取引先の倒産は、あまり考えたくないですが、起こってしまう場合もあります。しかし、実際に倒産してしまった場合には、どのように対処したらいいか分からないという方も多いでしょう。この記事では取引先が倒産してしまったらすべきことや、取引先が倒産しても自社が共倒れにならないための備え方を紹介します。
目次
取引先が倒産、まず何をしたらいい?
取引先の倒産を知った際は、動揺したり焦ってしまう人も多いでしょう。取引先が倒産した場合に取るべき行動について解説します。
取引先に状況の確認
取引先が倒産した場合に、はじめにすべきことは取引先の正確な状況の確認です。取引先の倒産情報を他所から仕入れた場合は、内容が正確ではない場合もあります。例えば営業ができない状態であると耳にした場合でも、実際は営業できているというケースもあります。
そのため、「営業を継続できる状態」なのかを確かめる必要があります。
また、代表者が海外に失踪したり、債権回収が見込めない場合も多くあるため、「代表者と連絡が取れる状態か」という点も確認しておいた方がいいでしょう。
債権債務の確認
取引先の正確な状況が確認できたら、次は取引先との契約書などを確認します。債権の金額や種類を把握し、取引先への出荷予定や納品した商品の状況や所在なども把握する必要があります。漏れのないよう、債権リストを作成しチェックしてみましょう。下記は債権リストの内容です。
≪債権リスト≫
- 契約書類(売買契約書、取引基本契約書類、納品書、請求書など)
- 債権の種類(売掛金や手形債権)
- 債権の金額
- 担保の有無
- 他の債権者の状況確認
どのような債権が未回収で残るかの把握が重要です。
取引先との交渉
債権リストを作成し、債権の状況を確認した後は、速やかに取引先の責任者と対面し交渉を進めましょう。交渉の細かな手順は下記の通りです。
【取引先への交渉手順】
1.契約上の未納品がある場合は納入をストップ
取引先がどうしても納品を望む場合は、担保提供や現金による前払いを要求しましょう。
2.自社の納入商品がある場合は、引き渡しを要求する
可能な限り同意書に取引先のサインをもらい、自社商品を引き取る旨を伝えましょう。
3.他の資産を譲り受けるか追加で担保、保証を受ける
支払いの代わりに資産を譲り受ける代物弁済という方法があります。代物弁済の具体的な例は下記のものがあります。
(例)
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ただし、代物弁済や担保の提供は、後日に裁判所から否認される可能性もあることを覚えておきましょう。
すでに担保がある場合、担保権を実行し処分します。担保権を実行した際は、相手に通知する必要があります。担保がない場合は、自社が逆に取引先に対して相殺可能な債務を負っていれば相殺します。その場合は相殺通知を出しましょう。
通常、担保実行通知や相殺通知は、内容証明郵便で出します。
内容証明郵便は、後日債権者集会が開かれる際に債権者として声がけしてもらうためや、代金の支払いについて公式に請求しておきたい場合などにも効果的に働きます。
貸倒損失の計上をする
取引先が倒産した際に売掛金や貸付金の債権が回収不能な場合に、貸倒損失として計上できます。
以下より貸倒損失について詳しく解説します。
貸倒損失とは
貸倒損失の計上は、売掛金といった債権の回収が不可能な際(貸し倒れ)に、その分を損失にすることです。しかし、税法上は貸倒ができるケースには限りがあります。
一般的に貸倒は、「法律上の貸倒(法人税基本通達 9-6-1)」、「事実上の貸倒(法人税基本通達 9-6-2)」、「形式上の貸倒(法人税基本通達 9-6-3)」の3つに区分されます。
貸倒は法律上問題なく、損金の額に算入されますが事実上の貸倒や形式上の貸倒を損金算入するには損金経理が条件とされています。場合によっては損金として認められないケースもあるので注意しましょう。
貸倒損失として計上できる3つの要件
貸倒損失を経費として計上するには、下記の3つの要件のいずれかに該当する必要があります。
1.法律的に金銭債権が消滅する場合
税法以外の法律によって、金銭債権がなくなるので税務上も金銭債権をなくさざる得ない状態を法律的に金銭債権が消滅する場合といえます。
具体的には債務者である会社が、会社更生法や民事再生法、特別清算の適用を受けた場合などが該当します。
