカウントします。
出典:障害者を雇用する事業主のみなさまへ~障害者を雇用する事業所に係る税制上の優遇措置について~|厚生労働省
政令指定都市や東京都など、課税団体に該当する地域に事業所がある企業に課せられる税金を事業所税と呼びます。
しかし、通常事業所税を納めなくてはならない企業でも、助成金が支給されており一定数以上の障害者を雇用している場合は事業所税の軽減措置が受けられるのです。
事業所税の軽減措置には資産割と従業員割の2種類があります。
資産割は事業所の延べ床面積が対象となっており、従業員割は従業員の給与が対象となっています。資産割において事業所税の軽減措置の対象となる要件は以下の3つです。
- 10人以上の障害者を雇用している
- すべての労働者のうち、障害者の割合が50%以上である
- 重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金を受給している
上記の要件を満たしていれば、重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金によって設置した事業所については、課税標準の事業所床面積2分の1相当の控除が受けられます。
ただし人数のカウントは、重度身体障害者および重度知的障害者については1人を2人、短時間労働者については1人を1人としてカウントします。また、精神障害者である短時間労働者については、1人を0.5人としてカウントします。
一方、従業員割における事業所税の軽減措置は障害者を雇用していると受けられます。
従業員割は、雇用割合や雇用人数に関わらず軽減措置の対象となります。そして、事業所税を算出の基となる従業員給与総額の算定や免税点の判定については、障害者を従業員から除くことが認められています。
参考:障害者を雇用する事業主のみなさまへ~障害者を雇用する事業所に係る税制上の優遇措置について~|厚生労働省
参考:心身障害者を多数雇用する事業所に係る事業所税の特例(資産税割)(従業員割)|厚生労働省
すでに終了した優遇措置
障害者雇用の税金優遇措置には、助成金の非課税措置と事業所税の軽減措置がありますが、この他にもすでに終了した軽減措置が3種類あります。
さらに、終了した軽減措置のなかでも要件を満たせば受けられるものもあります。以下より詳しく解説していきます。
不動産取得税の軽減措置
不動産取得税の軽減措置は令和5年の3月31日で終了した措置です。この軽減措置自体は終了していますが、2023年3月末までに施設を取得しており障害者雇用を継続していれば、以下の要件を満たすことで適用されます。
- 20人以上の障害者を雇用している
- すべての労働者のうち、障害者の割合が50%以上である
- 重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金を受給して平成23年3月31日までの間に取得した事業用施設
上記の条件を満たしており、取得した施設を事業用として3年以上使用していれば取得価格の1/10に相当する額に税率を乗じた額が減額されます。
固定資産税の軽減措置
この軽減措置では、助成金によって取得した事業用施設の固定資産税が取得から5年の間軽減されていました。固定資産税の軽減措置は不動産取得税の軽減措置と同様に終了していますが、2023年3月末までに施設を取得し障害者雇用の継続をしていれば適用されます。
固定資産税の軽減措置では、課税標準となる価格から取得価格の1/6に障害者雇用割引と税率を乗じた金額が減額されます。
機械等の割増償却措置
機械等の割増償却措置は令和4年の3月31日で終了した税制優遇措置です。この措置では、一定数以上の障害者を雇用している事業主が減価償却を行う際に、普通償却限度額の24%の割増償却が認められていました。
割増償却が認められていたのは、減価償却を行う年、またはその5年以内に取得、制作、建築した設備や機械などが対象でした。
現在、この措置は障害者雇用においてのみ適用されます。
参考:心身障害者を多数雇用する事業所に対する特例措置 (固定資産税、不動産取得税)|厚生労働省
参考:障害者を雇用する事業主のみなさまへ~障害者を雇用する事業所に係る税制上の優遇措置について~|厚生労働省
疑問点は税務署やハローワークで確認する
障害者雇用により受けられる税制優遇措置には、助成金の非課税措置や事業所税の軽減措置、不動産取得税の軽減措置などさまざまな種類があります。どの軽減措置にも要件があり、要件を満たさなければ措置を受けられません。
障害者雇用による税制優遇措置の疑問や不明点、申請方法は税務署やハローワークで確認できるため活用しましょう。
関連記事:【税理士監修】税務署とは?その役割とサービスや税理士との関係性についても解説
障害者雇用によって受けられる税金優遇措置を理解しよう
障害者を雇用している企業は、いくつかの要件を満たすことで税制の優遇措置が受けられます。現在も実施されている優遇措置には、助成金の非課税措置と事業所税の軽減措置が挙げられます。しかし、すでに終了した優遇措置のうち、不動産取得税の軽減措置と固定資産税の軽減措置は要件を満たせば適用されるため、一度制度内容を確認しておくと安心です。
優遇措置の要件の確認や制度に関する疑問点は税務署やハローワークに相談しましょう。