債権者集会の決議決定で、負債整理を定めている場合も貸倒損失に計上することができます。また、他にも「金銭債権を返さなくてよい」という意思表示を書面で行う債務放棄されたときも貸倒損失が認められます。この場合は、債務者の債務超過の状態(資産よりも負債が多い場合)が相当期間継続している場合でないと認められません。
2.回収不能な金銭債権の貸倒れ
取引先が音信不通になってしまったというような、実質的に回収が不可能な場合は金銭債権の全額を貸倒損失にすることで、経費に認められます。
法律的に金銭債務が消滅する場合とは違い、他の法律の要件は必要ありません。そのため、実質的には債務者の状態を自社で判断しなければなりません。この判断に関して、絶対的な基準がないので貸倒損失の計上にあたって難しい点です。
税務調査の際には、取引先と音信不通な状態などの、実質的に回収が不可能な状態を証明する必要があります。
そのため、取引先の事務所や倉庫の写真といった証拠書類がない場合は貸倒損金として認められない可能性もあるので注意が必要です。
3.一定期間取引停止後、弁済がない場合
取引先と継続的に取引を行なっている場合、突然取引先から入金がなくなってしまうケースもあります。
債務者との取引を停止したあと1年以上経過した場合は、貸倒損失として経費が認められます。いつから1年間という基準は、以下のうち最も遅い日から1年以上です。
- 取引停止時
- 最後の弁済期(振込の約束日)
- 最後の弁済時(実際に振り込まれた日、遅れて支払われた場合など)
また、貸倒損失を計上できる時期は決まっています。その時期は下記のタイミングです。
- 法律上の貸倒れ(民事再生法の適用が決定された事業年度)
- 事実上の貸倒れ(回収できないことが明らかになった事業年度)
- 形式上の貸倒れ(取引停止後、1年以上経過した日以後の事業年度)
この事実があった年度に貸倒損失を計上しなかった場合は、不良債権のまま帳簿に残り続けてしまう可能性があります。
また、貸倒損失を計上するタイミングが早すぎた場合は、税務上損不金算入になります。
このように、計上のタイミングが重要となりますので注意が必要です。
計上のタイミングを損なわないためにも、取引先の与信管理をし、税務会計処理の方法について覚えておきましょう。
貸倒損失の計上ができないケース
債権が全額回収不能な場合、事実上の貸倒れと判断され、貸倒損失の計上が可能になります。全額が回収不能であるか否かという判断は、債務者の資産状況や支払能力などの状況を加味した上で総合的に判断されます。
しかし、一部の回収が可能な場合、回収不能な部分だけを貸倒損失として計上することはできません。
また、担保がある場合も、処分後でないと貸倒損失として計上できません。
継続的に、取引していた相手が取引を停止した場合、一定の期間経過後に債務の弁済がない場合には、形式上の貸倒れと判断されます。
こういったケースの場合には、下記の要件を満たすことで貸倒損失の計上が可能です。
- 最後の弁済時期か取引が停止した時期のうち、一番遅い日から1年が経過している場合
- 債権回収の際に必要な、旅費交通費、通信費、委託先の手数料などの取立費用が債権総額に満たず、催促に対し弁済がない場合
上記の条件を満たさない場合は、貸倒損失の計上ができない可能性があるため注意しましょう。
取引先の倒産に備え、倒産防止共済に加入しよう
取引先が倒産してしまった時に備え、自社でも対策をとる必要があります。その1つに倒産防止共済があります。
倒産防止共済は、取引先が倒産した際に自社が連鎖して倒産してしまう事態を防ぐための制度です。倒産防止共済の制度やメリットについて詳しくみていきましょう。
倒産防止共済とは
倒産防止共済(中小企業倒産防止共済制度)は経営セーフティ共済とも呼ばれ、取引先の影響を受けて自社まで倒産してしまうという事態を防ぐための制度です。
倒産防止共済の大きな特徴は、掛金の上限が800万円で、最大8,000万円の借入ができることです。
事業の規模にもよりますが、取引先が倒産してしまった場合に、8,000万円の借入ができることは中小企業にとっては安心材料になりますね。
ただし、一時的な事業資金の借入は、掛金の95%までなので注意が必要です。
倒産防止共済に加入するメリット
倒産防止共済に加入すると多くのメリットを得ることができます。加入した際のメリットについて紹介します。
掛金の10倍までの借入が可能
倒産防止共済の掛金の10倍までの借入が可能です。例えば、1年継続し5万円の支払いを行なった場合、掛金は60万円で借入は600万円まで行うことができます。
自社の事業規模に合った借入をするようにしましょう。
借入のスピードが速い
銀行や信用金庫などの融資に比べ、倒産防止共済の借入スピードは速い場合が多いです。仮に、取引先が倒産したことで自社の運転資金が急迫する事態では、スピーディーに借入ができるのは心強いでしょう。
しかし、倒産防止共済の借入における、倒産に該当する条件は下記の通りとなっています。
- 取引停止処分
- 私的整理
- 破産手続き開始の申し立て
- 災害による支払不能
取引先が「夜逃げ」をしてしまった場合は、倒産に該当しないので注意しましょう。
掛金が全額経費になり節税できる
支払った掛金は全額、損金または必要経費に算入することができるため、節税対策にもなります。掛金は月額5,000円から20万円の範囲で選択可能で、掛金総額800万円までが経費計上できます。
加入後に掛金を増額することもできます。また、減額や掛止めも可能で、途中解約のリスクも軽減可能です。
連鎖倒産のリスクに備えつつ、掛金を全額経費計上することで節税可能なのは大きなメリットといえるでしょう。
解約しても全額戻ってくる
40ヵ月以上加入していた期間があれば、解約時に支払った掛金が全額戻ってきます。
また、解約後に再度加入することも可能です。契約を解約した場合は、解約の返戻金を受け取れます。解約理由にどのようなものであっても、掛金を12ヵ月支払っていた場合は、納付額の8割以上が、40ヵ月以上納めていた場合には掛金は全額戻ります。
しかし、12ヵ月未満での解約は掛け捨てとなってしまいます。そのため、40ヵ月以上収めることで、経費節税分を貯金していることと同じということになります。
このほかにも、取引先が倒産していない場合でも、急な資金が必要な際には無担保、低利率で貸付を受けられるなどのメリットがあります。
倒産防止共済の加入方法
倒産防止共済への加入には条件があり、加入に必要な書類を揃える必要があります。
加入についての詳細をみていきましょう。
加入条件
倒産防止共済への加入は下記の条件を満たす必要があります。
業種 | 加入条件 |
製造業、建設業、運輸業 | 資本金3億円以下、従業員数300人以下 |
サービス業 | 資本金5,000万円以下、従業員数100人以下 |
ソフトウェア・情報処理サービス業 | 資本金3億円以下、従業員数300人以下 |
中小企業の倒産を防止する制度であるため、資本金や従業員数に制限が設けられています。
金融業や不動産業の場合は加入できないケースもあります。
【加入に必要な書類】
主に必要な書類は下記の通りです。
- 登記簿謄本
- 確定申告(直近のもの)
- 納税証明書
※個人の場合は、所得税の確定申告、白色申告の場合は帳簿も必要です。
また契約申込書、口座振替申出書も用意しましょう。
倒産防止共済の加入の際の注意点
メリットの多い倒産防止共済ですが、注意すべき点も存在します。加入の際に注意すべき点について解説します。
納付期間が40ヶ月以下の場合、元本割れする
この共済は、解約時に返戻金を受け取ることができるというメリットを紹介しました。しかし、40ヵ月以上納付をしていないと100%は戻ってきません。
そのため、40ヵ月未満の場合は、元本割れをしてしまいます。また、12ヵ月未満の場合は掛け捨てとなってしまいますので注意が必要です。
解約返戻金を受け取った場合は全額が利益として課税される
掛金が経費計上できることで、節税になるということはメリットでも紹介しました。しかし、反対に解約した際に返戻金を受け取った場合は、全額が利益となります。
そのため、掛金を支払う際には節税となりますが、解約し返戻金を受け取る際には、その金額に対する税金を納める可能性があります。
取引先が倒産してしまうことは大変なことですが、次にすべきことは自社まで倒産してしまう共倒れを防ぐことです。また、倒産を想定し、もしもの時に備えることも大切です。
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